第13話 対酔っ払い
ギルド内酒場で、他テーブルからの話声が聞き取れるレベルで、私が座るテーブル周辺の音が消えたかのような沈黙が訪れる。
酔っ払い共は、完全に酔いがさめたような感じになっている。
そいつらが私を見る視線、それは『何でコイツこんな所で堂々と飯食ってんの!?』と語りかけてくるようだった。
「こ……この方……ず……ずいぶんと私に似てますね……他人のそら似ってあるんですね……」
沈黙に耐え切れずに、とりあえず「人違いだよ!」アピールをしてみる。
「「「どっから見てもお前だよ!!!?」」」
一同総ツッコミされた。何故わかった!?
ともかく、この世界は、前世の世界とは違うという事を失念していた。
犯罪を立証できなければ捕まる事は無いと思っていたのが大間違いだった。
目撃者は全員対処したと思っていたが、もしかして使用人を数人取りこぼしたか?それとも騒ぎに駆けつけて状況を目撃した第三者がいたのか?
この世界では「疑わしくは罰せよ」がまかり通るのだろう。
状況証拠とちょっとした証言さえあれば、当人からの事情聴取がなくても、それだけで立派な犯罪者になれてしまうようだ。
せっかく犯行後、即『韋駄天』使って隣町に移動して『私この時間にこの町にいましたよ。あそこからここまで移動するの、こんな短時間じゃ無理でしょ?』ってアリバイまで用意したのに全部台無しだ。
「すまないな嬢ちゃん!大金貨2枚もらったら、その金で墓前に花くらいは供えてやるから勘弁してくれ!」
酔っぱらいCが剣を抜きながら動く。
「抜け駆けすんなよ!?だったら俺はジュースを供えてやるよ!!」
「じゃあ俺は魚介パスタだ!俺に殺されてくれ!!」
つられるかのように、酔っ払いAとDが剣を抜く。
何だよオイ!?私の墓前どうなってんだよ!?
迫りくる3本の剣。
私は咄嗟に手に持っていたフォークで、スキル『ハイ・ウェポンブレイク』を使用する。
ソレはファイター系の上級職『アックスマスター』で覚える、戦力差が大きければ大きいほど成功率が上がる武器破壊系スキルである。
成功すれば、武器の耐久値を80%低下させる効果があるため、ちょっとでも使い込んだ武器なら、まず間違いなく壊れる。
ちなみに、このゲームで確率のからむスキルは基本的に全部、戦闘力の差で成功率が決まる。
まぁともかく、私の振るったフォークに当たった3本の剣の刃が砕ける。
すげぇなフォーク。
実はコレ、伝説のフォークとかだったりするのかな?
装備
右手:フォーク(耐久値2%)……攻撃力に力値の0.5%プラスされる
左手:なし
頭:なし
体:貴族の服(耐久値84%)……防御力に防御値の3%プラスされる
その他:フードマント(耐久値87%)……防御力に防御の1%プラスされる
ですよね。そこまで特別な物じゃないよね。わざわざステータス欄確認した私バカかな?
まぁ、剣3本へし折ったせいで、フォークの方の耐久値も限界寸前なのはわかったからよしとしよう。
ちなみに、さっきへし折った、安物の鉄の剣でも攻撃力は10%のプラス補正がある。
「バ……んなバカな!!?」
酔っ払いAが吠える。
その意見には私も同意したい。咄嗟にとった行動とはいえ、フォークでこんな事ができるとは思わなかった。というか、フォークが装備品として認識されるとは思わなかった。
「ファイアボール!!」
「サンダーボール!」
初撃で動かなかった二人はマジシャンだったようで、3人から遅れる事数秒、私に向かって魔法を放つ。
たぶん、私の魔法抵抗値なら、黙って受けてもノーダメージだろうけど、魔法を受ける事で服の耐久値が下がるのは勘弁してほしい。一張羅なんだよ……
「スペルバニッシャー!」
ほぼノーモーションで撃てる上級魔法を放つ。
ウェイトタイム短めで撃てる初級魔法を消す効果があり、上級同士の対人戦で、チマチマと初級魔法連発で削り合う戦闘だとつまらなくなりそうなので作った魔法である。
いや……対人戦のテストプレイで、ウェイトタイム短いからって、高レベルのくせに初級魔法連射しまくってきた姉ちゃんがウザかったから、それ対策用に作った私のワガママ全開の魔法って理由の方が正しいのかもしれないけど、まぁそれが今回役に立ったわけで……
ともかく、私のスキを突いたタイミングで放った魔法が、後出しの魔法にかき消されたのを見て、茫然自失になる酔っ払いBとE。
そして、これだけ騒いで気付かれないわけもなく、ギルド内全てが静まり返り、私は全員の視線を独り占めしていた。
全員が私の次の行動を注視しているようだった。
どうしようコレ?
この後私は、どういう行動取ればいいの?どうするのが正解なの!?
とりあえず落ち着け私!
私の手配書を見たのは、私の周りにいるこの酔っ払い5人だけだ。何事もなかったように行動すれば大丈夫なハズだ!だってここにいる連中皆酔っ払いだし!
私は黙って食事を再開し、先程のフォークでパスタを巻き取り、口へと運ぶ。
「あ……俺、今日この剣で、大ナメクジを5匹ほど斬って……」
「ぶっ殺すぞ!酔っ払いC!!!」
酔っ払いCの胸ぐらを掴み、そのままぶん投げる。
酔っ払いCは弧を描くように宙を舞い、壁にぶつかり地に落ち、そして気を失う。
「あ…………」
やってしまった……
もう皆の視線は私に釘付けである。
でもしょうがないよね?今のは酔っ払いCが悪いよね?私悪くないよね?
「ルーナ・ルイスか!?」
唐突に、吹き抜けになっている2階から声がした。
見上げると、ギルドマスター室と書かれたプレートの扉の前に、初老の男が立っていた。
「指名手配犯がこのギルドに何の用だ?一人でギルドと全面戦争でもしにきたか?」
何だこの人?このオッサンがここのギルドマスター?
『戦争』とか何をわけわからない事いってるんだ?頭大丈夫だろうか?
「え、いえ……ハンター登録しに来ただけなんですけど……」
とりあえず「何の用?」に対しての返答をしておく。
っていうか私の目的、最初から一貫してコレなんだけど。
あ、ギルドマスターのオッサンどういう反応すればいいのかわからないのか複雑な表情してるよ……




