第23話 サイコパスな少女
バルト伯爵。
けっこう若いうちに両親を亡くしており、その時に家と爵位を受け継いだらしい。
貴族としては変わり者らしく、平民想いの貴族だという。
ルイス伯爵が死んだ後、率先して領民をまとめて、混乱らしい混乱がない状態を維持した事が国から認められ、伯爵位と領主の地位を与えられたらしい。
元々あった子爵位は娘に与え、何事もない平穏な生活を送っていた。
……ってことはルカって、伯爵令嬢っていうか、普通に爵位持ちなのか?
まぁともかく、そのまま何事もない生活が続く予定ではあったものの、ソレを面白いと思わない連中がいた。
それが、ルイス伯爵領にいた、元々バルト伯爵よりも、身分が高い連中だ。
黙っていれば、領主の地位が回ってくると思っていた連中からしたら、出しゃばって国に対してアピールして領主の地位を横取りしていったようなバルト伯爵は目障りで仕方がない。
当然というか何というか、今回の依頼主はこういった連中である。
何ともどうでもいい内容だ。
くだらない権力争いとかは、そこに住む住民の迷惑にならない所で勝手にやってろよと言いたくなる。
どこの世界でも、そういったくだらない争いがあるのだと思うと、正直うんざりしたくなるものだ。
っていうか、人の手ではどうにもならないような魔物が多く存在する世界で、よくもまぁ人間同士でくだらない争いをする余裕があるな……
近づかなければ襲ってこない魔物の存在は、いないのと同じって事か?もうちょっと危機感持った方がいいんじゃないのか?
まぁそんな愚痴を言っても何も変わらないか。
ともかく、なんやかんやで、私はバルト伯爵邸へとやってきた。
私の生家基準で考えると、ちょっと小さ目な邸宅だ。
敷地へと入る門の鍵は壊されているようで、私がどうこうする事なく、敷地内へと入る事ができた。
外から様子を伺ってみたが、家の中は不気味なほど静まり返っていた。
外で立ち尽くしていても仕方ないので、私は静かに玄関扉を開ける。
そして、凄惨な風景が私の目に飛び込んでくる。
玄関ホールから二階に上がる階段にかけて、守衛・使用人と思われる死体が乱雑に入り混じり放置されていた。
10体弱の遺体は、刺突武器と思われる刃物で心臓を一突きにされて絶命しているようだった。
これが12歳の少女の犯行か?人を殺す事に、何のためらいもないのか?
大丈夫かソイツ?精神異常者なんじゃないのか?
っていうかダメだ。優雅さが足りない。
こういう暗殺依頼ってのは、対象者だけをピンポイントで狙って、余計な犠牲を出さないってのが、私の美学だ。
これじゃあ暗殺じゃなくて、ただの強盗殺人だ。
私は、少女が辿ったであろう道を進んでいく。
返り血と思われる血が滴り落ちており、よい道しるべになっている。
少し進むと、開け放たれた大き目な扉がある部屋へとたどり着いた。
部屋の中へと入ると、そこにはボディーガードと思われる2人の男、バルト伯爵夫婦と思われる男女、そして……4年ぶりに見る、成長した姿のルカが血だらけで倒れていた。
「あれぇ~?誰が来たのかと思ったら、飲んだくれのルーナちゃんだ」
倒れこんでいる5人の横に立つ、犯人と思われる12歳の少女。
返り血で染まった、その少女の顔には若干見覚えがあった。
「もしかして……メアリーですか……?」
その顔は、学生時代のクラスメイトであり、寮で同室だった、あどけない少女のメアリーだった。
「そうだよ~……あれぇ?もしかしてルーナちゃん私の事全然認識してなかった?2年前くらいから、私同じギルドにいたのに」
そうだ、ギルマスも言っていた。
2年前にハンター登録して、異例の速さで中級職になった12歳の少女。
年齢的に私と同学年だって事はわかっていたけど……そうか、10歳でハンター登録って事は、学校を卒業する年齢が10歳だから辻褄が合う。
「ひどいなぁ~私はルーナちゃんの事ちゃんと認識してたのに、お酒に夢中で私の事気付いてなかったの?ほぼ毎日、同じ建物内に一緒にいたんだよぉ」
酔っ払いに何を期待してるんだコイツ?
酒飲んで気分が良くなってる私が、周りの人達を気にするわけないだろうが。
「ルーナちゃんの噂は色々と聞いたよぉ……化物みたいに強いとか、魔法攻撃が効かないとか……『銀髪の堕天使』とかね」
その二つ名は恥ずかしいから忘れてくれ。
「メアリー……アナタ、ル……クロエを殺す依頼を受けるのに、何のためらいもなかったのですか?」
とりあえず思った事を率直に聞いてみる。
「ん~……?別に何とも思わなかったよぉ」
やっぱコイツ精神異常者か?
「仮にも同じクラスで一緒に過ごした御学友ですよ。それでも何とも思わなかったのですか?」
まぁサイコパスに何言っても無駄な気はするが、とりあえずは良心に訴えるような事は言ってみる。
「うん。何とも。むしろ気分が躍ったかも。だって私昔っからこの子嫌いだったから」
うわぁ……ダメだ……幼少時は気付かなかったけど、コイツ根っからのサイコパスだ……
「それとねぇ……私、アナタの事も昔っから大嫌いだったんだよ……沙川マヤ!」
!!!!!?
(鑑定・改!!)
メアリー・オンドリィ(奥澤螢) クルセイダー LV9 人種
力……302 防御……882 魔力……108 魔法抵抗……220
ガードアップ ナイトヒール ガードレインフォース かばう 平突き ファイアエレメント
総合戦闘力……1000000
ん?このステータスで戦闘力100万?
……ああ、もしかして『幻視のネックレス』装備してんのか?
鑑定された時に、一瞬相手をビビらせる効果を狙って作ったお遊びアイテムで、これを装備しておくと、鑑定してきた相手には「総合戦闘力100万」と幻の数字が表示される。
まぁ対人戦で「実際の総合戦闘力」という、情報の一部を隠せる効果があるので有用な部分もあるのだが、この100万という数字を、実際の戦闘力と信じるようなヤツはいないだろう。
だって、最上級職の『超越者』がレベルMAXまで上げて、装備ガチガチに固めても7桁の数字には届かない仕様だし……
リック山脈のレアエンカでたまに出現する岩ムカデから超超極レアドロップできるアイテムなんだけど……よく手に入れたなコイツ。
……ってそうじゃない!?
メアリー、転生者だったのか!?
最初に会った時、「鑑定・改」を使わずに、「鑑定」で済ませたせいで気付かなかった。
……いや、気付く要因はあった。
私とルカが、日本語で話していた時、メアリーは何と言って話に割り込んできた?
そう、コイツはあの時「二人って仲良しだったの?」とか言ってきたんだった。
……内容がまったくわからない会話だ。
ただ自己紹介をし合っていただけかもしれないし、最悪言い争ってた可能性だってあった。
それなのに「仲良しだったの?」……過去形だ。
会話の内容がわかってないと、その発言はないだろう。
普通なら第一声は「それ何語?何の話してるの?」とかいった、言語と会話内容に興味を示すものだろう。
こいつは、あの時、私達の会話の内容がわかっていて、私達を「沙川マヤ」と「西野琉花」だと認識してやがったんだ。
そして、自分の情報は一切明かさずに、年相応なこの世界の住人である演技を続けていた……意外と侮れないな。
……にしても、奥澤螢?私ほとんど喋った事ないじゃん!?何で嫌われてるんだよ!?




