198.アガルタ屋敷探索!!
本邸の探索をしていた私達は、ある一つ部屋の探索で時間を食われていた。
「あるとは思っていたけど、まさかこの規模の物だとは思わなかったわ」
「ね。私も思わなかった。しかも、ここに限って、ほとんど物が残っているって言うね」
私達が時間を食われている場所は、この本邸の書斎だった。いや、書斎と言うには、その規模は大きすぎる。私の屋敷の倍以上の広さだから、もはや図書館と呼べるだろう。
さらに、これまでの部屋には家具くらいしか残っていなかったのに対して、ここの本棚には、大量の本が残ったままになっていた。
「さすがに、この数の本を持っていくのは厳しかったって感じかな?」
「だろうね。これだけ運べるなら、家具の方も運べるでしょ」
「勿体ないなぁ」
「情報になるんだから、有り難いと思った方が良いんじゃない。全部古代言語な訳だし」
そう。ここにあった本は、全部地底言語で書かれた本だった。でも、何かの情報になるかは分からない。そのほとんどが、普通の本の地底言語版みたいな感じだったからだ。このモグラを使った料理レシピとかに情報が載っているとか言われたら、思わず「はぁ?」って言ってしまうかもしれない。
「モグラを使った料理って何?」
本のタイトルを伝えたら、シエルにそう訊かれた。私も若干気になったので、中身を見てみると、色々なレシピが載っている。
「シチューとかショウガとかで炒めたりとかだって。絵が載ってるわけじゃないから、美味しそうかどうかは分からないかな」
「ここら辺の特産だったって感じ?」
「どうだろう? でも、レシピの量はかなり多いから、そうなのかもね」
そんな事を言いつつ、シエルとプティ、ガーディが集めてくれた本をアイテム欄に叩き込んでいく。題名から何が書かれているかの見当はつくから、読みたい本は屋敷の本棚に入れておくつもりだ。屋敷の本棚も結構埋まってきたけど、まだまだ空きはあるしね。
「取りあえず、これで全部取ってきたみたい」
シエルの言う通り、見える範囲にもう本はない。プティ達が集めに行かない事からも、全部集め終わったと判断出来る。集め終えるまで、三十分近く掛かった。片っ端から何も考えず集めてこれなので、厳選して持って帰ってきていたら、何時間も掛かっていただろう。
「はぁ……戦闘よりも疲れた気がする」
「まぁ、走り回って、大量の本を抱えて戻ってきて、また走り回ってを繰り返したわけだしね」
「最後に、簡単にここを調べる?」
本を集めていただけで、ちゃんと調べられていたわけじゃない。そのため、シエルの提案ももっともな事だった。
「うん。軽く調べて見よう。もしかしたら、本棚の向こうに隠し部屋があるかもしれないし」
「了解。プティ、ガーディ、何か空間を見つけたら知らせる事。行って」
シエルの指示に従って、プティとガーディが動き出す。私達も本棚の裏に何かないか調べて行く。結果、ここに怪しい場所はないという事が分かった。
「私達の感覚じゃ見抜けないっていうのもあるのかな?」
「可能性としては、あり得るでしょ。隅から隅まで全てを綺麗に調べたいなら、ネロに頼るしかないでしょ。あの子は、私達の中で一番そういうのに敏感なんだから」
「まぁ、それはそうだけどね。取りあえず、書斎は何もなしって判断して、次の部屋に行こうか」
「オッケー」
私達は一階の部屋を全て探索し終える。この屋敷にも、私の屋敷同様浴場があった。浴場の大きさ的には、私の屋敷よりも小さい。やっぱり、前の持ち主がお風呂好きだったという事が大きいのだと思う。
結果だけいえば、特に怪しいものを見つける事が出来なかった。唯一の怪しいものといえば、回収した本だけだ。一階の収穫はそれだけだったので、二階で情報を得られたら良いなぁと思いつつ、二階に上がっていく。二階には、壁に絵や額縁が掛けられていた。
私とシエルは、無言で絵や額縁の裏を確認する。
「……何も無しか」
「そう都合良くへそくりは残っていないって事みたい。まぁ、態々へそくりを残しておくなんて事するわけないか」
「まぁ、大切なお金を持っていかないなんて選択肢はないだろうし。どうする? この絵画とか回収して売る?」
「……ラメリアさんなら、買い取ってくれるかな……いや、やめとこ」
「オッケー。取りあえず、裏を調べるくらいね」
私達は二階の探索を始める。部屋の一つに入ると、そこは、食堂のような場所だった。大きなテーブルに大量の椅子。壁に立てられている鎧立て(鎧付き)。漫画や映画などで見たことのある貴族の食堂みたいだ。
「ガーディ、テーブルの下を調べて。プティ、鎧に何かあったら教えて」
シエルは、ガーディ達に指示を出すと、テーブルの上に載せてあるテーブルクロスを手に取った。
「結構良い布っぽい」
「へぇ~……全く分からん。家にあるものと似た感じはするけど」
「自分が貴族だって忘れた? 良いものを揃えているんでしょ?」
「えぇ~……全部マイアさんに任せてるから、全く分からん」
私がそう言うと、シエルは呆れたような目で見てくる。でも、マイアさんに任せるのが一番だったし、仕方ないと言いたい。そこまで思って、私はある事を思い出した。
「あっ、そういえば、収支報告書を貰ってたっけ」
「なら、そこに調度品の欄とかあんじゃない?」
この前は金額とかをちゃちゃっと見ただけだから、しっかりとした確認はしてなかった。
「うん……この値段だって」
「うわぁ……」
シエルに調度品の購入値段を見せると、完全に引いていた。
「いつも金欠のルナとは思えない豪勢さ」
「余計なお世話だよ」
私が金欠の理由は、装備にお金が掛かりすぎているだけ。シエル達よりも頻繁に壊れているし、強化も頻繁にしているので仕方ないのだ。
「まぁ、これは置いておいて。何か情報に繋がる物はあった?」
私が訊くと、シエルがガーディ達を見る。視線に気付いたガーディ達は、首を横に振る。特にめぼしい物はなかったみたいだ。
「食堂には何なし。書斎の本は、一つ一つ確認する必要があるから、後回しとして、後怪しそうな部屋ってなんだろう?」
「それこそ執務室じゃない? 重要な書類とかは、そこに集めておくでしょ?」
「ああ、シャルの仕事場みたいな感じか。あり得るかも。執務室がある事を祈りながら、探索を続けようか」
「オッケー」
私とシエルの本邸探索は、あまり成果のないまま進んで行った。
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庭の探索をしていたネロとミザリーは、別邸の裏に来ていた。そこには、墓場のような場所があった。二人は、そこに足を踏み入れる。
「普通のお墓みたいにゃ」
「だね。でも、こういうところには、隠し部屋があるってのが定番じゃない?」
「にゃ。ゲームだとよくあるにゃ。でも、ここのお墓は土に埋められているから、よく分からないにゃ」
これまで隠し部屋を耳で見つけてきたネロだが、それらは石などの隙間が出来るものの奥にある場所に限られる。こうして、土葬されている場所では、下に空間があるのかどうかは分からない。
「さっきの変な感じってやつは?」
「さっきよりも強い気がするにゃ」
「何だろうね。気分が悪いとかではないよね?」
「にゃ。絶好調にゃ」
ネロの体調不良を心配したミザリーだが、さっきまで元気に走り回っていた事を思い出し、ネロが元気に跳ねているのを見て、それはないなと判断した。
「ところで、お墓の文字が読めないけど、ネロちゃんも?」
「にゃ。さっきの石碑と同じで古代文字みたいにゃ」
「これもルナさんに読んでもらわないとだね。これなら、私達も読めるようになった方が良い気がしてくるよ」
本格的に古代文字をルナに習うかと考えているミザリーをよそに、ネロは近くに生えている木々を調べて行く。
「これも普通の木にゃ」
「じゃあ、別邸の庭はこれくらいにして、本邸の裏に行こうか」
「にゃ。んにゃ……!?」
ネロは返事をした瞬間、耳を塞いでしゃがみ込んだ。
「ど、どうしたの、ネロさん!?」
ミザリーは、ネロの傍に近寄る。ネロは、少し間しゃがんだままだったが、何でもないように立ち上がる。
「にゃ~……何か変な音がしたにゃ。ミザリーは、聞こえなかったにゃ?」
「え? 変な音? 全然聞こえなかったけど」
「? またにゃ!?」
ネロは、再び耳を塞いでしゃがみ込む。だが、ミザリーの耳には何も聞こえない。何が原因かも、音の発生源も分からないミザリーは、せめてもの手助けとして、耳を塞いでいるネロの手の上から、自分の手を重ねて聞こえにくくさせるくらいの事しか出来なかった。
「にゃ……止んだニャ」
「良かった……音の発生源は分かる?」
ミザリーに訊かれて、少し考え込むネロだったが、首を横に振った。
「音を聞かないようにしていたから、よく分からないにゃ。一体何だったのにゃ?」
「さぁ? ネロさんが分からないとなると、私も分からないよ。取りあえず、ここからは離れておこう。ネロさんを狙い撃ちにした攻撃の可能性もあるし」
「にゃ」
ネロ達は、先程の予定通り、本邸の裏へと向かった。その間、またネロが嫌な音を聞くことはなかった。その事に安堵しつつ、本邸の裏を探索する。
そこには、枯れた池が存在した。
「ここも干上がってる。本当に長い時間が経ったって感じだね」
「にゃ。あそこに水道みたいなのがあるにゃ。地下水を汲み上げていたのかもしれないにゃ」
ネロが指した方には、本当に水道みたいな物があった。それは完全に乾いている。水が出なくなって、長いときが流れた証拠だろう。
「う~ん……池底に何かあるかとも思ったけど、特になさそうだね。他に怪しい場所はない?」
「特に見当たらないにゃ。ついでに、変な感じもあるにゃ。でも、さっきより弱い気がするにゃ」
「ふむふむ。別邸に何かあるって事かな?」
「それなら、ソルとメレの報告を期待するにゃ」
「そうだね」
特に何も見当たらないが、ネロとミザリーは、念のため徹底的に調べる事にした。