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第8話 追いかけっこ

 生徒がさらわれたというのに、引率の教員は動かなかった。

 正確には「動けなった」という方が正しいのか?


 教員も、それなりにはレベルは上がっているのだろうが、相手は同等かそれ以上の強さの5人組のハンターである。

 雇ったハンターが裏切るのは想定外な事だろうし、助け出すためには、最低でも同人数で戦うしかない。

 しかし、そうすると残った子供達が危険に晒されるし、だからといって戦力を分散させれば、助けるどころか被害が拡大してしまう。

 何より、教員も人間だ。軍人でも何でもないのに、死ぬとわかっている事はやりたくはないだろう。


「……ッチ!!」


 私は軽く舌打ちをすると、既に豆粒のように小さくなった誘拐犯達の背中を追いかける。


「!?ルーナさん!!危険です!戻ってください!!」


 すぐに後ろから教員の叫び声が聞こえる。


「私が追います!皆さんは生徒を集めて、速やかに町まで戻っていてください!」


 どうやら教員の一人が私を連れ戻しに追ってくるようだった。


(『鑑定』発動)


プリースト LV22 人種 総合戦闘力311


 クラス分けでプリースト科の担当教員だ。

 つうかアンタも帰れよ!?正直邪魔だよ。


 にしても、歩幅の差は馬鹿にできないな……前とはどんどん引き離されてるし、後ろからはどんどん差を縮められている。


「ルーナさん!止まってください!!この件は役人に任せましょう!危険ですから戻ってきてください!」


 説得を交えながら追いかけてくる教員。鬱陶しい。こんな事ならステータスに『素早さ』って項目も入れておけばよかったな。

 でも、いくらゲーム内でもプレイしてる人は生身の人間だから、動体視力やら反応速度とかをいじるには脳への負荷がもの凄いから、フルダイブVRゲームでは禁則項目になってるんだよなぁ……

 そんなわけで、脳に負荷をかけずにできる範囲で設定したスキルを……


「スキル『韋駄天』発動……」


 私は、下級職2つ以上極めると解放される特殊中級職の『シーフ』が習得できる『韋駄天』スキルを発動する。

 面倒臭い町と町の間の移動時間を短縮させるために設定したスキルであり、フィールド上の移動速度を数倍にする効果がある。

 ちなみに、敵にエンカウントすると効果は切れるのだが、このゲームはシンボルエンカウントなので、上手くいけば、次の町までノーエンカで移動できる。


「……え!?ルーナさん!!?止まってくださぃ……」


 後ろから聞こえてくる教員の声がどんどん小さくなっていき、かわりに、ほぼ見えなくなっていた前の誘拐犯集団がどんどん近くなってくる。


「……!?オイ!何だあのガキは!?」

「速ぇ!?何者だよアレ!!?」


 私の存在に気付いたようで、ざわついた声が聞こえてくる。


「さ……沙川さん!?」

「ルーナちゃんだ!ルーナちゃんが助けにきてくれた!!」


 さらわれたクラスメイトの歓声も聞こえてくる。


 この集団にエンカウントした瞬間に『韋駄天』の効果が消えるため、追いついた勢いを残したまま人質の子供を一人でも助けようと手を伸ばした状態で集団に飛び込んでいく。


「うろたえんな!このガキも見た感じ貴族っぽいから、一緒に捕まえとけばいいだけだろうが!」


 集団のリーダーっぽい男が叫び、子供を抱えていなかった手空きの一人が、すぐさま私を捕らえようと手を伸ばしてくる。


 私は咄嗟に、伸ばしていた手を振るい、私に向かって伸ばされてきた手を弾こうとした。


 結果……

 腕がもげた。


 もちろん私のではなく、誘拐犯の、である。

 力20000の物理攻撃パねぇッス。


「ぎゃああああぁぁぁぁ!!!?」

「うわああああぁぁぁぁ!!!?」

「きゃああああぁぁぁぁ!!!?」


 もげた人(誘拐犯)もいだ人()見てた人(クラスメイト)。一斉に悲鳴を上げる。


 いや、だって、私の攻撃がここまで効果あるなんて思わないじゃん。っていうか攻撃したつもりなかったし!腕振り払っただけだし!?

 ゲーム内だとダメージが表示されるだけで、こんな演出は無いし。ってかこんな演出仕込んだらR指定?下手したらX指定とかくらうじゃん。

 そりゃあ、最上級職の素手攻撃でも、下級職がガッチガチに武装固めてもオーバーキルなダメージ出るよ。それをリアルで演出すると、こんな感じになるなんて思ってなかったんだよ。


「……は!?何だコイツ!!?『管理者』??総合戦闘力10万超え!!?」


 誘拐犯のリーダー格っぽい男が、何やらつぶやきながら顔を青くしている。

 『鑑定』スキルで私の情報を覗き見でもしたのだろう。

 雇われたハンターは全員下級職って話だったのだが、どうやら職業も偽っていたのだろう。


モンク LV3 人種 総合戦闘力993


 『モンク』はプリーストから分岐する中級職で、若干の回復魔法を扱える物理攻撃職である。


 ゲーム内の設定では、通常、武器を装備していないと、戦闘中攻撃できない仕様になっているのだが、この職に限り、武器がなくても攻撃ができるのである。

 また、この職を極めると『素手攻撃』というパッシブスキルを取得できる。

 このスキルがあれば、他職でも武器がなくても攻撃ができるようになる。

 普通は武器を装備しない、という事は無いのだが、武器にはきちんと耐久値がある。ほっといて長時間戦闘をしていると、武器が壊れる事もある。そういった時、その場をしのぐのに便利なスキルなのだ。


 あ……もしかして、このスキルのせいで、さっきの腕振り払いが『攻撃』として扱われたのかな?


「やばい!逃げ……ダメだ!こんな障害物も何もない場所じゃ話になんねぇ!!全員そこの森に逃げろ!!全力でだ!!」


 リーダーの言葉に全員が従い、人質を抱えたまま、全力で森へと駆け出す。

 実際に目の前で行われた異常な事態を見ているため、誰もリーダーの言葉に逆らおうとする人はいなかった。

 ……約1名を除いては。


 私に腕をもがれた男は、その場に倒れたまま動かなかった。

 血を流しすぎたのだろうか、顔色は土気色をしていた……が、まだギリギリ死んではいなかった。


 私もすぐに行動しなくてはならなかったのだが、頭が上手くまとまらず、動く事ができなかった。


 初めて人の体を引きちぎる感触を味わった。

 初めてあんなに血が噴き出す瞬間を見た。


 恐ろしかった。

 ずっと「ゲームの設定が現実世界になった」と言ってはきたが、実際はきちんと理解していなかったのだ……どこかで「ゲームの世界」と思っている部分があったのだ。

 ゲーム内でもダメージを与えればキャラは死ぬ。

 それが現実に行われればこういう状態になる。当たり前の事である。


 自分の呼吸が荒くなっているのがわかる。変な汗が止まらない。


「あ……あの森……」


 混濁する思考のなか、誘拐犯達がルカ達を抱えて逃げて行った森を視界の隅に捉える。


 その森の名称は『グレイルの森』。

 ハンターランクAで行けるようになるMAPだ。


 そして……推奨レベルは『上級職LV1以上』に設定していた。


調子にのって1日に2話投稿。

ここのところ投稿ペース順調にいってる分、どこかで反動があるかもしれません……。

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