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175.力を抑えるために!!

 その後、皆はログアウトしたけど、私は王都に残ってヘルメスの館に向かった。


「ただいま~」

「あれ? おかえり、ルナちゃん。忘れ物?」

「ううん。アーニャさんに、ちょっと話があって」

「アーニャ様に? 分かった。すぐに呼んでくるね」

「うん。ありがとう」


 アイナちゃんがアーニャさんを呼びに行っている間に、いつもの席に座る。そして、一分もしないうちに、アーニャさんを連れてアイナちゃんが戻ってきた。


「いらっしゃい、ルナちゃん。私に話があるって?」

「はい。私の鬼の力について。これを制御する方法はありませんか?」

「制御ね……確か、ドラゴンとの戦いで出てこようとしていたのよね。あれから何も問題はない?」

「はい。今日もアングリー・ディアーと戦いましたけど、全く出て来ませんでした」

「アングリー・ディアー? どこに狩りに行ったの?」

「え? そこの森ですけど」

「そう……」


 アーニャさんは、スッと考え込み始めてしまった。


「えっと、アーニャさん?」

「ああ、ごめんなさい。鬼の力の制御方法よね。正直、私のところにもはっきりとした情報はないわ。でも、噂話なら最近手に入れたわ。ジパングの最北端近くに鬼に関する何かがあるらしいわ。本当に確かな話では無いから、そこに言っても何かがあるとは限らないわよ?」

「ジパングの最北端……」


 私が行った中だと、レンゾウさんがいた職人街が一番北の場所だ。そこからさらに北に行けば手掛かりがあるかもしれない。


「分かりました。教えてくれてありがとうございます」

「どういたしまして。あまり無理はしないようにね。今の武器と防具だと本調子は出ないんだから」

「はい。じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい」

「気を付けてね、ルナちゃん」

「うん。ありがとう」


 アイナちゃんにもお礼を言って、ヘルメスの館を出て行った。時間的に、このまま直行するのは、現実の身体が心配なので、一度ログアウトして、夕食とお風呂を済ませてから、再ログインした。


「さてと、この装備でどこまで行けるかな」


 ジパングの職人街に転移した私は、北の出口から出て、そのまままっすぐ北を目指して山を登っていく。


「うぅ……寒……」


 シルヴィアさんと雪山に登っていた事もあり、環境適応のレベルが上がっているに関わらず、寒さを感じていた。改めて、黒羽織の保温能力が高かったのだと感じる。


「いっそ走って身体を温めるか」


 私は、ちょっと駆け足で山を登る。現実でやれば、すぐに息が上がって足も限界になるかもしれないけど、こっちの身体なら特に問題は無い。

 しばらくそのまま進んで行くと、急に雪が降り始めた。このまま吹雪になると、この前の雪山みたいになってしまう可能性があるので、少し足を速める。すると、一体のモンスターの気配を感じる。


「ここのボスか。一人でも行けるかな……」


 ちょっとだけ心配になったので、少し慎重に動く。近くにあった岩を背にして、ゆっくりと気配の感じる場所を確認すると、白装束を着た女性が倒れていた。どう見ても雪女だ。

 私は、マガジンを爆破弾に入れ替える。


「銃技『一斉射撃』」


 身体を少し出して、倒れている雪女に向かって十発の爆破弾を撃ち込む。雪女の周りを激しい爆発が襲う。雪女が叫ぶ声が聞こえるから、まだ倒せていないという事だ。私は、五秒後に爆発する範囲の狭い高威力の爆弾を精製して、雪女に向かって投げつけた。爆煙の隙間から、雪女が起き上がってきているのが見える。その目の前に爆弾が降ってくる。爆弾を理解しているのか、雪女が慌てていた。だが、雪女が行動に移る前に爆弾が爆発する。

 爆煙が晴れると、瀕死状態で倒れている雪女の姿が見えた。その雪女にホローポイント弾を十発撃ち込んでトドメを刺す。


「爆弾と爆破弾があれば、大丈夫そうかな」


 私は、このまままっすぐ北を目指して走っていく。山頂まで登ると、少し息苦しさを感じる。


「そういえば、メレがあまり高く登りすぎると、呼吸とかが出来なくなるって言ってたっけ」


 まだ呼吸出来ないみたいな状態では無いけど、これ以上、上に登ったら危ないという事だと思う。実際の高さが分からないけど、多分現実では、このくらいの高さで呼吸が出来なくなる気がする。環境適応のスキルでその状況に適応しているってだけだと思う。


「それにしても、もう雲より高いんだ。途中で視界が悪くなったと思ったけど、あれが雲の中だったって事かな」


 頂上から周囲の景色を見回す。すると、ここの他にも雲より高い山が見える。


「次の街が見たかったけど、もう少し降らないといけないかな」


 私はそう言いながら、山の斜面を見て、ある事を思いついた。アイテム欄を見て、板状の何かがないかを確認する。


「おっ、アルカディアのボスの装甲だ。頑丈だしこれでいいや」


 アルカディアで倒したボスの装甲板の上に乗って、スノーボードの代わりにし、雪山の斜面を滑っていく。


「おっとっと……一、二年ぶりだけど、結構滑れてる」


 スノーボードで滑ったのは、中学生の時にやった依頼なので、少し心配だったが、ちゃんと滑られたので、一安心だった。


「よっ! ほっ!」


 時折ある岩とかで跳ねながら、ちょっとしたトリックも決めていく。現実では出来ないような事も出来たので、ちょっと楽しい。そうして、滑り降りていると、山の下に見える景色の中に灯りが見えた。山の麓から、少し離れたところに村みたいな場所があるという事だろう。ただ、山の麓って言っても、こっちの標高は、職人街よりも少し高いと思う。登った距離と降りている距離から考えると、そういう結論になる。


「ジパングは、本当に高いところが多いんだな」


 そのまま十分程滑って、五分程走ると、見つけた村に着く事が出来た。物見櫓でポータルを登録しておく。この村は、雪花の村というらしい。ちょっとだけ村の人に話を訊いてみる事にした。ちょうど外に出ていた女性に声を掛ける。


「あの……すみません」

「はい。何でしょうか?」

「ここの近くに鬼にまつわる何かはありませんか?」

「鬼……ですか?」


 私の質問に女性は戸惑っていた。ジパングでは鬼に関する質問は、怪しまれるようなものなのかもしれない。


「えっと、申し訳ないですが、この近くに、そのような場所があるとは聞いた事がありません。ただ、このまま北に行った所に神社があると聞いた事があります。鬼が関わっているかは分かりませんが、あまり近づいてはいけないと、この村では言われています」

「なるほど……教えて頂いてありがとうございました」

「いえ、お気になさらず」


 私は、女性に頭を下げてから、村の外に出て北に走って向かう。


「神社か……アーニャさんが聞いた噂話っていうのもこの事なのかな」


 三十分程走り続けていると、下り坂に差し掛かった。やっぱり、ここはまだ山の途中だったみたい。雪が積もっていたので、先程と同じようにスノボの要領で降っていく。

 その途中で、雪が無くなったので、スノボから走りに変更した。それから少しすると、正面にある森から、木々を薙ぎ倒すような音が聞こえ始めた。そして、森から顔が牛で身体が蜘蛛の化物が飛び出してきた。名前は牛鬼。大きさは、現実のトラックくらいある。


「さすがに、さっきと同じとはいかなさそう」


 牛鬼は、まっすぐこっちに向かって突っ込んでくる。


「銃技『一斉射撃』」


 爆破弾を牛鬼に叩き込む。牛鬼の身体で十発の爆発が起こる。しかし、牛鬼は、一切怯まずに進んできた。私は、バックステップを踏んで距離を開けようとする。だが、牛鬼の巨体と複数の足による速度で、全く距離は開かなかった。

 それでも私に焦りはない。この状況は想定済みだ。牛鬼が私のいた場所を踏む。すると、その足元で大爆発が起きる。爆発物精製のスキルが上がった結果、爆発時間の設定をしない代わりに、圧力感知で爆発を起こせるようになった。さらに、地面や壁の中にも爆弾を作り出せるようにもなった。生物の中には不可能だったけど。まぁ、簡単に言ってしまえば、地雷を精製出来る様になったという事だ。

 私は、バックステップを踏んだ時に、さっきまで自分が立っていた場所にいくつもの地雷を仕込んでいたのだ。それが多重爆発を引き起こした。牛鬼の足音が消え、気配感知からも牛鬼が止まった事が分かる。

 私はマガジンを入れ替える。装填するのは雷光弾。焦炎童子には通用しなかったけど、さすがにあいつ程の強さはないはず。


「銃技『一斉射撃』」


 十発の雷光弾が、爆煙の中の牛鬼に命中し、激しい雷鳴が十回聞こえる。


「…………」


 私はすぐにマガジンを氷結弾に入れ替えて、様子を見る。雷光弾で大ダメージを与えたとは思うけど、まだ気配が消えていない事から、まだ生きていると思う。その証拠に、地面が揺れる。その揺れを牛鬼が跳び上がったからだと判断した私は、視線を上に向ける。

 すると、爆煙の中から牛鬼が飛び出てきた。そこに、氷結弾を撃ち込む。牛鬼の身体に命中した氷結弾によって、牛鬼の身体の下に氷柱のようなものが出来上がった。

 その氷柱によって、牛鬼の脚は地面に届かなくなっていた。突然地面を走れなくなった牛鬼は、今まで陥った事態に戸惑っていた。そこからは時間の問題だ。ここからは魔法弾は使用せずに、通常弾、もしくはホローポイント弾を撃ち込み続けた。

 約十分で、牛鬼は絶命した。


「耐久力有りすぎ……誰かに付いてきて貰えば良かった」


 私は、身体を伸ばしてから牛鬼を回収して、さらに北に向かう。私達がずっと登っていた高山地帯の向こうは、森がずっと続いていた。


「さてと……最北端はどこなんだか……」


 私は、森の中を一時間程走っていく。すると、森が途切れ、崖に出た。下は波が荒れ狂っていた。そして、崖の先には海が広がるばかりだ。


「見た感じ、ここが最北端……神社なんて、どこにあるんだろう……?」


 周囲を見回していると、東の方に木とは違う影が見えた。


「あっちか」


 私は、見えた影に向かって崖際を移動していく。そうして、段々と影の正体が見えてきた。そして、その正体に私は絶句する。


「……っ」


 影の正体は、滅びた村だった。モンスターにやられたのか、人の手でやられたのか分からないけど、無事な家屋は一つもない。


「ここに鬼の力を制御する術があるの……?」


 一応、壊れた家屋も見ながら進んで行くと、いつもの物見櫓を見つけた。ポータルもあったので、登録をしておく。この村の名前は、(さと)り村というらしい。


「神社は……」


 神社は村の奥にあるのではと考えた私は、そっちへと向かって行く。すると、私の予想通り、村の奥に神社があった。神社だけは、まだ形を保っているけど、それでも今にも朽ち果てそうな感じがある。


「この中にあるのかな?」


 私は、恐る恐る神社の中に入っていく。すると、急に頭に痛みが走った。


「痛っ……」


 ネザードラゴンの時も感じた頭痛が、また襲ってきた。そして、頭の痛みだけで無く、心臓付近も痛み始める。段々と髪の毛も虹色に光り始めた。完全に鬼の力が出て来ている。


「落ち着け……落ち着け……」


 また鬼の力に蓋をしようとしていると、神社の中央に魔法陣が現れた。唐突な出来事に少し戸惑ってしまう。そのせいで、上手く抑えつける事が出来ていない。

 恐らく、あの魔法陣が、私の鬼の力を制御する術に繋がるのだと思う。

 私は、ゆっくりと魔法陣の上に移動する。すると、周囲の景色が真っ白に染まっていった。


「神社は……」


 まだズキズキと痛む頭と胸に耐えながら、周囲を見回す。周囲は、相変わらず真っ白で、先程まであった神社や村は消え去っている。

 周囲の警戒を怠らないようにして、まずは、この痛みを抑えるため、内から溢れてくるものに蓋をするイメージをする。

 痛みが少しずつ治まってくると、正面でもやもやとした何かが現れ始めた。


「な、何……!?」


 もしかしたら幽霊かもしれないと思った私は、少しずつ距離を取る。そのもやもやは、段々と形を作っていき、私も見覚えのあるものになっていった。


「え……私……?」


 もやもやは、夜烏と黒羽織など、いつもの戦闘服を着た私になった。


「内なる自分を倒せ的な事? この装備で?」


 私がそう言うのと同時に、私の影が黒闇天と吉祥天を引き抜いて撃ってきた。私は、銃口から、どこに銃弾が飛んでくるか予測して、避けようとするが、避けきる事が出来ずに脚に銃弾を受けてしまう。痛みが襲ってくるが、すぐに感じなくなった。同時に脚が動かしにくくなる。


「麻酔弾か……」


 嫌らしい戦法だと思ったけど、相手は自分だったと思い出し、ちょっとへこんだ。

 いつまでもそんな状態じゃいられないので、こっちも行動に移る。銃を引き抜いて、銃弾を受けた脚の付け根を撃ちまくり、引き千切る。この脚をそのままにしておいたら、麻酔弾麻酔が回って、意識を失ってしまうからだ。


「……っ!!」


 さっきよりも強い痛みが襲ってくるが、痛覚耐性のおかげですぐにマシになった。同時に、爆発物精製で、爆風を最大にした煙幕爆弾を精製し爆破する。煙幕で視界を塞ぎながら、爆風で私の影から大きく距離を取る。本当は、接近した方が良いのかもしれないけど、脚がこんな状態なので、接近戦なんて出来っこない。

 マガジンを爆破弾に変更して構える。気配感知に反応がないので、どこにいるかは分からない。こんなに薄い私の気配を感知したネロの凄さを改めて思い知らされる。

 煙幕を抜けて、私の影が姿を現した。ここまで来れば、私でも気配を感じられる。それでもかなり希薄だけど。


「銃技『一斉射撃』」


 かなり近くで撃ったので、私に衝撃が伝わってくる。だけど、その爆発の中を黒羽織を盾にして、私の影は出て来た。

 本当に黒羽織と夜烏のおかげで、これまで生きてきたという事が分かる。


「リロード術『クイック・リロ……」


 すぐにリロードしようとしたのに、身体が全く動かなくなった。この現象には、心当たりがある。


「黒影か……」


 さっき爆破弾を撃った時に、向こうは黒影を投げつけてきていたんだ。この拘束を焦炎童子は、すぐに解いていた。つまり、思いっきり動こうとすれば外す事が出来るはず。

 身体を動かそうとしたその時、頭に黒闇天の銃口を突きつけられる。私の影は、冷ややかな目でこっちを見下ろしながら、引き金を引いた。

 頭に風穴を開けられた私は、そこで死んだ。


────────────────────────


 次に目を開けると、そこはさっきまでいた神社の中だった。


「うぅ……」


 身体は魔法陣から離れている。誰かがここに移動させたわけじゃなく、ここでリスポーンしたみたいだ。ステータスが低下しているというデバフが付いている事からも明らかだ。


「はぁ……うっ!」


 また頭痛が再発する。私は、深呼吸して身体から溢れてくる力を抑えつける。


「あれを倒さないといけないのか……」


 自分の影。それも最大装備をしたもの。それを倒さなければ、この力を制御出来ない。いや、それで制御出来るのかは、まだ分からないけど。

 今の装備だと上手くやらなければ倒せない。一番の問題は動きを止めてくる黒影か、それとも防御力が高い夜烏と黒羽織か、あるいは高威力の武器である黒闇天と麻酔や他の状態異常も起こしてくる吉祥天かと考えてみると、問題が多すぎる気がする。


「ああ、そういえば、夜烏も使われてないや……」


 技としての夜烏を使われていない。あれを使われたら、また話が変わってくる。


「何でこう面倒くさい技ばかり……って、私の事か……」


 また深いため息を零す事になる。その後に、メニューを表示させて、時間を確認する。時刻は夜中の十一時近くになっていた。この時間じゃシルヴィアさんに会いに行くのは無理だ。そうじゃなくても、かなり忙しいからしばらく会いに行くのは難しいかな。

 ちょっとだけ寂しいけど、こればかりは仕方ない。


「ログアウトしよ」


 私が現実に戻って休む事にした。

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