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199.メレの気持ち(1)

 ソルとメレは、別邸一階の探索で一つの成果を得ていた。


「これは……お金?」

「ですかね? 私達が使うゴールドとは違うみたいですが」


 ソル達が見つけたのは、絵画の裏に隠されたへそくりだった。だが、それは、現在使われているゴールドでは無く、見た事のない硬貨だった。


「おお……古銭って事だね。売れるかな?」

「無理だと思いますよ。そもそもどのくらいの価値があるのか向こうで決まっているかも分かりませんから」

「古代系のものって、基本的に廃れている感じだもんね。そもそも、本当に硬貨だと思ってくれるかすら、怪しいって事にもなるか」


 二人は、せっかく古銭を手に入れたが、使い物にはならないと判断した。


「う~ん……記念品かな」

「人数分あると良いですね」

「ね。皆でお揃いに出来るもんね」


 そんな事を話ながら、一階の探索を終える。本邸と違い、浴場も書斎もなかったので、ひたすら小さな部屋を探索するというものだった。それでも、ずっと世間話をしていたため、二人は、全く飽きているような雰囲気はなかった。


「一階は終わったし、二階に行こうか」

「そうですね」


 二人は、二階へと上がり、部屋の探索を始めた。その中で、メレはソルにある相談をしていた。


「攻撃方法を増やしたい?」

「はい」

「メレちゃんの攻撃ってあれでしょ? 大声で破壊するやつ」


 ソルの言う通り、メレの攻撃方法は、大音響の振動による攻撃だ。その攻撃方法故に、仲間にも被害が出る可能性がある。それを解決したいと、メレはずっと考えているのだ。ルナには、何度か相談しているが良い答えは得られない。そのため、ソルにも一対一で相談してみたのだ。


「あれ? でも、何かどこかで別の攻撃してなかった? 声の高さ?みたいなの変えてたじゃん」

「あれは、生物には通用しませんし、相手の振動数を探らないとですから、あまり実用的ではないのです」

「そういう事なんだ。後は……超音波攻撃とか?」

「超音波ですか……」


 若干戸惑うメレだったが、物は試しと考え、声を出す。最初は、ソルにも普通に聞こえていたのだが、メレが意識して周波を変えていくと、段々と聞こえなくなっていった。ただそれだけで、特に何かが起こっているような雰囲気はない。


「ど、どうでしょうか?」

「うん。超音波みたいにはなってるんだろうけど、正直何も分からなかったよ。今度は、もっと大声で出して見て」

「これを大声でですか。やってみます」


 メレはそう言って、またさっき以上の声で叫ぶ。


「んっ……」


 その課程でモスキート音のようになった音が、ソルの耳を襲った。それを聞いたソルは、少し顔を顰める。だが、すぐに可聴域から離れ、不快感が消えた。


「どうでしょうか?」

「途中モスキート音みたいになっていて不快な感じがしたけど、それ以外は、特に何もだね。超音波攻撃作戦は失敗かな。じゃあ、エコーロケーションは? 音の反響で周辺の地形とかを把握するやつ」

「なるほど……やってみます」


 さすがに、超音波はメレにも聞こえないので、普通の声でやってみる事にした。目を閉じ、一定の周波と音量で声を発する。

 そして、その音の反響を耳で聞き分ける。


「……?」


 やってみたは良いが、メレは首を傾げていた。


「よく分かりません。見える範囲の物の配置は、何となく分かった気がします。でも、全体的に朧気なんです」

「なるほどね……そもそも訓練しないと出来ない事だろうし、最初から上手くはいかないよね。でも、これが出来たら、ダンジョンとかでのマップ把握が出来るようになるかも!」

「確かに、これは使えそうですね……でも、これって、攻撃じゃないですよね?」

「あっ……」


 そもそものメレの相談は攻撃方法を考えて欲しいというもの。だが、ソルが出した答えは、どちらかと言うと、探索方面のアイデアだった。

 その事に気付いたソルは、若干申し訳なさそうにしていた。


「ご、ごめんね。全然思いつかなかった……」

「いえ、気にしないでください。やっぱり、声で戦うのには限界があるというのが分かっただけでも収穫です」


 ルナもソルも思いつかないとなると、他に恐らく他の面々に訊いても同じだろうとメレは判断した。


「何かしらの方法があっても良いと思うんだけどね。呪いの歌とか」

「呪いの歌?」

「うん。それなら攻撃技でありそうじゃない? スキルレベルが上がって、そういう技は出なかったの? ずっと前にアルカディアで音の壁みたいなの使ってたじゃん?」

「音の壁……あっ、音の防壁ですね。すっかり忘れてました……」

「ルナちゃんもメレちゃんもうっかり忘れする事あるよね」


 ソルにそう言われると、メレは少し恥ずかしそうにしていた。普段から使っているわけではないので、すっかり抜けていたのだ。


「えっと……特にないですね。増えたのは、魅了の歌などです」

「魅了の歌? 何かえっちだね」

「そ、そうですかね?」


 自分ではあまりそう感じていなかったので、改めてそう言われると、メレも恥ずかしい気持ちが出て来る。メレは、それを顔に出さないようにして、魅了の歌の効果を確かめた。


「これは、沈静の歌の逆バージョンみたいです」


 沈静の歌は、モンスターの状態を沈静化させるもの。その逆と言えば、敵寄せと考えるのが普通だろう。


「敵寄せか……でも、名前的には、攻撃無効も付いていそうだけど」

「引き寄せるだけなら、誘引などでも良いですしね」

「うん。魅了って位だから、メレちゃんにメロメロになると思うんだ。メロメロになったのに、メレちゃんに危害を加えるって何か変だと思うし」


 効果の全部が分かるわけではないので、二人は、名前から効果を考えていた。


「確かに、それもそうですね。今度使ってみます」


 効果の全貌を知るのであれば、実際に使ってみる事が一番だ。サービスの初期からやっているソル達は、その事をよく知っている。


「あっ、それをするなら、私達の誰かを呼んでね? どう考えても危険だから」

「最悪、音の砲撃で倒しますから大丈夫だと思いますよ?」


 メレは、攻撃手段が乏しいというだけで、攻撃出来ないわけではない。そのため、何かあっても一応は対処出来るとメレは考えていた。それに、一度死んでも一時間のデスペナだけなので、あまり気にしないでも良い。だが、ソルはそうではない。


「万が一があるでしょ。なるべく死なないにこした事はないんだから。それに、最近は物騒だし」


 物騒という言葉で、メレはソルがしていた話を思い出した。


「そういえば、プレイヤーキラーが蔓延っているのでしたね」

「そうそう。人は、モンスターのように簡単に撃退とはいかないんだよ? この前みたいなのは、ルナちゃんがおかしいだけだから」

「ルナさんは躊躇いなく倒しますしね」


 二人は、この前のピラミッドでの出来事を思い出していた。ルナは、相手が一番恐怖するであろう倒し方で倒した。敵が命乞いしても完全に無視をして倒し続けた。そこら辺の躊躇のなさを、メレは少し尊敬している。自分であれば、少し躊躇ってしまう場面だからだ。


「ああいった手合いは、穏便に済ませられないからね。まずは話し合いからってよりも、問答無用で倒す方が手っ取り早いっていうのは、私も同じ意見だよ。でも、そのせいで、またトラブルを引き寄せちゃうのが、ルナちゃんなんだよね」


 ルナのトラブル体質は、自分で引き寄せている面もある。ルナ自身も最近の行いで自覚し始めている。


「さすが、幼馴染みですね。ルナさんの事を理解しているという感じがします」

「まぁね。ルナちゃんは、昔から自分が正しいと思った事にまっすぐだから、敵を作りやすいんだ。でも、それ以上にルナちゃんを理解してくれる人も惹きつけるんだよね」

「そうですね」


 メレは、ルナの周りにいる人達を思い出しながら同意した。ルナには敵もいるが、それ以上に味方となってくれる人が多い。それらは、ルナの人柄からきているとメレ達は考えていた。


「メレちゃんもルナちゃんの人柄で惹かれた感じ?」

「いえ、ルナさんの眼に惹かれました」

「眼?」


 今のルナの眼は、キャラクリで作った赤い眼をしている。綺麗な眼ではあるが、そこまで特別な眼だったかとソルは考えていた。


「はい。私を攫った時、ルナさんの眼が冷たく綺麗に見えて、背筋がゾクッとしたんです。これから私は何をされるんだろうって、心臓がぎゅっとしました。強がりで、色々と言おうとしましたけど、ナイフを突きつけられて、最終的に首を斬られてしまいましたね」

「あははは……」


 やっている事がルナらしいので、ソルも空笑いしか出来ない。初対面で、敵として出会えば必ずと言っても良いほど味わえるのが、ルナの冷たい眼だ。敵としてしか認識していない場合、ルナは全く優しくない。冷酷に倒すだけだ。

 その事をソルもメレもよく理解していた。

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