エピローグ ~出席番号11番 倉田朝香~
私は異世界転生した。
前世ではバス事故で死亡したようで、気が付いたら記憶を持ったままこの世界で赤ん坊として生を受けていた。
その時は色々と思う事はあったような気がするのだが、今となってはもう、あまり覚えていない。
というか、こちらの世界で既に、前世での享年の倍以上生きているので、正直前世での記憶とか、実は夢でも見てたんじゃないかとさえ思えてくる。
そんな夢を振り返るよりも、婚期を逃して独身のまま30代後半に差し掛かろうとしている現実を直視しなくてはならない気がする。
転生する時、この世界を平和にしろ、とか言われた言葉を真に受けて、幼い頃からギルドに所属してレベル上げに勤しんでいたせいで、今ではこのざまだ。
まぁそのおかげで、高位職の上の超位職になれたので、今現在、田舎町ではあるけれどギルドマスターの職につけて、生活に苦労する事はないんだけどね。
それにしても、世界を平和にしろ、とかいう話だったのだが、何をもって『平和』なのかがまったくわからない。
この世界は、別に人類の存続の危機だったり、世界が破滅するとか、そういった事は生まれてから一度もおとずれてきていない、普通に平和な世界だ。
そりゃあ魔物とかがいて、人に襲い掛かってきたりもするけれど、前世でも猛獣とかはいたわけで、大した差はない気がする。
むしろ、レベルやステータスがあるおかげで、魔物に襲われても普通に対処可能なんで、前世よりも危険度は低い気もする。
平和を乱すような事なんて、ゲームのイベントかのように出て来た『出会っても絶対に手を出してはいけない超極悪賞金首』とか『世界全土の領主を恐怖に陥れた魔王』とかの出現くらいだろう。
まぁその辺も気が付いたら討伐されていて、私からしたら、結局何だったの?って感じだ。
「どした朝香?難しい顔しちゃって?トイレ行きたいなら私に気にせず行ってきなよ」
ふいに声をかけられて現実に戻ってくる。
ギルドマスター室に置かれたソファに寝転んだ状態で、私が仕事が終わるのを待っている女性。
彼女の名前はレイナ・ベレージナ。
この世界では3年くらい前に知り合いになったのだが、当人曰く、前世では私の親友だった飯島愛花だという。
物的証拠は何も無いが、愛花しか知らないような前世での事を知っているので、とりあえずは信用してはいるのだが、何で私の前世の名前を知っているのかを教えてくれないので、いまいち信じ切れない部分もあった。
「別にトイレとかじゃないから気にしなくていいわよ……ホント見た目通り中身も子供ね……飲みに行きたいなら黙って仕事終わるの待ってなさいよね」
適当にあしらって仕事に戻る。
本当に昔から変わらない、子供みたいな性格だ。
……そう、これも愛花を信じ切れない部分の一つなのだが、この子が本当に愛花なのだったら、私と一緒の時期にこの世界に転生してきているハズなのだ。
つまるところ私と同い年なハズの愛花の見た目は、どっから見てもアラフォーには見えない。どう見ても20代前半なのだ。
しかし、そのあたりの事は、愛花が秘密にしている何かがあるのだろうと無理矢理納得している。
というのも愛花のステータスを鑑定で見てみると……
超越者 LV100 人種 総合戦闘力‐‐99‐0
ステータス表記バグってるし!?もう滅茶苦茶。化物もいいところだ。こんなステータスした奴が普通なわけがない。異常なヤツに普通を期待するだけ無駄なのだ。「コイツはこういうモノなんだ」で納得して思考放棄するのが一番楽だ。
いつの間にか討伐されたという噂が広がった『銀髪の堕天使』と『魔王ルカ』は、たぶんだけどコイツがやったのだろうと予想している。
というか、2人とも総合戦闘力が20万くらいあったと言われている。そんな奴等を倒せる奴が愛花以外にもいてたまるか!って感じだ。
「それはそうと、今日飲みに誘ってきたのはどういう用件なの?また相談事?」
こんな化物ステータスした奴が何の悩みがあるんだよ?と思うのだが、前回飲みに誘われた時は「どういうイベント起こせばこの世界、平和じゃなくなると思う?」とか無意味に物騒な相談を受けた。
その時は、適当に「誰も手に負えない魔物でも出てくれば、この世界ヤバイんじゃない?」とか答えておいた。
もっとも、この世界に『愛花』という化物ステータスした人間兵器がいる以上、誰も手に負えない魔物なんていないだろう。ってか、いたら今頃もう既に人類滅亡してるし。
「そうなんだよ……前回の案を試してみようとして、魔物使役スキルで最古の魔獣引っ張ってきたんだけど、私以外誰も対処できてなくて、ガチでヤバくなったんで廃案にしたんだよ。そんなわけで、もうちょっと安全な案を出してもらおうかと思ってね」
何かよく意味のわからない単語を出してくる愛花。何言ってるのかよくわからない。
っていうか『この世界が平和じゃなくなる安全な案』って何!?馬鹿にしてんの?
「はぁ~……何か意味わかんないんだけどさぁ、愛花はそんな事考えて何がしたいわけ?」
ため息まじりに愛花へと質問してみる。
「ん~~……説明が難しいんだけど、アンちゃんってさ、意外と寂しがりなところがあるんだよね……だからアンちゃんが戻って来るまで、私は待ち続けてようと思ったんだ」
アンちゃん?誰それ?
まぁ話してる最中だから突っ込まないでおいてあげるけど……
「んで、アンちゃんが戻って来た時、この世界があまりににも平和すぎて面白味が無いとガッカリするだろうから、いつアンちゃんが戻って来てもいいように、私が色々とイベント起こしておこうかと思ってるんだよ」
「平和だとガッカリする、とか……そのアンちゃんって子はどんだけひねくれた性格してんのよ?愛花もそんなのに乗っかって悪だくみばっかしてると、そのうち天罰がくだるわよ」
愛花の発言に、私はすかさずツッコミを入れる。
すると愛花は突然笑い出す。
「アハハハハ!大丈夫大丈夫……」
笑いながらも瞳には若干涙がうかんでいた。
そんなに面白い事言ったか私?
「だってさぁ……」
愛花は、私と初めて会った時から身に着けていたボロボロになっている愛用のフード付きマントを抱きしめるように持ちながら満面の笑みを浮かべながら、ゆっくりと口を開く。
「この世界の神様はさ……世界平和を望んでないんだから」
この話はこれで終了になります。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
まぁルーナちゃんは雲隠れしているだけで、まだ健在なので、この世界の数百年後とかを舞台にした続編みたいのを書くのも面白いかな?とか思ったりもしていますが、まだ何も考えていないので、実際に書くかどうかは不明です。
まぁ続編を書くか書かないかは別にして、この後、私の下手な落書き絵でキャラ紹介ページあたりは投稿しようかな?とは思っているので、忘れた頃あたりに、ひっそりと追加すると思うので、気が向いたら見に来ていただければと思います。
文も絵も遅筆なので、正直いつになるかはわかりませんけど……




