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第21話 PvP

 姉ちゃんと一緒にギルド内へと入って行く。

 周りを見渡すと、案の定というか何というか、いつもの酔っ払い連中はいつも通り飲んだくれていた。

 コイツ等本当に、いつ仕事してんだよ!?


 とりあえず私は、酔っ払い連中にバレないように、少し離れた席へと腰を下ろす。


「今まで酒場の方には来た事なかったけど、ココって飲食できんの?」


 過去に姉ちゃんにお願いしてたのは、ちゃんと依頼を受諾できるか、とかのテストプレイばかりだったからか、オマケ程度に設定していた酒場側には近づいてなかったようだ。


「現実の方の体には影響を与える事はできませんが、味くらいは堪能できるようには設定しておりますから、食べたり飲んだりはできますよ。飢えを満たす事はできませんが、料理の味を楽しむ事はできます」


 姉ちゃんの知らないゲーム設定を説明する。


「へぇ~……んじゃあ何か食べてみようかな?メニューとかある?」


 そう言ってメニュー表を探す姉ちゃんの前に、突然ジョッキに入った酒が置かれる。

 もちろん私の前にも酒入りのジョッキが置かれている。


「え?何コレ?」


「…………」


 疑問を口にする姉ちゃん。

 無言のまま厨房へと戻って行く無口な酒場のマスター。


「ねぇ?コレってどういう設定なの?」


「…………」


 私へと質問してくる姉ちゃん。

 無言のまま視線をそらす私。


 ……言えない!!

 私が席についた時点で、注文せずとも酒が運ばれてくるほどの酒場常連客(ヘビーユーザー)になっているなんて……


「コレ……お酒?……味はジントニック?みたいな感じね。アンタの前に置かれたのも同じようだけど……どういう事?」


 姉ちゃんはジョッキの酒を一口飲み、私を睨みつけるような視線を向けてくる。

 これって……姉ちゃん何となく察してるだろ。


「ええと……私がいつも真っ先に注文するのがそれでして……」


「注文する前に出て来たわよねコレ?ってかアンタこの世界での年齢いくつなの?」


 ああ、あかんコレ。言い逃れできない感じになってるよ。


「12歳……です。ですが、この世界での飲酒に年齢制限はございませんので、何も問題はありませんよ!」


 とりあえず酒を飲んでる正当性だけは主張しておく。


「ふぅん……で?注文もしてないのにコレが運ばれてきた理由は?」


 怖ぇよ姉ちゃん……笑顔なのに目が笑ってないよ。


「普通、たまに飲みに来る程度じゃ、注文前に物が出てくるなんてないわよね?」


 もう……答えわかってんじゃん姉ちゃん……


「……はい……ほぼ毎日……飲みに来ております……」


 観念して素直に白状する。


「ふ……ふふ……ふふふふふふ……」


 突然不気味に笑い出す姉ちゃん。何ナニ?何なの!?


「マヤが死んだせいで鬱になりかけたり……そのせいで就活で苦労したり……やっと入れた会社でマヤの死を忘れようとガムシャラに働いたり……」


 あ、やばいコレ。何か変なスイッチ入ったっぽい。


「私がこんなに苦労してたってのに、原因作った当人は、死んで異世界転生してた上に12歳にして酒場常連化してるような自堕落生活……?」


 いや、私も酒場常連化する前は結構波乱万丈な人生を送ってきてはいますよお姉さん!?


「歯ぁ食いしばれ!根性叩きなおしてやるわぁ!!」


 立ち上がり殴りかかってくる姉ちゃん。

 咄嗟にガードし、言われた通り歯を食いしばったが、そのまま吹っ飛ばされ壁へと激突する。


 その瞬間、酒場は静まり返り、視線を独り占め状態となる。

 そりゃあそうだろうな……無敵だと思っていたルーナ・ルイスが、ぶっ飛ばされてるの見れば誰しもが異常事態だって気が付くだろう。


「待って姉ちゃん!テストプレイの時のレベル近いキャラ同士ならともかく、今の状態でPvPやったら私死んじゃうから!デスペナとか関係なく、死んだら一発で普通に人生終わっちゃうから私!!」


 周りに聞かれたら色々と面倒臭いので、日本語で姉ちゃんに命乞いをする。


「だったら死なない程度に痛めつける!!」


 ヤバイやばい!?姉ちゃんけっこうマジだ!?


 姉ちゃんのステータスは平均6万。それに対しての私の今のステータスは平均3万弱。

 私が今までぶっとばしてき連中ほど絶望的な戦力差ではないかもしれないけど、2倍以上の戦力差ってのも十分絶望的だ。


「ファイアボール!サンダーボール!ウォーターボール!ウインドボール!」


 姉ちゃんお得意の初級魔法連射だ。


「はあ?詠唱は?何で魔法連射できんだよ!!?」


 見物客から驚愕の声が漏れる。……が、今はそんなのを相手してる余裕はない。


「スペルバニッシャー!」


 姉ちゃんが放った魔法を全てかき消す。


「ッチ!?そうだったわね……アンタそういう姑息な魔法を設定してたんだったわね……」


 そうつぶやきながら姉ちゃんは、腰にかけた剣を引き抜きながら私の方へとかけてくる。


「ハイ・ウインドスラッシュ!」


 スキル名を叫びながら、私へと剣を振り下ろす。


「エレメンタルガード!」


 私も腰に差していたレイピアを引き抜き、スキル名を叫びながら剣の根本で受け止める。


(『エクストリーム・サンダーボム』セット!)


 攻撃を防ぎつつ、最上位の雷系単体攻撃魔法をセットしておく。


「ハイ・ウェポンブレイク!!」


 姉ちゃんは武器破壊を狙った攻撃を繰り出してくる。

 戦力差がひらいている今、この状態でこの攻撃を受けると非常にマズイ!?かなりの高確率で武器を壊される。

 私は身をよじって必死に攻撃をかわす。


「エクストリーム・サンダーボム!!」


 かわすと同時に、セット完了した魔法を放つ。

 攻撃スキル使ったすぐ後だ。対抗魔法はセットできていないだろう。これで多少は姉ちゃんのHPを削れる……


「そうよね……アンタ雷系魔法使うのけっこう好きだったわよね……」


 姉ちゃんにむけて放った魔法は、着弾するなりかき消えた。

 ふと姉ちゃんの指にはめてある指輪の存在に気が付く。


 それは、最古の魔獣を倒すと、極まれにドロップするレアアイテム『雷光の指輪』。効果は雷系以外の属性の抵抗値が下がるかわりに雷属性だけは完全無効化する。

 いつの間にそんなアイテム仕入れてやがった姉ちゃん!?


「ハイ・スラッシュ!!」


 姉ちゃんからの追撃がくる。


 まずい!?攻撃かわした状態からの魔法攻撃で体勢が悪い!?避けられたない!!?


「ぅぐ……!!!?」


 無防備な状態で袈裟斬りにされる。


 斬られた肩口から腹にかけて血が吹きだす。

 痛ぇ!!すっっごい痛ぇ!!!?あまりの痛さに涙が出る。


 死ななかったのが不思議なほどの激痛に耐えられずに、膝をつく。

 痛さで意識を失いそうになるのを必死にこらえながら、回復魔法を使う。

 回復しないまま意識を失ったら目を覚ませる自信がない。


 そんな私を見下しながら、姉ちゃんは少しスッキリしたような顔になっていた。

 ふざけんなよ姉ちゃん……何が「死なない程度に痛みつける」だよ!?本当に死ぬ一歩手前だよ!?


 ってか姉ちゃんスプラッター系苦手じゃなかったっけか?こんなに血だらけになってる私見て何で平気なんだよ!?

 ……あ、そうか。ゲームだと血がビュービュー吹き出すような演出無いから、このスプラッターな惨状が見えてないのか。

 たぶん、普通にHPが減って倒れこんでる、くらいにしか思ってないな。


「とりあえず私はもう帰るけど、今度会った時に、まだ自堕落生活してたら、またぶっとばすからね」


 その一言だけを残して、姉ちゃんはその場で姿を消す。


「なっ……!!?消えた!?」


 見物客からどよめきが起こる。

 なるほど、ゲームからログアウトするとこんな感じに見えるのね。


 そして私は、姉ちゃんがいなくなった後も動く事ができずにいた。

 斬られた傷が痛いわけではない。傷口はすでに回復魔法で全快している。

 悔しくて体が震えた……先程とは別の理由で涙がこぼれる……


「ちくしょおぉぉぉ~~!!服弁償しろよ姉ちゃぁぁぁ~~ん!!!」


 お気に入りだったのに……高かったのに……


 襟元からバッサリと切られた服は、私のつつましい胸を隠す機能を完全に失っていた。


『ハイ・スラッシュ』……アックスマスターが習得可能な技スキル。通常攻撃の1.5倍のダメージを与える事ができるが、大振りで放つ技のため命中率が若干落ちる。



『ハイ・ウインドスラッシュ』……ソードマスターが習得可能な技スキル。ハイ・スラッシュの効果に風属性の追加効果を上乗せしてダメージを与える事ができる。



『エレメンタルガード』……パラディンが習得可能な魔法スキル。属性攻撃に対しての防御力を上昇させる。

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