229.島の主!?
さらに一時間程掛けて見つけた島に近づく。その頃には、もう目の前が陸だけになっていた。
「さてと、それじゃあ、いつも通りに探索しよう」
私達は、小舟に乗って無人島に上陸する。砂浜に小舟を置く。
「目的地は、やっぱりあの樹?」
ミザリーの確認に私は頷く。
「うん。あの大きさだから、何かがあると思うんだよね」
「確かに。あれって、どのくらいの太さなんだろう?」
ソルは、視線の先にある大樹を見てそう言った。
「多分、王城の敷地よりも太いかな?」
見た感じでそう思ったけど、自信がないから疑問形になってしまった。
「まぁ、取りあえず近づこう。そうしたら、太さとかも分かってくるだろうし」
「そうだね。大きすぎて、ちゃんと認識出来ているか分からないしね」
雲よりも高く、あり得ない程太い大樹に向かって、私達は歩いていく。大きすぎて、本当に近づいているのか分からなくなりなってくる。
そんなこんなで、ようやく根元が見えてきた。同時に、私達の頭上に大樹の枝が掛かってきた。
「根っこは、まだまだ先なのに、枝はここまで伸びてるって、改めてこの大樹の大きさを実感させられるなぁ」
上を見上げながらそう言うと、皆が驚いたように私を見た。
「どうしたの?」
そう言いながら横を見た時に、何で驚いているのか私も分かった。視界の端にある自分の髪が虹色に光っていたからだ。
「鬼の力?」
暴走はしなくなったけど、まだ発動出来なかった鬼の力が、勝手に発動している。でも、頭痛はない。あの時のお酒が効いている証拠なんだと思う。
「ルナちゃん、大丈夫?」
ソルが心配そうに訊く。鬼の力を発動しているという事は、また頭痛などが起きているのではと思ったからだろう。
「大丈夫。頭痛は無いよ」
ソルが安堵したのと同時に、ネロの髪と尻尾が今までにないくらい逆立った。
「上にゃ!」
私達が上を向いたのと同時に、枝から太く長い何かが落ちてくる。ズドンという地面が揺れる程の衝撃を起こして落ちてきた何かは、長い身体をうねらせて、鎌首をもたげさせていた。
私達の正面に落ちてきたのは、巨大な蛇だ。その大きさはタイラント・ワーム以上だ。身体の長さは百メートル程あるだろう。さらに、その太さは、五メートル以上はある。間違いなく、今までのモンスターの中で一番の大きさだ。
名前はウロボロスというらしい。
ウロボロスは、まっすぐ私を見ると、口を大きく開けて威嚇をしてから、思いっきり突っ込んできた。
「『阻み拒む光の障壁』!」
咄嗟にミザリーが障壁を張る。ウロボロスの体当たりによって、一撃で破壊されたが、ウロボロスを弾く事は出来た。
同時に、後ろからメレの歌声が聞こえてくる。そして、ソルは鳴神を纏い、ネロは白虎になり、シエルはムートを着る。さらに、シエルはプティ、ガーディ、メリーを起こして
メレとミザリーの傍に置いた。二人の護衛という事だ。
全員が、私が指示を出す前に自分達で判断してくれた。いや、ウロボロスが放つ威圧感が、即座にその行動を取らせたという方が正しいだろう。
私も天照を取り出して、もう片方の手で黒闇天を引き抜く。
「『夜烏』!」
相手の強さがどのくらいか分からないので、何を下げるか分からないが、先手でこれを撃っておくのとおかないのでは、かなりの差があるはずだ。夜烏は、ウロボロスに命中する。
その着弾と同時に、ソル、ネロ、シエルが動き出した。
最初から全力のソルは、雷になってウロボロスに接近する。
「『鳴神・雷霆万鈞』!」
さらに加速したソルは、一気にウロボロスの背後まで駆け抜けた。私の動体視力では、それだけしか見る事が出来なかった。だが、実際には駆け抜ける際に鳴神による怒濤の斬撃がウロボロスを襲っていた。その斬撃には、全部雷の追加攻撃があるので、これまでの人生で一度も聞いたことがないような轟音が響き渡った。ウロボロスは、少しだけ後退したが、傷自体は小さなものを受けただけだった。それが大きさのせいでそう見えているのかどうかは分からない。でも、ウロボロスにとって大したダメージでは無いのは間違いない。
そんなダメージを受けたウロボロスは、後ろに抜けたソルに目もくれず、私を見ると、また突っ込んできた。
「銃技『一斉射撃』!」
天照に装填された計七発の爆破弾による一斉射撃。普段であれば、肩が千切れるところだが、鬼の力を使っている今なら耐えられると信じて使った。私の考え通り、多少の痛みはあるけど、それだけで撃ち出す事が出来た。
全弾着弾した事によって、ウロボロスは、さらに後退する。でも、それだけだ。タイラント・ワームを吹き飛ばした天照の攻撃も、ウロボロスにとってはダメージとして受けているかも分からない。とにかく異常に頑丈だ。
だが、この攻防で気付いた事がある。それは、ウロボロスの速度が若干下がっている事だ。恐らく夜烏の効果だ。つまり、ウロボロスの最大の武器は、その素早さにあったという事だろう。攻撃力も耐久力も馬鹿みたいに高いけど、素早さが一番厄介になったと思うので、ここは助かったと考えるべきだろう。
後退させたウロボロスに、空を飛んでいるシエルが迫る。
「『ボルケーノ・スピア』!」
溶岩のような槍が、ウロボロスに命中する。相手が生物である以上、この攻撃はかなり痛いはずだ。そう思っていたけど、シエルの槍は、ウロボロスを貫通する事も出来ず消えた。ウロボロスに付いたのは、小さな火傷くらいだ。
そこに駆けてきたネロが飛びかかる。
「『白虎激爪』!」
両手から伸びる真っ白な爪の大きさが倍になり、激しく明滅する。それだけエネルギーが集まっているという事だろう。振われたネロの爪は、ウロボロスに命中すると、またウロボロスを後退させた。だが、それでも傷は小さい。
そこに、またシエルが攻撃を加える。
「『煉獄』!」
シエルは、両手のひらの付け根を合わせて前に突き出した。そこから、これまで出した事がないくらいに激しい炎が撃ち出される。その炎は、ウロボロスの身体を覆って激しく燃え上がった。
そんな炎の中にいるウロボロスは、全く気にした様子もなく、私を見ていた。ウロボロスに敵視されているのは、完全に私だけだ。恐らく鬼の力に関係するのだと思う。ここは考えても仕方ない。
「銃技『一斉射撃』!」
次に撃ち出した弾は、衝撃弾だ。体内に浸透するこの弾なら、ある程度ダメージになると思ったが、その考えすら甘かった。命中したと同時にウロボロスの身体がくの字に曲がったけど、それだけで、ダメージがあるようには見えない。それがやせ我慢なのか実際の耐久力なのかは分からないけど、相手の行動を止めるに到らなかったというのは事実だ。
ウロボロスは、尻尾を持ち上げると私に向かって突き出した。私は、即座に回避する。すると、いつもより大きく動く事が出来た。鬼の力で上がった身体能力のおかげで、ウロボロスの尻尾による突きを避ける事が出来た。
だが、その直後にウロボロスが、謎の液体を口から吐き出した。それは、私の着地の瞬間を狙ったもので、回避が間に合わない。爆弾で緊急回避をしようかと思ったの同時に、私の耳にミザリーの声が聞こえてくる。
「『断絶せし光』!」
私を覆う形で張られた半円の透明な膜がウロボロスの攻撃を防いでくれた。私は、即座にその場から飛び退く。私がいた場所の周囲が、音を立てて煙が上がっていた。恐らく溶解液の類いだろう。
「ありがとう! 助かった!」
「間に合って良かった!」
鬼の力のおかげで、ある程度の回避は出来るけど、相手も馬鹿ではなかった。耐久力だけでも厄介だというのに、頭も切れるのは勘弁して欲しい。
「『鳴神・一突』!」
溶解液を吐いたウロボロスの頭上から雷速で降ってきたソルが、鳴神を突き出す。ウロボロスは、それを避ける事もせずに頭で受け止める。攻撃自体は効かないようだけど、衝撃は受けるので、頭が地面に叩きつけられる。
その状態であれば、次の行動まで間が出来ると判断した私は、月読を取り出す。
「ルナさん!?」
「相手の狙いは、私みたいだから、ここを離れる! メレを巻き込めないから!」
現在、メレはプティ、ガーディ、メリーに守られている。三体のおかげで、戦闘で生じる余波の影響も最小限になっているが、このまま私が近くにいたら、流れ弾に当たる可能性も出て来る。パーティーの屋台骨であるメレを失うのは避けたいところだ。だから、ミザリーも一緒に残して、最大の防御態勢でいて貰う。
そして相手の標的である私が離れれば、さらに安全という事だ。月読を走らせると、すぐにウロボロスが反応した。頭では無く尻尾を操って、月読に乗る私に向かって突き出してくる。
ウロボロスの攻撃が体当たりか尻尾だろうと読んでいた私は、自分の背後に爆弾を投げている。爆弾の爆発によって、ウロボロスの尻尾は、軌道がズレて、見当違いの地面を抉った。自動運転に切り替えて、身体を反転させる。そして、天照を構えて、ウロボロスの鼻先を狙って爆破弾を撃つ。命中した事によって、爆煙が生じ、ウロボロスの視界が埋まる。仮にピット器官による探知が可能でも、たった今目の前で生じた爆発の熱で、反応出来ないだろう。
その間に、さらにウロボロスから離れる。さらに、ソル、シエル、ネロによる追撃が、ウロボロスを襲う。大した傷にはならないが、内部へのダメージなどは残るはずだ。この耐久力相手では、私達は持久戦で挑むしか無い。
ソルとネロの速さと攻撃力を備えた怒濤の攻めは、細かな傷を増やしているように思える。シエルの攻撃も相手に火傷を負わせているところから、攻撃自体は通っていると判断出来るだろう。見込みが無いわけじゃない。
その攻撃を煩わしく思ったのか、唐突にウロボロスが上に向かって身体を伸ばしていった。
一瞬、退却かという希望が顔を覗かせたけど、それはすぐに絶望へと変貌した。ウロボロスは、大樹の枝を伝って、私を追ってきたからだ。




