第22話 明日から本気出す
すっごい恥ずかしかった……
とりあえず言える事は、万年愛用しているフード付きマントが無事で本当によかった。
上半身をマントで覆い隠せたおかげで、何とか新しい服を買いに行く事ができた。
ちょっとでもめくれたら、どっから見ても完全に露出狂なんで、かなり慎重に行動し、何とか事なきを得た。
しかし、やはり貴族用の服はお高いため、余計な出費をした事には変わりはなく、姉ちゃんへの恨みは募るばかりだった。
そんなわけで、次に姉ちゃんが来る時までに、もっとレベルを上げなくては復讐ができないため、本気でレベル上げを決意する!
…………明日から!!
とりあえず今日は、溜まったストレスを発散させるため飲みなおす事にする。
何か「明日から本気出す」的発想がダメ人間っぽい気もするが、気持ちの切り替えというモノは大事である。
気分をイライラさせたまま行動しても上手くはいかないものなので、気分をリフレッシュさせる事は重要なのだ。
そんなわけで、再びギルド内酒場である。
「おいおいアン嬢ちゃん。今日一緒にいた子は何者だよ?」
「俺、アン嬢があんなにボコボコにされてるの初めて見たぞ」
「詠唱も無しに魔法連射するし、聞いた事もない剣技スキル使うし、アンちゃんの魔法をかき消すし……強さ異常だろ?」
案の定、席についた瞬間にからまれた。
「ええと……あの方は、過去から色々と因縁のある方なんです」
面倒臭いので適当な返答をしておく。
まぁ前世まで含めての『過去』って括りなら、別に間違った事は言ってないだろう。
「そういや、アンちゃんが使ってた魔法も聞いた事もない魔法だったよな?アレってどんな魔法なんだ?」
ハイウィザードのレベル30くらいになれば覚えられる魔法スキルだよ……とか言ってもわからないだろうなぁ……
「そうですね……アナタが受けたら、原型をとどめないレベルで身体ぐちゃぐちゃになる程度の威力がある攻撃魔法ですかね?」
わかりやすく説明してあげる。
「え……そんな魔法を躊躇無くあの子にぶっ放したのかアン嬢……?」
何かすげぇドン引きされてるし……
「大丈夫ですよ。あの方の魔法抵抗値があれば、ちょっと痛い程度で済んでたでしょうし……まぁかき消されてしまいましたけどね……」
いや、ほんとアレは失態だった。
もっと早くに「雷光の指輪」の存在に気付いていれば、結末は少しは違ったかもしれない。
雷光の指輪の効果で、他属性の抵抗値は下がってたんだから、別属性の攻撃魔法をセットしてれば、致命傷……とまではいかないだろうけど、十分なスキができるレベルのダメージは与えられたハズだ。
「まぁアン嬢ちゃんに、一撃で致命傷与える攻撃放てるような相手だしな……攻撃力だけじゃなくて魔法抵抗値も高いってのは確かなんだろうな……」
どうやら納得してもらえたようだ。
「たしかにアノ攻撃は凄かったな……アンちゃんじゃなかったら、体が二分割されててもおかしくなかったかもな」
「だが俺は感動したぞ。アン嬢のオッパイもちょっとは成長してたんだな……ずっとツルペタのままだと思ってたよ」
何いきなり失礼な事言ってんだコノ酔っ払い!?ってか、ちゃっかり私の胸見てやがったのか?見物料取るぞオイ!
「あら?私の胸を見たのですか?では、ちょっと記憶を消し飛ばしてみますか?」
私は笑顔を浮かべたまま『エクストリーム・サンダーボム』をセットする。
「待って!待ってアン嬢!!ソレ俺等がくらったら身体がぐちゃぐちゃになるレベルの魔法だよな!?記憶が消し飛ぶ前に、俺の身体が消し飛んじまうからソレ!!?スマン!!忘れる!今すぐ忘れるから命だけは勘弁してくれ!!」
必死に命乞いを始める酔っ払いA。さてどうしようか?
「ルーナか?お前今までどこ行ってたんだ?」
突然二階からギルマスの声が聞こえてきた。
「ちょっと昨日から『古の幻林』へと行っておりました……今日は、えっと……少々買い物に出ておりましたが。それが何か?」
とりあえず、セットしていた魔法を解除しながらギルマスの質問に答える。
「調査依頼も受諾しないでか?まぁいいか……ちょっと俺の部屋に来られるか?」
唐突なお呼び出し……って事は裏依頼だろうか?
さっき飲み始めたばかりなんだけどなぁ……
「わかりました伺いましょう。まだ飲み足りないので、できるだけ手短にお願い致しますね」
要望を伝えつつ席を立ち、ギルマスの部屋へと向かう。
「それで?何の用事でしょうか?裏依頼ですか?」
いつも通り、勝手に来客用の椅子に腰かけながら話を切り出す。
「ん……まぁ裏依頼といえば裏依頼が要件なんだがな……」
何とも煮え切らない言い方だな。
「いやな……裏依頼が入ったんだが、お前が家にもギルドにもいなかったからな……別の奴に裏依頼を振ってしまったんだ」
まぁ裏依頼の全てを私が受けるわけじゃないから、別にかまわないとは思うんだけど……
「信頼できる方でしたら良いのではないですか?何か問題でも?」
「ああ……信頼できるといえば信頼できるんだがな……そいつはお前と同じで12歳なんだ」
はぁ?そんな若造に裏依頼ができんのか!?
「10歳の時にハンター登録を申し込んできた女の子なんだが、凄い才能持ちで、2年間で高位職になったんで、その才能を買って裏依頼をまわしたんだが……」
私と同年代で、2年間で中級職になった?
それってひょっとして私の元クラスメイトの誰かなんじゃないだろうか?
ゲームのような現実世界が面白くて、夢中になってレベル上げしてたってのが、何となく想像できる。
「とはいえ、お前と違ってまだ未熟だ。難しい依頼ではないのだがしくじる可能性が高い……しかしギルドのメンツというものもある。依頼失敗は極力避けたい」
まぁそうだろうね。
高い依頼料支払って犯罪犯してまで何とかしたいってのが裏依頼だ。「失敗しましたテヘペロ」じゃ済まされないだろうし、ギルドの信頼もガタ落ちになる。
「そこで、もしソイツが任務失敗したら、すぐさまお前が引き継いで任務達成できるようにスタンバっていてほしいんだ」
「つまりところ、その方のおもりをしろ、という事ですか……それは、その方が任務達成できてしまった場合、私は報酬0のタダ働きになるのではないですか?」
面倒臭いうえにタダ働きなのは勘弁してほしい。
「わかった。その場合はギルドからお前への報酬として金貨1枚出そう。見てるだけで金貨1枚もらえるなら文句はないだろ?」
そりゃあギルドのピンハネ分を考えれば、金貨1枚程度は痛くもかゆくもないだろう……でもまぁいいか。見てるだけで金貨1枚もらえるなら、たしかに割りが良い。
「わかりました……受けましょう!それで、実際の裏依頼の内容はどのようなものなのでしょうか?」
ちゃんと裏依頼の内容も聞いておかなければ、もし任務を引き継ぐ事になった時、何していいのかわからなくなる。
「ああ……依頼内容は、お前が前に住んでいた町の新領主のバルト一家の殺害だ。家族構成は、バルト伯爵夫婦と、娘が1人だ」
バルト一家?バルト……ああ、ルカの家か。
へぇ~……私んちの一家がいなくなってからはルカの親父さんが領主やってたのか。
それにしても、前は子爵じゃなかったっけ?伯爵位貰ったんだなぁ……
…………
……
ってオイ!!!?
ちょっと待てよ!!?標的ルカ含めたルカの家族全員かよ!!?




