204.北東部探索報告!!
三時間程掛けて探索を終えた私達は、噴水広場で集合していた。
「さてと、じゃあ、私達から報告するね。あったのは、鍛冶と錬金術的なものをする施設的なものが並んでた」
「は?」
言っている意味がよく分からなかったのか、シエルが眉を寄せていた。その後、隣にいたネロに脇腹を小突かれて、ハッとしたシエルは、眉間を揉み始めた。この三時間で、一体何があったのだろうか。ちょっと気になるけど、今は、私達の報告をしているところなので、それは置いておく。
「はっきりと判明しているわけではないのですが、かなり高度な技術で作られた施設がありまして、その中でよく分からない釜のようなものがあったんです。一応、回収はしておきました」
メレがそう言ったのを聞いて、私は回収しておいた釜を取り出す。ソル達は、その釜を持ち上げて中身を見たりしていた。
「この釜ってどのくらいあったの?」
「ちゃんとは数えてないけど、五十個近くあったんじゃないかな?」
「そうですね。大体そのくらいの数があったと思います」
「じゃあ、この釜を使った錬金術的なものと鍛冶が盛んだったのかもね。他には?」
ソルから訊かれた私とメレは、首を横に振る。
「錆びた剣があったくらい。特に何か繋がるような物はなし。技術力が高い事が分かったってだけかな」
「そうなんだ。私とミザリーちゃんは、薬屋を見つけたよ。薬そのものはなかったけど、薬が溢れたみたいな結晶とミザリーちゃんが本を見つけたよ」
ソルがそう言って、ミザリーが本を取り出した。その本を私に渡してくる。
「これも地底言語か……薬の調合方法かな。よく分からない単語ばかりあるから、専門的な本である事は確実だと思う」
「私達でも作れるにゃ?」
ネロの質問を聞いて、私はもう一度中身確認する。
「う~ん……難しいと思う。材料がよく分からないし」
「材料さえあれば作れるにゃ?」
「そうだね。調合自体の難しさは、そこまででもないと思う。正確に量って混ぜるってだけだから」
「その材料が、錬金術で作られたものって可能性はない?」
ミザリーの意見に、私は少し考え込む。確かに、意味不明の名詞を、錬金術により生産された錬金物と考えれば意味が分からないのも頷ける。
「その可能性はあり得るね。う~ん……本格的に錬金術を学んでみるのも良いかもしれないね……」
「関係のない話はここまでにしましょう。他に、何か情報に繋がるものはありましたか?」
報告会から若干趣旨がズレ始めたところで、メレが正してくれた。
「他は何もないかな。基本的に薬屋が並んでいたくらい」
「過剰なくらい薬屋的な建物が多かったから、色々と役割分担しているんじゃないかなって話してたよ」
私とメレが調べた場所も鍛冶屋とかが過剰に並んでいた。どう考えても供給過多だ。
「もしかしてだけど、シエル達の方も似たような感じ?」
「大体はね。私達の場所は、駄菓子屋とか八百屋的な建物が多かった」
「にゃ。住居と合わさったような建物だったにゃ」
「それで、その住居部分で、こんな物を見つけたんだ」
シエルはそう言うと、一枚の服を取り出した。長時間放置されていたというのに、しっかりと形を保っている。
「良い布でも使ってるのかな?」
「多分ね。引っ張っても千切れないから、かなり頑丈みたい。ここにいた人達の服飾関係の技術は、かなり高いよ」
そう言って、シエルは服を私に渡してくる。別に古代の物を集めているわけじゃないから要らないんだけど、一応貰っておく。
「まぁ、分かった事は、技術力がかなり高いって事だね。本当に古代兵器に関係してきそう」「だね。この後はどうする?」
「解散かな。中途半端な時間になっちゃうし」
「了解。じゃあ、私はメレちゃんと用があるから先に行くね」
ソルはそう言って、メレの手を引っ張って転移していった。
「この前に一緒に探索したからか、さらに仲良くなってる気がする」
「良いことにゃ」
「まぁね。それじゃあ、私は、メアリーさんやアーニャさんに今日見つけたものについて訊いてくるから」
ネロの頭を撫でてから、皆に手を振って王都へと転移した。そのまま最初はメアリーさんの元に向かった。快く迎えてくれたメアリーさんに、釜と本、服を見せていく。
「本と服に関しては、私も分からない。でも、そっちの釜は確か、錬金術で使っているものじゃなかったかな? 結構昔だったはずだけど」
「やっぱり錬金術なんですね。でも、昔って事は、今は違うんですか?」
「うん。今は、どうしているのか分からないけど、釜は使わなくなったって聞いたからね。アーニャにでも訊いてみればいいんじゃないかな。錬金術を使っているはずだし」
「この後アーニャさんに訊きに行こうと思ってたので、ちょうど良かったです」
「そうね。錬金術を使っていた文明……いや、そんなのどこにでもある。特定は無理かな」
メアリーさんには、文明の特定は出来ないらしい。まぁ、文明の特定が出来ても、私にはよく分からないと思うけど。
「古代兵器と関わりがあると思いますか?」
「あり得るとは思う。技術の高さが、それを裏付ける形になってる。でも、本当に古代兵器が関わっているかどうか分からないから、そこまで気負わないようにね」
「はい」
そこでメアリーさんと別れて、アーニャさんがいるヘルメスの館に向かった。
「ただいま」
「おかえり、ルナちゃん。アーニャ様に用?」
「うん」
「分かった。ちょっと待ってて」
私を迎えてくれたアイナちゃんが、アーニャさんを連れて戻ってくる。
「いらっしゃい。武器の調子でも悪くなったのかしら?」
「いえ、これを見てもらいたくて」
そう言って、釜と本と服を取り出してアーニャさん達に見せる。
「あら、随分と古い物を持ってきたわね」
「分かるんですか?」
「ええ。かなり古式の錬金術に使うものよ。中に材料を入れて、魔力を流すと、あら不思議! 何かが出来上がっているって感じの物よ」
「そんなに簡単に出来るんですか?」
思ったよりも簡単なやり方で驚いた。これなら私でも出来そう。そう思っていると、アーニャさんは凄く微妙そうな顔をしていた。
「ああ……うん……まぁ……言葉で言うだけならね。実際は、中身が見えない状態で、完成した事を察しないと、黒い粘液状の物が出来上がるのよ。このタイミングが、掴みづらくて、随分前に廃れたわ。どこで、こんな物を見つけてきたのかしら?」
「砂漠の地下にあったアガルタという街で見つけました。もう誰も住んでいない街です」
「アガルタ……?」
アーニャさんは、少し眉を寄せていた。
「心当たりが?」
「まぁ……」
「言えないんですね」
「ごめんね。秘密が多くて」
「何かしらの事情があることは分かってます。まぁ、ちょっと気になりますけど」
「言えたら良いんだけどね」
アーニャさんは申し訳なさそうにしている。アーニャさんに秘密がある事は知っているので、私はもう特に何も思わない。
「こっちは、何かご存知ですか?」
私は、服の方を見せる。
「う~ん……子供服ね」
「はい……それだけですか?」
「え? うん。それしか分からないわね」
「そうですか……まぁ、錬金術の施設があったって事が分かっただけでも収穫ですね」
「そうね。あっ、一つだけアドバイスをしておくわ。錬金術師は、秘密主義よ」
「だから、アーニャさんも秘密ばかりなんですね」
私がそう言うと、アーニャさんは目を泳がせた。そのタイミングで、アイナちゃんがお茶とケーキを運んできてくれた。
「はい。今日のおすすめのチョコレートケーキだよ」
「ありがとう、アイナちゃん」
「あれ? フルーツケーキは?」
「アーニャ様は、先程食べたので、お茶だけです。最近食べ過ぎですから」
「ああ……アイナがケチだわ……」
アーニャさんは、お茶だけを啜って嘆いていた。そんなアーニャさんを尻目に、私とアイナちゃんはケーキを美味しくいただいた。
結局、今回の収穫は、アガルタでは、錬金術が盛んに行われていたという事実が分かった事とかなりの高等技術を持ち合わせていたという事だった。
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アトランティス港に転移したソルとメレは、海岸にタオルを敷いて座っていた。
「それで、どうだった? 上手くいった?」
ソルは、メレに詰め寄って今日の成果を聞き出そうとしていた。
「一応、手は繋げました。後、いつでも言ってくれたら手を繋いであげるとも言っていただけました。何かを致命的に勘違いしていそうでしたが」
「まぁ、ルナちゃんだしね。いきなり好意に敏感になっていたら、怖いもん。でも、やったね。後は、自然に抱きつけたら、最高なんだけどなぁ」
「いきなりは無理ですよ」
メレは苦笑いをしながらそう言った。
「え~、まぁ、普通に手を繋げただけで、一歩前進ってところかな」
「手を繋ぐくらいでしたら、普通のお友達でもするんですよね?」
「うん。もちろん! 私だってよくルナちゃんと手繋いだりするもん」
「ソルさんを基準にするのは、間違っているような……」
「何か言った?」
「い、いえ!」
慌てて両手を振るメレの肩に、ソルが寄りかかる。
「いきなりルナちゃんにするのが、難しいなら、まずは私から慣れていけば良いんじゃないかな?」
「ソルさんからですか?」
「うん。私で慣れたら、ルナちゃんにも同じように出来るんじゃない?」
「そういうものでしょうか?」
ソルの提案に、メレは懐疑的だったが、ソルは気にした様子もなくぴったりとメレにくっついている。
「そういうものだよ。というわけで、はい」
ソルは一旦メレから離れて、両手を広げた。いつでも受け止める事が出来ると言わんばかりだ。
「え、えっと……」
「早く早く」
躊躇いを見せているメレに、ソルは催促する。それを受けたメレは、少し遠慮がちにソルを抱きしめる。それに対して、ソルは力強くメレを抱きしめた。メレは少しびっくりしつつも、ソルの肩に頭を預ける。
「ほら、こうしていたら慣れると思わない?」
「そうでしょうか。正直なところ、相手がソルさんだからだと思いますが」
「私だと緊張しないの?」
「そうですね。不思議と緊張はしません。憧れの人ではないからでしょうか?」
「え~、何か酷い」
ソルが少し頬を膨らます。そのまま二人で見つめ合うと、どちらからともなく笑い合った。
「いつかルナちゃん相手でも同じように出来ると良いね」
「そうですね」
それから、小一時間程話して、ソルとメレはログアウトした。




