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203.一歩前進?

 さっきの建物から、さらに裏の建物は、さっきの建物にあった錬金術を扱いそうな設備と鍛冶屋が合わさったような所だった。


「複合施設と言ったところでしょうか?」

「そうみたい。足元に剣が散らばっているから、気を付けてね」


 剣の散らばり具合が、さっきの鍛冶屋の比じゃない。


「きゃっ!?」


 言った直後に、剣に引っ掛かって、メレがつんのめった。すかさずメレの前に手を伸ばして支える。


「今言ったばっかなのに」

「す、すみません」


 メレがしっかりと自分の足で立ったのを確認してから放す。でも、ちょっと迷ってから、メレの手を取った。


「取りあえず、向こうに行こう。剣が落ちてないから」

「ありがとうございます」


 メレは若干恥ずかしそうにしていたけど、また転びそうで怖いから許して欲しい。まぁ、年上だから色々と思うところはあるのだと思うけど。

 メレを剣が落ちていない場所に連れて行った


「こっちを調べてくれる? 私は、剣を片付けながら、向こうを調べるよ」

「分かりました」


 私は鍛冶屋部分の片付けをしながら、何か情報に繋がる物がないか確認していく。あるのは、鍛冶屋にもあった錆びた剣ばかりだった。放置されていたから仕方ないといえば仕方ないけど。


「こっちは、さっきの鍛冶屋と変わらないや。そっちは?」

「こっちも同じです。ドラフト一つと釜が複数あるくらいです。情報に繋がるようなものはありません」

「そっか。じゃあ、次に行こう」

「はい」


 そう言って返事をするメレの視線が、一瞬私の手に向いた。もしかして、さっき手を繋いだときに、煤が付いちゃったのかな。ちゃんと払ったつもりだったんだけど、煤だからこべり付いていたのかも。こういうとき、黒い手袋だと見えにくいから困る。


「何かごめんね」

「えっ!? いえ、何がでしょうか?」

「あれ? 煤が付いちゃったとかじゃないの?」

「いえ、多少付いてはいますが、特に気にしてはいません」

「?」


 余計に何で手に視線を向けたのか分からない。こういうとき、ソルだったら手を繋ぎたいとか何だろうけど。いや、もしかしたら、メレも同じなのかも。


「手繋ぐ?」


 私がそう訊きながら、手を差し出すと、メレは目をぱちくりとさせていた。やっぱり、ソルだけなのかな。勘違いしちゃったかも。そう思って、私が手を引っ込めようとすると、メレは慌てて手を取ってきた。


「ま、また転んだらあれですので」


 メレは、少し恥ずかしそうにそう言った。そのまま次の建物に向かう。今度は、隣の建物だ。手を繋いだまま中に入ると、中はさっきと同じ施設となっていた。違うのは、剣が散らばっていないくらいのものだ。一応、キーボードを操作して、中を確かめた。それも同じ構成だったので、これが基本的なものなんだと思う。

 何も残っていない事を確認してから、次の建物に向かう。


「それにしても、何で手を繋ぎたかったの?」

「!?」


 道の途中で訊いたら、メレは驚いて固まった。


「えっと……」

「さっきのやつが嘘って事くらいは分かるよ。短い付き合いだけど、濃い付き合いなんだから。そもそもアイドルだったから、運動神経が極端に悪いというわけじゃないから、さっきのだって偶々転んだってだけだしね」


 歌って踊るアイドルだったから、メレはそこまで運動が出来ないわけじゃない。確かに、少しばかり運動は苦手っぽかったけど、剣に何度も躓く程ではない。さっきは、念のため移動して貰ったけどね。


「その……」


 メレは言いにくそうに、顔を逸らした。やましいことがあるというよりも、ただ単純に言いにくいって感じだ。


「まぁ、言いたくないなら、それでも良いんだけど。手くらいなら、好きなときに繋ぎたいって言えば、いつでも繋ぐからさ」

「はい」


 メレは、少し嬉しそうにそう言った。

 多分、色々な不安とかがあったんだと思う。メレはアイドルをやっていたし、普段の生活とかでもストレスが溜まる事が多いのかもしれない。

 そう考えると、手を繋ぎたいというのも理解は出来る。そういうスキンシップがストレス軽減や幸福感を上げる事に繋がるって話を聞いた事があるし。これくらいで、メレが癒やされるなら、喜んでするに決まっている。私も、シルヴィアさんに抱きしめられたり、寄り添えるだけで幸福感が溢れてくるから、気持ちはよく分かるしね。

 そのままメレの手を取ったまま、私達は探索を続ける。


────────────────────────


 中央を担当するソルとミザリーは、一つの建物に入っていく。その中は、棚が並んでおり、何かを販売していた店と判断出来た。


「何だろう? 粉みたいなのがあるよ?」

「ん? 本当だ。結晶みたいだね。という事は、薬屋って感じかな。でも、それを入っていたガラス瓶とかは一切ないみたいだけど……溢れたにしては、変だけど」


 ソルの後ろから覗いたミザリーがそう言う。


「変って……ああ、そうか。置いていた瓶から溢れたんだとしたら、瓶に沿った跡が出来る可能性が高いもんね。ミザリーちゃんって、こういうのに詳しい?」

「一応、学校で習ってはいるけど、詳しいってわけではないよ。成績は普通だし」

「そう……じゃあ、一応結晶を回収しておくね」

「よろしく。私は、カウンターの裏に行ってみるよ」


 店のカウンターの裏に入ったミザリーは、一冊の本を見つけた。それも地底言語で書かれていたため、読むことは出来ない。


「本を見つけたよ。中身は、よく分からないけど、何かの方程式みたいなのが書かれているよ」

「調合用の何かかも。後で、ルナちゃんに渡そう」

「そうだね。この奥は、調合室みたい。まるで、街の薬局だね」

「ということは、薬の残りみたいなのがあるかも」


 二人は、裏の調合室みたいな場所を隈無く調べる。しかし、薬の残りなどは見付からなかった。


「ここも徹底して持っていかれてるね」

「うん。でも、やっぱり大きな機材みたいなのは残ってるみたい」

「薬は持っていっても、機材は残すの?」

「機材は、別の場所でも作る事が出来るんじゃない」

「薬はすぐに必要になるから持っていくって事なら、ちょっと納得かも。でも、家具はともかく、機材は持っていった方が良くない?」

「ああ……」


 ソルの疑問に、ミザリーは言葉が出なくなる。単純に、答えが思いつかないからだった。


「まぁ、そんな事考えても仕方ないね。次の建物を調べに行こうか」

「そうだね」


 ソルとミザリーは、次の建物を探索しに向かった。


────────────────────────


 北東部の一番南を担当するシエルとネロは、一つの建物に入った。


「ガーディ『起きて』」


 ガーディを起こした入ったそこに、シエルは既視感を覚えた。


「駄菓子屋?」

「にゃ? これが駄菓子屋にゃ?」

「駄菓子屋には行った事がないの?」

「にゃ。家の近くにはなかったにゃ。お祖母ちゃん家の近くにはあったみたいだけど、私は、そこまで遠出出来ないから、行った事ないのにゃ」

「なるほどね。私も最近は行ってないな。今度行ってみようと思うけど、写真いる?」

「にゃ! 欲しいにゃ!」


 ネロが尻尾をピンと立てているのを見て、シエルは微笑む。


「さて、ここに何があるか確認しよう。ガーディ、何か見つけたら報告して」


 ガーディはこくりと頷くと、駄菓子屋の中をずんずんと進んで行った。


「特にお菓子が残っているとかはなさそうにゃ」

「まぁ、食糧は全部持っていったんでしょ。その棚の裏とかに、秘密のノートとかない?」

「…………ないにゃ」

「まぁ、さすがにないか」


 シエルはそう言いながら、何かが入っていたであろう箱を持ち上げていく。下に何かが隠れているかもしれないからだ。ガーディやネロが反応しない時点で、そこに何かがある可能性は低い。だが、可能性がある限り、シエルは気になってしまうので調べていた。


「奥は住居みたいになっているにゃ」

「家具はある?」

「あるにゃ」

「じゃあ、その中も調べよう」


 シエルも奥に入っていくと、ガーディがシエルに寄ってきた。


「何か見つけた?」


 シエルが訊くと、ガーディは頷いた。


「案内して」


 ガーディに付いていくと、一つのタンスの前で止まり、上から二段目を指した。


「ありがとう」


 ガーディの頭を撫でた後、シエルはタンスを開ける。すると、そこには一枚の服が入っていた。


「持ち出し忘れたって事か」


 触ってみても服が壊れるなんて事はなかった。そのまま持ち上げてみると、埃が立つ。


「けほっ……けほっ……子供用の服か。綺麗な感じだし、服飾関係の技術レベルは高いみたい」

「にゃ。ジパングも機械で出来ていたにゃ。古代都市に関係するところは、基本的に技術レベルが高いにゃ?」

「まぁ、アトランティスもアルカディアも異常な技術力で出来ていたし、それは合ってるかもね」


 シエルはそう言って、服をアイテム欄に仕舞う。


「ネロは何か見つけた?」

「その服以外入ってないにゃ。その服だけ忘れたって事にゃ?」

「そうだろうね。次の建物に行こう。ガーディ、先に行って調べてきて」


 ガーディを先行させて、シエルとネロは歩いて次の建物へと歩く。そんな中、シエルの顔を見ていたネロが、シエルの前で後ろ歩きをしながら話しかける。


「何か考え事にゃ?」

「……表情に出てた?」


 シエルは、自分の頬を触りながら訊く。


「にゃ。時々眉が寄っているにゃ」

「はぁ……皺になる前に気を付けよ」


 シエルは、眉間を揉みながらそう決心した。


「ソルがくい気味に、組み合わせを決めたでしょ? 何となくソルらしくないと思ったんだ」

「らしくないにゃ?」

「そう。こういうときに決めるのは、基本的にルナなんだよ。でも、今回はそうじゃなかった。いつもならルナの言葉を待つところで、ソルがくい気味に決めたって感じ。少なくとも私は、そういう風に思えた」


 ソルとは、ルナの次に長い付き合いとなっている。その長い付き合いで、ソルの人となりを知っているシエルは、今回のソルの言動に違和感を抱いていた。


「絶対、何か企んでいるんだけど、何を企んでいるのかは分からないんだよね」

「悪い事にゃ?」


 これまでの付き合いで、ソルが悪い人でないことは分かっているが、それでも少し心配になってしまっていた。


「いや、悪い事じゃないよ。変な事ではあるけど。多分、ルナとメレを二人っきりにしたかったんじゃない?」

「なんでにゃ?」

「お節介じゃない。多分、メレがルナに用があるとかだと思う。もしかしたら、メレがルナの事を好きなのかもね」

「そうなのにゃ?」

「もしかしたらだよ。そこまで恋愛事に敏いわけじゃないし」


 シエルの予想は的中しているが、本人に確信はなかった。

 ネロの方は、頭にクエスチョンマークを浮かべながら首を捻っている。シエルは、その頭の上に手を置く。


「まぁ、気にしても仕方ないし、さっさと探索を進めよう。こっちは、ガーディもネロもいるから、進みも早くなるだろうし」

「にゃ。頑張るにゃ」

「頼りにしてる」


 シエルとネロ達も探索を続けていった。

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