223.海賊からの強奪!!
海賊船との距離が、ハープーンガンの射程になった瞬間にハープーンを、海賊船のマストに撃ち込む。そして、すぐにハープーンを引き戻して、自分が海賊船へと乗り移る。
「な、何か来たぞ!?」
海賊のそんな声が聞こえてきたところで、空いている右手で韋駄天を構えて、適当に撃ち込んでいく。唐突に銃撃に晒された海賊達は、一斉にしゃがんでやり過ごそうとする。その分、私達の船を襲う準備が遅れる。それも私の狙いだ。そもそも私が中で暴れる時点で、船への攻撃に割くリソースがないと思う。
「『クイックチェンジ』」
韋駄天から須佐之男に入れ替えた私は、着地と同時に目の前にいる海賊に撃ち込む。胴体が吹き飛んだ仲間を見て、他の海賊達が尻込みする。そこを突いて、次々に海賊達を吹き飛ばしていく。三人程やったところで、他の海賊達が襲い掛かってくる。曲刀を振り回して近づいてくる海賊を、黒闇天で撃ち抜き、私の背後から襲おうとしてくる海賊を須佐之男で吹き飛ばす。
「『クイックチェンジ』」
ここで須佐之男から韋駄天に入れ替えて、腰撃ちで銃弾をばら撒いていく。どうにか伏せてやり過ごす海賊もいたけど、それで倒れた海賊の方が多かった。あらかた数が減ったところで、須佐之男でバリスタを破壊し、大砲下部に穴を空けて、大砲を使いづらくする。
それを終えた後、私は船室の中に入っていた。
「おい! 侵入されたぞ!」
「追い掛けろ!」
私は、そのタイミングで須佐之男を韋駄天に入れ替え、出入り口に向かって銃弾をばら撒く。そこからしか出入り出来ないので、必然的に全員倒れていく事になる。
「大分片付けたし、後はこそこそと行こう」
私は、黒羽織を着て、気配を押し殺しながら釣り竿探しを始める。近くの部屋に入って漁っていると、船が激しく揺れる。ソル達が攻撃を仕掛けたのかもしれない。
「早く探さないと」
面倒くさいので、壁を破壊しながら部屋を探していると、一つの部屋で沢山の釣り竿を見つけた。リールも付いているので、投げ釣りも難なく出来るだろう。四本程あったので、全部アイテム欄に入れてから、そこに爆弾を仕掛ける。起爆時間は、三分。すぐに、元来た道を戻り、甲板に出る。すると、ちょうど斜め前に私達の船があった。船尾にいるミザリーが、こっちにバリスタを撃っているのが見えた。このままだと爆発に巻き込まれる可能性がある。
私は、黒闇天をマストに向けて引き金を引く。爆破弾を装填しておいたので、マストがへし折れる。これで風を受けられなくなるので、速度が少し落ちるだろう。
それを見た後、私はすぐに私達の船に戻った。
「おかえり」
「ただいま」
ミザリーと言葉を交わしてから、後ろを振り向いて天照を構える。装填する弾は爆破弾。それを、海賊船の船底に向かって撃つ。爆破が起こり、船底に穴が空く。水が入り込み、海賊船の速度が目に見えて落ちる。それを二回繰り返す。
そのおかげで、大分距離が開き、そのタイミングで船が爆発し、船が真っ二つに割れて沈んでいった。それを見届けてから、夜烏と黒羽織を脱いで水着になり、ソルの元に向かう。
「海賊船が沈んだよ」
「良かった。何度かシエルちゃん達が戦闘していたけど、こっちに被害はないよ」
「先にバリスタとか破壊したからかな」
「そんな事までしてくれたんだ。ありがとう」
「ううん。でも、同じような戦いは、あまりしない方が良いかな。今回は上手くいったけど、毎回船が近いところにあるわけじゃないし」
「そうだね。こっちの船から攻撃した方が安全だと思う」
ハープーンガンでギリギリ届く距離だと、皆と離ればなれになる可能性もあるので、一緒にいた方が良い。今回は、運良く近くにいただけと考えた方が良い。
「釣り竿は?」
「四本ゲット。これで釣りが出来ると思う。でも、まだ餌がないから、釣りは出来ないかな」
「貝は?」
「ああ、小さいのを使ってみようか」
砂抜き中の貝の内、小さいものの身を取って、釣り竿に付け、海に投げ込む。
『EXスキル『釣りLv1』を修得しました』
釣りのスキルを手に入れた。一応EXスキルになるらしい。条件が分からないけど、ボーナスが得られないという事は、もう既に誰かが手に入れているという事だから、そこそこ簡単に達成出来るんだと思う。
欄干に腰を掛けて、ヒットするのを待つ。暇だからか、操舵を握っているソル以外の四人が欄干に身体を預けながら一緒に見ていた。
「全然掛からないじゃん」
焦れったく思ったのか、シエルがそう言った。
「まぁ、釣りは忍耐みたいなところあるし」
「にゃ! 浮きが動いたにゃ!」
ネロの言う通りようやく浮きが動いた。スキルの感覚を信じて、グイッと竿を引っ張ってからリールを巻く。何かがいる重みを感じながら巻いていくと、いきなり重みがさらに増した。
「わっ!?」
グイッと引っ張られ、危うく欄干から落ちるというところで、シエルとネロが支えてくれた。
「重すぎ……」
「ネロ、合図でルナを船に戻すよ」
「にゃ!」
「せーのっ!」
シエルとネロが、力を合わせて私を船に戻してくれた。同時に、メレが増強の歌を歌ってくれる。これで私の力が上がる。それと同時に、私の身体をプティが掴んだ。
「プティ! ルナごと引っ張って!」
増強の歌は、プティにも効果を及ぼしている。つまり普段力強いプティが、さらに力強くなっているという事だ。そんなプティが、私の腰を掴んでいる。
「えっと、ちょっと待っ……!」
私の制止も空しく、プティは私ごと釣り竿を振り上げた。その結果、魚を釣り上げる事が出来た。強烈な振り回しを経験した私は、船の上で腰を押えて倒れていた。プティの振り回しと同時に、腰からポキッという音が鳴った。折れたわけじゃないけど、凄く変な感じがする。
「おおおお……腰が……」
「『癒しの導きを』」
ミザリーが回復をしてくれる。やっぱり回復役いてくれると助かる。
「さすがに、プティの力にルナの身体は耐えられなかったか。でも、ルナでクッションになったのか、竿は折れないで魚は釣れたよ」
「それは良かった……名前は?」
「えっと、銀鮪だって」
「なんじゃ、そりゃ……」
ミザリーのおかげでようやく動けるようになった。軽く腰のストレッチをしてから、釣り上げた銀鮪を見ると、立派な鮪だった。
「ミザリー、ありがとう」
「ううん。こんな形で回復魔法が役に立つとは思わなかったよ」
「私も思わなかった。湿布みたいな感じだった」
「そ、そうなんだ」
釣り上げた銀鮪を、ネロが興味深そうに見ていた。
「これは食べるにゃ?」
「まぁ、せっかくの鮪だしね。解体包丁がないから、どこまで綺麗に解体出来るか分からないけど。失敗したら、ごめんね」
「にゃ。全然大丈夫にゃ。ルナが頑張ってくれるのなら、私はどんな状態でも構わないにゃ」
「そもそもこの状況で頼れるのは、ルナ以外にいないし」
一番楽しみにしていそうなネロから許可も出たし、シエルの言う通り、普段から料理をしているのは私だけみたいなので、銀鮪をアイテム欄に入れて、厨房に行く。
「さてと、さっきのサメも手探りで、ちょっと雑になっちゃったし、ちゃんと出来るか心配だけど、テレビで見た解体を思い出しながら自分なりにいこう」
テレビで何度か見た鮪解体を思い出しながら鮪を解体していく。
「ある程度の部位は覚えているけど、ここの鮪が同じとは限らないしなぁ……」
そう思いつつ、解体した部位から薄切りにした大トロ、中トロ、赤身と思われるところを食べていく。
「うん。美味しい。てか、昨日は全然気にしてなかったけど、寄生虫がいる可能性もあるか……刺身で食べたいし、なるべく薄く切ろう。あっ、そういえば、そろそろ貝も食べられるかな」
小さい貝の身を取って食べてみると、特に砂の感じはない。
「まぁ、大丈夫そうかな」
貝の方も身を取っていると、一枚の貝の中に真珠があるのを発見した。大きさは一ミリ程度。
「おぉ……大きいのか小さいのか分からないけど、真珠だ。他の貝にも含まれてないかな」
宝探しの気分で期待したけど、それ以外に真珠は含まれていなかった。さすがに、そこまで運は良くなかったらしい。
「さてと、貝を載せて焼いて……」
貝を網に載せたところで、鮪の兜を見る。
「カマ焼き……」
鮪のカマなんて絶対に美味しいに決まっている。私は欲望に負けて、カマを切り出し、一緒に網に置いた。そこからは現実でもやっているいつも通りの調理だ。本当は味噌汁でも作りたかったけど、味噌を置いてないので作れない。
なので、鮪の各部位刺身と中落ち、焼き貝に、カマ焼きといったメニューになった。前と同じように、ソルの分と皆の分で分ける。
「余った身は、アイテム欄に入れて、食べたいって言われたら出すって感じで良いか」
余った身を回収してから甲板に戻る。
「出来たよ。ほら」
シエルにお盆を渡す。
「何か薄くない?」
現実で見るよりも薄い刺身を見てシエルが首を傾げていた。
「寄生虫対策。昨日は失念していたけど、生食だからね。現実じゃ冷凍したものが多いだろうから、あまり心配せずに食べたりしていたけど、今回は獲れたてだから」
「ああ、なるほどね。それなら仕方ないか。変に寄生虫に感染したくないし」
私の説明でシエルは、すぐに納得した。そして、お盆を持ってネロ達の元に向かっていく。私は、ソルの元に向かった。
「ほら、あ~ん」
「あ~ん」
約束通り貝を最初に食べさせると、ソルは嬉しそうな表情になった。
「美味しい!」
「そう。良かった」
鮪の刺身も食べさせていくと、美味しいという風に足をぱたぱたさせてもいた。ソルはこういうとき反応が分かりやすいから、こっちも嬉しくなる。
そんな風にソルに食べさせていると、傍にネロが寄ってきた。
「美味しかった?」
「にゃ! 美味しかったにゃ!」
ネロは大興奮のようだ。そして、その視線は私が持っているお盆に向けられている。ちらっとシエルの方を見ると空になった皿を見せて、苦笑いしていた。皆、凄い勢いで食べたみたいで、ネロは満足していないみたい。
「はい、あ~ん」
ネロは少し驚きつつも小さい口を開ける。そこに私の分の刺身を入れる。
「美味しい?」
「美味しいにゃ!」
ネロの喜びがピーンと伸びた尻尾に表れている。ネロが嬉しそうにしている間に、ソルが耳打ちしてくる。
「私の分もあげていいよ」
「ありがとう」
こそこそ話で放した内容だけど、耳の良いネロには聞こえているかなって思ったら、刺身を味わう事に集中しているみたいで聞こえていなかった。




