178.追加モンスター!!
それからしばらく進んで行くと、黒羽織の中にいるネロが、何かに反応しているのが分かった。
「どうしたの?」
「大きな反応があるにゃ」
「砂漠のボス?」
「可能性は高いにゃ。でも、向かってくるんじゃなくて、後ろから追ってくる感じにゃ」
そう言われて振り返ると、かなり遠くに砂埃が見える。星見の筒を取り出して、覗いてみるとサンド・ワームによく似た姿が見える。ただ、その大きさは五倍はある。
ここからでも名前だけは確認出来た。タイラント・ワーム。どう考えてもボス級のモンスターだ。
「あれは、ヤバイ……」
私達の身長以上の口を持っているような化物相手に、接近戦は危険過ぎる。ソルの鳴神なら何とかなるかもしれないけど、被害無しに倒せるとは思えない。それに、あの巨体だと、ミザリーの拘束も通用しないだろう。
「ネロ、場所を変わってくれる? 操縦は自動にしておいたから、ただハンドルを握っていたら良いよ」
「分かったにゃ」
後ろを向いて、ネロの脇に手を入れ、前に持ってくる。ネロの方が、背が小さく小柄なので、簡単に持ち上げられた。そうして場所を入れ替えた私は、月読の収納から天照を引き抜く。
「ソル! メレ! 一応準備だけはしておいて!」
「分かった!」
メレは頷きながら、沈静の歌から増強の歌に切り替えた。少しでも、私の手助けをしようと、攻撃力を高めてくれたのだ。ソルの方は、いつでもプティの上から移動出来るように準備を始めた。私の天照が通用しなかったら、ソルの鳴神とメレの聖歌が頼りだ。ただあれだけで、即座に理解してくれたので、有り難い。
脚全体を使って、月読に身体を固定してから、天照を構える。スコープを覗いて、倍率を上げていく。スコープ一杯にタイラント・ワームの姿を収め、引き金を引く。轟くような銃声と共に銃弾が撃ち出される。そして、今まで経験した事が無い程の反動を肩に受けた。それは身体が仰け反る程だった。月読の動きも一瞬乱れるが、すぐに自動運転が立て直してくれた。
『EXスキル『狙撃術Lv1』を修得しました。最初の修得者のため、ボーナスが付加されます』
新しいスキルを獲得したけど、そんな事を気にしている余裕は無かった。
「……っ!」
ストックを当てていた肩に鈍い痛みが走る。それを押し殺して、再び天照を構え、スコープを覗く。タイラント・ワームのでかい口の中央を狙ったはずの弾は、そこから大きく外れて、頭の一部を吹き飛ばしただけだった。とはいえ、たった一発であの大きさのタイラント・ワームの頭の一部を吹き飛ばせたところから、かなりの威力を持っている事が分かった。
痛みを感じたのか怒りを覚えたのか分からないけど、タイラント・ワームは、その大きな身体を空高く伸ばしていた。もしかしたら、地面に潜る前動作なのかもしれない。タイラント・ワームが、地面に潜ったら、私の攻撃が当たらなくなる。その前に仕留めないといけない。
「普通の弾じゃ駄目だ」
私は、すぐにマガジンを入れ替えて、リロードをし直す。そして、再びタイラント・ワームに向かって撃つ。再び轟音の銃声を出しながら、天照から弾が放たれる。
放たれた弾は、空高く伸ばされたタイラント・ワームの身体に命中して爆発した。装填した弾は、爆破弾だった。だが、黒闇天のものよりも遙かに威力が高く、タイラント・ワームの身体をごっそりとえぐり取った。
「っ!」
反動で肩が痛むけど、それを無視してリロードし、さらにもう一発撃ち込む。放たれた爆破弾は、抉れた箇所に命中し、また深く抉った。タイラント・ワームの動きが目に見えて悪くなる。
「後……一発!」
さらに一発撃ち込んだ。また同じ場所を狙ったのだけど、上手くいかずに、別の場所を抉った。身体のあちこちを抉られたタイラント・ワームは、身体をぐねぐねと動かしてから、大きな口を開けて、こっちをまっすぐ追ってきた。潜りもしていないところから、怒り心頭って事だと思う。タイラント・ワームの速度が上がっているから、一見ピンチにも思えるけど、寧ろこの方が有り難い。
慎重に天照を構え、タイラント・ワームを狙って引き金を引く。撃ち出された爆破弾は、まっすぐ追ってくるタイラント・ワームの口の中に吸い込まれていき、タイラント・ワームを内側から吹き飛ばした。身体が千切れ掛かったタイラント・ワームは、力なく横たわった。ピクリとも動かないから、倒せたのだと思う。
「ふぅ……」
鈍く痛む肩を摩りながら、天照を仕舞う。一発だけだったら、まだ耐えられたけど、連続して撃ったから、痛みが蓄積して耐性を突破しているんだと思う。多分、打ち身みたくなっているのかな。
「痛つつ……」
「大丈夫にゃ?」
肩を摩りながら前を向くと、ネロが心配そうに私を見上げていた。そんなネロの頭を優しく撫でてあげる。
「大丈夫。天照の反動が凄すぎて、痛むだけだから」
「そうにゃ? でも、あまり無理しちゃ駄目にゃ」
「分かってる。じゃあ、また黒羽織の中に入っていて良いよ」
「にゃ」
ネロを持ち上げて、自分の後ろに持っていき、場所を入れ替える。元の位置に戻ると、ネロは、すぐに黒羽織の中に入っていった。ネロからしたら、黒羽織の温度調節機能は、本当に快適みたいだ。
「ルナちゃん! アイテム欄にアイテムが増えてるよ!」
戦闘に備えて離れた場所にいたソルが、手を振りながら教えてくれる。言われてアイテム欄を調べて見ると、『恵みの水筒』というアイテムが追加されていた。取り出して見ると、竹の水筒みたいなものが出て来た。手に持った時の重さから、中身がしっかりと入っている事が分かる。恵みのと付いているくらいだから、安全なものではあるだろうと思い、口を付けて飲んでみると、ある事に気が付いた。
「凄い。これ中身が減らない。無限に飲める水筒みたい」
「それは凄いにゃ。砂漠を渡るなら、重宝する物にゃ。それにしても、アイテムが手に入ったって事は、あの気配はイベントモンスターだったって事にゃ?」
「じゃないかな。それ以外は考えられないし。というか、あんなモンスターが追加になったって、砂漠越えが、かなり危険になったって事じゃん。他の場所でも似たようなモンスターが追加されていたとしたら、厄介なアップデートをしてくれたな……」
タイラント・ワームが、元々いなかったモンスターと考えると、凶悪なアップデートだとも言える。これで、西の森にも似たようなモンスターが増えていたら、もうアルカディアにいける人はいなくなると思う。
「まぁ、取りあえず、持ってきた水から飲みなよ? まぁ、悪くはならないだろうけど」
「分かったにゃ」
その後も、サンド・ワームやサンド・スコーピオンが襲い掛かってきたけど、私とミザリーで、蹴散らしていった。黒闇天でどうにかなる相手なので、特に苦労する事もなかった。
幸いな事に、タイラント・ワームみたいなモンスターは、あれ以降襲ってくる事はなかった。ボス級のモンスターみたいだったし、次に出て来るまではインターバルがあると考えて良さそうだ。
「あっ! 見えてきたよ!」
プティの上で立って前を見ていたソルが、いち早く街を見つけた。その少し後に、私達も街の姿を見つける。まだ遠いけど、これまでに訪れたどの街とも違う雰囲気の街だった。家の外観も周囲の砂の色に似ている。恐らく、エジプトとかにある建造物と似たような方法で作られているんだと思う。
一体、どんな街なんだろう。