185.今日こそ突破する!!
翌日の夜。学校で授業を終え、夕飯とお風呂を済ませた私は、ジパングの神社に来ていた。今日こそ、自分自身の影と決着を付けるためだ。いつもの頭痛に襲われながら、神社の中央に立つ。
また光に覆われ、真っ白な空間に飛ばされる。目の前に私の影が現れる。
「それじゃあ、突破させて貰うよ!」
私は、須佐之男を構えて、こっちから突っ込む。影は、私と同じように須佐之男を取り出した。それを構える前に、須佐之男の引き金を引く。影は、須佐之男と黒羽織を盾にして、散弾を受けきる。
私は、止まることなく須佐之男で散弾を撃ち続ける。全八発を受けた須佐之男は、さすがに使い物にならなくなっていた。
「『クイックチェンジ』!」
私は、須佐之男から韋駄天に入れ替える。
「銃技『一斉射撃』!」
韋駄天に装填していたフルメタルジャケット弾を全て影に向かって放つ。貫通力に重きを置いたフルメタルジャケット弾の連射は、黒羽織によって防がれてはいるものの、内部へのダメージを防げるわけじゃないみたいで、影はくの字に曲がった。
「『クイックチェンジ』!」
今度は韋駄天を黒闇天に入れ替える。中に装填しているのは、雷光弾だ。私は、影に接近して黒闇天の銃口を付ける。
「銃技『零距離射撃』『一斉射撃』!」
零距離射撃によって威力の上がった雷光弾が、十発全て命中する。零距離射撃のおかげか黒羽織の防御力を突破して、攻撃を命中させる事が出来た。雷光弾の効果で、影がビクンビクンと痙攣する。自分が痙攣する姿を見せられて、何だか嫌な気分になる。
「体術『二対衝波』!」
黒闇天を上に投げてから、両手で掌底を打ち込む。そこから衝撃が駆け抜けて、影がまたくの字に曲がる。
「体術『円月』!」
前に出た頭を蹴り上げる。影の身体は宙を舞う。その影の身体に向かって、頭から突っ込む。
「体術『破城槌』!」
影の腹部に、私の頭が突き刺さる。その一撃で、影の身体は五メートル以上吹き飛んでいく。
「舞踏術『烈風の舞』」
烈風の舞は、踏み込んだ場所から風を生み出し、自分の走る速度を上げる技だ。ただ踏み込む毎に加速していくから、直線で走るならまだしも、戦闘中や障害物が多い場所では、使いづらい。
私は、たった一歩の加速で影に追いつく。その私の手には黒影が握られている。
「短剣術『アブドマン・スタブ』」
腹部への大ダメージを与える効果のある技を使い、影のお腹に黒影を突き刺す。それでも夜烏の防御は抜けない。だから、それだけで終わらない。
「体術『衝波』!」
いつものように、黒影の柄に向かって掌底を打ち込む。夜烏を貫通はしないが、それでも切っ先が内側にめり込んだ。これで大ダメージを与えられると思っていたけど、そう上手くはいかなかった。
でも、ここで攻撃の手を緩めたら、いつもと同じになってしまう。だから、緩めない。上に向かって伸ばした手に向かって、黒闇天が落ちてくる。
「リロード術『次元装填』」
銃を落とす過程でマガジンを捨て、その軌道上にマガジンを出現させて、リロードを終わらせる。装填した弾は、旋風弾。命中した箇所に小規模の竜巻を生み出して、相手を吹き飛ばすというもの。一発だけだったら、相手を大きく吹き飛ばすだけになるけど、十発全部なら、相手を錐揉み状態にして吹き飛ばす事が出来る。
「銃技『一斉射撃』!」
影は空中を錐揉みしながら飛んでいく。
「『クイックチェンジ』」
黒闇天から天照に入れ替えて、飛んでいく影に狙いを付ける。威力で吹き飛ばすなら、これが一番だ。私自身が死んだところからも明らかな事。
「銃技『精密射撃』」
天照から撃ち出した弾は、正確に飛んでいった影に命中した。頭に命中させる事は叶わなかったけど、腹部に命中した結果、影のお腹をごっそりとえぐり取った。見ているこっちが痛い。自分の姿をしているから尚更だ。
「これで倒せたはず……はぁ……最初からこうやって戦えば良かったのか……」
私は、一応油断せずに天照を向けておく。すると、影の輪郭がぼやけていき、消えた。
「ふぅ……」
大きく息をつきながら、天照を仕舞う。そんな捜査をしていると、自分の手が震えている事に気が付いた。その手を固く握る。ようやく緊張が解れたって感じかな。
ただ一つ気になる事があった。
「これで鬼の力を制御出来たのかな……?」
正直、これだけだと自分自身を倒しただけのような気がする。そんな事を考えていると、周囲の景色が変わっていき、元の神社に戻ってきた。
「痛っ!」
神社に戻った事で頭痛が再発する。取りあえず力を抑えつけるイメージで頭痛を止ませる。
「はぁ……はぁ……ん?」
頭痛を止ませて、落ち着いたところで気付いた。神社の中央にあった魔法陣が消え去っている事に。そして、魔法陣があった場所には、懐中時計みたいな物が落ちていた。
拾い上げて、中を見てみると、時計ではなくコンパスだった。
「北を指してない」
ここが最北端で、北に海がある事は確認しているので、コンパスが北を指しているのかどうかは、すぐに分かった。
「じゃあ、これは次の試練的なもの?」
まだまだ力の制御は出来なさそうだ。取りあえず、私はコンパスに指し示された方角に何があるかを確認するため、神社を出て物見櫓に登った。
「えっと……示しているのが南西か。特にめぼしい物はないか。探索は、また今度にして、シルヴィアさんのところに行こう。確か、今日はいるって言ってたし」
私は、スノーフィリアに転移して、シルヴィアさんの元に向かった。部屋に着くと、シルヴィアさんが中に入れてくれた。部屋に入った私は、黒羽織と夜烏から部屋着に着替えた。そして、すぐにシルヴィアさんに抱きついた。
「どうされましたか?」
突然抱きついたので、シルヴィアさんは少し驚いていた。
「影との戦いに勝ちました」
「それは、おめでとうございます」
シルヴィアさんはそう言って、私の頭を撫でてくれた。
「少し疲れてしまいましたか?」
「……はい」
私がシルヴィアさんに抱きついた理由を、あっさりと見抜かれてしまった。自分自身との戦いは、体力と言うよりも精神力の消耗が凄まじかった。自分を滅多打ちにしているから、当然と言えば当然なのかもしれない。
「激闘でしたか?」
「いえ、今回は、こっちが一方的に攻撃出来ましたから。でも、自分自身を貫くのは、気分が悪かったです」
「それは……そうですね。自分の姿をしたものを殺めるのですから、気持ちが良いわけがありませんでしたね。配慮が足りませんでした」
シルヴィアさんはそう言って、私を持ち上げると一緒にベッドに横になった。
「何かルナのしたいことはありますか?」
「えっ……!?」
この状態でそんな事を訊かれたので、思わず顔が赤くなってしまう。
「ルナの頭の中は、桃色みたいですね」
「むぅ……こんな状態で訊かれたら、誰でも想像しちゃいます!」
「では、その想像通りの事をしますか」
「えっ!?」
「嘘です」
シルヴィアさんはそう言って、笑った。完全にからかわれた私は、頬を膨らませてシルヴィアさんの胸に顔を埋もれさせた。
「しばらくこのままが良いです」
「はい。満足するまで」
私は、十分間くらいシルヴィアさんの心音を聴いて過ごした。シルヴィアさんは、何も言わずに私の頭を撫でていた。
シルヴィアさんにくっついて英気を養った私は、シルヴィアさんの胸から顔を離した。
「シルヴィアさんは、私にして欲しい事とか無いんですか?」
私の我が儘を聞いてくれたので、今度はシルヴィアさんの我が儘を聞こうという考えだ。されてばかりだと、恋人って感じもしないからね。こっちからも何かを返さないと。
「して欲しい事ですか……」
シルヴィアさんは少し考え込む。
「特に思いつきませんね」
シルヴィアさんの手が私の頬を撫でる。今の状態に満足しちゃっているから、それ以上を求めてないって感じかな。
「じゃあ、今度デートしませんか? スノーフィリアじゃなくて、王都で」
「そうですね。スノーフィリアでの仕事が終われば、姫様も王都に戻りますので、その時にデートしましょう」
シルヴィアさんとデートの約束をした私は、ふと神社で拾ったコンパスの事を思い出す。コンパスを取り出して、中を見てみると、相変わらず南西を指していた。
「あれ?」
「どうされましたか?」
「いえ、このコンパスを神社で拾ったんですけど」
シルヴィアさんにコンパスを渡す。受け取ったシルヴィアさんは、コンパスの針を見る。そして、少し首を傾げると、ベッドから起き上がって自分の荷物を探り始めた。シルヴィアさんが、荷物から取り出したのは自分のコンパスだった。
「私の感覚が間違っているのかと思いましたが、そうではないようですね。目的地を示すコンパスですか」
「そうみたいです。影を倒した後の神社に落ちていたので、次の試練の場所を示していると思っているんですけど」
「その考えで正しいかと。ですが、この方角ですとジパングの方角ではなさそうですね」
「はい。だから、私も驚いたんです。ジパングを指すなら、東側に向くはずなのに」
角度は多少違うけど、方角的にはずっと南西だ。スノーフィリアから南西にあるところと言えば、まず思いつくのはユートリアだ。
「まずはユートリアに行ってみようと思います。方角的には、ユートリアになると思いますので」
「そうですね。私がご一緒出来ませんが、頑張って下さい」
「はい!」
シルヴィアさんからコンパスを受け取って、いつものように過ごしていった。