200.メレの気持ち(2)!!
探索を続けていたメレとソルは、互いに顔を見合いながら、微笑み合う。そして、メレは、笑うソルを見て、一つの決心をする。
「倒される時に、ルナさんの顔をちゃんと見る事が出来て、とても綺麗な人だと思って好きになりましたね」
「えっ!?」
聞き捨てならない言葉に、探索をしているソルの手が止まった。
「ルナさんになら、どんな痛い事をされても快楽になりそうです」
「えっ……!?」
どう反応して良いのか分からない言葉に、ソルはメレの方を振り返った。メレは、何も気にしていないみたいに、探索を続けていたので、ソルも探索に戻った。
「でも、ルナさんは私を見てはくれませんから、私の片想いですね」
メレは何事もなかったように、話の続きを始めた。
「メレちゃん、ルナちゃんの事好きだったんだ……全然気付かなかった」
恋愛ごとには疎くないつもりだったソルは、メレの気持ちを見抜けなかった事に、何故かショックを受けていた。ソルの声の感じから、それを見抜いたメレは、思わず笑ってしまった。
「本心を隠す事は慣れていますから」
「何か、アイドルの闇を見た気がする……」
「いえ、アイドルが全員、私みたいな方々という訳では無いですよ? 私は、アイドルの中でも異質みたいですから」
アイドルとして順風満帆の中で、活動を一時休止し、学校に通うなどという事は、普通ならしないだろうと、メレは考えていた。実際、マネージャーから似たような事を言われている。
「ふぅん。何か、この短時間でメレちゃんの一面を知れた気がする。知りたくなかったところもあったけど」
メレがルナを好きな事、やっぱりドMの片鱗を有していた事、そして、本心を隠して生活出来る事。ソルが知らなかった、そして知りたくなかった事を色々と知れた。その事を、ソルは少し嬉しく思っていた。
「そうですか? 私としては、もっとソルさんの事を知りたいので、何でもお話していただけると嬉しいです」
「私の話? 何だろう? 一人っ子とか?」
自分の話と言われても、ソルには特に話す内容が思いつかなかった。唯一出て来たものが、一人っ子だという事だった。
こんな話の種になるか分からない内容でも、メレは気分を害していなかった。それどころか、そこから会話を発展させる。
「そうなんですか? そういえば、ルナさんも一人っ子でしたよね?」
「うん。だから、ルナちゃんとは親友兼姉妹みたいな感覚かな」
そう言われたメレは、普段の学校での二人を思い出す。
「姉妹にしては、距離が近いと思いますが」
学校で見る光景で、二人の関係に関する事と言えば、日向が朔夜に抱きついたり、肩と肩がぴったりと合うくらい近くにいたりするものだった。どちらでも、朔夜は暑いと言うだけで、本気で嫌がっている事はなかった。
「そう? まぁ、ルナちゃんの事は大好きだから、仕方ないね」
ソルは、臆面もなくそう言った。
「ソルさんもルナさんが好きなんですね」
「うん。でも、恋愛的な意味じゃないよ? 家族的な感じでね。ルナちゃんも同じだと思う」
「そう……ですか?」
「何で疑問形?」
メレの言葉の感じから、それが疑問形だと気付いたソルは、どうしてなのか理解出来ず直接訊いた。
「いえ、どちらかと言うと、恋愛的な意味でルナさんの事を好きだと思っていましたから」
そう言われたソルは、一瞬だけ手が止まる。だが、すぐに我に返り手を動かし始めた。
「……そんなわけないじゃん。さっきも言った通り、姉妹同然だと思っているんだから」
「姉妹同然でも、好きになることはおかしくはないですよ。それをおかしいという人がいたら、私が倒します」
ソルの言葉を言い訳のように感じたメレは、普段から考えられない程強い口調でそう言った。それだけで、メレが本気で言っている事が分かる。
「メレちゃんが倒してくれるなら、安心だね」
軽く流すようにそう言ったソルの後頭部に、メレからの視線が刺さる。それを感じたソルは、観念したように息を吐いた。
「はぁ……うん。私はルナちゃんの事を好きだよ。恋愛的な意味でね。ルナちゃんに恋人が出来て、初めて自分の気持ちに気付くなんて、ちょっと皮肉かな」
「そうですね。好きな人に恋人がいたら、諦めるしかないですから」
「ね。告白する前に振られているようなものだし。メレちゃんも同じ気持ち?」
「そうですね。ですが、私は最初から告白する気はありませんでしたので、あまりショックではありませんでした」
「私も同じだったのかな。ルナちゃんがシルヴィアさんの事を好きだと気付いた時、普通に応援しなきゃって思っていたし。恋人になったって聞いた時も、真っ先に出て来たのは、お祝いの言葉だったもん」
ソルが自分の気持ちに気が付いたのは、ルナがシルヴィアと恋人になったと言われた時だった。その時に驚きと同時に、小さな嫉妬心が芽生えた事で気が付いたのだ。
だが、その嫉妬心よりも、ルナが自身の幸せに近づいた事を嬉しく思う気持ちの方が大きかった。だからこそ、すぐに祝いの言葉が出て来たのだ。
「ソルさんは、優しいですしね」
「そうでもないよ。家に帰って、一人になった時、沢山泣いたもん。何で、こんなに近くにあった気持ちに気付かなかったんだろうって」
「近すぎるものには、気が付きにくいんですよ。灯台下暗しというやつですね」
「今も嫉妬の気持ちはあるけどね。私の方が、ルナちゃんの色々な事を知ってるのにって」
「それでも、それを表に出さないというのは、優しいと言えると思いますよ?」
「メレちゃんは、どうなの? 嫉妬とかないの?」
自分ばかり気持ちを曝け出している気がすると思ったソルは、メレの気持ちを探るため直球で訊く。
「そうですね。私も嫉妬していると思います。そういうところで言えば、ソルさんよりも嫉妬は強いと思いますよ」
「えっ、そうなの!?」
メレの事だから、そこまで嫉妬はしていませんと答えるだろうなと思っていたソルは、その正反対の答えに、少し驚いた。
「はい。私は、ソルさんにもネロさんにも嫉妬していますから」
「えっ!?」
自分も対象に含まれている事を知り、ソルはメレの方を見る。それを雰囲気で感じ取ったメレも、ソルの方にを振り返る。
「私は、どうやっても、お二人のようにルナさんと接する事は出来ませんから。自分が年上というのもあるからでしょうか。物理的に、少し距離を開けてしまうんです。なので、誰がいてもルナさんと触れ合えるお二人に嫉妬しています」
メレの正直な言葉に、ソルは声を出す事が出来ない。そんなソルを見て、メレは朗らかに笑う。
「そこまで気にしなくて良いですよ。お二人が嫌いという訳ではありません。寧ろ好きですよ」
「はぁ……良かったぁ。メレちゃんに嫌われたかと思っちゃった……」
「ふふふ、ちょっと意地悪をしちゃいましたね。私は、良いなぁとは思いますが、嫌いになるほど憎むという事はありませんよ」
メレの言葉に、ソルはホッと一安心する。
「メレちゃんでも意地悪をする事あるんだね?」
「お友達ですから」
良い笑顔でそう言うメレに、ソルも思わず笑みが溢れた。互いに笑い合った後、また探索を再開する。
「でも、どうして、そんな事を話してくれたの?」
メレが話してくれた内容は、ソルが一生知らなくてもおかしくはない内容だった。嫉妬の対象本人に堂々と正面から嫉妬しているなど伝えるなど、普通ならあり得ない事だろう。
少なくともソルはそう思っていたので、素直に訊いてみたのだった。
「ソルさんの気持ちを無理矢理訊いたも同然でしたから、私の気持ちも伝えておこうかと思いまして」
「伝えられた内容は、ちょっと重い感じだったけど……」
「私は、皆さんのことを嫌いにはなりませんので、安心してください」
「本当に、そこだけは安心だよ。でも、メレちゃんがルナちゃんと触れあいたいと思っているとは思わなかったなぁ。多分、ルナちゃんなら、いきなり抱きついても、どうしたの程度で済むと思うよ?」
「誰しもがソルさんやネロさんのようにはいかないのですよ」
メレは、少し遠い目になっていた。
「そうかな? メレちゃんが遠慮し過ぎな気もするけど」
「……この話はここまでにしましょう」
「え~、なんで? メレちゃんから始めた話だよ?」
「何だかどんどんと私がどうやってルナさんと触れ合うのかみたいになってきましたので」
「よし! それを考えよう!」
メレはやぶへびになってしまったと、自分の発言を後悔した。そこから、どうすれば、自然とメレとルナが触れ合えるのかを話していった。
その間、探索の手を止める事はなかった。