221.メレと海水浴!!
翌日。少し早めにログインした私は、まず最初に船の確認を始めた。私達がいない間に、何かあったら嫌だからね。取りあえず、船底に穴が空いているとか、誰かが侵入しているとかはなかった。
その後、船長室で次に行く場所を選定しようとしていると、丁度良くメレがログインしてきた。
「ルナさん、おはようございます」
「おはよう」
「目的地を決めていたんですか?」
「うん。手伝ってくれる?」
「勿論です」
いつも通りメレと一緒に目的地を決めていく。今までは目的地がほとんど決まっている事が多かったから、こういう事はなかったけど、目的地の定まっていない現状だと、こうして意見を聞けるのは有り難い事だった。
「また諸島に行った方が良いかな?」
「ここと同じような場所がある事を確認したいのであれば、その方が良いかと。もしかすると、同じような石碑があるかもしれません」
「それなら、読めるものも残っている可能性があるか。じゃあ、次の目的地は、比較的近くの諸島にしよう。そうなると、このまま南下か」
「着実に南に来ていますね。今のユートピアが夏だとしたら、段々と気温も下がっていくのでしょうか?」
「どうなんだろう? この星の地軸が曲がっていたら、地球と同じようになっている可能性もあるんだろうけど」
もしかしたら、このままあまり温度が変わらない可能性もある。こればかりは実際に移動して確かめるしかない。
「メレは、寒くなってきたとかある?」
「いえ、快適で過ごせています。この気候ですと、この姿でいても問題なさそうです。誰かに見られているという訳でもありませんし」
「色々な人に見られる仕事をしていたメレが言う?」
「水着でのグラビアはしていませんから」
「そうなんだ。メレの写真集が出たら、絶対に買う」
「あはは……ありがとうございます」
メレは苦笑いしながらそう言った。友達に買われるのは、恥ずかしいみたいだ。だけど、絶対に買う。メレと知り合う前は知らなかったけど、知ってしまったら、もうファンの一人になってしまった。楽曲も買ったしね。
「そういえば、船の状態は確かめましたか?」
「ここに来て、最初にやったよ。特に問題はなし。本格的な診断はソルに任せるつもり。皆が来るまでは、まだあるし何しようか?」
「何かありますか?」
ここは船の上で、近くに街があるわけでもないので、特にやれる事はない。
「特にないなぁ。海で泳ぐ?」
「せっかくの水着ですし、いいと思います」
「じゃあ、これ」
私は、メレにアイテム欄から取り出したゴーグルを渡す。
「浅いところで泳ぐのでは?」
「ううん。せっかくだから、遠くに流されないくらいには深いところに行こうかなって。魔法弾は、海の中でも使えるから、安全面は大丈夫だよ。ほら、行こう」
メレの手を引っ張って、船から降りていき、海に入っていく。昨日は、腰まで位で止まった今回は頭まで浸かるところまで行く。
「そういえば、メレは泳げる?」
「えっと、一応人並みに」
「じゃあ、すぐにスキルも手に入るかもね」
「そうだと良いんですけど」
脚の着かない場所まで来ると、メレが少し緊張しているのが分かった。なので、そっと私の傍に引き寄せる。
「大丈夫。何があっても一緒にいるから」
「はい。ありがとうございます」
「それじゃあ行くよ」
私の合図で、二人一緒に潜る。海の中は、かなり綺麗だった。様々な魚が泳いでおり、空から降り注ぐ陽光が、光り輝いていた。メレを同じように感じたらしく、目を見開いていた。そして、私にその気持ちを共有しようと思ったのか口を開いて、空気を吐き出していた。そこで自分が海の中にいる事を思い出して、大慌てになっていた。そんなメレを抱えて海面に顔を出す。
「ぷはっ……す、すみません」
「ううん。綺麗でびっくりしたよね。私もびっくりした。湖も綺麗だったけど、海も綺麗だなんてね」
「はい。思ったよりも魚が沢山いたのも驚きました。敵対生物ではないというだけで、結構いるものですね」
「確かにね。もう一度潜ってみようか?」
「はい」
私達は再び海に潜っていった。そして、海底にまだ降りていく。周囲を見回すと、岩に貝が貼り付いているのが見えた。メレに、手振りでそっちに向かう事を伝え、一緒に泳いでいく。
黒影を取り出し、貝を岩から剥ぎ取り、一度海面に顔を出す。
「見て見て。この貝大きい」
「そうですね。この前の鰺のように、皆で食べられそうです」
「まだ皆も来てないみたいだし、貝を獲っていこうか。はい、これナイフ。気を付けて扱ってね」
「はい」
メレと一緒に再び潜って、貝を獲っていく。基本的にメレと一メートルも離れないようにしておいた。敵が来た時に、対応出来ないかもしれないからだ。メレと一緒に貝を獲っていき、海面に顔を出すと、大きな声が私達の耳に届いた。
「ああ~!! ルナちゃん達だけ海水浴してズルい!!」
船の上でソルが怒っていた。別に除け者にしていたわけじゃなくて、皆が来るまでの暇つぶしだったのだけど、ソルからしたら教えてくれもいいじゃんという事みたいだ。
「全く。ソルが拗ねちゃうから、そろそろ戻ろうか」
「そうですね」
メレに前を行って貰いながら、私達は船へと戻っていく。梯子を使って戻ってくると、ソルは腰に手を当てて頬を膨らませた。
「教えてくれたら、私も早く来たのに!」
「いや、暇つぶしの内容がないから、潜ってただけで、最初から計画していた事じゃないから、教えるとか無理でしょ」
「むぅ……」
私の言葉に納得出来ない程子供でもないので、それ以上は文句を言わなかったが、私の指を掴むくらいの訴えはしてきた。
「さっき獲った貝を焼いてあげるから」
「……ありがとう」
ソルは拗ねながらお礼を言った。そんなソルに一回ハグをしてから、下の厨房に行き、桶を獲ってきた。一応厨房の確認をすると、煙は、換気扇のようなものから外に流れる仕組みになっていた。揚げ物の前に、練習出来るのでちょうど良い。これが上手くいったら、今度は鰺フライなどに挑戦したいな。
「まずは下処理。塩水に浸けて塩抜きっと……これ結構時間が掛かるんだよなぁ」
桶に海水を入れて、貝達を浸けておく。このまま数時間置かないといけないので、すぐに貝を食べる事が出来ない。私がそんな準備をしている間に、他の皆もやって来た。来て早々びしょ濡れの私とメレを見て、シエルがタオルをくれた。
「海のモンスターはどうだった?」
「いや、全く出てこなかった。気配感知でも反応はなかったから、ここの周辺にモンスターはいないみたい」
「そう。じゃあ、ただ海水浴を楽しんでただけか」
「おかげで、貝を拾った。砂抜きとか終わったら、皆で食べられるよ」
「海に来てから食べてしかないじゃん。それなら、海に出ている間に釣りでもしたら?」
シエルの言葉に、私は目を見開いた。
「それだ! どこかで海賊と出会わないかな。海賊なら釣り竿くらい持ってるよね」
「海賊から略奪しようとしているヤバイ人がいるわ」
「失礼な。奪うのなら奪われるのも覚悟の上でしょ」
「絶対覚悟してないと思う」
シエルとそんな話をしている間に、ソルが出発の準備を整えていた。既にソルも安全点検を済ませたみたいだ。
「いつでも出発出来るよ!」
「オッケー。今日の目的地は、この諸島の南! ぐるっと回って行く感じだけど、行けそう?」
「任せてよ! もうこの操縦も慣れたから!」
「それじゃあ、出航!」
次なる目的地に向かって、ソルの操縦で船が動き出した。




