184.日向の剣道大会観戦(2)!!
その日の夜。私は、またシルヴィアさんの部屋にいた。今日は、膝枕では無くシルヴィアさんの膝の上に座っていた。
「今日、ソルの試合を観て、色々と分かりました」
「どんな事が分かりましたか?」
「待ちの姿勢です。ソルは、ジッと相手の動きを見て隙を突いていました。私は、どちらかと言うと、相手の動きを阻害してから攻撃をするという戦い方をする事が多かったと思います。多分、そこに拘ってしまっていたのだと思います」
私は、強敵と戦う時、基本的に相手の動きを止める行動をする。氷結弾がそれだ。
「後は、目眩ましで自分を隠して、戦う事も多いです。多分、ここら辺の戦い方じゃ、自分には勝てないんだと思います。だって、相手も自分だから」
「では、次はどのように戦うべきだと思いますか?」
シルヴィアさんにそう言われて、少し考える。
「正面突破でしょうか?」
「なるほど。つまり、ゴリ押しで戦うという事ですね?」
「はい。実際、私の影は、黒羽織とか夜烏で私の攻撃を防いで突っ込んでくる事が多かった気がするんです。それに、私よりも銃の狙いが正確ですし、爆弾の扱いも上でした。状況判断は、向こうの方が上と考えた方が良いと思います。なら、その状況判断が出来ないくらい攻め続ければあるいは」
私がそう言うと、シルヴィアさんは難しい顔をした。さすがに、楽観的過ぎるかな。
「確かに、ルナがやろうと思えば怒濤の攻めが出来るでしょう。ですが、話を聞いた限り、前回それをやったのではないですか?」
シルヴィアさんには、これまでの影の戦いを全て伝えている。それでアドバイスを貰えるわけじゃないけど、シルヴィアさんには伝えた方が良いと思ったからだ。そのおかげで、今もシルヴィアさんが気が付いた事を言って貰えた。
「でも、この前は煙幕を使って撃ち続けた感じですから、結局目眩まししてますし」
「そういえば、そうでしたね。それにしても、良い勉強が出来たようで良かったです。ですが、これだけは忘れないでください。今日見た戦いは、あくまでソル様の戦い方です。それが必ずしも、あなたの戦い方に合うかどうかは分かりません。一つの戦い方に固執しないようにしてください」
「はい。分かりました」
何だかんだ言ってアドバイスをくれた。シルヴィアさんからしたら、このくらいの事はアドバイスじゃなくて、忠告って感じなのかも。
今日もシルヴィアさんと楽しい夜を過ごしてからログアウトし、就寝した。
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翌日。昨日と同じ駅に来ると、既に美玲と大空が待っていた。
「おはよう。二人とも早いね」
「おはよう。昨日はギリギリだったから、一本早く来ただけ」
「私は、偶々一本早いのに乗れたって感じだよ」
二人とも昨日よりも一つ早い電車に乗れたから、早く着いたみたい。舞歌が合流したのは、昨日と同じ時間だった。今日の舞歌は、カツラとサングラスだけ着けてきていた。やっぱり、マスクをしているよりも怪しくない。
「お、遅くなってすみません!」
「いや、昨日と同じ時間だから、遅くなってないよ」
舞歌は、私達が既に集まっているのを見て、また遅れたと思ったみたい。
「それじゃあ、行こうか」
私達は、昨日も行った大会会場まで向かった。そして、昨日と同じ席が空いていたので、そこに陣取る。
「今日は団体戦だっけ?」
席に着いた大空がそう訊いてくる。
「そうだよ。日向は中堅だから、一番重要な役割の場所だね」
「そうなの?」
「うん。団体戦は、五人で戦うんだけど、三回勝った方が勝ちだから、三番目に戦う中堅は勝利を決める人にもピンチを凌ぐ人でもあるんだ」
「へぇ~、なるほどね」
疑問が晴れたみたいで、美玲はうんうんと頷いていた。私は日向の試合を観に行ったりするから、知っているけど、美玲みたいなあまり縁のなかった人は知らない事の方が多い。
「日向は強いから、もしかしたら大将を任されるかもって思っていたけど、さすがにそれはなかったみたいだね。パンフだと、三年生が大将みたい。他も三年生だから、一人だけ学年が違うんだ」
「経験が豊富な方が強いのかもしれませんね」
「そういえば、他の人達の個人戦の戦績はどうなの?」
「どうだったっけ。確か、参加者は一回戦で敗退していた気がするけど」
「……望み薄か」
「失礼だよ、大空」
ちょっと失礼な事を言うので、大空を窘める。まぁ、でも、お世辞にも勝てる見込みがあるとは言えないのは事実だった。
「ところで、団体戦は何試合目なの?」
美玲がそう訊く。パンフを持っているのが私だけなので、必然的に私に訊くことになる。
「えっと、団体戦も第一試合からだよ」
「じゃあ、すぐだね」
それからすぐ日向達の試合が始まった。先鋒と次鋒の試合は、どちらとも相手に取られてしまった。
「これで日向さんが負けたら、ストレート負けになるって事だよね……」
「そうだけど、まぁ、日向が負ける事はないだろうから、ここから三勝すれば勝てるよ」
「そうですね。改めて、日向さんが大事なポジションだと認識させられますね」
試合が日向の番になる。私は、すかさず携帯を向けて動画に撮る。これも黒江に送ってあげるためだ。
今回の試合は、日向から攻めていった。昨日の試合を観て、日向対策をしていたであろう相手は、昨日とは違う戦い方をする日向に対処しきれず面を取られて、二本とも許してしまった。これで一勝取り返した。ここから二勝すれば、二回戦進出だ。
まぁ、二勝すればだけど。
「負けちゃいましたね」
「まぁ、仕方ないよ」
結局、副将戦で負けたので、一回戦敗退となった。
「負けちゃったね」
「相手が悪かった。調べて見たら、去年の優勝校だったみたい」
大空は、いつの間にか去年の結果を調べていたみたい。相手が去年の優勝校じゃ、個人戦で優勝した日向はともかく他の部員は分が悪い。
敗退した日向達は、会場から出て行った。
「一回戦で負けたけど、日向達はどうするんだろう?」
「どうするって?」
大空の言っている意味が分からず、聞き返す。
「閉会式までいないのなら、これで帰るって事もあり得るんじゃない?」
「それはないかな。日向は優勝者だから、表彰式に出ないといけないでしょ」
「ああ、それもそうか。それじゃあ、ここで待つしかないか」
「そういう事。日向は、ここを離れられないだろうし、昨日と同じように、お昼ご飯でも買ってゆっくりとしてよ」
「そうしましょう」
私達は、昨日と同じくコンビニでお昼ご飯を買ってきて、席に着く。すると、胴着姿の日向がやってきて、隣に座った。
「ここに居てもいいの?」
「もう試合もないから、精神統一しておけとも言われないしね。せっかくだから、さくちゃん達のところに来たんだ」
日向はそう言って、私の肩に頭を乗せてくる。
「日向……もしかして、部員に友達がいないの?」
「いるよ! さくちゃん達がいたから、こっちに行っても良いよって言われたの!」
ちょっと心配になったけど、ちゃんと友達はいるっぽい。まぁ、私ならともかく日向が友達を作れないなんて滅多にない事だし。
「はぁ……表彰式なんて面倒くさいよね。昨日のうちにやればいいのに」
日向は、私の肩に頭を乗せたままぶつくさと呟いていた。
「まぁ、仕方ないでしょ。せっかくなら、全員一遍に表彰したいんだよ。見栄え的にも良いんだろうし」
「むぅ……」
日向は、むくれて頭を肩に擦りつけてくる。
「黒江と同じような事しない」
日向の頭を肩から離す。
「ああ……いじわる」
日向が悲しげな顔をするけど、ここは無視。
「日向、お疲れ様」
私と日向のやり取りが一段落したところで、大空が日向を労う。
「ありがとう、大空ちゃん」
「日向さんの試合、凄かったです。あんな戦い方も出来るんですね」
「あんな戦い方? ああ、昨日は違うように動いたからだね。ああやった方が、相手も混乱するでしょ? 相手の虚を突かないとね。こっちに鳴神があれば、楽で良いのにね」
これには舞歌も苦笑いだった。鳴神なんて、剣道で使ったらチートも良いところだ。その後、日向も一緒にお昼を食べて、大会が終わるのを待ち続けた。
そして、全ての行程を終えて、閉会式が執り行われる時間になる。その時には、既に隣に日向はいない。同時に表彰式を行うからだ。しっかりと日向を撮れるように携帯を構えて、日向の姿を撮っていく。
そうして、閉会式が終わると、日向はまっすぐ私達の方にやってきた。
「見て見て! トロフィーと賞状とメダル! 三点盛りだよ!」
「はいはい。凄い凄い。黒江に送りたいから、笑顔」
私がそう言うと、日向は賞品の三つを持って笑う。何となく連写しておいた。
「おぉ……全部同じ顔」
「ふっふっふっ、何度も似たような写真を撮られていたからね。このくらいお手の物だよ!」
「つまらない」
「えぇ~!?」
日向はむくれる。私は、それが面白くて吹き出して笑ってしまう。それを見て、さらにむくれる日向の頭を撫でてあげる。すると、日向は嬉しそうに笑った。
「日向さん、そろそろ先生のところに行かなくて大丈夫? 向こうで、脚をタンタンと鳴らしているみたいだけど」
「うげっ、ちょっと行って来るね! 外で待ってて!」
日向は急いで先生が待っている方へと走っていった。戻っていった日向は、先生から怒られていた。ただ日向に悪びれることなく愛想笑いをしていた。
「先生は、日向の自由なところが、あまり気に入らないみたいだね。まぁ、自主練にも顔を出してないみたいだし、先生からの心証は良くないのかもね」
「さらに、それで結果も出したから、内心穏やかじゃないって感じか」
「自主練は、やるもやらないも当人次第なのですから、それで怒るのは筋違いと思いますが」
「私達が言っても仕方ないよ。ほら、私達は、外で日向さんを待とう」
美玲に促されて、私達は外へと向かう。こういうところは、私達よりも大人って感じる。それから二十分程で日向がやって来た。
「お待たせ! それじゃあ、カラオケに行こう!」
それから私達はカラオケに向かった。やっぱりアイドルとして活躍した舞歌の歌は、レベルが格違いで、大いに盛り上がった。私達の歌は、一つずつ動画に撮って黒江に送った。カラオケに行くと教えたら、送って欲しいと頼まれたのだ。黒江が気に入ったのは、私が歌った動画だった。そこまで上手くなかったはずだけど、歌声が好きだったみたい。これを伝えると、舞歌ががっくりと肩を落としていた。アイドルとしてのプライドが傷付いたということみたいだ。久しぶりに現実世界で息抜きが出来た。