176.砂漠前の準備!!
それからの二週間は、お金稼ぎと神社で自分の影との戦いを続けた。お金稼ぎの方は何も問題無く進める事が出来たけど、自分の影との戦いは、全く好調じゃなかった。接近戦に持ち込んで、良いところまでいけた気がした時もあったけど、すぐに逆転された。向こうの方がスキルの使い方が上手い。それに、武器の違いが本当に厄介だった。
これとは別に、もう一つ動きがあった。メアリーさんが文献の一冊を解読し終えたのだ。屋敷でマイアさんから知らされた私は、メアリーさんから話を訊くために王城へと向かった。
いつも通り王城に通されて、メアリーさんの執務室に入った。
「屋敷に知らせが届いたので来たのですが」
「いらっしゃ~い……ちょっと待ってね」
凄くやつれた様子のメアリーさんがカップに入ったコーヒーを一気飲みした。
「えっと……大丈夫ですか?」
「大丈夫……少しずつ解読出来てきたら、止まらなくなっちゃって」
「多分、楽しくなったんだと思うんですけど、あまり無理しないでください」
「うん。ありがとう。父上にも苦言を呈されたわ」
国王様にも怒られたらしい。さっきのコーヒーで完全に目を覚ましたらしいメアリーさんは、机の上から一枚の紙を取って、私に渡した。
「これは?」
「解読した文章」
「えっ!? でも、結構なページ数だった気がするんですけど」
「ええ、あれ全部が暗号なんだと私も思ってたわ。でも、違った。アナグラムは正しかったのだけど、入れ替えるのは天界言語だけだったの。他の古代言語は、ただの隠れ蓑だったのよ。本当、これに気付けてよかったわ。そうじゃなかったら、ずっと解けないままだったわ」
メアリーさんは、興奮しているようで、早口になっていた。
「それじゃあ、他の本も……」
「いや、同様の解き方をしたけど、今のところ、同じ方法で解けた本はないわ」
これに関しては、メアリーさんもうんざりしている事のようで、ため息交じりになっていた。そんなメアリーさんに同情しつつ、貰った紙の内容を見る。
『砂が覆う世界に、審判を下す天秤が、隠されている』
それを見た私は、ゆっくりとメアリーさんを見る。
「これだけですか?」
「そうよ。別の単語にしたりして、確かめたけど、意味が通じるものはこれだけだったわ」
「審判を下す天秤……?」
「よく分からないけど、そういうものがあるみたいね。書いてある内容的には、古代兵器って感じはしないのだけど、時間がある時に調べてくれる?」
「ちょうど、砂漠に行くつもりだったので、出来る限り調べてみます」
「よろしくね」
メアリーさんと別れた私は、ソル達と合流して、武具を受け取りにヘルメスの館に来ていた。
「これ、約束の代金です」
「はい。ちょうど頂きました。ソルちゃんからは、もう貰ってるから、早速渡すわね。まずは、二人の防具よ。機能面を強化しただけだから、見た目は変わってないけどね」
アーニャさんから夜烏と黒羽織を受け取って、早速着替える。
「やっぱり、こっちの方がしっくりくるや」
「ね。着慣れた服が一番だね」
いつもの服を着て、身体を伸ばしていたソルが、私の感想に同意していた。
「ルナちゃんの要望通り、黒羽織に遮光マントと同じ効果を付けてあるわ。ついでに、温度調節機能もいじったから、砂漠の暑さも雪山の寒さもある程度マシになるはずよ。それと、属性攻撃への耐性も上げておいたわ。これで、ルナちゃんが起こす爆破もある程度防げるはずよ。この二つは、ソルちゃんのコートにも付けておいたわ」
「ありがとうございます」
黒羽織の機能が、どんどんと進化していっていた。特に属性攻撃への耐性で、爆破に対してもダメージ軽減出来るのはありがたい。
「夜烏の方は、ただ強化しただけですか?」
黒羽織の進化が目覚ましいので、夜烏の方にも新しい機能とかが増えているかもと思い、そう訊いた。
「そうね。温度調節機能と属性攻撃への耐性と単純な強化だけしておいたわ。特に追加する機能も思いつかなかったから」
「そうですか。確かに、夜烏に付ける機能は、私も思いつきません」
「でしょ? まぁ、その代わり、武器の方は色々と増えたわよ」
黒闇天や韋駄天に新たな機能が追加されたのかと思っていると、アーニャさんは、それらと一緒に見覚えのない銃を持ってきた。
「ドラゴンの素材とアダマン・タートルの最後の素材で、新しく二挺の銃を作ったわ。こっちが、スナイパーライフルの天照。こっちは、ショットガンの須佐之男よ」
アーニャさんはそう言って、二挺の銃を置く。私は、須佐之男から手に取る。韋駄天より少し軽い。所謂ポンプアクションタイプのショットガンで、リロードの仕方がいつもの銃とは違う。
「その下のローディングゲートからシェルに入った弾を突っ込んでいくのだけど、慣れない内は違和感があるかもしれないわね。まぁ、そこは使いながら、慣れていって」
「はい」
取り回し自体は得に問題無いので、使い続けていれば手足のように使えるようになるはず。一番心配なのは、もう片方だ。
天照は、今までで一番銃身が長い。スナイパーライフルなので、当たり前だけど、狭い場所では壁とかにぶつけそうで怖い。使う時は、そこら辺も意識しておかないといけない。
「スコープの倍率は、二倍から十八倍まで調節出来るわ。こっちも最初は調節が難しいかもしれないけど、ルナちゃんの戦い方を考えると、このくらい調節出来る方が良いと思うのよね。それとスコープ自体の調整は、自動でやってくれるわ。ルナちゃんがするのは、倍率の調節だけよ」
「そうなんですか? 何だか、よく分からないけどありがとうございます」
スコープの調整が何のことか全く分からないけど、アーニャさんの表情を見る限り、恐らくかなり面倒くさくて、難しい事なんだと思う。それを自動で調整してくれるようにしてくれたみたい。
「使ってみたら分かると思うけど、どちらも威力が高いわ。須佐之男の方は、そうでもないけど、天照は反動も強いから、そこも頭に入れておいてね」
「分かりました」
天照と須佐之男を手にして、『狙撃銃術』と『散弾銃術』の二つのスキルを獲得した。
「それじゃあ、次はいつもの武器ね。黒闇天はいつも通り威力を高めたわ。吉祥天の方は、強度を高めただけね。後は、ルナちゃんが作る弾で使い方が決まるわ。次は、韋駄天ね。強度強化の他に、銃身の下に、グレネードランチャーを付けたわ。ここをスライドさせて、リロードをするから覚えておいてね」
「は、はい」
黒闇天と吉祥天は、ただ強度や威力を上げてくれたみたいだけど、韋駄天だけ凄い強化がされていた。まさか、グレネードランチャーが付くなんて思いもしなかった。これで爆発物精製以外に、爆破系の攻撃をする事が出来る。遠距離でぶつけられるから、こっちの方が使い勝手が良さそう。
「ハープーンガンは、強度を限界まで上げておいたから、六人全員が一緒でも使えるわ。ただ、巻き取るスピードは落ちるから、そこも覚えておく事。黒影も強度だけね」
「分かりました」
ハープーンガンと黒影は、ただ強度を上げただけみたい。まぁ、改良する分部なんて、私も思いつかないし、ただただ有り難いかな。
「ルナの方が代金が高いわけだね。こんなに色々と作って貰ってるわけだし」
「うん。正直、ここまで沢山増えるとは思ってなかったから、私もびっくりしてる」
「その分の代金は、しっかりと払って貰ってるしね。本当は、マシンガンとかも作りたかったんだけど、アダマン・タートルの素材が切れちゃってね。まぁ、意外と長持ちした方ではあるんだけど」
「ドラゴンの素材だけじゃ出来ないんですか?」
これまでは、アダマン・タートルだけでも作っているようだったけど、ネザードラゴンだけじゃ作れないのかと思ったのだ。
「無理ね。マシンガンを作るなら、圧倒的に耐久性に欠けるわ。ドラゴンだから、耐久性があるかと思うかもだけど、どちらかと言うと、火とかへの耐性が優先されてしまうのよね。まぁ、それを活かして、火炎放射器を作れないかと模索中よ」
「火炎放射器……」
私の頭の中で、自分が森へ放火している姿が思い浮かんだ。
「使い所あります?」
「あるわよ。今は、まだ先だと思うけどね」
「?」
私が首を傾げると、アーニャさんは、話はこれまでと言わんばかりに微笑んで、ネロの方に向き直った。
「ネロちゃんの服は、もう少し待ってね」
「分かったにゃ」
ネロは、あの後アーニャさんに頼んでいたみたい。私とソルの方で掛かりきりになっていたのかも。ちょっと申し訳ないかな。
「そうそう。ネロちゃんに頼まれて思いついたのだけど、シエルちゃんやメレちゃん、ミザリーちゃんの防具も作ろうか? もしドラゴンや他の素材の扱いに困っていたらだけど」
アーニャさんから提案を受けて、シエルとメレ、ミザリーが目を合わせる。そして、アーニャさんと向き合って頷いた。
「お願いします」
「私もお願いします」
「私もお願いしたいんですけど、ドラゴンの素材は、少し使っちゃって」
「大丈夫よ。ルナちゃんは、武器とかもあったから、結構使ったけど、服だけならそこまでの量は使わないわ」
シエルは、何かに素材を使ったみたい。
シエル達は、色々な素材をアーニャさんに渡していった。
「これなら、結構良いものが作れそうね。一週間で作るわ。また取りにきてくれる?」
「「分かりました」」
「分かったにゃ」
「それじゃあ、次は私の番!」
そう言ってひょっこりとアイナちゃんが顔を出して、私の手を取って、奥の工房へと連れて行った。後ろから皆も付いてくる。
工房の中には、月読が置かれている。ちょっとだけ変わっているけど。
「まず月読の機構に、ルナちゃんの銃を仕舞うものを取り付けたの。天照や須佐之男にも対応しているから、全部の銃を仕舞えるよ」
「まぁ、銃を仕舞えても、月読の上だとあまり使えないんだけどね」
頑張れば黒闇天とかを使えなくもないけど、両手を空けると開いた場所じゃないと厳しい。
「ふふふ、それも解決済みだよ! 実は、システム面を色々いじって、自動操縦機能を付けたの!」
「へぇ~……」
意味は分かるけど、どうやって自動操縦機能を作ったのかが全く分からなかった。
「それって、どんな感じなの?」
「自動操縦って言ったけど、凄く便利なものってわけでもないんだ。ちゃんと目の前の障害は避けてくれるし、バランサーが付いているから、転ぶって事はないんだけど、障害物が多すぎると、動きが大きくなり過ぎちゃうんだよね。だから、効率的に動く事を考えると、常にオートにするのは止めた方が良いかな」
「なるほど」
自動操縦をすれば、両手を離して銃を扱えるけど、森の中とかでやると、月読がぐわんぐわん動くって事なんだと思う。
「後は、強度と最高速度を上げておいたよ。今の最高速度がどのくらいなのかは、ちゃんと確認しておいてね?」
「うん。了解。ありがとうね」
取りあえず、月読をアイテム欄に仕舞う。
「今日は、これから砂漠に行くのかしら?」
装備の受け渡しが終わると、アーニャさんがそう言った。
「はい。黒羽織も貰えましたから。それに、メアリーさんが解読した文章から、砂漠に天秤があるらしくて、それを調べて欲しいと言われていますので」
「砂漠に天秤? 何かしらね?」
「審判に使うものらしいですよ」
「審判?」
アーニャさんは、その言葉に何か引っかかったみたいだけど、すぐに肩をすくめた。
「何か思いだしそうだったけど、出てこなかったわ。見付かると良いわね」
「はい。じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
アーニャさんとアイナちゃんに見送られて、私達はヘルメスの館を後にし、シャングリラへ転移した。