216.私達の船!!
翌日。日向と一緒に登校すると、前にミザリーとパーティーを組んでいたクラスメイトの男子が、こっちを睨んできた。あれ以来、常に睨まれてはいるんだけど、今日は何故かこっちに近寄ってきた。それを無視して自分の席に来た私の元に舞歌と大空が来る。
「おい」
そう声を掛けられたので、一応そっちを見る。
「何?」
「あんな援軍を呼んで恥ずかしくないのか?」
何故か煽られた。てか、この話って、昨日の襲撃の話だよね。こいつらも参加していたみたい。
「そもそも一人相手に百人規模で挑む方が恥ずかしい行為だと思うけど。それに、あの人達は、私が呼んだんじゃなくて、自分達で来てくれたのと偶々通り掛かっただけだけど」
「うるさい! お前のせいで、こっちは一文無しだ!」
「自業自得じゃん。真面目にクエストでも受けて貯めれば?」
「いや、お前のせいだ。意味分からない理由で、俺達は二ヶ月も牢屋に入れられるんだぞ!? 申し訳なく思わないのか!?」
「いや、だから自業自得でしょ?」
ここまで頭の弱いクラスメイトだとは思わなかった。自分達で挑んできて負けたくせに、ここまで人のせいにされるとは。牢に繋がれているのも、完全に自分達のせいだし、私を狙ったのも自分達のせいだし。
まだ何か言おうとするクラスメイト達に嫌気が差していると、突然机を強く叩く音がした。いきなりの音に驚いてそっちを見ると、机に手を付いている舞歌の姿があった。舞歌がそんな事をするとは思わず、二つの意味で驚いていると、舞歌がクラスメイトを睨む。
「昨日掲示板という物を見ました。朔夜さんは、ただ襲われて反撃しただけです。あなた達の言い分は、自分勝手で醜い物です。今すぐ、朔夜さんに謝罪してください」
「あ……う……」
天下のアイドルにそんな事を言われたクラスメイトは、何も言い返せず舌打ちをしてから、去って行った。
「謝罪の一つも出来ないなんて、人としてどうかしています」
「舞歌、言い過ぎ。私の事を想ってくれているのは嬉しいけど、アイドルがそういう事言うものじゃないと思うよ」
「ですが……」
「良いから、ありがとう」
舞歌の頬に手を添えてお礼を言う。シルヴィアさんにこういう事をされると嬉しいので、他の人も喜んでくれるかもと思ってやってみたけど、舞歌も同じく嬉しいようで、すぐに笑顔になった。
「それにしても、リリさんが近くに来ていて良かったね。エラちゃん達やネロちゃんがいても退かなかったんでしょ?」
「そう。全く退かなかったんだよ。ジークもエラもネロもいるから、基本的に私達が負けるわけがないんだけどね」
「私達も一緒にいれば良かったね。そうしたら、もっと早く諦めたかもしれないし」
日向は少し申し訳なさそうにそう言った。
「別に気にしないで良いって。ジークだって、偶々掲示板で見つけたって言っていたから」
「これからは、もっと念入りに掲示板を調べた方が良いかな?」
「いや、こんな事があったし、もう掲示板で計画を話すような馬鹿はしないでしょ。まだ掲示板で話しているようだったら、本物の馬鹿集団でしょ」
「まぁ、それもそうだね。はぁ……ユートピア・ワールドも物騒になってきたね」
「まぁ、これからは海に出るわけだし、少し平和になるでしょ」
「あ~あ、また朔夜がフラグ立てた。波乱の航海になりそう」
「んな!? もしそうなっても、絶対私のせいじゃないから!」
そんな話をしていると、予鈴が鳴ったので、テストの準備をする。
今日以降は、クラスメイトの嫌がらせもなく一週間を過ごす事が出来た。そして、テスト期間を終え、夏休みに入った土曜日。私達はアトランティス港に集まった。
「さてと、どんな船になったかな?」
「六人で操作するような船だから、そこまで大きくないんじゃない?」
「確かにシエルちゃんの言う通りだね。私達だけで操作出来るくらいの大きさだよ」
「ん? ソルはもう見たの?」
ソルがもう知っているかのような口振りだったので、そう訊く。すると、ソルはアイテム欄から何かの紙束を取り出した。
「マイルズさんから船の操縦の仕方を覚えておけって渡されたの。船に乗ったら、皆にも教える予定」
「まぁ、この中だったら潜水艦の操縦経験のあるソルに教えるのが一番だよね。でも、ソルだけで動かせるものでもないんでしょ?」
「まぁね。錨や帆の操作は、私だけだと素早くできないから」
ソルの言葉だと、一人でも操作する事自体は出来ると言っているように聞こえる。
「私達の船って機帆船?」
「うん。魔力エンジンと帆で動く船みたい。魔力に関しては、ミザリーちゃんがいるから、まず大丈夫だと思うよ」
「私はガソリンって事だね」
自分が活躍出来る場が出て来たからか、ミザリーは張り切っていた。
「帆も自動で動かせるんだけど、人力で動かした方が早いみたい。詳しい事は、実際に動かしながらの方が良いと思うかな」
「まぁ、実践あるのみって感じか。確かに、言葉で説明されるよりも、身体を動かした方が覚えそうだし、いいんじゃない」
言葉での説明よりも、身体を動かして、どうすれば良いのかを覚える方が手っ取り早いと思う。なので、詳しいところは船に乗ってから聞く事にして、軽い操縦方法を皆で共有した。共有し終わった時に、ちょうど造船所に着いた。中に入ってみると、結構大きめの船が出来上がっていた。
「おぉ……これが、私達の船?」
「おおう。来たか。そうだ。これが嬢ちゃん達の船だ。中の確認をしてくれ。その間に、こっちも最終確認をしとく」
「分かりました」
船の上には大きな帆とバリスタ両側面に二つずつ。さらに大砲が一門ずつあった。そして、前方と後方に小さなバリスタが二つずつあった。一応、前や後ろでも戦えるようになっているみたいだ。
「あれの使い方も学ばないとか」
そう言いながら大砲に触れると、
『ユニークスキル『砲術Lv1』を修得しました。最初の修得者のため、ボーナスが付与されます』
新しいユニークスキルを手に入れた。大砲の取り扱いも銃の一つに数えているから、ユニークスキルなのだと思う。
「新しいスキルが手に入った」
「え? 大砲関係?」
「うん」
「へぇ~」
ソルはそう言いながら、大砲をペタペタと触る。
「あ、ユニークスキルだから、皆は手に入らないよ」
「え~、ズルい!」
「そう言われてもそういうシステムなんだから仕方ないでしょ」
そう言いつつ、バリスタの方に触るけど、そっちからはスキルは手に入らなかった。多分、弓の派生スキルになるから、弓のスキルを持っていないと手に入らないのだと思う。
甲板を見て回った私達は、次に船内へと移動した。大きく二つの区画に別れていた。
一つは、甲板の上り階段を上がった先にある船長室だ。少し広めで屋敷の執務室のように机や本棚が置かれている。さらには、中央に大きなテーブルが置かれていて、画面のようなものが付いていた。その画面には、地図のようなものが写されている。
「これは……海図かな? う~ん……読み方が分からないから、勉強した方が良さそう。はぁ……ま~た勉強か……」
「そこは仕方ないですよ。私達も一緒に勉強しますので頑張りましょう」
メレにそう言われてしまっては、頷かざるを得ない。メレは勉強が得意だし、私よりも早く理解してくれそうだ。
「取りあえず、誰が使うか会議は後に回して、別の所も見てみよう」
次に向かったのは、甲板下部に付いている扉の先だ。そこから先は折り返しの下り階段になっていて、両側面に扉がある通路に出た。両側面の扉は、一つ一つが船室で、船長室ほどではないけど、結構豪華だった。そして、通路の先には、さらに下り階段があり、厨房と倉庫になっていた。ご飯も食べられるし、物を置けるというのは良い事だと思う。私達に必要かどうかは置いておくけど。
「うんうん。良い船だと思う。最後は、エンジン部分?」
「だね」
倉庫のさらに下にあるエンジンルームを見てみる。そこには、私達の知らない機械が置いてあった。
「これがエンジンか。あ、この手のひらマークが魔力補給のための場所って事なのかな?」
「えっと……うん。そうみたい。ここにも書いてある」
「じゃあ、魔力が足りなくなったら、ミザリーにはここに来てもらうって事になるのかな」
「うん。任せて」
ミザリーはやる気十分だ。船がどういうものかも確かめ終わったので、甲板に上がるとマイルズさんが待っていた。
「不調も無しだ。このまま出航出来るぜ」
「分かりました。こんな立派な船を造ってくれてありがとうございます」
「良いって事よ。何か船で困った事があったら、ここに来てくれ。力を貸してやる。潜水艦の方の管理もこっちでやっとくからな」
「ありがとうございます」
マイルズさんは笑いながら船を下りていく。
「それじゃあ、出航しよう。ソル、お願い」
「オッケー」
ソルが操舵を握る。
「それじゃあ、ルナちゃん出港の号令をよろしく」
「え!? 私!?」
ソルに急に言われたので、驚く。そして、周りにいる皆の事を見ると、皆が笑って頷くので、私が言うのは確定のようだ。
「えっと……それじゃあ! まだ見ぬ土地を目指して! 出航!」
『おー!』
ソルが船を走らせる。ここから、本当に未知の冒険。ジパングに行くのに乗った船旅とは全く違う。少し緊張するけど、それ以上にわくわくが止まらない。一体、どんな旅になるんだろうか。