98.報告と緊急事態!!
改稿しました(2021年12月12日)
王都に転移した私は、すぐに王城に向かった。いつも通り、ほぼ顔パスで王城に入っていく。国王様が、王城のどこにいるかは分からないので、基本的に同じ場所にいるメアリーさんのところに向かう。メアリーさんの執務室をノックすると、すぐに入っていいという返事が来た。
「失礼します」
「ルナちゃん? 今日は、アルカディアの方で、調査していると思ってたけど。ごめんね。まだ、天界言語の解読は出来ていないんだ」
「それは、大丈夫です。実は、アルカディアの古代兵器を破壊したので、その報告をしに来たんです。国王様も一緒に聞いて頂きたいんですけど、王城にいらっしゃいますかね?」
「分かった。少しだけ待っていてくれる?」
メアリーさんは、目配せで侍従さんに指示をして、国王様を呼びに向かわせた。私は、いつも古代言語を教わっている場所に座って、国王様を待つ。十分程で、国王様がやって来た。
「挨拶は構わん。早速報告を聞かせて欲しい」
「分かりました」
国王様は、真剣な顔でそう言ったので、それに従うことにした。そして、まず最初に、アルカディアの地図を取り出す。
「これが、古代兵器アルカディアの全体図です」
「ふむ。想像以上に、大きいのう。これが、平原の下に存在したということか」
地図を見た国王様は、眉を寄せながらそう言った。これだけで、アルカディアが崩壊した結果起こってしまった事に気が付いたのかもしれない。
「はい。一応、破壊はしました。その結果、アルカディアの平原が大規模の崩落を起こしました。この範囲の平原は、しばらく住むことは出来ないと思います」
私は、メアリーさんが持っていた地図に、その範囲を指で示す。
「今は、戦乙女騎士団の皆さんが、今後の変化の様子を見るために残っています。シルヴィアさんは、王都に戻るために移動しています」
「そうか……他の騎士団を向かわせたいところじゃが、あの霧の森を突破出来る騎士団は、他の仕事に就いてしまっておる。しばらくは、リリウム達に任せることになろう。後で、そのことを、伝えて貰っても良いかのう?」
「はい、それと、アルカディアとは別に報告したいことがあります」
「ふむ。なんじゃ?」
私は、意を決して、あの幽霊のおじいさんが言っていたことを話し始める。
「アルカディアを作ったのは、ディストピアにいる人達を中心とした組織だそうです。今は、どのようになっているかは分かりませんが。そこに、他の何かしらが、加わっているようです」
「ふむ。確信しているような内容じゃが、分かっていない事があるようじゃのう?」
「はい。所々の情報は、判明していません。ですが、それ以外は、本当の事かと思います。態々嘘を伝える意味があるとは思えませんし。そして、これが重要な事なのですが、これら古代兵器を作っていた組織は、その一つだけじゃ無いみたいなんです」
私がそう言うと、二人とも目を開いて驚いていた。
「古代兵器は世界中に散らばっていて、街や風景に溶け込んでいるようです。つまり、この王都の中にも古代兵器がある可能性があるといえるんです。そこにあると分からない兵器ということらしいです」
少し情報を省いて説明した。正直、最後の言葉などは、国王様に伝えるような事じゃなかった。あれは、私に向けた言葉だった。言葉の真意は分からない。言論統制がされているとか何かで、詳しい話を聞くことが出来なかったからだ。かなり重要な事を言っているように思えたけど。
「その話は、どこから知ったものじゃ?」
「アルカディアに関係する幽霊のおじいさんからです」
「ふむ……」
さすがに、幽霊の話って言われたら、あまり信用出来ないよね。そう思っていると、メアリーさんが苦笑いする。
「ルナちゃんの事を信用していないわけじゃないよ。父上が考えているのは、その幽霊の話を信用出来るかどうかだからね」
「うむ。メアリーゼの言うとおりじゃ。ルナが言ったことは本当の事だと信じておる」
どうやら、私の杞憂だったみたい。てか、私はどんだけ信用されているんだろう。
「ルナは、その幽霊の話を信じるのか?」
「私が感じた事ですが、嘘を言っている感じはしませんでした。それに……」
「それに?」
「その幽霊の話は、私の世界の事も関係しているみたいだったんです。何も話していないのに、向こうは私の事を異界人と認識していました。つまり、異界人がいたから現れたということだと思うんです。態々、人を選んで出現しているのに、嘘を言う意味はないんじゃないでしょうか?」
あの幽霊は、最後に『お前達は、この世界に来ているに過ぎない』と言っていた。これは、どう考えてもゲームとしてログインしている事を指している。ということは、あの幽霊は、私がプレイヤーであると認識しているはずだ。
「なるほどのう。その幽霊は、古代兵器の見分け方などは言っておったか?」
「いえ、そういうのは話しませんでした。口ぶり的に、本当に見分けの付かないものなのだと思います」
「うむ……」
王都やユートリアなど、様々な街の中にも古代兵器があるとしたら、それは。そして、それがいつ起動するか分からないとしたら。国王様は、すぐにでも古代兵器を捜索したいと感じているだろう。
「他には、何かあるかのう?」
「いいえ、後は、特に報告はありません。一応、アルカディアの資料室にあった本を渡しておきますね」
「ありがとう。これで、古代兵器のことが、もっとよく分かるかもしれないわ。他にも色々と調べる必要がありそうだけど」
「そうですね。私もこの世界の事と古代兵器、色々と知りたいことが増えました」
「なら、王城の書庫を使うといい。王立図書館と並行して使えば、効率よく調べる事が出来るじゃろう」
「ありがとうございます」
『クエスト『アルカディアに潜むもの』をクリアしました。報酬として、五十万ゴールドを取得しました。特別報酬として、『アルカディアの知識』を手に入れました』
クエストクリアの表示が出た。これで、アルカディアのクエストは、完全にクリア出来た事になる。特別報酬も、恐らくアルカディアの資料室にあった本のことだと思う。
取りあえず、一つの厄介ごとを片付けたと思ったら、執務室の扉がノックされた。
「どうぞ」
メアリーさんが、そう言うと、すぐに扉が開いて、官僚のような人が入ってきた。
「陛下! 緊急事態です!」
「何じゃ!?」
官僚の人は、ちらっと私の事を見た。どうやら、一般人に聞かせる話じゃ無いみたい。ここで、帰った方が良さそうだ。そう考えていると、
「よい、話せ」
と国王様が言った。私が、聞いてもいいという事みたい。少し、私を信用しすぎのような気もするけど。国王様の命に従って、官僚の人が話し始める。
「アリス第三王女殿下が、誘拐されました!」
「な、何じゃと!?」
本当の本当に緊急事態だった。第三って事は、メアリーさんとシャルの妹か。
「詳しく話せ!!」
「はっ! 第三王女殿下は、東のイーストリアから戻ってくる途中で襲われた模様。革命派の犯行とみられます。現在、革命派は、イーストリアを乗っ取り立てこもっています」
話がどんどん進んでいく。私の分からない単語がどんどんと出て来る。それに、結構深刻そう。
「何!? イーストリアの住人は!?」
「避難は済んでいません。ほとんどが街の中でしょう」
「規模は!?」
「百数名と思われますが、正確な人数は不明です」
「街の警備隊は!?」
「全滅もしくは、捕まったものかと」
国王様は、頭を抱える。
「要求は?」
「王政の終わりです」
「やはりか……」
「騎士団を派遣すれば、殿下の命は無いとのことです」
「くっ……」
国王様は、考え込んでしまった。娘の命を優先したい気持ちが強いけど、王として、屈するわけにもいかない。そのせめぎ合いが起きているんだ。
「それって、騎士団で無ければ良いんですよね?」
私がそう言うと、三人が一斉にこっちを見る。
「私は、冒険者で異界人です。騎士団に所属している訳でも無い。それに、私の装備は、潜入に向いています。私が行くべきでは無いでしょうか?」
「…………頼めるかのう」
国王様は、長い葛藤の末にそう言った。
「はい。分かりました」
『クエスト『第三王女殿下の救出』を受注しました』
新たなクエストとして受注する事となった。ここ最近、連続で大規模なクエストを引き受けることになっている気がする。
「陛下! よろしいのですか!?」
「うむ。ルナは、信用出来る。シャルと共に、スタンピードを終わらせたところから実力は分かるじゃろう?」
「スタンピードを……なるほど。噂の冒険者というのは、この方だったのですね。最大限のサポートをさせて頂きます。陛下、よろしいでしょうか?」
「うむ。宝物庫の中のものも使用してよい」
「では、ルナ様、こちらへ」
私は、ソファから立ち上がる。すると、私の手をメアリーさんが掴んだ。
「ルナちゃん、アリスの事をお願いね……」
「はい。安心して下さい。絶対に、助け出します」
メアリーさんの手を握ってそう言い、私は、官僚の人に付いていった。