80.霧の中の攻防!!
改稿しました(2022年1月21日)
聞き耳で感じ取った音の主が、すぐそこまで来た。霧の中から現れたのは、手に石の斧を持ち、黒い身体をしたゴブリンみたいなモンスターだった。名前をゴブリン・ネロって言うみたい。現れたゴブリン・ネロの数は、かなり多い。
「メレは、そのまま歌い続けて! 今、別のモンスターが来るとややこしくなる!」
私がそう言うと、ガーディに乗ったメレは、こくりと頷いて歌い続けた。
「プティ! 行って! 熊人形術『ベア・タックル』!」
シエルがそう命令すると、プティがゴブリン・ネロの群れに向かって突っ込んだ。プティのタックルをくらったゴブリン・ネロ達は、身体が砕け散っていった。前よりもプティの強さが、遙かに上がっている。この前言っていた強化
「銃技『複数射撃』!」
私もホローポイント弾を頭に向かって撃ち、数を減らしていく。ソルは、スキルを一切使わずに、次々に首を刎ねていっていた。ゴブリン・ネロの数は、瞬く間に減っていった。しかし、ある程度減った段階で、二軍到着とばかりに、数が増えていった。
「どんなだけいるの!?」
「ぼやいても仕方ないよ! シエルは、メレの傍に行って!」
シエルとメレとガーディが同じ場所に固まる。私は、その周りを離れないように動く。前に戦ったコープス・モンキーよりも遙かに多い。
「ソル! そっちは大丈夫!?」
「大丈夫! ルナちゃんは、二人を守ることに集中して!」
ソルの申し出はありがたい。ソルの援護まで手が割けないからだ。私は、黒闇天と吉祥天を持って、ゴブリン・ネロの大群と対峙する。
「ガーディ! ルナを援護して!」
私の横にガーディが来る。
「ガーディは、なるべく二人から離れないで」
通じるか分からないけど、ガーディにそう言っておいた。すると、こちらに顔を向けて、こくりと頷いた。どうやら、通じたみたいだ。
「じゃあ、行くよ!」
まずは、遠距離からの攻撃に専念する。近づけさせないで、全滅させることが出来れば、それにこしたことは無い。
「銃術『複数射撃』!!」
爆破弾と麻酔弾を用いて、ゴブリン・ネロを倒していく。爆破弾の方は、余波も含めて、多数のゴブリン・ネロを倒す事が出来た。麻酔弾は、致死量以上の濃度にした弾のため、眠りにつきながら死んでいく。
「メレ! 沈静から増強!」
私が簡潔にそう言うと、メレは頷いて、歌を変えた。私達の身体に力が沸いてくる。
「敵を倒しながら、少しずつ進んでいこう!」
「分かった!」
ソルとプティが、進行方向のゴブリン・ネロを倒していく。私達は、ソル達が開けてくれている道を進んでいく。私は、周囲に群がってくるゴブリン・ネロを撃ち殺していく。それでも、本当に少しずつしか進むことが出来なかった。
そして、結局、私達は、ゴブリン・ネロに囲まれてしまった。
「囲まれた!」
「こいつらの数がすごい増えてる。際限なく湧いてくるの……?」
シエルは、さっきよりも増えているゴブリン・ネロの大群に汗を垂らしている。
「どうにかして、抜け出すしか無いね。メレ、シエル、プティに乗って」
「分かった!」
シエルは返事をして、メレは歌いながら頷いた。プティが空いた穴は、私が埋める。黒闇天で氷結弾を撃ち、何体ものゴブリン・ネロを障害物に変える。稼げる時間は短いけど、その間にソルが整えてくれる。
「私が、周りの敵を吹き飛ばすから、ソルは正面の敵を一掃して! プティは、ソルを回収して、すぐに走り出して!」
「了解!」
「分かった!」
ソルとシエルが返事をして、プティも頷いた。
「銃技『複数射撃』 リロード術『クイック・リロード』」
爆破弾を進行方向右側に撃つ。そして、すぐにリロードをする。
「銃技『複数射撃』 リロード術『クイック・リロード』」
今度は、左側。
「銃技『複数射撃』!!」
最後に、後ろを吹き飛ばした。
「ソル!」
「分かった!」
ソルは、前線から後退して、刀を鞘に納める。
「抜刀術『皓月千里』!」
ソルの奥義が、正面にいたゴブリン・ネロを軒並み真っ二つに斬り裂いた。
「シエル!」
「プティ! 行って!!」
シエルの掛け声で、プティが走り出す。私の立ち位置だと、姿は見えないけど、多分ソルも回収していると思う。
「ルナ!」
シエルの声が響いてきた。私だけ、プティに乗れていないからだ。
「すぐ行く!!」
私は、新しく手に入れた爆発物精製で、爆弾を精製する。爆発物精製は、銃弾精製と違い、自分でどのようなものを作るのか細かく決めることが出来る。現在いじれるパラメーターは、『威力』『爆風』『規模』『時間』の四つだけ。もしかしたら、スキルレベルで増えるかもしれないけど。
「調整をしっかりして……」
私は、ハープーンガンを取りだして前方に撃つ。視界が利かない中でのハープーンガンはかなりの賭けになったけど、うまく遠くに刺さった。その巻き戻しに合わせて、威力を最小限にして、爆風を最大、規模を中規模、時間を即時にした爆発を起こす。背中を爆風に押されつつ、ハープーンガンに引っ張られた私は、異常なスピードで飛んでいった。
「痛っ……」
何度か使っているけど、この爆発物精製は、魔力の消費が激しすぎる。そのせいか、脱力感だけで無く、軽い頭痛までする。そのため多用することが出来ない。そして、ついでに背後で起きた爆発のせいで、背中も軽く痛い。
「皆はどこに……?」
ハープーンガンのハープーンを外して、引き戻す。もう既に、ハープーンが刺さった場所よりも前にいる。それでも前の飛び続けている。
視界が利かないので、皆の姿が見えない。でも、皆が向かった方向に飛んでるから、合流出来るはずなんだけど。
「……」
風切り音がする中、皆のというよりも、プティの足音を探す。
「聞こえた……そこか……!!」
私は、足音が聞こえた方よりも前にハープーンを飛ばす。そして、引き戻す。地面に近づいていくと、プティの姿が見えた。
「ルナちゃん!」
私をいち早く見つけたソルが、手を伸ばしてくれる。その手を掴むと、シエル、メレがソルの身体を掴んで、一斉に引っ張ってくれる。ソルは奥義の代償で、身体に力が入らないから、二人も手伝ってくれたんだと思う。
「ありがとう。助かった」
「ううん。それにしても、どうして、空から降ってくるの?」
ソルは、私が空から来た事に驚いていた。他の二人も同じみたい。ちなみに、メレは増強の歌から、素早さを上げる軽快の歌を歌っていた。これで、プティの速さが上がっているみたい。
「また、すごい無茶したんでしょ?」
「そんな事無いよ。ちょっと、爆発に乗ってきただけだし」
「それは、普通、無茶っていうと思うけど……」
シエルは、少し呆れながらそう言った。まぁ、言われても仕方ない事だとは思うけどね。
「これで、逃げ切れたって事で良いと思う?」
背後を見ても、何も追ってきていない。音でも同じように追ってきているような感じはない。
「今のところはって感じかな」
「取りあえず、このまま走っていくんで良いんだよね?」
シエルがそう訊いてきた。
「うん。それでいいと思う。敵が来なければだけど……」
私がそう言った直後、後ろから何重もの足音がしてきた。私達は、自然と全員で後ろを見た。すると、霧の中から、ブラックウルフに乗ったゴブリン・ネロが現れた。私は反射的に黒闇天を抜いて、ブラックウルフの頭を撃ち抜く。乗っていたブラックウルフが、地面に転がった結果、ゴブリン・ネロも地面に転がる。
「まずい! 追ってきた! スピード上げて!」
「これが、今の全速力だよ!」
足音は一つじゃない。このままだと追いつかれる。
「今更、沈静の歌なんて効果無いよね……」
「多分ね。私は、もう戦えないよ。どうする?」
「どこか休める場所を探さないと……取りあえず、ここを乗り切ろう!」
私は、現れるブラックウルフの頭を撃っていく。
(いっそのこと、後ろを全て吹き飛ばせれば……)
私は、少し危険な事を考える。
「……ちょっと、試してみたいことがあるんだ」
私は、皆にある提案をする。かなり、博打になる方法だけど、やらないよりマシだと思うから。
「後ろ一帯を吹っ飛ばす。私が気絶したら、支えて」
「分かった」
ソルがすぐにそう返事をした。私はソルを信じて目を閉じ、集中する。爆発物精製を使用して、時間以外の全てのパラメーターを最大限に設定する。
「爆破弾も、これで終わりだよ! 銃技『一斉射撃』!!」
残った爆破弾を撃って、迫ってきていた何体か吹き飛ばす。その一瞬空いた隙に、爆発物を生成する。爆破までの時間は……三秒。
「全速力!!」
「プティ! 頑張って!」
プティの奮起で、ほんの少し速さが上がったような気もする。その三秒後、私達の後ろで、大爆発が起きた。今までの爆破弾などがおもちゃに思える程の爆発だった。その爆風が私達を襲う。皆が身体を伏せて耐えている間に、私の意識は無くなった……