82.移動集落!!
改稿しました(2021年12月3日)
私達が見つけた集落は、モンゴルで使われているゲルのようなものが、多数建てられている。その中央には、噴水こそないものの、ポータルの靄が存在した。
「ここが次の街で間違いないと思う?」
「街というよりも集落だけどね。でも、ポータルがあるって事は、そうなんだと思うよ」
「私もそうだと思う。こんな広い草原なんだから、大きい街があるなら、見えるはずだと思うし」
ソルとシエルは、この集落が次の街だと言う。メレも頷いて同意している。
「じゃあ、取りあえず中に入ってみようか。ソルは、体力回復した?」
「うん。大丈夫だよ」
ソルも奥義の代償から解放されたみたい。メレの方は、まだ喉が元に戻らない。余程の大声で叫んだんだろう。やっぱり専用の武器とかを手に入れた方が良いのかもしれない。念のため、私も探しておこう。
私達は、プティを元に戻してから、集落の中に入る。すると、入った瞬間に、お姉さんに話しかけられた。
「あら、もしかして、旅人の方?」
「はい、そうです」
実際には、旅人かどうか怪しいけど、色々な場所を巡っているし、旅人を名乗っても良いんじゃないかな。冒険者って旅人みたいなものだと思うし。
「そうですか。珍しいですね。こんな、何もない集落だけど、ゆっくりしていってください」
「はい。ありがとうございます」
お姉さんは、ニコニコと笑いながら、別の場所に向かった。なんか、籠のようなものを持っていたし、どこかに行く途中だったんだろうね。
「意外と歓迎されているみたいだね」
「そんな閉鎖的な集落じゃない感じかな」
「あまり、信頼を損なう事はしないようにしよう」
私達は、あまり他のテントに入らないようにして、中央のポータルに向かう。
『移動集落に着きました。都市間ポータルを起動します。飛びたい都市を思い浮かべながらポータルに入ってください』
特に名前のある集落じゃないみたい。
「よし、後はどうする?」
「解散にしよ。さすがに、皆、疲れているし」
シエルの一言で、今日は解散になった。確かに、皆、全力で戦ったから、かなり疲れている。私も、魔力が回復しきっていないから、頭が重たい気がする。でも、この集落が気になるので、私は一人残って、集落を調べる事にした。
「こんにちは」
「こんにちは」
集落にいる人達は、すれ違う度に挨拶を交わしてくれる。すごく民度がいい。今までの街では、あまりなかった事だ。小さい集落ならではということもあるのかな。
「でも、お店もないみたいだし、あまり出来る事はないのかな?」
ここにあるのは住人の方々のテントだけで、武器屋みたいな場所はないみたい。遊牧民だから、鍛冶をする事もないのかもしれない。鍛冶台を一から設置するのも大変だと思うし。
「あら、さっきの旅人さん。何かお探しものでも?」
うろうろと見て回っていたら、入口であったお姉さんにまた出会った。今度は、籠を持っていないので、用事を終えた後みたいだ
「いえ、何かあるかなっと思って、色々とみてまわっているだけです」
得に何も探していないので、正直に答える。
「そうですか。何もない集落ですからね。よろしければ、動物たちをご覧になりませんか?」
「動物ですか?」
「はい。牛や羊、馬なんかがいますよ」
「じゃあ、お願いします」
少し興味が惹かれたので、お願いしてみる事にした。
「では、付いてきてください」
お姉さんに付いていくと、沢山の牛、羊、馬がいる場所に着いた。それだけでなく、鶏や象なんかもいる。
「……どうして象も一緒に飼っているんですか?」
「モンスターと戦うためですね」
まさかの戦象だった。確かに、巨大な象がいれば、かなり心強いよね。私みたいに、強力な遠距離攻撃手段を持っていれば倒せるかもだけど、接近戦を主体とする人とかだったら、かなり苦戦するんじゃないかな。
「近づくと危険ですので、無闇に近寄らないようにしてください」
「は、はい」
「じゃあ、馬に乗ってみますか?」
お姉さんに、魅力的な提案をされた。乗馬には、少しだけ興味があったからだ。
「良いんですか?」
「ええ、どうぞ」
私は、お姉さんに連れられて、馬の元まで向かう。現実じゃ、傍で見た事はなかったけど、こうして見てみると思っていたよりもすごく大きい。
「こちらの踏み台を使い、鐙に足を掛けて、跨がってください」
「は、はい」
少し苦戦しながらも、馬に跨がる。身体を安定させるために手綱を握るけど、いきなり走り出す事はなかった。お姉さんが馬を誘導してくれて、馬が歩き出す。
「すごい……プティと全然違う」
プティも上に乗ることが出来るけど、馬はまた別の感じだった。鞍があって安定するからなのか、単に動物が違うからなのか分からないけど、見える景色とかが全然違う。
「背筋を伸ばしていてください」
「は、はい!」
鞍があって、据わる場所が安定しているとはいえ、意外とバランスが取りにくい。歩いているときは大丈夫だけど、この状態で走られたら、絶対に落ちてしまうと思う。
「じゃあ、このまま集落を一周して、色々説明してあげますね」
「あ、ありがとうございます」
お姉さんは、馬に乗った私を誘導しながら、集落の説明をしっかりとしてくれた。さっきまで、私が見ていた場所は、居住区画だったみたい。どうにで、住人の方々のテントが多いと思った。この集落は、区画分けをしっかりとしていたみたい。
「ここから先は、様々な作業のための区画です。服飾系の作業が主ですね」
「なるほど、羊の毛からですね」
「それと、牛の皮などを鞣したりもしています。服の強化などをしている人もいますよ」
「服の強化ですか……」
私の夜烏や黒羽織は、アーニャさんが強化してくれているけど、本職の人に頼んだら、変わってくるのかな。でも、装備のことを分かっているアーニャさんに頼むのが一番だよね。
「服飾をしているなら、人形の制作とかはしていないんですか?」
「一応作ってはいますが、こういう集落ですので、売る相手がいないんです。なので、今はあまり作っていませんね」
「じゃあ、オーダーしたら、作って貰える感じですか?」
「そうですね。今なら、そのような感じです」
この事は、シエルに教えてあげた方が良いかも。シエルが使うような人形を作っているか分からないけど、仮に作っているとしたら、シエルの戦力が上がるはず。
「昔は鍛冶などもしていたようですが、今では、移動することが多くなってしまって、廃れてしまいました」
「昔は、一箇所に留まることが多かったんですね」
「そうですね。ある程度、動物たちが食事をしたら移動ということをしていますが、最近は、草原そのものが消えていっているんです」
「消える?」
少し気になる話が出て来始めた。
「はい。昔は、二ヶ月程いても問題ないくらいに生い茂っている場所が多かったのですが、今は、一ヶ月でもいると荒廃した平原になり始めるんです。それに山などもあったみたいなのですが、今ではその面影すらもないんです」
気になるどころか、違和感が満載の話だった。
(平原が消えるのはともかく、山が消えるなんて事あるのかな? どう考えても、自然現象の域を超えていると思うけど……)
お姉さんの眼を見てみるけど、嘘を言っているような感じはしない。
「そういえば、この平原って、なんて名前なんですか?」
名前を聞いたら、謎の一端でも分かるんじゃないかと思ってお姉さんに訊いてみた。
「ここですか? アルカディアですけど」
訊いたは良いけど、その名前に聞き覚えはない。
(夜に、メアリーさんに訊いてみようかな)
今日も今日とで、メアリーさんと古代言語の勉強会がある。その時なら、メアリーさんに訊けるはずだし。
「これで集落一周しました。いかがでしたか?」
「長閑で良いところだと思います。場所だけでなくて、集落の雰囲気も」
「そうですね。小さな集落ですので、皆が家族みたいなものです」
集落全体が家族みたいなものか。だから、雰囲気が長閑な感じなんだ。
「今日は、いきなり来たのに、案内までして頂いてありがとうございました」
「いえ、集落を気に入って頂けたら嬉しいです」
「はい。とても良いところなので、気に入りました。また、来ますね」
私はそう言ってお姉さんと別れ、王都に戻った。王都の噴水広場でログアウトして、夜ご飯を食べた後、メアリーさんの元に向かうために再びログインした。