85.手掛かり捜し!!
改稿しました(2021年12月5日)
移動集落に移動した私達は、早速周辺を調べに向かった。移動集落は、前にあった場所と変わらない場所にあった。まだ、移動はしないみたいだ。
「う~ん、やっぱり、得に何の変哲もない平原だよね?」
周りを見ていたシエルがそう言った。確かに、パッと見た感じだと、シエルの言うとおり、何の変哲も無い平原だ。でも、よく見ると違う点があった。
「ううん、よく見たら、少し荒れてきてるよ」
地面の草がなくなり、土が剥き出しになっている。これが、牛などが食べている結果なら良いんだけど、私達がいる場所は集落から離れている。こんなところまで、放牧しているとは考えにくい。
「自然とこうなっているのか、あるいは……」
「何か、原因があるのか?」
「うん。でも、お姉さんの話だと、集落が移動してきて、一ヶ月でこうなるらしいの。前は、二ヶ月くらいいる事が出来たみたいなんだけど」
「集落が移動してきて、荒れ出すんでしょ? もしかしたら、集落に原因があるんじゃない?」
シエルが、そう言った。集落が移動する先で毎回起こることなら、それもあり得るかもしれない。
「う~ん、確かに、その可能性はあり得るかな。この前のお姉さんに話を聞きに行ってみようか」
「じゃあ、ルナは話を聞きに行って来て。私達は、周辺を捜索してみるよ」
「分かった。行ってくるね」
私達は手分けをして、調べる事にした。私が一人で集落を調べるのは、私が一番集落に馴染んでいる可能性があるからだと思う。正直、お姉さんくらいしか、あまり話していないけどね。
早速、集落に移動して、お姉さんを探す。時間が掛かるかと思ったけど、すぐに見つける事が出来た。
「お姉さん!」
私が呼び掛けると、お姉さんはすぐにこちらを向いた。
「あら、この前の旅人さん」
「こんにちは、お姉さんに訊きたいことがあって来ました」
「訊きたいことですか?」
お姉さんは身に覚えがないからか、首を傾げる。まぁ、実際、お姉さん自身には、あまり関係の無いことだけど。
「この集落についてなんですが、何か機械のようなものはありますか?」
「機械……ですか?」
お姉さんは、顎に手を当てて考え始めた。
「機織り機くらいでしょうか?」
「機織り機? ちょっとだけでも、見せて貰う事は出来ますか?」
「はい。構いませんよ」
お姉さんは、ニコッと笑って案内してくれた。そこは、大きなテントだった。沢山の機織り機が並んでいた。私は、一つ一つ丁寧に見ていく。実際の機織り機を知っている訳では無いけど、古代兵器なら他のものと違うはず。それを探せばいい。
「使っているところを見てみますか?」
「いいんですか?」
「はい。何やら興味があるみたいなので」
興味があるのは、機織りじゃなくて、機械そのものなんだけど、動かして何かあるかもしれないから見てみないと。
「では、動かしますよ」
お姉さんが、ボタンを押すと、機織り機が動き出して、自動で布を織っていく。
「これって、どういう原理で動いているんですか?」
「このボタンから魔力を注入することで、動き出します。その時に注ぐ魔力の量で、動く時間が決まります。織る糸の量を見て、注ぐ魔力を変える必要がありますね。そこを見極めるのには、経験が必要になります」
かなり、便利な機械だけど、使うのは難しそう。それに、魔力で動くっていうのは、魔法がある世界ならではの機械って事かな。でも、これで、少し疑問が生まれた。
「この機械って、皆さんで作ったんですか?」
そう。少し失礼になるけど、この移動集落に、これだけの機械を作る技術力があると思えない。それ相応の設備も必要になりそうだし。
「確か、昔に作られたものらしいですよ。アルカディアがおかしくなったぐらいの事だったと聞いています」
「これを運用し始めてから、おかしくなったんですか?」
「いえ、おかしくなった後だと言われています。そのくらいに、旅人のような人に提供されたらしいです」
これが原因かと思ったけど、どうやら違うみたい。これが原因なら、運用を始めた後に影響が出て来るはずだし。
「何か、設計図みたいなのってあるんですか?」
「あった気がします。こちらにお越しください」
お姉さんの案内で、別のテントにやって来た。そこには、沢山の書物が収納されていた。
「確か……これが、そうだったかと」
お姉さんが取り出したのは、古ぼけた本だった。中身を見てみると、草原言語で書かれていた。メアリーさんとの授業が、早速役に立つ。
「この文字は、この集落で使われているんですか?」
「いえ、使っている人は見たことがないですね」
「じゃあ、これを読める人はいないってことですか?」
「確か、村長だけは読めたはずです」
完全に廃れてしまったわけではなさそう。でも、機織り機の設計図に使われているのに、読めないなんて事があるんだね。別の謎が深まっていく。
「これは……」
書いてある事は、本当に機織り機の設計図だった。細かいパーツから、組み立て方、メンテナンスの仕方まで載っている。ただ、最期のページに何故か地図が挟まっていた。
「この地図って最初から挟まっていましたか?」
「そうですね。私が見た時にも挟まっていました」
紛れ込んだってわけじゃなさそう。そうしたら、この地図が何か秘密を握っているのかもしれない。地図は、この辺りのものみたい。私が持っている地図の中に、ここの地図が含まれていないか確認してみる。
「ないか……」
ここに来るのに、霧の森を抜けないといけないからか、この辺りの地図は持っていなかった。
「あの、ここら辺の地図ってありますか?」
「地図ですか? 少し前のものなら、ここに」
お姉さんが、テントの奥の方から地図を取り出して渡してくれた。その地図と、挟まっていた古い地図を見比べる。
「ここら辺の記載が違う……これは……山があった場所?」
「そうですね。私にもそう見えます」
一緒に覗きこんでいたお姉さんも同意見だった。二つの地図にある明確な差は、山の有無だった。新しい地図の方には、山の部分が緑に覆われている。逆に昔の地図の方には、茶色などで表現されていた。そして、その一部に赤いチェックマークがあった。
「このチェックマークって何ですか?」
「それは、私も分かりません。一度、両親などに訊いたことがありますが、何も無い場所だと言われました」
「何も無い場所……」
私は、このチェックマークが気になってしまった。一度、調べた方が良いかもしれない。
「これって、どの方向にあるかわかりますか?」
「えっと、ここが集落のある場所なので、向こう側ですね」
お姉さんが指を指す。そっちの方向に向かえば、チェックマークの場所に行けるはずだ。私は、もう一度、地図をジッと見る。
「ありがとうございました。もう大丈夫です」
私は地図と設計図を、お姉さんに返す。
「何か、気になる事でもあるんですか?」
さすがに、こんなに調べていたら、お姉さんも気になるだろう。
「少し、この草原を調べないといけなくなりまして」
「アルカディアを?」
「はい。国王様からの依頼で」
「国王様!?」
さすがに、国王様からの依頼って言われたら、驚くよね。
「それは何というか、すごいですね」
「なるべく、皆さんにご迷惑をお掛けしないようにしますから、ご安心ください」
「それは、有り難いです」
取りあえずの用が終わったので、移動集落を出る。お姉さんは、集落の出口まで見送ってくれた。そして、ソル達がいる場所まで移動する。ソル達の場所は、メレが歌っているので、すぐに分かった。
「ただいま」
「おかえり、何か収穫はあった?」
「一応、あったよ」
私がそう言うと、三人とも集まってきた。メレは、モンスター避けのために、歌い続けている。そんな三人に、集落の中で手に入れた情報を伝えた。
「というわけで、そのチェックマークがあった場所に向かうよ。確か……向こう!」
私は、少し迷いながらも一方向を指さす。お姉さんが指してくれた方向で間違いないはず。
「……地図を借りてくればよかったんじゃない?」
シエルから、痛い指摘を受けた。正直、そう思わなかったわけでは無いんだけど、まだ知り合って間もないから、そこまで図々しくはなれなかった。
「まぁ、過ぎたことは仕方なし! 進もう!」
私は、開き直ってそう言った。移動はプティに乗ってすることになった。王都に行くときや、霧の森を抜けるときにもしたように速さ重視の移動とおうことだ。
「このまま真っ直ぐ?」
「そう。今ある唯一の手掛かりだからね。気を引き締めよう」
私達は、集落にあった古い地図にあるチェックマークが印された場所に向かっていった。