215.戦乙女騎士団の方々!!
戦乙女騎士団も巻き込んだ戦闘は、三十分くらいで終わりを迎えた。リリさんの指示で、別働隊がアトランティス港にリスポーンした敵を捕らえていたからだ。
「ルナさん、大丈夫でしたか?」
「はい。助けてくれてありがとうございます。どこかからの帰りですか?」
どこかに出掛けていた事は知っていたけど、まさかこのタイミングでここを通り掛かるとは思わなかった。
「はい。アルカディアの向こうに行っていました。久しぶりに戻ってきたら、争っている現場に遭遇したというわけです」
「なるほど。これって、私達の方は罪になりませんよね?」
「そうですね。この人数差で喧嘩を売ったのが、ルナさん達とは思えませんから。後は、ルナさんの証言があれば大丈夫です」
「ふぅ……一安心です」
下手したら、私達も罪になる可能性があるかもしれないと思っていたから、本当に安心した。
「まぁ、ルナさんを狙ったという事で、普段よりも罪は重くなります。二ヶ月は出てこられないでしょう」
「……ああ! 貴族を襲ったから」
「そういう事です」
自分が貴族だって事は、時折忘れてしまう。でも、こういう面では貴族になって良かったと思う。
「アザレアは、事後処理をお願いします。ルナさんは、念のため事情聴取を」
「あ、は~い。ネロ、ごめんね。今日は、これで解散しておこう」
「分かったにゃ」
「ジークとエラもありがとう。おかげで助かったよ」
「ルナが無事で良かったよ。それじゃあ、またね」
「次に戦う時が楽しみなった。俺ももっと強くなろう」
「それ以上強くなってどうするんだか……まぁ、機会があったらね」
ここでネロ、ジーク、エラとは別れる。リリさんの事情聴取がどのくらい掛かるかも分からないし。
「では、参りましょう」
リリさんの手を借りて、リリさんの馬に乗る。リリさんの腰に手を回して、身体を固定させると、リリさんが馬を走らせた。そうして、アトランティス港の駐在所の取調室まで移動した。
「さてと、では、事の顛末を教えて貰えますか?」
「はい」
私は、今日起こった事を一から十まで話す。すると、リリさんの表情が段々と呆れたものになっていく。
「はぁ……災難でしたね」
「まぁ、自分で招いているって感じもありますけど」
「逆恨みなどでしょう。基本的に被害者はルナさんではないですか。異界人は処刑して終わりには出来ないので、恨みを潰えさせる事が出来ないのが痛いですね」
「リリさん、考えが怖い」
「これが普通です。特に何の罪も背負っていない貴族を襲うのは、それほどの罪ですから。取りあえず、これでルナさんは無罪です。罪人の処罰は、こっちに任せてください」
「ああ、はい。面倒くさいのでお願いします」
罪人の処罰なんて、どうすれば良いか分からないものは丸投げするに限る。取り調べも終わったので、私は目の前の机に身体を投げ出す。
「はぁ……また、アトランティス港で暴れちゃいました……」
「今回は、街の中で暴れたわけじゃないから大丈夫だと思いますよ」
リリさんがそう言った直後に、団員のルノアさんが入ってくる。
「調査の報告書です」
「ありがとうございます」
ルノアさんは、リリさんに書類を渡した後、すぐに取調室を出て行く。その直前に、私の方を振り返って軽く手を振ってくれた。なので、私も手を振り返した。
リリさんは、報告書を読んで小さく笑った。
「やはり、杞憂だったようですよ。周辺住人から聞き込みをした結果、ルナさんは街を守ろうとしてくれたという話ばかりだったようです。ルナさんを忌避してはいないようですよ」
「良かったぁ……街の被害の方はどうですか?」
「あの暴徒達が少し壊した箇所があるようですが、すぐに復旧出来るくらいですので、お気になさらず」
私が街から出た後に、あいつらが何かをしたみたい。あいつらをぶん殴りたいという衝動に駆られたけど、どうしようもないのでため息として出す。
「それよりも、街道に出来た窪みの方が酷いですね。結構な深さのようで、すぐに塞ぐことは難しいようです」
リリさんの言葉に、私は思わずギクッとしてしまった。
「あ、それやったの私です……」
「…………」
リリさんはニコニコと笑顔になった。喜んでいるわけではないのは分かった。どうするべきかを考えて、私はある事を思いついた。メニューを操作して、お金を取り出す。
「これを補填に充ててください……」
「いえ、罪人の方々から徴収するので大丈夫ですよ?」
「あ、大丈夫です。これ、その罪人から奪ったお金なので」
PKの設定変更で、相手の所持金の一部を奪えるようになっている。持っていたお金は少なかったみたいだけど、あの人数なので結構貯まっていた。そういう面でも、あの人達は馬鹿だったと思う。
「まぁ、お金の出所は聞かなかった事にします」
そう言いながら、リリさんはお金を受け取ってくれた。これで然るべき場所にお金が送られる事だろう。
「あっ、そうだ。リリさんに会ったら言いたいことがあったんでした」
「そうなんですか?」
「はい。私、シルヴィアさんと付き合い始めました」
「…………へ?」
リリさんの顔が強ばり、瞬きが増えた。
「付き合う……恋……人……?」
「はい」
「いつ……から……?」
「えっと、一ヶ月以上前ですね」
「し、師匠の方が……先に……? あ、あの師匠が……?」
リリさんはそう言いながら、いきなり気絶した。リリさんが倒れる場所にすぐに移動して受け止める。
「リ、リリさん!?」
シルヴィアさんに先を越された事が、余程ショックだったらしい。身体を揺すってもリリさんが起きる気配はない。少し慌てていると、アザレアさんが入ってきた。
アザレアさんは、倒れているリリさんと抱えている私を見て、少し驚いていた。
「……何があったのですか?」
「えっと……リリさんに恋人が出来たと報告をしたら、倒れてしまったんです」
「ああ……」
「やっぱり、シルヴィアさんと恋人関係になったというのはショックだったんでしょうか?」
「あ、ああ……」
アザレアさんは納得がいったみたいで、片手で頭を抱えていた。
「はぁ……取りあえず、団長を寝かせましょう」
アザレアさんはそう言って、リリさんをお姫様抱っこする。そのまま部屋を出て行ってしまうので、私も後に付いていった。
「団長は、シルヴィア様に恋人がいないことを支えにしていました」
「それって、シルヴィアさんにまだ恋人がいないから、自分もまだ大丈夫だろうと思っていたって事ですか?」
「そういう事です。ですが、ルナさんとシルヴィア様がお付き合いされたと聞いて、自分の婚期の終着点が差し迫っている事に気付いたという事です」
「ずっと気にしてましたもんね。やっぱり不用意過ぎましたか?」
「いえ、おめでたい事に対して、失礼な反応をしてしまった団長が悪いですので、お気になさらず」
そんな話をし終わった辺りで、仮眠室に着き、リリさんをベッドに寝かせた。
「それにしても、ルナさんは出会う度に成長しているのが分かりますね。まだ出会って半年ですのに、初めて出会った時とは、まるで別人のようです」
アザレアさんはそう言いながら、私の頭を撫でた。その流れなのか、私の頬も撫でられる。
「シルヴィア様が羨ましいです」
「え?」
一体どういう意味なのか分からず、小首を傾げる。でも、アザレアさんはそれ以上は何も言わず微笑むだけだった。
すると、その場にルノアさんもやって来た。ルノアさんは、アザレアさんが私を撫でている姿を見て、一瞬頬を赤くしていた。
「ルノアには、報告しましたか?」
「いえ、まだしていません。リリさんとアザレアさんとしか、まともに話してませんから」
「では、ルノアも驚かせてあげましょう」
「へ?」
私は、ルノアさんにもシルヴィアさんと付き合い始めたという事を伝える。
「あっ、えっ、お、おめでとうございます!」
ルノアさんは私の手を取って、ぴょんぴょんと跳ねながら祝福してくれた。
「それで、ルノア。何か用事があったのではないですか?」
「あっ、そうでした。周辺の調査を終えました。街道以外は、私達の方で手配しなくても大丈夫そうです」
「分かりました。書状を用意しますので、王都に持っていってください。私は、こちらで待機しています。」
「はっ!」
ルノアさんは敬礼をしてから、仮眠室を出て行った。
「ルナさんも用事があれば、帰っていただいて大丈夫です。お付き合いいただきありがとうございました」
「いえ、私も色々とご迷惑をお掛けしてすみませんでした」
「お気になさらず。私達としては、こうしてルナさんと出会えたので、それで帳消しにしても良いくらいです。もしお時間があれば、団員達とも会って頂けませんか?」
「はい。良いですよ」
「ありがとうございます。おかげで、団員達の士気も上がります」
どうして私と会うことで士気が上がるのか分からないけど、私も団員の方々とも会いたいので、すぐに了承した。その後、夕方まで団員の方々と話した。シルヴィアさんと付き合い始めた事も伝えると、全員が祝福してくれた。それだけでなく、何故か順番に膝の上に乗せられ、後ろから抱きしめられた。ここで、アザレアさんの言っていた士気が上がるという言葉の意味を理解した。マスコット的なやつだこれ。まぁ、嫌ではないから良いんだけどね。




