94.動力室のボス!!
改稿しました(2021年12月10日)
アルカディアの動力室は、かなり広かった。それは私達が今まで入ったどの部屋よりもだ。でも、奇妙なことに、動力炉がでかいというわけではなく、何も置かれていない空間が広がっていた。
「これが動力室?」
「そうだと思うよ。ほら、あの奥に見えるもの。動力じゃない?」
私が指を指した方には、複雑な機械が置かれていた。その機械には、様々な配管が繋がっていた。そして、その動力は別の部屋として分けられている。
「何で、こんな広い空間があるんだろう?」
「何か理由があるはずですよね?」
動力室に、態々大きな空間を用意する理由が分からない。地図には、小さな部屋って事になっているんだけど。
「後で、増設されたのかな?」
「その可能性はあるね。多分、最後の防衛ラインかな。気を引き締めていこう」
ソルの言葉に、皆が頷く。ゆっくり慎重に進んで行くと、正面の床が開いて、下から何かが上がってきた。
「何あれ?」
「アルカディアにいる時点で、絶対機械人形の一種だと思うけど」
「人形というより、兵器じゃない?」
「えっ? 何で、そんなに冷静なんですか!?」
下から上がってきたのは、沢山の重火器を携えた戦車のような機械だ。ただ、その戦車の上に、人の上半身のような機械が付いている。ソルが機械人形と言ったのも、シエルが兵器と言ったのもこれが理由だ。
「銃技『一斉射撃』」
私は戦車型機械人形が動く前に、爆破弾を撃ち込む。機械人形の頭で爆発が連鎖する。今までは狭い通路の中だったので、安易に使用出来なかったけど、ここまで広い空間なら、衝撃で壁や天井を崩す事にはならないはずなので、使っても問題ないはず。
爆破弾はかなりの威力を持っているので、これで倒せる可能性が高いと思っていたけど、さすがにそこまで甘くなかった。戦車型機械人形は、無傷でこちらを見下ろしている。
「爆破弾が通じない。あの装甲は、かなり硬いみたい」
「じゃあ、弱点探しからかな?」
「そうだね。ソルは、なるべく攻撃しないようにして、剣が折れたら困るから。最初は、メレの攻撃で試してみよう。音の衝撃で、中を破壊出来れば万々歳ってことで」
「分かりました。皆さん、後ろに下がって下さい」
私達の前に立ったメレが、メガホンを手に持って、戦車型機械人形に向かって、叫んだ。
『わああああああああああああああああ!!!』
音の砲撃が、戦車型機械人形に向かって放たれる。戦車型機械人形の装甲は、メレの音の砲撃によって、軋むような音がし始める。しかし、今までの機械人形のように、内部を破壊する事は出来なかった。
「装甲が、少し歪んだくらい?」
「すみません。お役に立てず……」
「ううん。相手が無敵じゃないって分かったのは大きいよ。それよりも、皆、警戒して。相手が動き始める」
今までされるがままだった戦車型機械人形が、動き始めた。主砲が回転して、こちらを向く。
「シエル! メレと一緒にプティで回避して!」
シエルが、メレを引っ張ってプティの上に乗せ、主砲の射線から離れる。私とソルは、自分の脚で射線から離れる。そのすぐ後、主砲から砲弾が発射された。私達は退避していたので、直撃を受けることは無かったけど、一つ重要なものをやられた。
「やばっ! 入口がやられた!」
戦車型機械人形の砲弾は、私達が立っていた場所の後方にある扉の上に命中していた。そのせいで、入口が歪んでしまっている。あれでは、まとも開ける事は不可能だ。
「じゃあ、私達の犠牲は確実?」
「そうならないように、何か方法を考える必要がある。でも、今は、この化物兵器をどうにかしないとだね」
私とソルは戦車型機械人形の左側に、シエルとメレは右側に回り込んでいた。すると、戦車型機械人形の側面に付けられた機銃から、私達に向けて銃弾が撃たれる。
「一番邪魔なのは、あれだね」
私は、左手で吉祥天を構える。
「銃技『複数射撃』」
吉祥天から撃ち出された弾が、戦車型機械人形の側面に付いている機銃に命中していく。
「それって、普通の弾を撃てないんじゃ無かった?」
「うん。だから、普通じゃ無い弾を撃ったんだよ」
戦車型機械人形の機銃は、弾が命中したにもかかわらず、動き続けている。
「効果ないよ!?」
ソルが、焦りながらそう言った。
「大丈夫。効果は出てる」
私が見ている機銃から煙が出始めた。そして、最終的に機銃が崩れ落ちる。
「何したの!?」
「金属溶解弾。名前のまま、金属を溶かすことが出来る弾だよ。蒸発が早いから、全てを溶かすことは出来ないけど、銃身の一部でも溶けたらまともに機能しないでしょ?」
メアリーさんと一緒に勉強している時に、見つけたものだ。ただ、魔法弾と同じように、生成の消費魔力が大きいので、数が用意出来ていない。今回は爆破弾を優先して作っていたから尚更だ。
「後、一マガジンしかないから、無駄遣いは出来ないかも」
「機銃の破壊は、別の弾で行うと良いかもね」
「呑気に話してる場合!?」
プティに乗って逃げてきたシエルがそう言う。その後ろには、メレも乗っている。
「こっちの機銃は、全部破壊したよ。こっち側にいれば、安全だと思う」
「いや、そうもいかないみたいだよ」
ソルがそう言ったと同時に、戦車型機械人形の上半身が動き始めた。私達を視界に収めると、手を上に掲げる。すると、天井が開いて、巨大な銃が二丁降りてきた。その銃を手に取ると、私達に向かって銃弾を放ってくる。
「歌唱術『音の防壁』!」
メレが、今まで歌った事がない歌を歌い始める。その歌は、今までよりも圧がある歌に感じた。飛んできた銃弾が私達のすぐそこまで迫ってくる。すると、私達の前で、何かに阻まれて銃弾が弾かれた。どうやら、メレの新技みたい。メレが止めてくれている今の内に、作戦を考える。
「どうする? プティとガーディでも、致命傷は与えられないと思うけど」
「まず、上半身と戦車を切り離そう。私が、あいつの上半身と戦車の繋ぎ目を溶かすから、ソルが斬ってくれる?」
「分かった」
「その後は、どっちも完全に破壊するって感じでいこう」
私の案に三人とも頷いてくれる。その間にも、メレの歌声が小さくなっていた。この防御も限界が近いみたい。
「じゃあ、始めよう!」
私は、メレの音の防壁から飛び出す。戦車型機械人形は、銃口を私に方に追従させてきた。
「危なっ! でも、仕事はするよ! 『夜烏』!」
吉祥天で金属溶解弾を夜烏に乗せて撃ち込む。夜烏は、実体を持たないので、銃弾で弾かれることもない。夜烏は、正確に機械人形と戦車の結合部に命中した。金属溶解弾の効果を十分以上に発揮して、結合部の装甲を溶かした。
「やっぱり、そこは、装甲を厚くするよね。でも、銃技『精密射撃』『連続射撃・二連』!」
吉祥天から撃ち出された二発の金属溶解弾が、夜烏が命中した場所を、正確に命中した。結合部の装甲は完全に溶け、内部にも侵食していた。その攻撃で、敵の標的が、完全に私に移る。二丁の銃が、私を狙ってくる。
「ソル! 次で、斬れるようにする!」
「分かった!」
私は、バク転などの普通なら戦闘中にやらないような動きで、銃弾を避けていく。この辺りは、シルヴィアさんとの修行で手に入れた動きだ。でも、銃弾を避けるのは、すごく難しい。
「でも、狙える。銃技『複数射撃』!」
金属溶解弾を結合部に満遍なく撃ち込んでいく。結合部に脆弱な部分が出来上がる。
「ソル!」
私の呼び声に、ソルが反応して飛び出す。そして、一目散に戦車型機械人形に迫った。
「抜刀術『朏』!」
私が腐食させた結合部を、ソルが難なく切断する。
「刀術『百花繚乱』!」
無数の斬撃が、切断部から上半身を削っていく。ソルの攻撃で、上半身の半分が削れていき、上半身の動きが止まった。
「上半身は終わった!」
「じゃあ、戦車部分だね」
戦車は未だに動いている。今度は、ソルに向かって主砲を動かしていた。
「プティ!」
主砲がソルに向く前に、プティが主砲にタックルをして、動きを止める。
「熊人形術『ベア・ナックル』!」
赤いオーラを纏ったプティの拳が主砲に叩きつけられる。主砲は、頑丈に作られているせいか、その一撃でも壊れはしない。
「プティ! 殴り続けて!! 熊人形術『ベア・ラッシュ』!!」
プティは赤いオーラを纏ったまま、拳を何度も主砲に叩きつけ続けた。段々と主砲が曲がっていき、戦車部分に穴が空いていく。
「メレ!」
「はい!」
メレが跨がったガーディが、主砲部分まで移動する。そして、メレがメガホンを持ち、穴に向ける。
『わあああああああああああ!!!!』
メレの音の波動が、戦車部分に木霊していき、中を完全に破壊していく。メレの攻撃で、戦車部分も完全破壊する事が出来た。
「ふぅ……終わりました」
「お疲れ、皆。取りあえず、休憩する前に動力を停止させよう」
「そうだね。行こう」
このボスを倒す事が出来た。私達は、一度合流しようとする。すると、動かなくなった上半身が弾けて、中から何かが飛び出してきた。その何かは、私達の前に立ちはだかる。