180.地下水路!!
街を歩いていてって言ったから、門の前にはソル達はいなかった。取りあえず、フレンド通信でソルと連絡を取る。
『もしもし。私達は、街の西側にいるよ』
「分かった。すぐ行く」
フレンド通信を切って、街の西側に急いで向かう。すると、西の出口に皆が集まっていた。気配と音で、いち早く私に気が付いたネロが、小走りで迎えてくれた。そんなネロを受け止めつつ、皆と合流する。
「お待たせ」
「おかえり。何か収穫はあった?」
「まぁ、少しだけね。簡単に説明すると、宝物庫があって、そこに四つの鍵穴があった。だから、四つの鍵を見つければ、宝物庫の中に入れると思う。収穫って呼べるのは、これだけ」
「四つの鍵?」
ソルが考え込む。でも、すぐに首を横に振った。
「特に思いつかないや。ルナちゃんも心当たりはないんでしょ?」
「ない。だから、ここら辺の情報を集めないと」
「なるほどね。じゃあ、一つだけ良い情報があるよ」
にやにやとするソルに合わせて、シエル達も笑みを浮かべる。全員がこの反応という事は、本当に良い情報なのかもしれない。
「何があったの?」
「ソルと私が気になってた水路があったでしょ? あれが、街の地下に続いている事が確認出来たの」
「地下水路か。時間もあるし、行ってみようか」
「うん。行こう行こう」
私達は、ソル達が見つけた地下水路に向かって進んで行く。地下水路に入るには、まず街の外に出て、街の外壁と川の間を進んで行き、川と街の水路を繋いでいる場所の一つに檻の付いていないところがあるので、そこから入る感じだ。
「中は思ったよりも綺麗だね。宮殿も綺麗だったし、ここら辺の人は、綺麗好きなのかな?」
「ここから水を汲み上げているんだったら、綺麗にしないと危ないでしょ」
シエルがごもっともなことを言う。
「ここが上水って仮定するんだとしたら、下水はどうなってるんだろう? 他の水路を作ってるのかな?」
ミザリーは、下水がどうなっているのかが気になるみたい。
「そもそも下水自体がないのかもしれませんよ。ぼっとんとか」
「ああ、なるほど」
二人は、下水の話で若干盛り上がっていた。
「そんな汚らしい話は、そこまで。取りあえず、ここから調べよう」
地下水路だし、迷路状になっていてもおかしくはない。だから、地図を作っておこうと思い、ノートを取り出す。すると、ミザリーが肩を叩いた。
「あ、ルナさん。地図作りなら、私がやるよ? 私もスキル持ってるし」
「そうなの? じゃあ、頼もうかな」
地図を作ってくれると言うので、ミザリーにノートとペンを渡して、地下水路に入っていった。中は、本当に綺麗に掃除されていた。
「綺麗な場所。明かりも完備されているし、住人にとっても大切な場所って事が分かる」
周囲を見ていたシエルがそう感想を零した。
「確かに、それに外に比べて、かなり涼しい。日が差してないっていうのもあるんだろうけど、水が傍にあるっていうのも大きいのかな?」
「気持ち良さそうだよね。水も透き通ってるし、ぴょ~んって飛び込みたくなっちゃう」
「そう言って、本当に飛び込んじゃ駄目だよ。この街の生活用水なんだから」
「分かってるよ。私だって馬鹿じゃないもん」
念のためにソルを窘めたら、ぷいっとむくれた。まぁ、いつもの事なので、放っておいても大丈夫だろう。そう思って特に反応せずにいたら、むくれたままこっちに近づいて来て、腕に抱きついてきた。これもいつも通りなので、特に気にしない。しばらくこうしていたら、機嫌も良くなるし。
「まだ行き止まりにも着かないのか。本当に広く繋がっているみたい」
「ね。モンスターもいないみたいだし、手分けをしても良いかもよ?」
すぐに機嫌が戻ったソルが、そんな提案をする。確かに、この広さなら、手分けをして探してもいいかもしれない。
「まぁ、そうした方が良いか。じゃあ、ソル、シエル、ミザリーと私、ネロ、メレで分かれようか。ミザリーは、そのままそのノートに地図を書いてくれる?」
「うん。分かった」
ソル達を見送ってから、私達も別の道を進む。私は、ここから別のノートに地図を書いていく。
「適当に進んで良いにゃ?」
「うん。どこに何があるか分からないからね」
「この水路の行き着く先は、恐らく川の下流だと思います」
「という事は、どこかにさっきとは別の出入口があるって事になるのか。考えていたよりも複雑な水路になってそう」
メレの話を聞いて、想像よりも複雑な場所なのではと思い始めた。
「まぁ、それだけの広さがあるのなら、どこかしらに何かあってもおかしくないよね」
「そうですね。私は、宮殿の下辺りが怪しいと思います」
「王族の逃げ道にゃ?」
「はい。それなら、この複雑さに納得がいきます」
「なるほどね。そこに行きたいところではあるけど、もう既に、方向感覚がないから、宮殿がどっちか分からないんだけどね」
さすがに、ここに入ってから何度も曲がっているので、自分が今どっちの方向を向いているのかは分からなくなっていた。
そんな事を言うと、ネロが元気よく手を上げた。
「どうしたの?」
「宮殿の方向分かるにゃ」
「おお! 凄い! さすが猫!」
私は、ネロの頭を撫で回す。ネロは嬉しそうにしていたけど、メレは苦笑いをしていた。
「それじゃあ、その方向に向かおう。メレもそれでいい?」
一応、メレにも確認をとる。
「はい。行きましょう」
私達は、ネロに先導されて水路を歩いて行く。何度か行き止まりに捕まったけど、順調に進んでいく事が出来ていた。
「う~ん、結構歩いた感じがしたけど、地図でみたら、あまり進んでないなぁ」
「そうなんですか?」
メレはそう言って、私がノートに書いている地図を覗いた。
「行き止まりになっているところは、水が通ってないですね」
「ん? ああ、そういえばそうか」
これまで辿り着いた行き止まりは、水路脇にある通路の分かれ道に存在していた。つまり水路の行き止まりは存在しないという可能性が出て来る。
「じゃあ、水路沿いに宮殿までの道を進んだ方が良いにゃ?」
「そうだね。基本的には水路沿いから攻めよう」
「分かったにゃ」
探索方針を改めた私達は、行き止まりに遭遇する事もなく進んで行った。
「にゃ……向こうから嫌な匂いがするにゃ……」
ネロはそう言って、通路の分かれ道の先を指さす。これまで通りならなら、そこは行き止まりとなっているはず。そこから嫌な匂いがするというのは、少し怪しい。
「ネロとメレは、ここで待っていて。私が様子を見てくる」
「分かりました」
「分かったにゃ」
さすがに嫌な顔をしているネロを連れて行くのは可哀想なので、私一人で向かう。あまり待たせたくないので、駆け足で向かう。少し進むと、私の鼻にも嫌な匂いが漂ってきた。すぐに黒羽織のマスクを引き上げる。匂いを我慢しながら、進んで行くとこれまで通り行き止まりに辿り着いた。
「行き止まり? ここまでは一本道……匂いの元凶はここら辺にあるはずだけど」
何かあるはずと思い、行き止まりの壁を念入りに調べていると、壁に小さな穴が空いているのを見つけた。そこに顔を近づけようとすると、嫌な匂いが強烈になって顔を背けざるを得なかった。
「下水か何かと繋がってるんだ……うぉえ……大人しく戻ろう」
出来れば補修をした方が良いのかもしれないけど、そんな技術も道具もないので、諦めた。アアルに戻ったら、門番さんにでも伝えておこう。誰に知らせれば良いのか分からないし。
駆け足で二人の元に戻る。
「どうでした?」
「壁が壊れて下水路みたいな場所に繋がっちゃったぽい。後で、門番さんに知らせとく」
「そうだったんですか。付いて行かないで、よかったですね」
「にゃ」
二人でいるときに、私に付いて行くみたいな話をしていたのかも。
「それじゃあ、探索に戻ろう」
私がそう言うと、ネロが先に歩き出した。私とメレはその後ろに付いて行く。
「そういえば、シルヴィアさんとは上手くいっていますか?」
「んぐっ……!!」
唐突にメレからシルヴィアさんの話題を振られたので、躓きそうになった。こういう話題に乗っかる事はあっても自分から振る事はなかったので、余計に驚いた。
「いきなりどうしたの?」
「いえ、ふと気になってしまいまして」
メレの目が完全に恋バナを楽しみたいと言っていた。ネロもチラチラとこちらを見ているので、メレと同じく気になっているのかもしれない
「最近は、あまり会えてないかな。私達が見つけた滅びた街を本格的に調査しないといけないから忙しそうだし、私も自分の力を抑えつけるために、自分と向き合ってたから」
「学校で言っていた自分の影との戦いですね」
「うん」
メレは手を顎に当てて、うんうんと頷く。そして、徐に手を上に上げる。
「?」
何をするのか全く分からないので、ただ次の行動を待っていると、その手がまっすぐ私の頭に振り下ろされた。そして、メレの方が蹲った。
「い……痛いです……」
「現実ならいざ知らず、こっちでのメレは物理攻撃最弱なんだから……」
「い、石頭ですね」
「ルナの頭は硬いにゃ?」
「なわけないでしょ。メレの力がないだけ」
そんな会話をしている内に、手の痛みが引いたのかメレが立ち上がる。心なしか口角が上がっているような気がしないでもないけど、きっと気のせいだろう。
「ルナさんは、馬鹿ですね」
「え~……何でいきなり馬鹿呼ばわりされるのさ」
「それが分からないというのが馬鹿なのです。さっきの言葉は、全部ルナさんの主観でしかないじゃないですか。ちゃんとシルヴィアさんと話しましたか? シルヴィアさん自身が、忙しいから会うのは控えようと言ったのですか?」
「いや……」
確かに、これからあそこを調べるという話を受けて、私から距離を取った。忙しいのに会いに行き過ぎるのは、迷惑だと思ったからだ。シャルも『仕事が増えたぁ~!』って嘆いていたし。まぁ、その後気にしなくて良いって言われたけど。
「シルヴィアさんも寂しがっているかもしれませんよ? 初めての恋人だから、色々と遠慮しすぎているのでは?」
「…………」
メレの言葉に何も返せなかった。それが本当の事だと思ったからだ。今まで、恋人なんていた事はなかった。だから、恋人としての接し方が分かっていなかったのかもしれない。
今までは、自分の考えだけで動いてよかったけど、これからはシルヴィアさんがどう思っているのかも訊かないといけなかったのかも。
「恐らくシルヴィアさんは、最愛の恋人が訪ねてくれたら嬉しいと感じる方だと思います。それに、ルナさんも心寂しいのでは? もう少し我が儘になっても良いかもしれませんよ?」
「メレって、私よりも恋愛のレベル高くない? 本当にアイドルやってた?」
「やってましたよ。ルナさんが奥手なだけだと思います。もっとぐいぐい行きましょう!」
メレは拳を握って力説する。
「う、うん」
「ルナ、たじたじにゃ」
「メレが、こんなに主張する事なんて、あまりなかったし」
「いつもはソルさん達が言いたい事を言ってくれますから」
「全く……でも、ありがとう。夜に、シルヴィアさんと会ってくる」
「はい。それが良いと思います」
メレはニコッと微笑んだ。いつもは、そんなに感じないけど、やっぱりメレは年上なんだなって意識させられた。
「それじゃあ……」
改めて探索を再開しようと言おうとすると、ソルからフレンド通信が入る。
『ルナちゃん、開かない扉を見つけたよ。さっき分かれた場所まで来てくれる?』
「オッケー」
こっちの返事を聞いたソルが通信を切る。
「向こうで、扉を見つけたって。さっきのところに戻るよ」
「分かりました」
「分かったにゃ」
私達は、地図を使ってさっきの場所まで戻っていく。地図があったから、かなり早く戻って来られた。それから程なくソル達も戻ってきた。どうやら、私達の方が探索出来た範囲は狭いようだ。
「ミザリー、地図を見せてくれる?」
「うん。地図の共有だね」
私の地図とミザリーの地図を繋げて、探索出来た範囲を確認する。
「この感じだと、ソル達が向かった先は、私達が行こうとしていた場所なのかも」
「え、そうなの?」
地図を合わせると、ネロの案内で向かおうとしていた方向が、ソル達が辿り着いた扉になる。ちゃんと繋がっているかは分からないけど、あのまま行っていたら、合流出来たのかもしれない。
「それじゃあ、早速案内するね。ミザリーちゃん、お願い」
「うん」
扉までの地図を持っているミザリーに案内をしてもらう。扉があったのは、通路の分かれ道の先で、これまで通りなら行き止まりになっている場所だった。
「この扉は、開いたの?」
「ううん。びくともしない」
「て事は、宝物庫と一緒か。どこかに鍵穴はないかな」
「それなら、扉の取っ手部分の上にあったと思う」
扉の前に来て、軽く調べてみると、シエルの言う通り取っ手の上の方に鍵穴があった。それも二つ。
「二つの鍵穴か……扉の感じが宝物庫の扉に似ているし、ここが宮殿の真下なのかな?」
「私の感覚だと、宮殿に近いのは確実にゃ」
「ネロちゃんがそう言うのなら、可能性は高いね。確か、宝物庫は地下にあったんだよね?」
「うん」
「じゃあ、ここは宝物庫の別の出入口なのかもしれないね」
メレの説からも、ここが宝物庫の別の出入口の可能性は高い。
「宝物庫を守る扉に、六つの鍵穴か……」
「六つ……六つ?」
ミザリーが何かに引っかかったように、眉を寄せる。
「もしかして、ダンジョンと関係があるんじゃない?」
「ダンジョンってピラミッドのダンジョン?」
「うん。六つって言うと、そこが一番怪しいかなって」
確かに、今のこの状況で六つと言われれば、ダンジョンしか思いつかない。
「ソル、ピラミッドのダンジョンはどんな感じなの?」
「えっと、ダンジョン内は巨大な迷路になっていて、大量のモンスターが出て来るんだ。そのモンスターが多すぎて、先に進めないから、誰もクリア出来てないんだって」
「という事は、クリア報酬が鍵の可能性も捨てきれないか。これからダンジョンに挑むには、少し遅いから明日にしようか」
私がそう提案すると、皆も賛成した。そうして、地下水路から出た私達は、噴水広場で解散した。ソル達がログアウトしていく中で、ネロだけが残った。
「ネロは、帰らなくて平気なの?」
「まだ大丈夫にゃ。ルナは、これからどうするのにゃ?」
「う~ん、雑貨屋に行って地図を買おうかな。ネロも一緒に行く?」
「にゃ」
私は、ネロと一緒に雑貨屋に向かう。噴水広場の地図で確認しておいたので、スムーズに雑貨屋まで行く事が出来た。
「さてと、地図はどこかな」
「あそこにあるにゃ」
「お、本当だ」
雑貨屋で周辺の地図を確保した後、雑貨屋内を見て回る。砂漠の街なので、他とは違う何かが売っているかもしれないから。
「ルナ、見るにゃ!」
「ん? 何々?」
珍しくネロが興奮しているので、何事かと思いながら、ネロを見ると、魚の干物を持っていた。
「魚のミイラにゃ」
「え、ただの干物でしょ?」
「でも、商品名にミイラって書いてあるにゃ」
「え~……あ、本当だ。まぁ、干物もミイラと言えばミイラなのか?」
「食用みたいにゃ」
「結局、干物じゃん」
私達は、変なやり取りに笑ってしまう。結局、ネロは魚の干物を購入した。
「にゃ」
ネロは魚の干物を引き千切って私に渡してくれた。
「ありがとう」
貰った干物を口に入れて噛む。すると、塩味が口いっぱいに広がった。
「しょっぱっ!」
塩をそのまま突っ込まれたかのようなしょっぱさに衝撃を受けた。ネロの方を見ると、口をひん曲げていた。
「味濃いにゃ」
「本当にね。汗で塩分が出ていくから、それを摂取するためにしょっぱくしてるのかもね。こういう摂取の仕方が正しいのか分からないけど」
「にゃ~……明日、ソル達にも食べさせるにゃ」
「あははは、良いね」
「買ってくるにゃ。またにゃ」
「うん。またね」
ネロと別れた私は、宮殿の方に向かう。
「あなたは……忘れ物ですか?」
門番さんは、私の事を覚えてくれていた。まぁ、さっきの今なので当たり前か。
「いえ、さっき地下水路に入ったんですけど、途中の通路で、壁が壊れて下水と繋がっていました。それを伝えておいた方が良いと思いまして。どこに伝えればいいのか分からなかったので、一応門番さんに」
「なるほど。お伝えくださり、ありがとうございます。補修箇所の詳しい場所は分かりますか?」
「はい」
私は、ミザリーと一緒に作った地図を見せて、補修箇所を教える。
「ありがとうございます」
門番さんは、もう一度そう言って頭を下げた。
「いえ、お役に立ててよかったです。では、失礼します」
私も門番さんに頭を下げてから、噴水広場に向かう。そして、スノーフィリアに転移する。