212.シルヴィアさんの嫉妬!!
ここに来た用事も終わったので、シャルの執務室から出る。シャルも仕事中だから、これ以上邪魔出来ないしね。そしたら、私の後を追ってシルヴィアさんも出て来た。
「シルヴィアさん」
誰も見ていないのを良いことにシルヴィアさんに抱きつく。シルヴィアさんは、軽く受け入れてくれる。
「船で海に出ると聞きました。危険が多いですので、気を付けてください」
「はい。でも、海に出るって言っても、まだまだ先ですよ。船を造るところからなので」
「こういうのは、事前に口うるさく言っておいた方が良いと思いますので」
「まぁ、それは一理ありますけど……ところで、今日の夜は、部屋に行っても良いですか?」
「ええ、構いませんよ。楽しみに待っています」
「ありがとうございます!」
シルヴィアさんも仕事があるので、ここで別れて、一度自分の屋敷でお風呂に入ってから、スノーフィリアの自分に宛がわれた部屋でログアウトした。そして、夕食とお風呂、戸締まりの確認をしてから、再びログインして、シルヴィアさんの部屋に向かう。部屋では、仕事を終えて、お風呂を済ませたシルヴィアさんがベッドに腰を掛けて待っていた。髪の毛が少し濡れているから、出て来て少ししか経っていないだろう。
私はすぐにシルヴィアさんの傍まで行って、膝の上に対面になるように座った。そして、シルヴィアさんの腰に手を当てる。ペタペタとシルヴィアさんの腰ばかり触っていたからか、シルヴィアさんは、少し不思議そうにしながら、お返しとばかりにこっちの腰を触ってきた。
「何か意味があるのですか?」
私の考えが分からなかったシルヴィアさんは、普通に訊いてきた。
「いや、今日、メレの腰に手を回す機会があったんですが、改めて触ってみたら、凄く細い事に気付いたんです。私の腰って、あまり細くないから凄いなぁ思ったんです。それで、シルヴィアさんの腰も確認してみようと思って。こうして、触ってみると、私が思っていたよりも細いですね」
「…………」
ちゃんと正直に言ったら、シルヴィアさんは何とも言えないような表情でこっちを見ていた。恋人の前で、他の女性の身体の話はしない方が良かったか。もう少しデリカシーを学ばないといけないかも。取りあえず、現実で一緒にお風呂に入って確かめようとしている事は黙っておこう。
そんな事を思っていると、シルヴィアさんがこっちのお尻付近を掴んで、グイッと引き寄せられた。
「えっと……」
「基本的に、私はあまり嫉妬しないようにしているのですが、さすがにこればかりは駄目ですね。私もルナの身体を堪能する事にします」
「そういうのは、もう少し私が成長してからなんじゃ……」
「ええ。ですので、こうして素肌を触る程度にします」
「!?」
シルヴィアさんは宣言通り、私の服の中に手を入れて、素肌に手を這わせた。触り方が絶妙で、身体が反射的に反応してしまう。
「ルナは、てっきり胸が好きなのかと思っていましたが、腰派でしたか?」
「いえ、どちらかと言えば、胸派かもですけど……」
「マイアの胸は、気に入っていたようですが?」
「うっ……はい。胸派です。でも、シルヴィアさんの身体は全部好きです。柔らかくて温かいですから」
「温かいのは湯上がりだからですよ。私もルナの身体が好きです。あなたを感じる事が出来ますから」
シルヴィアさんはそう言うと、私の首に口を近づけてキスをした。ただ軽く触れるようなものではなく、吸い付くようなキスだ。
シルヴィアさんは、首から口を離すと、小さく笑った。
「跡が付いちゃいましたね」
「えっ!?」
まさか、ゲーム内でキスマークを付けられるとは思ってもいなかった。首の少し上の方だから、夜烏と黒羽織を着ていても少し見えてしまうかもしれない。
「何だか、少し照れますね。ルナを自分のものにした感じがします」
「別に、キスマークを付けなくても、私はシルヴィアさんのものですよ。ちょっと気恥ずかしいですけど、その反面嬉しいです。シルヴィアさんは、私の事を想ってくれているって気がして」
「あなたの事を想わない日はありませんよ」
シルヴィアさんはそう言いながら、後ろに倒れる。その結果、私はシルヴィアさんの身体に乗っかる形になった。私の頭はシルヴィアさんの胸に乗っている。シルヴィアさんの鼓動が聞こえてきて、癒やされるのと同時に私もドキドキする。
そんな私の頭をシルヴィアさんは優しく撫でてくれる。シルヴィアさんの心音と優しく撫でてくれる手、温かな身体。こんな条件で眠るなという方が無理がある。
私は、ここで寝落ちするわけにはいかないと思い身体を起こす。
「すみません。シルヴィアさんの身体が心地よすぎて、もう寝ちゃいそうです……」
「そうですか。それなら、元の世界に戻った方が良いでしょう。心惜しいですが、ゆっくりお休みください」
シルヴィアさんはそう言うと、軽くキスをしてくれた。恋人になって結構経つけど、キスをされる嬉しくてニヤけてしまう。
「おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
私は、部屋に戻ってログアウトした。現実に戻ったら、シルヴィアさんの温もりは消えてしまったけど、その感覚は覚えている。それを思い出すと、こっちでも身体が温かくなったような気がした。
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翌日。学校から帰ってきた私は、早めの夕食を食べて、ログインした。さすがに、シルヴィアさんも仕事中だと思うので、そのまま屋敷を出て王都に転移した。そして、月読でレイク・クラーケンの元まで突っ走った。
レイク・クラーケンは、韋駄天を使って雷光弾を三十発撃ち込んで倒した。その結果、湖が帯電していたので、完全にやり過ぎた。ちゃんと回収は出来たので、そこは良しとした。
これでレイク・クラーケンは完了したので、それをマイルズさんに渡してから、ジパングで少し採掘をしてから就寝した。
その翌日は、ソルと一緒にスノーフィリアへと向かう。
「よろしくね、ルナちゃん」
「めっちゃ飛ばすから、しっかり掴まってて」
「うん。ボスは任せてね」
ソルを後ろに乗っけた私は、月読を走らせる。その速度は普段の倍以上の速さだ。すると、ユートピアとノースヨルドの間のエリアボスであるスノーハウンドが私達を追ってきた。何となく振り切れそうな気もしたけど、何か不具合が起きたら怖いので、ソルが倒しに向かう。鳴神を使って倒しに行くので、速攻でケリが付いた。
そして、雷になった状態で戻ってきたソルは、後ろに乗ると鳴神を解いた。
「一瞬じゃん」
「ここのボスが弱いだけだよ。次の街には寄らないで良いから、そのままスノーフィリアに行こう」
「分かった」
ソルがいいと言うので、このままスノーフィリアに向かう。ノースヨルドとスノーフィリアの間のエリアボスは、スノーゴーレムだ。それも鳴神の一撃によって、一瞬で水となった。
「ここのボスも弱いね」
「みたいだね。私の時は、シルヴィアさんが速攻で倒してたから、全然知らなかったよ」
「そう聞くと、ルナちゃんは楽してたんだなぁって思っちゃうよ」
「まぁ、実際楽はしてたしね。ほら、そろそろスノーフィリアに着くよ。ポータルを登録したら、早速伐採しても良い場所に案内するから」
「うん。お願いね」
ソルのポータル登録を済ませた後、すぐに昨日シャルから許可を得た土地に向かう。そこは、かなり広い森で、太く大きな木が沢山生えていた。
「何本くらいいるのかな?」
「えっと……二十以上だって。多ければ多いほど良いとも書いてある」
「うん。でも、切りすぎは駄目なんだよね?」
「森がなくなるみたいな事にならなければ良いって、一面を切るんじゃなくて、間引き的な感じで切っていこう」
「分かった」
ソルは、白蓮で次々に木を斬り倒していく。それが完全に倒れる前に、私がアイテム欄に入れて回収していった。切り株に関しては、シャルの方で処理をするみたいだから、残しておいて良いって追加で伝えられたので、そのまま残しておく。
ソルのおかげで、一気に三十本も集める事が出来た。それでも森には多くの木が残っているので、シャルとの約束は守れたと思う。これは後日マイルズさんに渡すので、今日はこれで別れた。
そこからの四日間は、鉱石、蟹、蠍をひたすら狩っていった。その何回かはメレと一緒に行動した。そして、イーストリアの東にある港街近くに生えているタフコットンも採ってきた。
皆で集めたおかげで、必要数以上集まったみたいで、マイルズさんが張り切っていた。
そして、土曜日に皆で、アトランティス港のカフェに集まった。
「ここから一週間も掛かるって事は、今日明日も暇になるって事だよね。どうする?」
「普通に休みで良いでしょ。来週からテスト期間だし」
「そうですね。その方が良いと思います」
「うわぁ……怠い……」
この中で一番年上のミザリーが、一番に頭を抱えていた。大学のテストは、高校のテストとは違うのかもしれない。いずれは、自分達もミザリーと同じ悩みを抱える事になるのだろう。
「仕方ない。来週までは、自由行動にしよう。来週は、またアトランティス港に集合ね」
「うん。それじゃあ、今日はどうする?」
ソルがそう訊いてくる。
「取りあえず、この前消費したお金を稼ごうか」
この後は、ギルドでクエストを受けて、ひたすらにお金稼ぎをした。船の代金分は集められなかったけど、二割程は稼ぐことが出来た。
「まぁ、このくらいかな。それじゃあ、明日からは自由行動ね」
「ルナちゃんはどうするの?」
「どうしよう。昼からシルヴィアさん達のところに行くのは、迷惑が掛かるだろうし、どうせだから、アトランティス港の周辺をもう少し詳しく見ていこうかなって思ってる」
「そうなんだ。私とメレちゃんは、常夜を調べに行くんだ」
ソルはそう言って、メレの腕を取った。メレも頷いていた。
「皆余裕だねぇ……私は勉強だよ……」
「私も勉強かな」
ミザリーとシエルは、勉強をするみたい。私もしないとだけど、夜で良いかなって思っている。
「じゃあ、私はルナと行くにゃ。良いにゃ?」
「うん。いいよ」
こうして、私達の明日の予定が決まった。




