第20話 姉ちゃんとの冒険
姉ちゃんとは、状況のすり合わせのため、一緒に行動する事になった。
プレイヤーキャラである姉ちゃんと、この世界の住人と化した私とで、どんな差が生じているのかを確認するためだった。
まず第一に、フィールドの移動速度がまったく違う。
姉ちゃんは地面を滑るかのように、一歩の距離が凄まじかった。しかもそれがデフォの速さで、私が『韋駄天』使わないと一緒に歩けないレベルだった。
なるほど……肥大化したマップが適用されてるのは、この世界の住人だけで、プレイヤーキャラは通常通りのマップサイズだから、一歩分の歩幅が違うのね。
そりゃあ、古の幻林から一番近い町まで徒歩1時間はかかる。ゲームではノーエンカでも1時間も歩かないと町に着かないなんて仕様にしたら、ただのお散歩ゲーと化してしまう。
次に、ゲーム内では存在しない町は、姉ちゃんは認識すらできていなかった。
試しに町に入らせようとしたところ、町の入り口へ一歩を踏み出した瞬間、町をすり抜け、町をはさんで入り口の反対側のマップにワープしていた。
やってる姉ちゃん当人は、普通に何もない空間を一歩歩いただけ、という感覚だったらしい。
ちなみに、私が町に入った場合、姉ちゃん視点では、私がいきなり消えたように映ったらしかった。
ゲーム内でも存在している町には入る事ができたが、設定していない場所に関しては、やはりすり抜けていた。メイン通りから見える細かい路地等は、姉ちゃんの目からは壁にしか見えないようだった。
そして、時間の感覚。
私は1時間たった感覚でも、姉ちゃんは20分しかたっていないと言い張っていた。
この辺の差が、4年と12年の差につながっているのだろうか?
日が暮れて夜になっても、ゲームでは夜を設定していないため、姉ちゃんの目には普通の明るいマップが映っているらしかった。
とりあえず、ざっと確認できたのはそんな程度だった。
「それはそうとアンタなんでそんなにフードを目深くかぶってるの?ファンタジー世界に転生したもんだからあふれ出る中二病オーラが隠しきれなくなった?」
私は黙って、町の一角にある掲示板を指差す。
姉ちゃんは私の指示にしたがうように、掲示板を覗き込む。
「何コレ?この絵の女の子ってアンタ?お尋ね者になってんの!?何をやったのよ?」
「いや……まぁ……色々と……」
親族に胸張って語れるような事ではなかった。
「文字は何書いてあるかわからないけど、これって金額が書かれてるんでしょ?いくら?」
「えっと……たぶん日本円にして1億円くらい……かな?」
「1億!!?何やったらこんな事になんのよ!?」
ホントにね……気が付いたらこんなに金額上がってたんだよね……どうしてこうなった?
「アンタ等旅のもんか?ルーナ・ルイスを知らんのか?どっから来たんだい!?」
突然私達に話しかけてくる爺さん。
何いきなり変なゲームイベント起こってるんだよ?
「けっこうなド田舎から来たんだよ私達。で?この子って何をしたの?何なら私が捕まえてきてやろうか?」
爺さんの会話にのっかる姉ちゃん。
というか……先生ぇ~ここにLV51もあるのにLV9の人をイジメようとしてる極悪人がいま~す!
「やめとけやめとけ……金に釣られてルーナ・ルイスに手を出した馬鹿共は皆そろって墓の下だ。アレはただの災害じゃ……『銀髪の堕天使』には関わらん方がいい」
きゃあぁぁぁぁぁ~~~!!!?
いやあぁぁぁぁぁ~~~!!!!!?
やめてぇぇぇ~~!!
家族の前で、そういう二つ名とか暴露するのは勘弁してぇぇ!!
「ふ~ん……そうなの。警告ありがとね爺さん」
口元がすげぇヒクヒクしてるよ姉ちゃん……笑い堪えるの必死になってるのがよくわかるよ。
「ブア~ッハッハッハッハ!!?……銀髪の堕天使ぃ?アンタは私を笑い殺しさせたいの!?」
爺さんを見送った後で、キッチリと大爆笑された。
「私が……言い出したわけじゃないし……」
とりあえず言い訳だけはしておく。もちろん私の名誉のために……
あれ?にしてもちょっと待てよ……
姉ちゃん今、この世界で生活してるだろう爺さんと会話してたよな?……日本語で。
ああ、いや……爺さんはちゃんと、こっちの世界の言葉で喋ってた。んで、姉ちゃんはアッチの世界の……日本語で喋ってた。
両方の言語がわかる私ならともかく、何でコイツ等2人会話が成立してた?
「御姉様?こちらの世界の言語がおわかりになるのですか?」
とりあえず、こちらの世界の言葉で質問を投げかけてみる。
「どうしたの?何で急に、そんな上品な喋り方になったの?ってか『こちらの世界の言語』って、さっきから喋ってるのは日本語じゃん?」
日本語での返答が返ってくる。
どうやら姉ちゃんは、こっちの世界の言語を理解してる……というよりも、こっちの世界の言語が日本語に通訳された状態で聴こえているようだった。
そして、姉ちゃんが喋ってる言葉は、こっちの世界の住民が理解できる言葉に自動通訳されて住民の耳に届いているようだ。
……何その便利機能?
私がこの世界の言語を習得するのにどんだけ苦労したと思ってんの!?
そりゃあ異世界なのに日本語使ってたら違和感しかないから、その辺は、設定してもいない言語が使われてたとしても、まぁしょうがないとは思ったよ。
でも、まさかゲームプレイヤー側は、こういう変な仕様によって異世界語を認知してた、なんて設定が組み込まれてるとは……
まぁ設定にはないが、独自言語が発達してるであろう世界に、日本語しかわからないゲームプレイヤーがログインした場合の折衷策としては、こうなるんだろうけど……
何か納得いかない!
「それはそうと、アンタいつもはどこで寝泊まりしてんの?」
唐突に話題を変えてくる姉ちゃん。
「安アパートを借りて生活しておりますよ。ただ御姉様には認知できない路地にありますので、ご案内はできませんがね」
異世界語の方で返答をする。
「ん?さっきからどしたの?何でそんな言葉遣いなの?」
「御姉様の言葉は、全てこちらの世界の人には、こちらの世界の言語として聞こえているようなのですが、私が放った言葉は、そのまま日本語として耳に入っているようなのです……ですので、意味不明言語を喋り続けて注目を集めるのを避けるため、私はこちらの言語を使わせてもらう事にいたします」
何やら意味がわかってなさそうな表情だ。
そりゃあそうだよな……さっきから姉ちゃんの耳に入ってくるのは全て日本語だ。
私が、日本語と異世界語を切り替えて喋っているのすら気付いていない。
そんな状態で、こんな事言われても、たぶん理解するのは難しいだろう。
「えっと……ああ~……うん、とりあえずわかったわ」
絶対にわかってないだろ!?
「まぁともかく、寝泊まりしてる場所に行けないのはわかったわ。んじゃあ普段はどこにいるの?アンタのそのレベルを見た感じじゃ、レベル上げとかはしてないでしょ?」
やべぇ!宿題やってないのが親にバレた小学生の気分だ。
だが、さすがに「毎日酒場で飲んだくれてます」とかは言えない。
「えっと……冒険者ギルドで依頼を探して、その日暮らしな報酬をもらって生活しておりますよ……」
とりあえず、それっぽい事を言って適当に誤魔化しておく。
「あ、冒険者ギルドなら私も入れる場所にあるわね。ちょっと案内してよ」
……は?何言ってんのこの姉ちゃんは?そんな事したら、私の普段の生活態度がバレるじゃん!?
「案内も何も……普通に依頼を受けるだけの場所ですよ?」
そう、ゲーム内ではそうだ。
わざわざ、そこにいるモブNPCに話しかけたりなんかするだけ無駄な、そんな場所だ。
「別に依頼を受けようってわけじゃないわよ……たしか併設で酒場があったわよねココ?ちょっと座って話しをしよと思っただけよ」
そうですか……そう言われてしまいますと、断る理由を探す方が難しくなってしまいますよね……この近くで座って話ができる場所って、ギルドの酒場くらいですもんね……
私はわずかな望みを賭け、姉ちゃんに、普段の自堕落生活がバレない事を祈るのみだった……
※マヤちゃんは異世界語をお上品な言葉でしか喋れない残念な子です。
たまに漏れるお下品なつぶやきや叫びは日本語で言ってます。




