205.南東部探索!!
翌日。私達はまたアガルタの噴水広場に集まった。
「まずは、この前の施設は、錬金術を使う場所って事は分かったよ。かなり昔のものみたい」
「まぁ、そりゃそうだろうね」
シエルが言っているのは、後半部分の事だ。こんな街にある時点で、かなり昔のものは当たり前だからね。
「じゃあ、次は、南東部の探索をしようか。どうせだから、今回も組み合わせを変えて、探索しよう。やってない組み合わせは……私とミザリー、ソルとシエル、メレとネロかな」
せっかくだから、次々に組み合わせを変える事にした。結構楽しかったし。
「私達は一番北、ソル達は真ん中、メレ達は一番南を担当で」
「うん。分かった」
「分かりました」
私達はそれぞれで分かれて調査を始める。
「南東部は、住宅が並んでいるみたい」
「そうだね。それに、結構密集しているから、骨が折れそう」
「まぁ、嘆いても仕方ないし、テキパキと調べて行こう」
「うん」
私とミザリーは、一つの住宅の中に入っていく。その中は至って普通の住宅で、生活に必要な家具が一式揃っていた。
「まずは、タンスとかの中身を調べよう」
私達は、二手に分かれて、住宅の中にあるタンスなどを調べて行く。
「ルナさん、こっちには服がいっぱい入ってるよ」
「こっちも同じ。屋敷とは大違いだよ」
取りあえず、残っている服を回収していって、他の場所も調べて行く。ミザリーも同じように調べながら会話をしていった。
「普通の人達は、持っていける物資の数が限られていたって考えられるね」
「上流階級の人は、全て持っていったのにね」
屋敷に何もなく、こっちの住宅で物が残っているという事は、一般住人の引っ越しには、あまり力を入れていないという事が分かる。あの屋敷の物を全部持ち出せるなら、その一部を市井にも使わせた方が良かったのではないかと思ってしまう。これだと服は、十分に持ち出せなかったんじゃないかな。
「まぁ、最優先が街の偉い人になるのは仕方ない事だと思うよ。そういう特権を持っているみたいな事だし。ここに住んでいる人は、職人か何かで、そっちの製品を優先したのかもね」
「ああ、なるほど……それでも、自分達だけ全部持ち出すっていうのは、どうかと思うけど」
「ここで文句言っても仕方ないよ。ほら、ここの探索は終わったし、次の建物に行くよ」
「凄い。ミザリーが年上みたい」
「年上ですけど何か!?」
ミザリーに頬を抓られつつ、次の建物へと向かっていった。その建物でも同様に服が大量に残っていた。この調子でいくと、他の建物も同様に服が残っていると考えた方が良いだろう。
私達は、時々駄弁りながら、探索を進めていった。
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ソルとシエルは、南東部の真ん中にある住宅を調べていた。そこには、ルナ達見つけたのと同じくらいの服が残っていた。
「シエルちゃんが見つけた服に似てるね」
「となれば、引っ越した後は誰も住まなかったって考えられるわけか。ますます何が理由で引っ越したのか気になるな」
「今のところ確定的な証拠は一つも出ないしね。何か分かりやすいものがあると良いんだけど」
「分かりやすいね……」
シエルはそう言いながら、ソルを見る。その視線に気付いたソルは、笑いながらシエルを見返す。
「どうしたの?」
「いや、昨日の企みは成功したの?」
「ぶふっ!?」
想定外の質問に、ソルは思わず空気が漏れた。
「な、な、な、何のこと?」
「そんなに動揺していたら、企んでましたって言ってるようなものでしょ。メレとルナを二人にさせた理由が知りたいだけだよ。ある程度の推測は出来るけど、どうせなら、真実を知りたいと思うのは普通でしょ?」
「ぐぬぬ……」
言い返そうにも言い返せないソルは、なんとも言えない表情で唸っていた。言い訳が思い付かないか、考え込んだが、結局シエルを騙すだけの言い訳は思い付かず、ため息をこぼす。
「はぁ……まぁ、企んではいたよ。でも、全然悪い事じゃないから。ただ、ルナちゃんとメレちゃんを仲良しにさせたかっただけだよ」
「突然そんな事を計画した理由は?」
「内緒……」
メレがルナの事を好きな事は、秘密なので、ソルはそう返すしかなかった。そんなソルを、シエルはジト目で見ている。ソルが、重圧に潰されそうになっていると、不意にその重圧が消えた。
「まぁ、いいや。あまりルナを困らせないようにしなよ。基本的に鈍いけど、気付いたら気付いたで、うじうじ悩んだりするんだから」
「うっ……わ、分かってるよぉ……でも、一歩だけ距離を詰めるのは良いでしょ?」
「確かに、メレは三歩後ろにいるようなイメージだけど」
「ね?」
ソルは、シエルが同じような考えをしていると知り、一気に詰めた。同志を見つけたと言わんばかりだ。
「だからって、あまりお節介を焼かないように」
詰めてきたソルの額にデコピンをしながら、シエルは釘を刺しておく。ソルからしたら、大好きな幼馴染みなのだろうが、シエルから見れば、相手は恋人持ちだ。好意を持っているからといって、そんなにぐいぐいいくのはやめておいた方が良いと思っていた。
「分かってる。後は、メレちゃんが自然に出来るようになれば良いなってところで、止まってるよ」
「はぁ……全く、ルナもルナだけどね。モテモテ体質で鈍いって、漫画の主人公みたい」
「えっ……ルナちゃんって、そんなにモテるの?」
ルナの事を好きな人が意外と多いのは知っているが、モテモテ体質とまで言われる程かとソルは驚いていた。
「ソルは、いつもルナの近くにいたから知らないかもだけど、現実でもそこそこモテていたよ。男子からも女子からもね」
「え~!! でも、ルナちゃんから告白されたって話は聞いた事がないよ?」
「そりゃそうでしょ。ルナの前に番犬が立ってるんだから」
「番犬?」
「番犬」
全く心当たりがないという風なソルを指さして、シエルがそう言う。その指を見てソルも自分の事を指さして、確認する。すると、シエルはその通りという風に縦に頷く。
「何で、私が番犬なのさ!」
「番犬でしょ。常にルナの傍にいて、ルナにくっついて、何も知らない人から見たら、二人が付き合っているんじゃないかってくらいに仲良しなんだから」
「えへへへ」
仲良しという所に反応して、ソルは照れる。そんなソルの額に二発目のデコピンを放つ。
「あう……」
「ソルはソルでモテるんだけどね……」
「えっ、私もモテてたの?」
「男子から一定の支持があったけど、どう考えても自分達が恋愛対象にはならないという事で嘆いてたよ」
クラスで幅広く交友関係があるシエルは、色々な情報を耳にしていた。その中には、ルナやソルへの恋愛感情の情報もあったのだ。
これを聞いたソルは、特に何か反応するわけでもなく、無表情だった。
「男の子ね……全く興味がないなぁ」
「そう言うと思った。こっちからしたら、そこまでモテるのは羨ましいところだよ」
「シエルちゃんの恋愛話って、あまり聞かないよね。どうなの?」
「そんな事はどうでもいいから、探索の続き。ガーディ達に任せきりは駄目でしょ」
シエルはそう言って、探索の続きを始める。
「あっ、誤魔化したでしょ!?」
「知~らない」
「誤魔化さないで話してよぉ!!」
「あ~、何のことかなぁ」
シエルは、のらりくらりとソルの追及を躱しながら探索を続ける。ソルは、何とかシエルの恋愛話を引き出そうと必死になりながら、律儀に探索を続けた。
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ネロとメレは、一番南の住宅から探索を始めていた。
「ネロさんの感覚を頼りにさせて貰っても大丈夫ですか?」
「にゃ。大丈夫にゃ。でも、私でも分からない事はあるにゃ」
「はい。何事も過信はいけませんから」
「にゃ」
メレとネロはそれぞれでタンスやテーブルの裏などを見て回る。
「何かありましたか?」
「服くらいしかないにゃ。これじゃあ、情報に繋がらないにゃ」
「そうですね。分かる事は、ここから引っ越した人達は、ほぼ同時期に引っ越したであろう事ですね」
「なんでにゃ?」
「前にネロさん達が見つけた服と素材や見た目が同じだからです。年代が変われば衣装も変わります。流行と同じです」
「和服から洋服になったのと同じにゃ?」
「似たようなものです。ここまでの技術を持っていれば、さらなる発展もあり得ます」
「だから、同じ時期に引っ越したって分かるのにゃ」
「そういう事です。ただ、もしかしたら、年単位で違う可能性はありますが」
「長い同時期にゃ……」
「それは……そうですね。さすがに、服を見ただけで、どの程度の範囲内で引っ越しをしたのかはわかりませんから」
「なるほどにゃ」
ここで一つの建物の探索を終えた二人は、すぐに次の建物に移る。
「メレは、本当に頭が良いにゃ」
「これは、ただの予測でしかないので、正しいとは限りません。もしかしたら、長い間服飾技術が進歩していない可能性もありますから」
「にゃ。でも、色々考えられるのは、頭が良い証拠にゃ」
「ありがとうございます」
メレは、ネロの頭を優しく撫でる。ネロは嬉しそうに笑う。
「ネロさんは、私達の妹という感じですね」
「にゃ。一番年下だから、そういう感じになるにゃ。可愛がってくれるのは、嬉しいにゃ。私も沢山姉が出来たみたいで、最近は凄く楽しいにゃ」
「それは良かったです」
「にゃ。じゃあ、探索を続けるにゃ」
「はい。頑張りましょう」
「にゃ! そういえば、メレはルナの事が好きなのにゃ?」
「!?」
唐突なネロの言葉に驚いたメレは、何もないところでずっこけた。素早くメレの正面に回ったネロによって受け止められたので、床に身体をぶつける事はなかった。
「あ、ありがとうございます」
「にゃ。まさかずっこけるとは思わなかったにゃ。やっぱり訊かない方が良かったにゃ。ごめんにゃ」
「い、いえ、気にしないでください。それにしても、どうしてそのような事を?」
「にゃ。何となくにゃ」
ネロは、シエルが勘づいていた事は隠して、そう言った。これを訊いたのは、単純に自分の興味本位なので、シエルを巻き込まないようにと考えた結果の行動だ。
「そうですか……では、内緒で」
メレは、唇に人差し指を当ててそう言った。
「分かったにゃ」
これでも食い下がられるかと考えていたメレは、呆気なく諦めたネロに少し驚いた。
「良いんですか?」
「にゃ。大体反応で分かるにゃ」
「!?」
ちゃんと気持ちを隠せていると思っていたメレは、ネロにバレた事が思いのほかショックだった。その後、何とかネロの口止めに必死になるメレだった。




