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ユートピア・ワールド~幻想的な世界で、私は、私の理想を貫く!~  作者: 月輪林檎
第7章 アヴァロン

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228.海の危険!!

 メレを起こしてから、一緒に甲板に出ていく。


「あ、ルナちゃん。大丈夫?」

「大丈夫。任せちゃってごめん」

「気にしないでって。ルナちゃんが、幽霊が苦手のなのは知ってるもん。それよりもルナちゃんに考えて欲しい事があるんだけど」

「何?」

「あれ」


 ソルはそう言って、真横を指す。そっちを向くと、そこには大きな嵐があった。大雨が降っているのが分かるし、海が荒れ出しているのが分かる。


「あれって、あそこから動かないとかない?」

「私もそう思ったんだけど、普通に近づいて来てる。それに、船も向こうに流されてるんだ。舵でどうにか時間を稼いでいる感じ」

「確かに、風も向こうに流れてる。じゃあ、嵐に突入する事は避けられないか。取れる手段は?」

「帆を畳んで、揺られるままに流されるくらいかな。さっきみたいに、抜けるのも無理だろうし」

「さっき?」


 何の事か分からないので、首を傾げていると、


「さっき、ムートが起こした風で急加速したの。でも、この風だと、ムートでも無理そうって事」


 ちょうど近くに来ていたシエルが答えてくれた。幽霊船から逃れるためにムートが起こす風を利用したみたいだけど、嵐によって生じている吸い寄せられる強い風から逃れるような風は無理みたいだ。


「なるほどね。それじゃあ、ソルの言う通りされるがまま流されよう。船が沈没しない事を祈らないとだけど」

「うん。分かった」

「一応、皆も船長室にいてくれる? 離れ離れになることは避けたいから」

「了解。それじゃあ、帆を完全に畳むね」

「お願い。ネロ! ミザリー! 船長室に来て!」


 少し遠くにいる二人に呼び掛ける。そうして、全員で船長室に閉じ籠もった。そうして、五分後、船が大きく揺れ始め、外から壁に叩きつけられる雨の音が聞こえてくる。


「激しい雨だとは思っていたけど、まさかここまでとはね。本当に船大丈夫かな?」

「大分頑丈に作ってくれたと思うけど、自然が相手だと何とも言えないよ」

「まぁ、それもそうか。取りあえず、この嵐が終わるまではログアウト出来ないし。早く嵐が去るのを祈ってるしかないか」


 そう言いながら、ベッドに横たわると、私の前にネロがやって来て丸まった。何故かこっちに完全にくっついているので、頭を撫でながら抱きしめる。人間湯たんぽだ。

 ただ、いつも私にくっついてくるネロだけど、今日は何だか様子が違う。


「ネロ、どうかした?」

「何だか、不安にゃ……?」

「不安?」


 それを聞いて、何故ネロが不安に思っているのかを考える。自分達の力でどうにもならないような事なら、ジパングの噴火や砂漠の暑さなど普通にあった。なら、それ以上の何かがある。それは、恐らく自分達でそれを逃れられないという事だ。噴火は自分達で逃げられたし、暑さは服などで解決した。

 でも、現状はどうしようもない。自分達で逃げる事も対策する事も出来ない。状況に流されるがままになるのは、今回が初めてなのかもしれない。

 ネロは、それを不安に思っているのだ。


「何か落ち着けられるものがあれば良いんだけど……気を逸らせるものか……」

「でしたら、私が歌いましょうか?」


 何か無いか考えていると、メレがそんな提案をしてきた。


「歌か。良いかも。ほら、ネロ、アイドルのライブが始まるよ」


 ネロと一緒に身体を起こして、壁に背中を預ける。ネロはそのまま私に身体を預けた。そして、私の左右にソルとシエルが座り、シエルの隣にミザリーが座る。


「ところで、こんな揺れている環境でも出来るの?」

「はい。アイドルですから」


 この状況下で歌えるかどうかに関して、アイドルは絶対に関係ないと思う。そんなこんなで、メレのライブが始まった。ネロも知っている舞歌の代表曲から休止前の最新曲まで、ほぼほぼノンストップで歌い続けていた。マイク無しでも圧巻の歌声とパフォーマンスに、ネロの不安も吹っ飛んでいるようだった。

 私も目の前でパフォーマンスもされると思わなかったので、少し夢中になってしまった。ただ、このメレのライブを誰よりも楽しんだのは、私でもネロでもなく、ミザリーだった。何故かコールも完璧で手を振っていた。恐らく、本来であればサイリウムを握っているところだろう。

 前にソルの剣道大会に行った時に大体予想は出来ていたけど、ミザリーは、舞歌の熱狂的なファンのようだ。あの時は、本当に頑張って我慢していたのだろう。

 一時間程メレのライブ楽しんだ後は、それぞれで知っている曲を歌うことになった。アカペラカラオケ大会だ。ネロも色々と音楽は聴いているようで、皆で楽しく歌って騒いだ。

 結果、外の状況を完全に忘れていた。


────────────────────────


 三時間程歌い続けただろうか。いつの間にか外の騒がしさが全く無いことに気付いた。


「ん? 嵐を抜けたかな?」

「本当だ。もう夕方か。船の状態と現在位置と嵐が本当に去ったかの確認を済ませて、停泊できそうなら、ここでログアウトしよう」


 私の指示に皆が頷く。私とメレは現在地の確認。ソルとシエルは船の確認。ミザリーとネロは嵐の確認に向かった。


「ルナさん……」

「う~ん……これは困った」


 私とメレは、海図を見ながら困っていた。それは、海図が真っ青になっていたからだ。自分達を示す光点はあるが、どれだけ地図を引き延ばしても真っ青なままだ。つまり、自分達がどこにいるのか、全く分からない。


「壊れてしまったのでしょうか?」

「う~ん……地図の引き延ばし自体は出来ているから、それはないと思うけど。それよりも考えられる事は、海図の外側に出てしまったって事かな」

「だから、近くに陸があったとしても、海図には現れないという事ですか?」

「うん。もしかしたら、あの嵐が一つの壁みたいになっていて、その向こう側であるこっちは未開拓地域だったって事はあり得ないかな?」


 私がそう言うと、メレは少し考え込む。


「そう……ですね。あの辺りが嵐の発生しやすい緯度だと考えれば、それより南に進出出来なかったとは、考えられると思います。現実でも太平洋の北西部辺りは、台風が出来やすいと言いますから」

「そうだっけ? まぁ、そこはいいや。問題は、ここから海図が一切役に立たないって事。何か案とかある?」

「自分達で作るくらいしかないですが、海図に関しては、私達には無理でしょう。ですので、基本手探りで進んでいくだけになります。見張り台に常に誰かを置き、陸を見つけるのが良いかと」

「なるほどね。目が良い私とネロが交代で探す事にしよう。他の皆はどんな感じかな」


 私がそう言うのと同時に、ミザリーとネロが帰ってきた。


「ただいま。嵐だけど、私達から離れた場所に、まだあったよ」

「でも、近づいてないにゃ」


 つまり、嵐を抜けてからは離れる一方になっているという事だ。潮の流れか何かによってだろう。


「取りあえず、また嵐に巻き込まれる心配はなさそうか。ただ、もう少し離れておきたいところかな」

「そうですね」


 私達も船長室から出て甲板に出て行く。すると、ちょうどソル達も甲板に上がってきたところだった。


「異常なし」


 シエルから簡潔に報告を受ける。本当に頑丈に作ってくれたらしく、嵐の中にいたけど、致命的な破損はないらしい。私が見た感じ、若干の傷はあるけど、それで壊れるという事はないだろう。


「取りあえず、嵐から離れよう。ソル、お願い」

「うん」


 帆を張ると船を持っていかれる可能性もあるので、取りあえず魔力のエンジンだけで進んで行く。程なく、嵐も見えなくなっていった。その間、私とネロで周囲を見ていたけど、陸地は見当たらなかった。


「この辺りなら、大丈夫だと思うよ」

「オッケー。ちょっと遅くなっちゃったけど、ここに停泊させてログアウトしよう」


 ここで今日はログアウトする。正直、近くに陸地がないのは少し心配だけど、今回は仕方ない。


────────────────────────


 翌日。私は、少し早めにログインした。海のど真ん中に船を置いていたので、どうなっているか心配だったからだ。すると、先にソルがログインしていた。


「ソルが早くログインするなんて珍しい」

「ちょっと船が心配だったからね。特に問題はなかったよ」

「そう。良かった」


 そんな話をしていると、私達の間を風が通り抜ける。


「うっ……寒っ……そろそろ普通に服を着るか」

「……仕方ないか」


 ソルは少し悲しい顔をしながら、納得した。そんなに水着姿を見ていたかったのか。私は着替えるために船長室に入ると、何故かソルも一緒に入ってきた。


「自分の部屋で着替えれば良いのに」

「良いじゃん。こっちの方が近いんだもん」


 若干呆れたけど、いつものソルなので放っておく事にした。二人で着替えていると、今度はネロが飛び込んできた。


「にゃ。水着は終わりにゃ?」

「うん。ちょっと肌寒くなったからね。ネロも着替えな」

「にゃ」


 ネロは扉を閉めて、船長室で着替え始める。その後、皆もログインしてきて、全員船長室で着替えていった。もはや更衣室だ。


「全く面倒くさがりが多い事で」

「その筆頭が何言ってんだが」


 シエルにツッコまれる。取りあえず無視しておいた。


「まぁ、どうでも良いことは置いておいて。取りあえず、ここからまっすぐ進んでいこう。最初は、私が上で見張るから、一時間後に交代ね」

「分かったにゃ」


 交代で見張る事で、集中力と注意力が途切れないようにする。他の皆は、敵が来た時に備えておく。そうして一時間進んで、ネロと交代する直前、私の視線に影が映った。


「!」


 見えた方向を星見の筒で見て、しっかりと確認する。そこには、確かに陸があった。


「ソル! 進行方向左!」

「うん!」


 船が傾き左方向を向く。このまままっすぐ進んで行けば、陸地に着く。それも今までの無人島のような小さい所ではない。とても大きな島だ。


「これは、一日探索しても終わらなさそう」

「にゃ?」


 いつの間にか上ってきていたネロが、私の独り言を聞いていた。ネロに星見の筒を渡して、私が見ていたものを見てもらう。


「確かに、すぐに終わりそうな島じゃないにゃ」

「でしょ? でも、真っ先に調べるものは決まった」

「にゃ」


 私達の視線の先には、島の全貌よりも目立つものがあった。それは、天高く聳え立つ大きな大きな樹だった。何かあるのだとしたら、ほぼ確実にそこだろう。

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