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第19話 姉ちゃん

 とりあえずやってきました「古の幻林」。

 私は色々と悟ったよ。あんな酔っ払いのバカ共と一緒に毎日酒飲んでたら、私にまでバカが感染する。

 さすがにバカになるのを防ぐスキルやら、バカ耐性が上がるパッシブスキルは設定していない。


 そんなわけで、暇な時は、一番経験値が多くもらえる場所でレベル上げする事にした。


 まぁレベル上げなんかしなくても、この世界では、今の状態でも十分無双可能なんだけど、何があるかはわからないので念のため……テンション上がった転生者が張り切ってレベル上げまくっちゃう可能性とかもあるしね。

 あと、総合戦闘力を上げて「私の戦闘力は53万です」とか言いたい、ってのもある。


 理論上だと、装備品の補正が入らなくても、レベル60くらいまで上げれば53万いくハズなので、目標レベルにそこを設定してもいいかもしれない。


 ん?今のレベル?9レベルですが何か?


 いくら最上級職での、次レベルまでの必要経験値が多いとはいえ、これはちょっと上がりが遅すぎる気がする。

 私が設定した以上に必要経験値量が増えているのかもしれない。


 私も、何も毎日飲んだくれてたわけではない。

 いや……まぁほぼ毎日飲んだくれてたけど……

 ともかく!私だって、たまにはレベル上げをしに、この古の幻林に何度か足を運んでいる。……日帰りで。

 行き帰りの往復時間を考慮して1日5時間弱だが魔物を狩りまくっている。

 それを4年間、ちょこちょこと実施している。まだやる気のあった最初の1年くらいは毎日通ったりもした。

 なのにまだレベル9だ。


 ……まぁそうは言っても、現状なるようにしかならないので、やれるだけの事をやるしかない。

 とりあえず三十路(みそじ)までには目標レベル到達できるように頑張るか。


 そう意気込み、古の幻林へと入ろうと一歩を踏み出した時だった。


 逆に、古の幻林から出てくる少女がいた。


「「……は?」」


 ハモった。

 いやいや待てって!!?この世界で、この場所に出現する魔物とまともに戦えるようなヤツなんているのか!?……まさか、転生者!?


(鑑定・改!)


 混乱しながらも「鑑定・改」を発動させる。


 沙川 瞳(さがわひとみ) 管理者 LV51 人種


力……61422 防御……60951 魔力……60600 魔法抵抗……61300


~全スキル使用可能~ 詳細は別コマンド参照


総合戦闘力……498380


「ね……姉ちゃん?」


 そうだ、12年もたってたんで、姉ちゃんの存在を忘れてた。

 というか姉ちゃんまでこの世界に転生してるなんて思わないだろ!?


 いや……ちょっと待てよ。

 姉ちゃんの名前の横に、この世界での名前が表示されてないぞ……っていうか、姉ちゃんの姿、私と一緒にテストプレイしてた時のキャラのままじゃん!?


 ナニコレ?何がいったいどうなってんの!?


「え?名前『ルーナ・ルイス』?は?マヤ……?」


 日本語だ。

 どうやら姉ちゃんと思われるキャラも「鑑定・改」を使ったのだろう。

 私と同様に混乱している。


「え?でも……マヤは4年前に死んで……何?何なの?アンタ誰よ!?」


「は?今何て!?『4年前』?……12年前じゃなくて!?ちょ……どういう事姉ちゃん!?説明してよ!!?」


「はぁ?ふざけないでよ!説明が欲しいのはコッチよ!!ってかアンタ、マヤなの?本当にマヤなの!?何で?アンタ何処からどうやってログインしてんのよ?ネットにすら繋いでないのよ今?」


「そりゃコッチのセリフだっての!?姉ちゃんなんでこの世界にいんの!?死んだ?もしかして姉ちゃんも死んだの!?この親不孝者!!」


「死んで親不孝したのはアンタでしょうが!!ってか何で生きてんの!?……いや、葬式ん時アンタの遺体はちゃんと死んでたし……何で死んだのに生きてんのよ!!?」


「『ちゃんと死んでた』って何!?あ、もしかしてアレ?姉ちゃんはちゃんと死ねなかったから混乱してる?」


「私は生きてるわよ!!ってかさっきから言動が意味不明じゃない!?混乱してんのはむしろアンタでしょうが!?」


 ………………

 …………

 ……


 しばらく続いた、暴投だらけの会話のキャッチボールが終わり、とりあえずはお互いクールダウンして落ち着いて話そう、という事になった。

 結構吐き出しまくったんで、私も若干は冷静になってはきた。

 ふ~……とりあえず落ち着け私。


「だいじょうぶだ……おれは、しょうきにもどった」


「マヤ……アンタその発言はまだ混乱してるのか、ギャグで言ってるのかわかりにくいからやめなさい」


 ……怒られた。


 ともかく、姉ちゃんから得た情報。

 まず姉ちゃんは生きている。

 死んでしまった私の部屋は、ずっとそのままになっているようで、ちょっとした気まぐれで姉ちゃんは、私のPCを起動してゲームにログインしたらしい。

 死んだ私との思い出を振り返るように、結局日の目を見る事なく、誰もプレイする事のなかったゲームと私に若干同情しながら、感傷に浸っていたところで私に会ったらしい。


 私が死んだのは4年前で、クラスメイト全員が死んだわけではなく、生き残っている生徒もいるらしいとの事だが、姉ちゃんの口振りから察するに、たぶん死んでいた方がマシな状態なのだろう。


 そして私の現状も姉ちゃんに伝える。

 これをログアウトした後で両親とかに伝えるのかどうかはわからないが、9割くらいの確率で精神異常を疑われるだろう。


「ゲーム世界に転生ねぇ……ゲームプログラムは全然変わってなかったから嘘臭く感じるけど、実際この喋ってる感じはマヤだしね……」


 まだ疑ってたんかい姉ちゃん。


 にしても『プログラムは全然変わってない』か……

 肥大化したマップに、設定以上に存在する人々。それと異物のように放り込まれてる私達転生組。


 ふと、転生前にスマホで見ていた都市伝説を思い出す。

 サーバメンテ中でも絶対にログアウトしない人達がいる……

 もしかして、その人達って私達と同じようにゲーム内に転生させられた人なのかもしれない。

 私達は稼働すらしていなかったゲームに転生したから目立っていないだけで、都市伝説に出てくる人達は、正式稼働しているゲーム内で第二の人生を送っているのだろうか……


 何て……所詮は都市伝説だ。

 私の現状に照らし合わせるには、ちょっと情報量が少なすぎる。


「ねぇマヤ。アンタはログアウトとかできないの?」


「そんなコマンドは、この世界に生まれた瞬間から消失してるっての……そもそもで、ログアウトしても私の体そっちの世界には無いじゃん!?」


 っというか、ゲームと同じようにログアウトコマンドがあっても怖くて選択できないっての!


「何だそうなの?試してみるのもありだと思ったんだけどなぁ」


 やめてください。死んでしまいます。

 私を殺す気ですか御姉様!?


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