225.黒江との通話!!
翌日。大会が近いため、日向が今日の部活を休めないという事で、今日は休みになった。ポータルも見つけていないので、船を操れる日向がいないと、やれる事がない。そのため現実で過ごす事になった。
ちょうど家の掃除をしておきたかったから、ちょうど良い。
「基本はリビングで過ごすだろうし、客室の掃除とリビングの掃除を重点的にやればいいか。まぁ、マメに掃除はしているから、あまり掃除する必要もないけど」
軽く埃を吸って、布団のシーツを入れ替える。
「日向が止まる用に整えられたのに、結局私と一緒に寝るって言って使わなかったんだよね。あの時は、確か、おばさん達も苦笑いしてたっけ」
そんな事を思い出しながら客室のシーツと枕カバーを洗濯機に入れて洗う。一応、枕も余分にあるので、皆の分も確保は出来る。お母さん達が友達が来た時用に買っていたものだ。結局泊まりにくる友達は日向しかいなかったけど。
「後は……夕飯とかをどうするか……せっかくだし皆で楽しめるものが良いよね……久しぶりにたこ焼き器出すか」
私は、物置に置いてあったたこ焼き器を取りだして、使えるかどうかを確認する。
「うん。大丈夫。これならパーティー感が出るし、良いかも。ネット環境は大丈夫だし、食材は当日の朝に買いに行けば良い。シーツとかが洗い終わるまで暇か……適当な積みゲームでもやろうかな」
ユートピア・ワールドを買ってから、全然やらなくなったゲームをしながら、洗い終わるのを待ち、洗い終わったら干す。そんな当たり前の事をして過ごしていると、電話が鳴る。
「はい。もしもし」
『もしもし。ルナ?』
向こうで聞くよりもか細い声が聞こえる。
「こっちでは朔夜でしょ。どうしたの、黒江?」
電話をしてきたのは、黒江だった。ネロとしている向こうでは元気一杯という印象だが、こっちでは、ちょっとおとなしめの感じだ。病弱だから仕方ないけどね。
『お母さんが今度のやつで、ちゃんと通じるか確認しておきなさいって』
「ああ、なるほどね。良いよ。準備するから、ちょっと待って」
『うん。ありがとう』
手早くパソコンを用意して、リビングのテーブルに載せる。そして、連絡アプリでビデオ通話を始める。すると、向こう側にベッドの上に座っている黒江の姿が映った。肩口で切り揃えた黒髪と黒目をしていて、とても可愛らしい女の子だ。
「あ、見える?」
『うん。見える』
向こうの動きがカクつく事も音質が悪いという事もない。無駄にスペックの高いパソコンで良かった。向こうも相当スペックが高いみたいで、お互いに問題無く通話出来ている。
「やっぱりこっちでも黒江は可愛いね」
私がそう言うと、黒江は少し照れながらも嬉しそうに笑った。
「それにしても、にゃがないと違和感があるっていうのもあれだね」
『あれは言おうとしてなくても口から出ちゃうから。そうだ。お母さんと話したらね。美玲に勉強を教えて貰える事になったの』
「おっ! 良かったじゃん!」
無事美玲が黒江の教師になる事が出来たらしい。
「家庭教師?」
『ううん。電車で通えば来られるらしいけど、基本的にはオンラインでやる事になったよ』
「そうなんだ。まぁ、そっちの方が互いに楽だしね。勉強が捗ると良いね」
『うん! そういえば、朔夜は何してたの?』
嬉しそうな返事をした後、黒江は興味津々という風に訊いてきた。現実ではあまり話さないから、色々と話したいのかもしれない。
「今度の泊まり会の準備と暇だから、積んでいたゲームをやってた」
『そうなんだ。朔夜は、あまり勉強とかしないの? 夏休みって、宿題が沢山あるって聞いてるよ?』
「高校生になったら、そこまでの量は出ないよ。せいぜい数学の問題集を解けってくらい。そこまで焦る程じゃないよ」
『へぇ~、そういうものなんだ』
「まぁ、普通に勉強はしていた方が良いんだろうけどね」
そんな事を話していると、扉の開く音が聞こえた。私の家から鳴るわけがないし、パソコンから聞こえてきているので、黒江の方だ。
『繋がった?』
『うん。話してた』
そんな会話が聞こえると、黒江の横に黒江によく似た女性が現れた。
『初めまして、黒江の母です』
「あ、初めまして、宵町朔夜です」
やっぱり黒江のお母さんだった。まさか黒江のお母さんとも話す事になるとは思わなかったので、少し焦った。
『黒江が世話になっています』
「いえいえ、黒江には私達も助けられていますので」
『朔夜さんと知り合ってから、前よりも元気になりまして。ゲームから帰ってくると、皆さんの話ばかりしてまして。昨日も色々なお刺身を食べたとかで、興奮していました』
ものすごく黒江らしいエピソードにほんわかしていると、黒江が黒江のお母さんを押す。
『そういうの言わないでいいから。お母さんは、あっち行ってて』
『あらあら。黒江もそういう事を言うようになったのね。お母さん嬉しいわ。それじゃあ、後三十分だけね』
『分かったから』
『はいはい』
黒江のお母さんは、私に向かって手を振ると、黒江の部屋を出て行った。三十分っていうのは、こっちの事も考えての事だと思う。でも、当日は長く通話する予定だから、そこは大丈夫なはず。
「良いお母さんだね」
『うぅ……』
黒江は恥ずかしそうにしていた。まさか、あそこまで喋られるとは思わなかったのだろう。
『当日は何を食べるの?』
黒江は、お母さんの話を続けさせないためか、話題を変えてきた。
「たこ焼きにするつもり。皆で楽しめるものって考えたら、たこ焼きとかお好み焼きが良いかなって。黒江は、たこ焼き食べた事ある?」
『うん。あまり出てこないけど、偶に食べてるよ。たこ焼きか……後でお母さんに訊いてみる』
「あ、うん。でも、あまり我が儘は言わないようにね。さすがに、こっちの都合で黒江にも負担を掛けたくないから」
食事で黒江に負担が掛かる可能性もあるので、そこで一緒に合わせようとは言えない。そこはお母さんと相談して貰う必要がある。
『うん。許可が出たら、食べたいって言う』
「うん。そうして。もしあれなら、向こうでも作ってあげるし。たこ焼き器があるか分からないから、ちょっと変わったものになるかもだけど」
私がそう言うと、黒江は眼を輝かせていた。向こうでは、健康そのものだからそこら辺の制限もない。
『本当!?』
「うん。たこが売ってたらだけど。多分、アトランティス港とかで売ってると思うから」
『うん!』
こうして見ると、黒江が病気になっているとは思えない。でも、油断してしまうと、体調を崩してしまうのだろう。当日も黒江の様子には注意していよう。
その後、黒江と他愛のない話をしていった。お別れの時間になると、黒江は口を尖らせていたが、明日ゲーム内で会えるからと言って宥めた。




