第10話 戦闘
目の前には迫ってくる化物5匹。
「クッソ……!!仕方ねぇ!依頼失敗になるが、ガキども置いて逃げるぞ!!コイツ等が食われてる間にズラかれ!」
予想通りのセリフを吐く誘拐犯のリーダー。
そして泣き叫んでいる人質の子供3人。
いや……実質25歳のルカはもうちょっと落ち着けよ。何をマジもんの8歳児と一緒に泣いてんだよ!?
「エクストリーム・サンダーバースト!!」
そして、セットしていた魔法を発動しながら颯爽と登場する私。
私カッコいい!これ絶対、ここにいる皆私に惚れただろ?
発動した魔法は、大きな円形の空間を作り出し、魔物達を包み込むと、その空間内で凄まじい雷撃を発生させる。
「知らねぇ……何だよこの魔法は!?こんな魔法見た事も聞いた事もねぇよ!!?」
誘拐犯集団の職業マジシャンっぽい男が叫びだす。
そりゃあ知らないだろ。だって上級職にならないと習得できない魔法だし。
上級職の人間が存在しないこの世界じゃ認知すらされてない魔法だろう。
荒れ狂う雷撃は、空間内に取り込んだ魔物の体を焼き、切り裂き、魔法の効果が切れ、円形の空間が弾けたその現場には、こんがり焼けた魔物のバラバラ死体が4体。
「……ッチ!!?一匹取りこぼしたか」
ウェイトタイムを気にして、全体攻撃魔法でなく範囲攻撃魔法にしていたのが仇になった。
通常サイズの魔物が5匹密集していたのなら何も問題はなかったのだが、今回のは密集してはいたのだがサイズがデカすぎた。
取りこぼしをしたグレイト・マンイーターは私を危険視したのか、すぐさま標的を私に切り替え無数の足で攻撃してくる。
うわぁ……ゲームだと気にならなかったけど、現実だと気持ち悪ぃなコレ。
とりあえず、グレイト・マンイータの攻撃を左腕で防ぐ。
ガードした腕の皮膚の皮がちょっとめくれた。
よくわからないけど、コレってゲーム上だと「ダメージ1」くらいの表記は出る状態なのだろうか?
ゲームの設定では、一応は最低ダメージは保証されており、どんなに力量差があっても、絶対に1ダメージはくらうようになっている。
力量差を技術でカバーしようと頑張る人が、延々と0ダメージ表記を見続けるとやる気が萎えるだろうと思っての救済措置だ。
しかし、逆で見た場合、かなり力量差があるのに、延々と1ダメージ表記を見続けるのもストレスがたまるだろうと思い、そっちの場合の救済措置も用意した。
ナイトの上位職である『ロイヤルガード』が覚えるパッシブスキルの『大防御』。
コレがあれば、あまりにもレベル差がある攻撃は0ダメージになるようにしてある。
これで、下級職で高レベルの上級職にケンカを吹っ掛けるのを抑制し、魔物相手にだけ技術を披露してもらうようにし、逆に高レベルのプレイヤーは、勘違いした下級職に無駄にからまれたくなかったら、とっととこのスキルを入手するように誘導するようにしていた。
まぁともかく、そんなわけで……
この『大防御』を持っている私にダメージっぽいのを負わせた、という事は、さすがは上位職用MAPの魔物だとほめてあげたいところである。
といっても、私が装備している防具が「布の服」だけの状態だから何とも言えない感じなんだけどね……武器も持ってないし。
そして、そんな無駄な事を考えていた私に、足での攻撃が通じないとわかったグレイト・マンイーターは、ガッチガチの無数の牙で武装された口を私へと勢いよく近づける。
さすがは『マンイーター』と言われるだけの事はある。
まぁ名付けたのは私なんだけど……
でもね、お前さっき攻撃したろ?次は私の番だろ?順番はちゃんと守れよな。
私は近づいてきた口を、真横から思いっきりぶん殴った。
消し飛ぶグレイト・マンイーターの顔面。そして大量に吹き上がる緑色の血?体液?
とにかくなんだ、その……
「うわぁぁ~……気持ち悪いぃぃ~~……」
人前だというのに、貴族としての優雅さも何もなく、ただ思った事が自然と口からもれる。
「一撃……?あの化物をたったの一撃で……?何なんだよ?何者なんだよお前はぁぁ!!?」
腰が抜けたように座り込んでいる誘拐犯のリーダーが叫びだす。
私は誘拐犯のリーダーの方へと体ごと向きを変え、優雅にお辞儀をしてみせる。
「これはこれは……自己紹介が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。私はルーナ・ルイスと申します。以後お見知りおきください」
「……ルイス?伯爵の孫か?……どういう事だよ?リストには載ってなかったぞ……?」
私の自己紹介を聞いて、何やらブツブツと言い始める誘拐犯のリーダー。
「あら。うっかりしてしまいましたわ。家名を名乗ってはいけない事になっているのでした……」
私はわざとらしい口調で言葉を続ける。
「知られてしまったからには、生かしておくわけにはまいりませんね……」
状況を理解した誘拐犯達の顔が青ざめていく。
(『エクストリーム・フレイムボム』セット)
左手に集まる、現状のこの世界では見る事のできないレベルの灼熱の魔力。
「骨まで溶かしてしまえば問題ありませんよね?」
にっこりと、邪悪な笑みを誘拐犯達に向ける。
「言わない!!アンタが領主の孫だって事は絶対に他言しない!!だから頼む!命だけは助けてくれ!!」
何ともテンプレ通りな反応である。
まぁ私も、そういう反応をするだろうと思っての行動なんだけどね。
「困りましたわね……今日初めて会ったアナタ方の何をもって、その口約束を信じなくてはならないのでしょうか?」
引き続き演技掛かった口調で喋り続ける。
「う~ん、そうですね……例えば、アナタ方からしたら命よりも大事であろう、今回の誘拐事件の依頼主と依頼内容を私に教えていただく、というのはどうでしょうか?」
今回のこの誘拐事件は、コイツ等の計画ではなく、黒幕がいるであろう事は、ちょこちょこリーダ―が漏らす言葉の端々から想像ができた。
「私の正体をバラしたら、代わりにアナタ方が秘匿義務のある依頼内容を漏らした、という事をバラせるような……そんな抑止力になる情報を頂きたいですね」
まぁ普通に考えれば、命が惜しいあまり守秘義務放棄する連中の、口外禁止約束をどうやって信用すればいいんだって話なんだけど……
「わかった!言う!!全部話すから命だけは勘弁してくれ!!!」
ダメだコイツ等……そうとう頭弱いだろ?
まぁ事件の黒幕を知る事ができれば私は構わないんだけどね……
「さ……沙川さん……私……何も聞いてない……聞いてないから殺さないで……」
そして半泣き状態で命乞いをしてくるクラスメイト。
お前はちょっと空気読めよ!!?




