188.高速攻略!!
翌日の夜。私は、シャルとシルヴィアさんに、鬼の力の報告をしにスノーフィリアに来ていた。二人も安心させてあげないといけないから。まぁ、正直、安心する内容なのか分からないけど。
屋敷に入って、シャルの部屋に向かう。いつも通りノックをして返事を貰ってから、中に入る。
「お疲れ様、今大丈夫?」
「うん。もう仕事は終わってるから」
今、シャルがやってるのは、片付けた書類の整理みたいだ。
「それで、どうしたの?」
「あ、うん。実は、鬼の力を制御出来るようになったっぽいんだ」
「えっ!? 良かったじゃ……ん? ぽい?」
シャルが眉を寄せて、若干混乱していた。
「なんか、力が馴染むまでに時間が掛かるらしくて、まだ完全に制御出来るわけじゃないんだよね。でも、頭痛はしなくなるみたい」
「へぇ~、まぁ、頭痛に悩まされないのなら、良かったじゃん」
「まぁね。ただ寿命が延びて、身体能力が異常に上がるみたいな副作用があるみたいなんだ」
「えっ……それって大丈夫なの?」
「私の本体は、向こうの世界にあるわけだし、あまり影響はないと思う」
「それもそうか」
シャルは、少し安心した様に息を吐く。
「まぁ、何か異常があったら、報告して。こっちでも、鬼の力について調べるようにしたから、何か情報が入ったら教えてあげる。多分、古代言語の書物とかになるから、姉様から話が来る確率の方が高いかも」
「えっ、ありがとう」
「私達が困ってた時に助けて貰ったんだもん。私達だって、ルナが困ってたら助けるよ」
シャルは、笑いながらそう言ってくれる。ここまでしてくれるのは、本当に嬉しい。
「お礼は、デートで良いよ」
これがなければ、もっと感謝してあげられるんだけどね。
「まぁ、シルヴィアさんが怒らない範囲でなら良いよ。ところで、シルヴィアさんは?」
「先に片付けておいた書類を町長のところに持っていってる。そろそろ帰ってくると思うよ」
「それじゃあ、ここで待たせて貰おうかな」
「良いよ。そこのソファ使って」
「うん」
シャルに言われた通り、ソファでシルヴィアさんを待つ事にした。少ししたら、整理を終えたシャルが隣に来たので、特に退屈する事なくシルヴィアさんを待つことが出来た。
それから十分くらいで、シルヴィアさんが帰ってくる。
「ただいま戻りました」
「おかえり、シルヴィア」
「おかえりなさい、シルヴィアさん」
シルヴィアさんは、ソファで寛いでいる私達を見て、少し固まった後、シャルの机を見た。
「ちゃ、ちゃんと整理したって!」
シルヴィアさんは、整理をサボって遊んでいるのではと疑ったらしい。恐らく前科があるのだろう。
「そうですね。しっかりと終わらせて頂けたようで良かったです。では、先にお風呂に入ってしまいましょう。ルナもご一緒にいかがですか?」
「あ、ご一緒します」
「やった。行こう行こう!」
シャルに手を取られて、部屋を出て行く。シルヴィアさんは、後を追ってこないけど、多分シャルの着替えとかタオルを準備しているんだと思う。
シャルと一緒に屋敷にある浴場の中に入っていった。先に入った私達は、洗い場で頭を洗っていく。
「シャルって、自分で洗えるんだね?」
「さらりと失礼な事を言うね。お姫様にどんなイメージを持ってるの?」
「お付きの人に全部やってもらう的な」
「シルヴィアが、そんなに甘いと思う?」
「確かに、シルヴィアさんなら、ある程度は一人で出来るようになりなさいって言いそう」
「まさにそんな感じ。だから、私は一人でもある程度は出来るよ」
「ふぅん」
そんな話をしながら髪に付いたシャンプーを洗い流していく。すると、いきなりシャワーの角度が変わった。
「?」
色々な方向から、頭が洗い流されていく。シャワーが止まってから後ろを振り向くと、やっぱりシルヴィアさんがいた。シルヴィアさんは、何も言わずに身体も洗われ始める。
「そうだ。シルヴィアさんにも伝えたい事があるんです」
「伝えたい事ですか?」
私は、さっきシャルに説明した鬼の力についてシルヴィアさんに説明した。
「そうでしたか。それは良かったです。ですが、寿命が延びる……ですか……」
「シャルにも言いましたけど、大丈夫だと思いますよ。私の本体は、向こうの世界にありますから」
「確かにそうですね。ですが、何かあれば言って下さい。お力になります」
「ふふ、シャルと似たような事言ってますね」
「そうでしたか。本当に遠慮はしないで良いですからね」
「はい」
シルヴィさんに身体を洗って貰った後、シルヴィアさんは、私の身体を観察し始めた。
「あの……どうかしましたか?」
「いえ、鬼の力が馴染む結果、入れ墨などが現れていないかと思いまして」
シルヴィアさんがそう言うと、シャルも私の身体をジッと見始めた。
「見た感じ、それらしきものは見当たらないけど」
「そうですね。鬼の力というものは、表面には現れないと思って良いかもしれませんね」
「力って、入れ墨って形で現れる事もあるんですか?」
「そうですね。入れ墨を使って、身体能力を高める事が出来ると聞いた事があります。やっている者は、少ないようですが」
「確か、おまじない的な意味も込めて入れている人もいるって話もあったはず」
「へぇ~」
ちょっと意外な話が聞けた。入れ墨を使ったパワーアップなんて事があるなんて。これが知れ渡ったら、試しにと思ってやってみるプレイヤーが出て来そう。
「確か、リリウムも同じように入れ墨を入れるかどうか迷ってましたね」
「それって」
「ええ、恋人が出来るようにというものです。結局、その方向での努力はやめたようですが」
「そうだったんですか。そのおまじないって効果あるんですか?」
私がそう訊くと、シャルとシルヴィアさんは顔を見合わせてから首を横に振った。
「気休め程度というところです」
「私もそれが功を奏したみたいな話は、私も聞いた事ないかな」
「そうなんだ」
何か効果があれば、小さいのならやってみても良いかなって思ったけど、そういう事なら止めとこう。
その後、三人で湯船に浸かってゆっくりとした。結局、私の身体に鬼の力を象徴するような何かは刻まれていなかった。ちょっとちょっと一安心かも。
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土曜日。ピラミッドの攻略を進めるべく、私はアアルの噴水広場に居た。今回は、ネロでは無くソルが早めに来ていた。なので、二人でベンチに座って皆を待つ。
「ルナちゃん、調子はどう?」
「今のところ変わりないよ」
「何かあったら、いつでも言ってね。私も手伝うから」
「ありがとう」
お礼を言うとソルは、私の肩に頭を乗っける。
「現実でもだよ? 何かルナちゃんの鬼の力って、本当に異質なものだと思うんだ」
「スキル名が無いから?」
「うん。実装前のスキルを獲得出来るようにするわけがないから」
「まぁ、ゲーム的に考えたらそうだよね」
「そうだとしたら、もしかしたら、現実にも影響があるかもしれないでしょ? だから、絶対に言ってね?」
「分かってるよ」
ソルにそう言われるまで、あまり深く考えてなかった。この力が現実にも影響するかもしれないなんて。少し前だったら、現実に影響なんてするはずもないと言えたんだけど、先週の土曜日に聞いたシエルの話があるから、否定しきることが出来ない。
そんなちょっと暗めの話をしていると、皆が集まってきた。その時には、私もソルも暗い雰囲気など出さないで、明るく皆を迎える。こういう所の意思疎通は、さすが幼馴染みと言ったところだろう。
「それじゃあ、皆も集まった事だし、さっそくピラミッドに行こう」
いつも通りの移動法で、私達はピラミッドへと向かって行く。今日一つ目に向かったピラミッドは、最初に攻略したピラミッドの隣にあるピラミッドだ。大きさ的には、最初に攻略したところと一緒なので、攻略法に違いは無いと思われる。ただ、隠し部屋を見つけないといけないという事もあり、ミイラが溢れかえっている状態では満足に探索出来ない。そのため、まずは、ミイラを呼び出しているボスを倒す必要があった。
ピラミッドに着いた私達は、前と同くハープーンで皆を運んでいった。
「じゃあ、前と同じように前衛三人とメレの聖歌で進んで行こう」
「分かった。そうだ、鳴神を使っても良い? 多少撃ち漏らしが出るかもしれないけど」
「別に良いよ。後ろは、私とミザリーがいるから。ネロも、白虎のスキル上げをしても良いよ」
「分かったにゃ」
この前は、皆、力を温存していったけど、今回は最初から全力で行く事になった。ソルは、鳴神を上手く扱えていないみたいだから、こういう多対一の状態で練習したいみたい。まぁ、良い機会なのは間違いないからね。
メレが聖歌を歌い、シエルがプティを纏い、ソルが鳴神を纏い、ネロが白虎形態になった。姿を変えた三人からちらっと私を見る視線を受けたが、首を横に振っておいた。まだ鬼の力が馴染んだ感じはしていないので、力を使う事は出来ない。だから、三人の期待には添えないのだ。
全力態勢のソル達が相手では、ミイラ達もひとたまりもないようで、現れた瞬間から消滅していった。特にソルの鳴神がヤバイ。一薙ぎで十数体のミイラを消滅させられる。
「本当にソルの鳴神とメレの聖歌は、反則だよね……」
「多分、ルナさんの鬼の力も同等の力なんじゃないかな? あの焦炎童子よりも強いかもしれない鬼王っていうのの力なんでしょ?」
「あの長が言っていた事が本当ならね。それでも断片だから、焦炎童子より強いかどうかは分からないよ。実際、戦った時は私の力は通用しなかったわけだし」
「でも、その時は、力が馴染んだ状態じゃなかったんでしょ?」
「そこは不明。あの時は、頭痛なんて一切なかったわけだから」
「それもそうか。何だろう? お試し期間だったのかな?」
「そんな通販やサブスクみたいな……」
私とミザリーは、やれる事が地図を書くくらいなので、そんな風に話している余裕があった。そのままの調子で、ボスまで進むと、またボスのファラオがミイラを呼び出していた。
「またファラオだ」
「ピラミッドのボスは、全部ファラオなのかもね」
この前は、天照で二回撃つ事によって、ファラオを倒した。でも、今回は、その必要もなさそうだ。
雷になったソルが急接近して、鳴神でファラオを斬る。前の時と同じように、最初の一撃は見えない障壁で弾かれた。それと同時に、ファラオが周囲に炎を撒き散らす。
「おお……包帯まみれなのに、炎を使うんだ」
「同じファラオでも、使う魔法の属性が違うみたいだね。同じボスだと思っていると、痛い目に遭いそうだね」
「確かにね。でも、ソルなら大丈夫かな」
炎を避けたソルは、再び雷となってファラオの背後に回り、鳴神を振う。やっぱり一撃だけだと、障壁が防いでしまう。そして、二撃目を振う前にファラオの攻撃が挟まる。そのせいで、また最初からの判定になってしまう。
それを確認したソルは、鳴神に雷を集め、ファラオに向かって振り下ろす。鳴神の物理攻撃は、障壁によって弾かれたが、続いて放たれた鳴神の雷撃は防ぐ事が出来ず、ファラオに落ちた。その一撃でファラオの身体は黒焦げになり、その場に倒れた。そして、トドメの一撃として、ソルがファラオの首を刎ねた。
その後、ミイラが一体も出現しなくなったところから、ファラオを倒す事が出来たと分かる。
「それじゃあ、ミザリーはメレの護衛をよろしく」
「うん」
ミイラの掃討には、私も手を貸す。このボス部屋なら、私も攻撃に参加する余裕があるから。五分もしないうちに、ミイラの掃討が完了する。それと同時にメレも聖歌を止めた。使わないと分かってはいるけど、一応ファラオのドロップアイテムである杖を回収しておく。今回の杖は、火属性の杖だったので、そのファラオが持っている杖が手に入るって事で、間違いない。
そこからは、ピラミッドの分かれ道を一つ一つ調べて行く。隠し部屋の場所は、ネロの感覚ですぐに分かるので、そこまで苦労する事もなく発見する事が出来た。
「ここにゃ」
「それじゃあ、適当に壁を触って、扉のスイッチを探そう」
皆で壁を触って確かめていると、私が触っていた壁の一部が凹んだ。そして、壁がスライドして下り階段が現れる。皆で階段を下っていくと、この前と同じように棺が置いてあった。ソルと一緒に蓋を開けると、そこにはまた鍵が一つ入っていた。
「さて、これで二つ。この調子でいけば、今日は、あと二箇所は行けるかな」
「うん。この感じなら行けると思うよ」
ソル達の鳴神と白虎、着せ替え人形で、ミイラを蹴散らす方法で攻略する方向でいく事に決まった。