211.船の相談!!
アトランティス港に来た私達は、まっすぐに船着き場を目指す。その中で、こちらをチラチラと見られている事に気が付いた。
「何だか見られているにゃ」
「ああ……多分、私だね」
「ここで大立ち回りしたからぇ」
「ミリアからは、普通に歩いても平気だって言われたけど、やっぱり記憶には残っているのかもね」
ミリアからは大丈夫だって言われたけど、向こうからしたら気になるのかもしれない。
「そういえば、掲示板で見たかも。あの後ってどうなったの?」
「捕まったよ。まぁ、リリさんに捕まったから、普通に連行って感じではなくなったし、事情も聞いてくれたから、牢に入れられる事はなかったけどね」
あの時は、本当に運が良かった。
念のため、こっちを見てくる人達を確認すると、見てきているのは、ここの住人だけではなかった。
「プレイヤーの何人かが、こっちを見てる」
「私も気付いたよ。何というか値踏みされているかのうような感じ。プレイヤーキラーかも」
ソルも勘づいたようで、少しい警戒をしている。街で襲ってくるような事はないと信じたいけど、ゲームを始めた初期に似たようなトラブルに巻き込まれているし、ゼロと言い切れない。
取りあえず、現状は害がないようなので、このまま進んで行く事にした。前にも行った造船所に来ると船大工のマイルズさんがちょうど出迎えてくれた。
「おお、久しぶりだな、嬢ちゃん達。前に来たよりも多くなってんな」
「新しい仲間です。それで、マイルズさんに折り入って相談が」
「おう。船関係だな。事務所の方に来てくれ」
場所を造船所の事務所に移した。
「実は、私達海に出ようと思うんですが、前に作って貰った潜水艦で出ても大丈夫ですか?」
私がそう訊くと、マイルズさんは苦い顔をした。
「いや……遠洋にこぎ出すんだったら、潜水艦は止めた方が良いな。海には危険なモンスターが多い。特に海中深くにはな。そいつらと戦って潜水艦が壊れれば、そのまま海中に放り出される事になる。反面、海面付近であれば、ある程度対応出来るモンスターばかりだ。普通の船で行く方が賢明だな」
海のモンスターが危険なのは、船を壊してくるからだろう。そして、水深が深くなればなるほど、モンスターの凶悪度が跳ね上がっていくらしい。デビル・モーレイなどよりも遙かに上のモンスターもいるんだと思う。そう考えれば、船で移動する方が良いと言うのは本当だろう。
「海のモンスターと戦うとなると、船の上で戦う事になりますか?」
「それもあるが、船の外に敵がいる事の方が多い。だから、船にはバリスタと大砲を取り付ける事になるな」
「なるほど。じゃあ、ここから南に行く定期船とかは出てますか?」
潜水艦で移動出来ないのであれば、南に行く船などが出ていればと思い念のため訊いてみた。
「いや、南との交友はねぇな。南にあるのは、小さな島ばかりで、大陸みたいなのはねぇんだ。だから、向かうんなら、自分の船で行くしかねぇな」
「そうですか。じゃあ、私達の船が欲しいんですが、ありますか?」
販売用の船が残っていれば、売って貰えるんじゃないかと思ったけど、ここでもマイルズさんが苦い顔になる。
「ああ、今は切らしていてな。材料があれば作れるぞ。六人乗りとなると、少し材料が多くなるが、頑丈で良い船を作ってやれるぞ。金も貰うがな」
「さすがに、無料で作って貰えるとは思っていません。それで、材料はどんな感じですか?」
マイルズさんは、近くのメモ帳に必要な材料と金額を書いて、私に渡してくれた。
「おぉ……東西南北あらゆるところの物ですね……」
金額は置いておいて、書いてある材料は、採れる場所がかなり離れていた。スノーフィリアの木、シャングリラ、あるいはジパングで採れる鉱石、サーペント・タートルの甲羅、前に倒した化け蟹、蠍系モンスターの殻(出来れば、サンド・スコーピオン)、レイク・クラーケン、タフコットン等々。一応、採れる場所とかも書いてくれているから有り難い。
「嬢ちゃん達の安全を考えれば、このくらいは必要になる。六人で扱う船という事も合わせてな。それに、嬢ちゃん達には、このアトランティス港のために色々とやってくれたんだろう? それなら、俺達も礼をしないとな」
アトランティス港で、私達はどんな風に語られているのだろうか。ミリアがもう大丈夫と言っていたのも、これが関係するのかもしれない。まぁ、特に興味はないから、調べる事はないけど。
「じゃあ、素材を集めたら渡しに来ますね。お金は、もう出せるかな?」
皆に確認してみると、六人で分割すれば、払える金額という事が分かった。案の定、私以外は余裕だった。私もちゃんとお金稼ぎしないと。
「金はちょうど受け取った。後は、貰った材料で出来るものから作っていってやろう。全部の材料が集まってから、一週間前後が完成目安だ」
「わかりました。それじゃあ、よろしくお願いします」
マイルズさんに造船を頼んで、私達は一度アトランティス港のカフェに移動した。
「さてと、サーペント・タートルの甲羅は、さっき手に入れたから大丈夫だとして、化け蟹と蠍、コットン、鉱石は、結構量が必要みたいだから、暇なときにちまちま集めてくれる? レイク・クラーケンとスノーフィリアの木は、私がどうにかしてくるよ。レイク・クラーケンなら、もう相手にならないだろうし、スノーフィリアの木に関しては、勝手に切って良いのか分からないしね。ちょうど向こうには、シャルがいるし、どうすれば良いか確認を取ってみるつもり」
「もし勝手に切って良いなら、私に知らせて。スパスパ斬っちゃうから」
「その時は連絡する。鉱石に関しては、ジパングで取った方が効率が良さそうだから、向こうで採掘出来る場所を探してみよう」
ジパングは、金属を生み出す古代兵器だ。だから、シャンバラで鉱脈を探すよりは、ジパングで自由に採掘を出来る場所を探した方が早いかもしれないと考えた。
「なるほどね。じゃあ、今日はこれからジパングの鉱山巡りをするって感じ?」
「そういう事。皆にも必要個数を書いたメモを渡しておくから、分からなくなったら、確認して」
私は、自分が持っているメモにマイルズさんのメモを書き写して、皆に渡しておく。これで、平日のそれぞれの自由行動の時にも集められる。
「それじゃあ、行こうか」
カフェでの作戦会議を終えた私達は、ジパングに転移して、色々な鉱山をまわっていった。その結果、どこの鉱山でも一応採掘は許可された。その中でも、自分達の欲しい鉱石が出る場所をメモって、複数の鉱山から採掘をする事になった。
その日のうちにスキルも取っておこうという事になり、採掘を始めたけど、案の定メレが大変そうにしていた。前まで苦労していたシエルは、着せ替え人形のスキルを手に入れた関係で力が上がったらしく、前よりも楽にツルハシを振り下ろしていた。ミザリーとネロに関しては、普通にツルハシを振っていた。ネロは戦闘職だし、ミザリーも普段メイスを振り回しているので、力はある方なので、あまり驚きはなかった。
これによって、無事皆が採掘のスキルを得られたので、心配なのはメレだけとなった。というわけで、メレが採掘に行くときは、誰かしらと一緒に行く事と決められた。
今日の集団行動は、ここで解散して、私はシャルの元に向かった。スノーフィリアの木の事を訊くためだ。シャルは、いつも通り執務室にいた。
「船を造るのに、スノーフィリアの木が必要なの?」
「うん。指定されてた。だから、ここの木を切って良いのかどうかを確認したくて」
「えっと……ちょっと待ってね……」
シャルはそう言って、机の引き出しを開いて、紙束を見ていく。そこに求めているものがなかったのか、次は近くの棚に向かう。そのタイミングで、シルヴィアさんが部屋に来た。
「あ、シルヴィア。丁度良かった。森林の資料ってどこに入れてたっけ?」
「森林の資料ですね。こちらです」
シルヴィアさんは、迷いなく棚の一つを開けて資料を取り出した。もしかしたら、ここにある資料を全て記憶しているのかもしれない。
「ありがとう。えっと……街の南から少し行った森林なら、木を切っても大丈夫。ここね」
シャルは資料を私に見せて、場所を教えてくれる。ただ、この資料を私が見て良いものなのかが不安だった。
「ルナは、この国の貴族なんだから、資料を見る権利くらいはあるよ」
私の心を読んだのか、シャルがそう言った。同じ貴族でも領地持ちとそれ以外じゃ色々と違うではとも思ったけど、シャルがそう言うのであれば、大丈夫だろうと判断する。
「なるほどね。あまり切らない方が良い?」
「まぁ、森林がなくなるくらい切られたら困るけど、別にあまり気にしないで良いよ。この区画は、スノーフィリアじゃなくて、国の管轄だし。私の許可があれば切れるから」
「そうなんだ。じゃあ、ありがたく貰ってくね」
「うん。ああ、でも、丸太をそのまま転がしておくのは止めてよ?」
「分かってる」
木の問題もこれで解決だ。後でソルに連絡して、スノーフィリアまで来てもらう事にする。私の月読で連れて行けば、すぐだろうから、それも込みで連絡しておこう。




