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163.シャルとのスノーフィリアデート

 シルヴィアさんと恋人になってから三日後の休日。ユートピア・ワールドにログインした私は、シャルと一緒にスノーフィリアを歩いていた。今日は、約束していたシャルとのデートの日なのだ。

 完全に二人きりのデートなので、シルヴィアさんはいない。ただ、私の装備はシャルが買ってくれた服から、夜烏に戻っている。アーニャさんによる修理と強化が終わったからだ。

 シャルとのデートにも関わらず、夜烏を着ているわけは、シャルの護衛を兼ねているからだ。この前のアリスちゃんの事件もあるので、シルヴィアさんが、二人きりで出掛けるのであれば、それが条件だと言われてしまったのだ。護衛という証拠に、私の腰のホルスターには、黒闇天と吉祥天が収められている。


「ふん♪ ふふん♪」


 それでも、シャルは楽しそうにしていた。


「ルナの装備も修理が終わっていたんだ?」

「うん。二日前に取りにいったけど、着るのは久しぶりかな。ずっと、普通の服を着ていたし」

「ルナは、基本的にその姿をしているから、そっちの方が見慣れているかな。でも、最近の服装の方が、私は好きかも」

「まぁ、こっちは軍服みたいな感じで、硬い雰囲気もあるからね。外に出たり、戦闘をしないなら、シャルに買って貰ったもので良いんだけど」

「私の護衛も兼ねているから仕方ないね」


 シャルとしては、夜烏よりも最近の普段着の方が好きみたい。私は、どっちでもいいんだけどね。


「あっ! ルナ、あっちにガラス細工屋がある!」

「本当だ」

「行こう!」


 テンション爆上がり状態のシャルに引っ張られながら、ガラス細工屋に突っ込んでいく。中にあったのは、綺麗なガラス細工の小物ばかりだった。

 シャルは、その一つ一つを、じっくりと見ていった。私も一緒に同じものを見ていく。


「結構凝ったものが多いね」

「これが、スノーフィリアの産業になっているわけだからね。ここのガラス細工は、かなり細かくて綺麗だと有名だよ」

「へぇ~、アリスちゃんにお土産で買っていこうかな。この前は、買ってあげられなかったし」

「人の妹に甘すぎない?」


 シャルは、ジト眼でこっちを見てくる。


「私、一人っ子だから、甘えてくる年下とかに弱いのかな?」

「ルナが弱いのは、シルヴィアでしょ」


 からかってくるシャルを、ジッと睨むけど、涼しい顔で受け流された。


「アリスに買っていくなら、動物系のものにしたら。あの子、動物が好きだし」

「そういえば、ジパングに行ったときも動物の図鑑が欲しいって言っていたっけ。う~ん……」


 私は、ガラス細工を見ていく。すると、その中に、鬼のような細工があった。


「……」


 私は、その鬼のガラス細工に視線が吸い寄せられる。

 それを見たシャルは、少し慌て始める。鬼からカエデを連想するかもしれないと思ったみたい。実際、一瞬だけ頭の中に過ぎったのは本当だけどね。


「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だよ」


 シャルを安心させるように、そう言う。


「そう? 無理そうなら言って」

「うん。分かった」


 ただ、前までと一つだけ違うことがあった。それは、あの憎い力が、自分の中にも存在しているということだ。私が、鬼に視線がいったのは、カエデの事もあるけど、この事もあった。鬼の力の事は、まだシャルにもシルヴィアさんにも話せていない。二人に話したら、絶対に心配されてしまうからだ。

 二人には、ここでやらないといけない事もあるので、邪魔しないようにした方が良いと思って、言い出せなかったのだ。


「あっ、この熊のやつ綺麗だなぁ」

「良いんじゃない? アリスは、動物なら何でも好きだし」

「じゃあ、アリスちゃんへのお土産は、これにしよう」


 色々とあるガラス細工の中で、色使いなども含めて綺麗だった熊のものを選んだ。後で渡しに行かないと。


「それじゃあ、次のところに行こうか」

「そうだね」


 私達は、スノーフィリアにある数少ないお店を回っていった。そんな中で、私は、ある事に気が付いた。


「シャル、大丈夫? 時々、暗い顔をしているみたいだけど」


 そう。シャルは、先程から時々暗い顔をしている事があったのだ。


「ああ。ごめん。ちょっと気になる事があってね。取り繕ってはいたんだけど」

「余程気になる事なんだね。そこのカフェにでも入る?」

「うん。そうしよう」


 私達は、スノーフィリアにある唯一のカフェに入っていった。そこで、紅茶とケーキを頼んで、テーブルに着く。そこで、シャルが話し出すのを待つ。


「実はね。ここで起きている事を調査していたら、年々、降雪量が増えているらしいんだ」

「そういう事もあるんじゃないの? こっちでも、似たような事はあるし」

「うん。それなら良いんだけどね」

「あ……」


 私は、ここでシャルが気にしている事に気が付いた。


「古代兵器の可能性を疑っているの?」


 私の問いかけに、シャルはこくりと頷いた。


「毎年、少しずつだけど確実に増えているんだ。それも、ここ十年の間にね。その前までは、そんな事なかったのに」

「十年前から? じゃあ、十年前に何か起こったりしなかった?」


 古代兵器以外のものが原因の可能性もあるので、一応訊いてみる。


「特に何も起こってないと思う。少なくとも、そんな話は聞いていないかな。私が調べた中でも、そんな事は無かったから」

「だから、古代兵器の可能性が浮上してきたわけか……まぁ、確かな事は分からないし、今は、デートを楽しんでいこう」


 せっかくシルヴィアさんに許可を貰って、デートをしているので、暗くなる気分を晴らしてあげたいと思ったのだ。


「そうだね。これを考えるのは、デートの後にしよう」


 元気になったシャルと一緒に、スノーフィリアを回っていった。シャルと回るスノーフィリアは、シルヴィアさんと一緒に回った時とは違った景色に見えた。時間帯が昼っていうのもあると思うけど、シャルが私を引っ張って行ってくれているからだと思う。


 そうして、デートを終えた私達は、宿泊している屋敷に戻ってきた。すると、すぐにシルヴィアさんが出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ。お楽しみ頂けましたか?」

「久しぶりに、良い気分転換になったよ。ルナを貸してくれてありがとう」

「いえ。ルナも楽しかったですか?」


 シルヴィアさんが、私に微笑んで訊く。それを見たシャルは、眼をぱちくりとさせていた。


「はい。アリスちゃんへのお土産も買えました」

「アリス様もお喜びになると良いですね」

「はい!」


 私がそう返事をすると、シルヴィアさんは優しく撫でてくれた。


「二人とも、前と変わらない雰囲気だと思ったら、確実に仲が深まっているね……」


 シャルは、苦笑いになりながらそう言った。それを聞いた私とシルヴィアさんは、顔を見合わせて、微笑みあった。それを見て、シャルは更に苦笑いする。


「シルヴィアも変わったね……」

「愛する人が出来ましたからね」


 シルヴィアさんは嬉しそうに笑う。それを見て、シャルは、少し嬉しそうだ。


「そうだ。ルナと話があるから、執務室に行く」

「かしこまりました」


 私達は、シャルの執務室へと移動した。シャルは、自分の机に座り、私達は立ったままだった。王都の執務室と違って、話し合いが出来る様なスペースないので、こうなっている。シャルは、少しだけ申し訳なさそうだけど、私は、別に気にしていない。

 二人で話す事は、さっきのデートの際に、聞いた降雪量の話だ。


「それで、私から提案があるんだけど」


 開口一番に私からそう言う。あの話をされて、パッと頭に浮かんだ事があったのだ。


「私が、古代兵器の調査をしようか?」

「……いいの?」


 シャルは、遠慮がちにそう言う。私の気分転換をさせるために、誘ったのに、こんなことを頼んで良いのかという事だろう。私としては、特に問題はないので、頷く。


「大丈夫。そろそろ身体を動かさないと、鈍っちゃうからね」


 カエデを喪った日から、私は一度も戦闘をしていない。つまり、一週間近く戦闘をしていないということである。


「分かった。それなら、シルヴィアも同行させるから。これは、絶対条件だよ」

「まぁ、私としては大歓迎だけど」


 いつもは、ソル達と一緒に調査をしているので、戦力が増えるのは嬉しい事なのだ。だが、シャルは、別の意味で捉えたみたいだ。


「イチャイチャして、調査を忘れないようにね」

「さすがに、そんな事はしないよ。大事な事っていうのは分かっているから」

「そう。じゃあ、お願いね。シルヴィアにも伝えておく……いや、どうせ、今からシルヴィアに会いに行くでしょ? 簡単に伝えておいてくれる?」


 私が、これからシルヴィアさんに会いに行くことを、シャルはお見通しだったみたい。


「オッケー。じゃあ、またね」

「また」


 私は、シャルと別れて、シルヴィアさんの元に急ぐ。シルヴィアさんは、まだ屋敷の玄関の方にいた。


「シルヴィアさん」

「ルナ。どうしました?」

「シャルからの伝言です。私と一緒に、ここに存在するかもしれない古代兵器の調査をするようにとの事です」


 私が、シルヴィアさんにそう伝えると、シルヴィアさんは、私の頬に手を添えた。


「ルナは、大丈夫ですか?」


 シルヴィアさんも、シャルと同様に私の事を心配しているようだ。


「大丈夫ですよ。問題はあるかもしれないですけど、これから先も私であるためには、乗り越えないといけない事ですから」

「そうですか」


 シルヴィアさんは、私の頬を撫でる。私が言った問題は、鬼の力の事だ。戦闘を開始して、すぐに発動するようなら、色々と困った事になる。その時は、シルヴィアさんやアーニャさんに相談しよう。さすがに、そんな事にはならないお思いたいけどね。


「調査は、いつ頃から行いますか?」

「明日からって、大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です。姫様にお伝えしておきます。ルナは、これからどうしますか?」

「一度、王都に戻って、アリスちゃんにお土産を渡してこようと思います。この前は、お土産を買ってあげられなかったので、そのお詫びも兼ねまして」

「なるほど。お気を付けて」

「はい!」


 私は、シルヴィアさんと別れて、噴水広場に向かう。そして、王都に転移し、王城へと入っていった。


「アリスちゃんは、どこかな?」


 アリスちゃんの部屋を知っているわけではないので、確実に会う手段がない。そもそもいつもは、アリスちゃんの方から見つけてくれるので、態々会いに行くということがないのだ。


「向こうから見つけて貰うしか無いかな?」

「何が?」

「!?」


 唐突に後ろから声がしたので、後ろを振り返って見ると、そこにはメアリーさんの姿があった。


「メアリーさん。こんばんは」

「こんばんは。何に見つけて貰うしか無いの?」


 メアリーさんは、私の独り言が気になって仕方ないみたい。


「アリスちゃんです。スノーフィリアのお土産を持ってきたんですけど、アリスちゃんの居場所が分からないので、どうしようって考えていて、いつもアリスちゃんの突撃を受けるので、それを待つしか無いかなって判断したんです」

「なるほどね。ルナちゃんは、アリスの居室を知らないんだったけ?」

「はい」

「じゃあ、一緒に行こうか。まぁ、アリスが居室にいるかどうかは分からないのだけどね。色々と習っているから、一箇所にいることが少ないのよね」


 アリスちゃんがメイドさんに追い掛けられているのも、習い事から逃げていたからなのかもしれない。気持ちは何となく分かる。


「まずは、音楽堂かな」


 メアリーさんに案内してもらう事になって、一歩踏み出した瞬間、背中から衝撃が襲ってきた。


「ルナお姉ちゃん!!」

「うごっ!?」


 私にタックルをかましてきたのは、やっぱりアリスちゃんだった。


「アリス! いきなり飛びついちゃ駄目でしょ!」


 すかさず、メアリーさんが怒る。その声にビクッと肩を揺らした。アリスちゃんは、肩を落としながら、私の後ろから出て来る。


「ごめんなさい、ルナお姉ちゃん」

「ううん。私は、大丈夫だから気にしないで良いよ。それよりも、今日はアリスちゃんに用があって来たんだ」

「私にですか?」


 アリスちゃんはきょとんとしながら私を見る。その目は、表情と違って期待に満ちあふれていた。王族と言っても、こういうところは、本当にただの子供と同じだ。


「はい。スノーフィリアのお土産だよ。この前は買えなかったから、そのお詫びも兼ねてね」


 スノーフィリアで買った熊のガラス細工を、アリスちゃんに渡す。アリスちゃんは、熊のガラス細工を受け取って、ジッと見る。


「良かったわね、アリス。きちんとお礼を言いなさい」

「はい! ありがとうございます! ルナお姉ちゃん!!」


 アリスちゃんは、私にお礼を言ってから抱きついてきた。可愛い。


「どういたしまして。割れやすいから、気を付けてね」

「はい!!」


 アリスちゃんは、嬉しそうに笑う。


「ルナちゃんは、これから何か用事はあるの?」


 アリスちゃんを見つけるという用事を終えたので、メアリーさんがそう尋ねてきた。


「いえ、特に用事はありませんよ」

「じゃあ、久しぶりに、勉強無しのお茶会をしない?」

「良いですよ」


 メアリーさんの提案でお茶会をする事になった。そんな話をしていると、アリスちゃんがこっちを見ていた。それに気が付いたメアリーさんは、アリスちゃんの頭を撫でる。


「アリスは、お稽古終わったの?」

「はい! 終わりました!」


 アリスちゃんは手を上げて返事をする。


「それじゃあ、アリスも一緒にお茶会ね。私の部屋で良い?」

「はい。大丈夫です」

「分かりました!」


 私達は、メアリーさんの部屋で、一緒にお茶会をした。私の隣に座ったアリスちゃんは、終始楽しそうにしていた。私と一緒にいられたからかな。

 こうして好かれるのは、嬉しいな。

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