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第15話 ハンターとしての生活

「はいコレ、リック山脈中腹部で道を塞いでた『ロックバードのくちばし』に、頂上部に生息してた『ロックゴーレムの欠片』『グレイトオークの手首』『エルダー岩トカゲの尻尾』……あ、生息魔物の詳細はこっちの紙にまとめてありますので後程確認してください」


 この世界では未知の領域とされていた『リック山脈の中腹部より上』の調査依頼を完了し、討伐証明のために切り落としてきた魔物の一部を、証拠として提出する。


 どうやらこの世界の人達は、このリック山脈の中ボスが攻略できなかったようで、それ以降のマップが未知となっていた。

 中ボスのロックバードは少し強めに設定はしたものの、中級職LV30~40くらいのヤツが5人くらいいれば普通に撃破できる程度であり、頂上部の雑魚敵はロックバードを撃破できれば余裕でソロできる程度の強さ設定にしておいた。

 つまるところ、このマップはある意味、頑張って中ボスさえ撃破できれば制覇可能なマップなのだ。


 ここのギルドマスターでも、ソードファイターのLV39だったので、この世界に中級職LV30~40の連中が5人いないわけではないのだろうから、このロックバードを攻略していないってのは、ただの怠慢?もしくはチームワーク最悪?って事なのだろう。


 ちなみに、これ以降の未知領域は『グレイルの森』『ヴィジー大砂漠』『古の幻林』の3つであり、どれも中級職程度では攻略不可なマップである。


「すごいのねアンちゃん……リック山脈の完全制覇って、今まで誰も無しえなかった事なのよ……本当に強いのね」


 ギルド受付のカウンター奥で、受付のお姉さんが驚きの声をあげる。


 ちなみに『アンちゃん』とは私の事だ。

 ギルマスに言われた通り偽名を使い、今私は『アン・ノウン』と名乗っている。

 ……どう見ても偽名です。本当にありがとうございました。って感じである。


 まぁ、指名手配犯を匿う行為になるため、大々的には公表されてはいないものの、ギルマスを起点にして、仲間内で内々的に広められ、1ヵ月たった今では、このギルドに出入りするハンターの9割以上が、私を「ルーナ・ルイス」と知りながらも「アン・ノウン」として扱ってくれている。


 もちろん(ルーナ)に高額の懸賞金がかけられている事も皆知っているが、初日の出来事に尾ひれが付いて噂話として出回っているため、誰も死にたくはないらしく、知らないフリをして話しかけてきたりもした。

 曰く「ルーナ・ルイスは刃物が大好物で、武器を見せると食われる」

 曰く「ルーナ・ルイスは発動した魔法を声だけでかき消す」

 曰く「ルーナ・ルイスは隣の大陸まで人を投げ飛ばせる」


 いつ私は人間を辞めたっけ?


「とりあえずコレ、今回の報酬の大金貨1枚ね。お疲れ様アンちゃん」


「リック山脈頂上部の調査依頼って、いちおうは通常依頼ではあるのですが、随分と破格の報酬なんですね?」


 私はちょっとした疑問を口に出す。


 通常、食用になる「オルメヴァスタ大草原」の魔物や、薬の材料になる「エタール洞窟」の魔物の討伐依頼は精々が小金貨1枚もらえるかもらえないかな報酬額である。


 ちなみにリック山脈の魔物は、基本体が岩なため、加工しても生活必需品になり得ないため、討伐依頼はほとんど無い。

 極まれに、生態研究での依頼はあるが、ほとんどが初心者マップのオルメヴァスタ大草原か、推奨レベルが下級職レベル10以上のエタール洞窟の魔物討伐依頼である。


 もしかしたらその辺が、この世界の冒険者のレベルが低い理由の一つになっているのかもしれない。

 そりゃあ経験値の低い場所でしか戦わなければ、レベリングも滞るわな。


「それは今まで達成者が一人もいない依頼だもの。報酬額もどんどん高くもなるわよ」


「それなんですけど、今回の依頼、ギルマスレベルの人が5人もいれば攻略できそうな敵でしたけど、なんで今まで達成できていなかったのですか?」


 思った事は即質問してみる。


「あ~……ハンターって基本皆一匹狼なのよ。通常依頼の報酬ってそこまで多くないでしょ?だからパーティなんて組んだら分け前が減るでしょ?しかも、誰が一番達成に貢献したかで報酬額を不平等に分けようとして揉めるのよ」


 その日暮らしのハンターの弊害ってやつなのかな?

 全員が全員金にがめついせいで、達成できる依頼も達成できてなかったってわけか。


「なるほど、よく理解できました。まぁ私としては、そういった足の引っ張り合いのおかげで報酬を独り占めできたのでかまいませんけどね」


「ね~?くだらない意地の張り合いでしょ?」


 そう言って笑う受付嬢。まったくもってその通りだ。


「おう!アン嬢!デカい案件の依頼達成したのか?おこぼれでいいから俺達に何か奢ってくれよ!」


 再び現れる酔っ払いA。

 何かコイツいつも飲んでるイメージだな。ちゃんと仕事してんのか?


 私は腰につけている革袋から小金貨を2枚取り出し放り投げる。


「私の初任務達成のお祝いです。その額の範囲内で皆さんで好きなだけ飲んでください!」


 その瞬間ギルド内酒場から歓声が上がる。


「うおおお~最高だぜアン嬢!!」

「俺一生アンタについてくぜアン嬢ちゃん!」

「アン嬢ちゃんマジ天使だ!!」


 おいおい……「天使」とか殺人犯に対して何言ってんだコイツ等?


「いいの?」


 近くで見ていた受付嬢がつぶやく。


「ええ……こうやって親交を深めておけば、手配書絡みで何か厄介事が起きた時、かばってもらえる可能性が高くなりますからね」


 考えていた事を素直に答える。


「ふふふ……腹黒いわね。『天使』っていうより『堕天使』ね」


「自覚しておりますよ。だって私これでも犯罪者ですし」


「そういえばそうだったわね」


 そう言って二人で笑い合う。


「あ、そうだ!忘れるところだったわ……」


 唐突に受付嬢が、何かを思い出したように話題を変える。


「前にアンちゃんが言ってた、賃貸のアパート借りたいって話なんだけど、ギルドの方で保証人になっておいたから、今日からでも住めるわよ」


 それって結構重要な事じゃない!?何で今まで忘れてたよ!?


「コレ鍵ね。でもいいの?アンちゃんだったら、もっと良い物件に住めるわよ」


 私が指定したのは、月々の代金が小金貨2枚のボロアパートだったが、部屋自体は学校の寮の一部屋よりも広かったため何も問題はなかった。


「良い所に住んだところで、いつ帰ってこれなくなるかわかりませんしね……今回も依頼達成のために1週間も山籠もりしてましたし……それにボロいくせに、1日銀貨5枚も取る、今寝泊まりしている宿よりもマシです」


「そう言われると何も言い返せないわね……まぁともかく、アンちゃんのアパート私が住んでる場所のすぐ近くだから、たまにはご飯作って持っていってあげるわ」


「それはとても魅力的ですね。お言葉に甘えさせていただきますね」


 私も随分とこの受付嬢には気に入られているみたいだ。

 中身は犯罪者だけど、見た目が幼女だからだろうか?


 まぁともかく……

 私は無事このクルーク王国城下町での、生活基盤を手に入れられたのだった。


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