第16話 裏依頼
「ルーナ。ちょうどいいところにいたな。暇ならちょっと俺の部屋まで来てくれないか?」
いつも通りの日課でギルドに顔を出し、掲示板を見ていると、ギルマスに呼び止められ部屋へと連行された。
初日に連れてこられて以来のギルドマスターの部屋。
そこにある来客用の椅子へと腰掛ける。
「ずいぶんと強引なお誘いですね。申し訳ないのですが、私とお付き合いするにはルーカスさんはちょっとお年をめしすぎていると思うのですが?」
私なりに会話の内容を察して、とりあえず先に結果だけを伝えておく。
「バカかお前は?俺にそんな趣味は無いし妻子持ちだ。それに俺に抱いてほしかったら最低でも後15歳成長してから来い」
何だ違うのか……ってか『来い』ってアンタから呼び出したんだろうが。
「あら?15年もたってしまったら、ルーカスさんは老衰で鬼籍に入ってしまうのでは?」
「お前……俺をいくつだと思ってるんだ?60そこそこで死ぬ気はねぇぞ」
「まだ40代でしたのね?もっといっているのかと思っておりましたが……」
「ギルドマスターなんてやってると苦労が多いんだよ……お前みたいなのを相手しなくちゃならなかったりな……」
ああ、なるほど。暇そうには見えても、責任者なんてやってると苦労も多いんだろうなぁ……白髪もだいぶ多いし。
……というか、この人はそんな世間話をするために私を呼んだのだろうか?そんなのは家の縁側で近所のじいさんばあさん誘ってお茶でも飲みながらやっててほしいものだ。
「それで?15年後に私を愛人として囲いたい、という事はわかったのですが、そんな告白をしたいがためだけに私を部屋に呼んだのですか?意外とピュアですね?」
「んなわけないだろ……いい加減本題に移っていいか?ったく、お前が化物みたいな戦闘力持ってなければ2・3発はぶん殴っておきたいところなんだがな……」
「私の防御力なら、一切ダメージ受けないんで、ストレス発散に殴っときます?」
「……いや、遠慮しておく」
そりゃあそうか。
いきなり私の気が変わって、反撃なんてされたら即死だもんね。15年待たずに鬼籍に入ってしまう。
自分が標的になってる核弾頭の発射スイッチを見せられて「このスイッチ壊れてて押しても大丈夫だから試しに押してみる?」とか言われて嬉々として押すバカはいないだろう。
「で?本題とは?私も暇ではないのです。無駄話ばかりしてないで早く話してください」
「お前が話逸らしてんだろうが!さっき下で暇そうに掲示板見てたヤツが何言ってんだ!」
あ、段々イライラしてきた。こりゃ白髪がさらに増えるな。可哀想だからこれ以上は遊ばないでおいてあげよう。
「はぁ~……さっき『裏』の依頼が入った。とりあえずお前に回してやろうと思ってな」
一つ大きなため息をついてから本題であろう内容を話すギルドマスター。
ギルドの『裏依頼』はしょっちゅう入るわけではないらしい。
まぁ内容が内容だけに、毎日毎日舞い込んでくるような物でもないのだろうが……
ともかく、私がメインで受けるのが、この『裏依頼』という約束でハンター登録していたせいで、暇な毎日を送るハメになっていた。
あまりに暇すぎて、時間がかかる上に誰も達成できないような通常の調査依頼を受けたりもしていたわけだが、やっとメインの依頼を受ける事ができるようだ。
「内容を聞いて断ってもかまわない。その場合は別の誰かに話を持っていくだけだから気にせずに、嫌なものは嫌だと言ってくれ」
ギルマスは一応は前置きを入れてくる。
私的には、やってて胸糞悪くなる事以外は受けるつもりでいる。
「内容は殺しだ。報酬は大金貨5枚。相場としては少し安い感じだな。依頼人は匿名希望なため名前は明かせないが、平民の男だ」
相場とか言われてもわからないし……「そうなの?」としか言いようがない。
にしても、平民で大金貨5枚は結構無茶してる感じだな……いや、ギルドのピンハネ分を考えるともっと出してるのかもしれない。
「ターゲットはボドワン・シモンという貴族の男で、年齢は18だ」
18歳か……ずいぶんと若いヤツを殺さないといけないのか……
「平民としては結構な額を出しておりますね……そこまでして殺したい相手ですか。いったいどんな恨みがあるんでしょうか?」
とりあえず思った事を口に出してみる。
まぁその辺も守秘義務が絡んできてるだろうから、別に答えが欲しいわけではない。
ただ何となく口にしてみただけで……
「娘がレイプされて殺されたらしい。それを貴族の権力を使ってもみ消したため罪にとわれずに、平然といつも通りの生活を送っているのが憎くてしょうがないらしい……ちなみに、この貴族の男による同様の犯行はこれで4件目だ。常に親がもみ消しを行っており常習化している」
答えるんかい!?
しかも、殺害対象者すげぇクズじゃん!!?
「それはまた随分と胸糞悪くなる案件ですね。その貴族の男、チ〇コに脳みそ詰まってるんですか?」
「おい!?もうちょっとボカシて言え!……8歳児とは思えないコメントだな?ってかお前、元貴族の淑女じゃなかったのかよ!?」
いえ、元17歳の女子高生です。
「……で?どうするんだ?受けるのか?受けないのか?……受けたくないなら、気分が乗らないだとか、報酬が少ないとか、理由はなんでもいいぞ」
「いえ、受けます」
即決する。
こういう女性の敵……というより、人間としてのクズは早めに駆除するにかぎる。
「とりあえずは、私も犯されたりしないよう気を付けながら任務を遂行させてもらいます」
そう言いながら私は席を立つ。
「あ~……ルーナよ。世間はお前が思っているほど特殊性癖な人間であふれてはいないぞ」
何!?そんなバカな!!!?




