162.ホラーエリアの遺跡へ
改稿しました(2023年1月26日)
インターホンに出ると、そこには日向の姿があった。私は、すぐに玄関に向かって扉を開けた。すると、開けるや否や、日向が抱きついてきた。
「日向!? どうしたの!?」
突然の事に、私も頭の中が混乱していた。
「取りあえず、中に入りなよ」
「うん。あっ、これお母さんから」
「ありがとう」
私は、日向からお菓子の入った袋を受け取って、日向をリビングまで通した。その後、お茶を入れた私は、日向の向かいに座る。
「それで、いきなりどうしたの?」
「実はね。さくちゃんに話があるの」
日向は、そう言ってお茶を一口飲んだ。
「さくちゃんが、焦炎童子と戦った時に、姿が変わっていた事を覚えてる?」
「ええっと……そういえば、ネロが何か言っていた気がする」
「それはね。鬼の力らしいの。普通に使う分には、問題無いらしいんだけど、怒りによって発動すると、宿主を蝕んでいくんだって。そしたら、最終的に鬼になってしまうらしいの」
そんな説明をされた私は、眉を寄せていた。自分自身に起こっている事に、少し驚いているのだ。
「そうなんだ」
私がそう言うと、日向はむすっとしていた。
「どうしたの?」
「やっぱり、さくちゃんは、そう言うと思ったよ。もっと自分を大事にしなよ」
「え~……十分大事にしていると思うけど……」
「してない! 全くもう……自分のスキルを確認してないの?」
そう言われて、自分のスキル構成を思い出す。
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ルナ[暗殺者]:『銃術Lv93(ユ)』『短銃術Lv56(ユ)』『長銃術Lv32(ユ)』『銃弾精製Lv108(ユ)』『爆破物精製Lv54(ユ)』『リロード術Lv100(ユ)』『体術Lv78』『短剣術Lv64』『捕縄術Lv11』『舞踏術Lv24』『投擲Lv51』『暗視Lv78』『潜伏Lv83』『気配遮断Lv64』『消音Lv75』『消臭Lv64』『隠蔽Lv30』『聞き耳Lv81』『速度上昇Lv79』『防御上昇Lv82』『器用さ上昇Lv78』『防御術Lv82』『回避術Lv89』『軽業Lv96』『急所攻撃Lv80』『防御貫通Lv60』『超集中Lv57』『騎乗Lv45』『見切りLv46』『気配感知Lv76』『弱点察知Lv60』『潜水Lv20』『泳ぎLv21』『登山Lv60』『痛覚耐性Lv90』『気絶耐性Lv50』『環境適応Lv17』『言語学LV84』『地図作成Lv10』『 』
EXスキル:『解体術Lv56』『採掘Lv15』『古代言語学(海洋言語)Lv40』『古代言語学(地底言語)Lv38』『古代言語(魔界言語)Lv22』『古代言語(草原言語)Lv25』『古代言語(黄金言語)Lv19』『精神統一Lv68』『クイックチェンジLv22』『暗殺術Lv22』
職業控え:[冒険者][狩人]
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確かに、一つだけおかしなスキルがあったことを思いだした。
「そういえば、名前も何も無いスキルがあったかな」
「ほら! 多分、それが鬼の力だよ! 絶対に使っちゃ駄目だからね!」
何故名称もレベルもないのか理由は分からないけど、ソルの言うとおりだと思う。
「これが鬼の力か……絶対に使うなって言うけど、そもそも使い方すら分からないんだよね」
「そうなの? ふぅ……ちょっと、安心したかも。それなら無闇矢鱈と使う事はなさそうだし」
「まぁ、勝手に発動するかもだけど」
私がそう言うと、日向は、少し不安そうな顔になった。
「まぁ、大丈夫だよ。使い方さえ分かれば、使わないように気を付けることが出来るし」
「さくちゃんがそう言うなら、信じるけど……」
日向は、そう言って息を吐いた。その後に、何故か言いにくい事があるみたいに、もじもじし出した。
「どうしたの?」
「あのね。お母さんに、さくちゃんの家に泊まるって、言っちゃったんだ」
「ええ……まぁ、良いけど。私、ご飯まだなんだ。日向は?」
「私もまだだよ」
「それじゃあ、手早く作るから、先にお風呂に入っちゃって」
「分かった。じゃあ、洗い物は私がするね」
そう言って、日向はお風呂の方に向かう。何度も泊まっているので、お風呂の場所なども把握している。そのためか、あまり遠慮しなくなっている。まぁ、全然良いんだけどね。
夕飯を日向と一緒に食べ、日向に洗い物をして貰っている内に、私もお風呂に入った。そして、湯上がりに、リビングで日向とお茶を飲む。
「そうだ。シルヴィアさんと付き合うことになったよ」
「え!? 本当に!?」
日向は、本気で驚いていた。そして、すぐに私に抱きついた。
「おめでとう!! まさか、さくちゃんが、想いを伝えるとは思わなかったよ!!」
「さらりと、酷いこと言っているよね? それに、私からじゃないよ。シルヴィアさんからしてくれたの。向こうも、想いを伝えたかったみたい」
「へぇ~、確かに、シルヴィアさんの方からなら、納得かも。それにしても、よく受けたね。私達とシルヴィアさん達とじゃ、色々な問題があるでしょ?」
日向が言っているのは、私も考えた事だ。日向も同じ事に思い至ったみたいだ。
「うん。それでも、好きになっちゃったからね。私達は、最期の日まで、お互いを愛するって決めたから」
「うわぁ……さくちゃんが青春してる……」
「良いじゃん! 私にだって、春は来るよ!」
「というか、それだったら、今日は赤飯にするべきだったじゃん!!」
「そこまでのお祝いはしなくても良いわ!!」
そんな風なやり取りをした私達は、一拍おいて顔を見合わせて、声を出して笑い合った。ひとしきり笑い合った私達は、お茶を飲んで一休み着く。
「本当におめでとう。さくちゃんの想いが成就して、私も嬉しいよ」
「ありがとう。日向」
日向に報告し終えたら、一緒のベッドに入って、眠りについた。翌日は、連休明けの登校なので、日向は、早起きして家に戻った。そして、制服に着替えた日向と合流して、学校へと向かった。
学校には、既に大空と舞歌がいた。二人にも、私の鬼の力とシルヴィアさんとの事を報告した。二人は、最初に心配そうな顔をしてから、一転、目を輝かせて祝福してくれた。
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連休明けから三日後の休日。ソル達は、ホラータウンに集まっていた。
「それじゃあ、地図に記された遺跡に向かおう! ミザリーちゃん、道案内よろしくね」
「うん。ルナさん程の案内が出来るか分からないけど、頑張ってみる!」
いつもはルナが道案内をしているが、今回はミザリーが案内する事になる。実際の場所は知らないので、地図を見つつの案内になる。
普段のルナも同じような案内の仕方をしている。ミザリーは、ルナよりも地図の見方が上手いので、少しだけスムーズな移動になっていた。
道中の幽霊は、ミザリーの魔法で蹴散らされていった。初めて常夜に来た時には、大量の幽霊が襲ってきたが、今回はそれがなかった。このことから、あれは時折起きる事だと予想出来る。
「ここが遺跡か……」
ソル達は、目の前にある遺跡を見る。それは、ジパングにあったものよりも小さく、所々崩れている。かなり古いものだろう。
「少し怖いから、メレの攻撃は無しにしよう。プティ達を出しておけるスペースが常にあるとも限らないし、聖歌を歌ってくれる?」
「分かりました」
遺跡の状態を見たシエルが、メレに頼んだ。狭い通路しかない場合、プティでは、通路を塞いでしまう可能性が高くなる。それだと戦いにくいので、いつでも着せ替え人形を使える状態にしておくという意味がある。
「確かに、その方が頼もしいかも。ミザリーちゃんも魔法が使い放題になるしね」
メレの案にはソルも賛成だった。遺跡の入口でメレが聖歌を歌い始める。
「よし! じゃあ、私とネロちゃんが先頭で、ミザリーちゃんとメレちゃんが最後尾。シエルちゃんは、状況に応じて、動いてくれる?」
「オッケー」
「にゃ」
「うん」
古い遺跡という事もあって、ソル達は慎重に進んで行く。遺跡の中に入ってすぐにあったのは、下り階段だった。つまり、地上に出ていたのは、ただの入口に過ぎないという事だ。そのまま降っていくと、通路に出る。通路は、奥が見えない程、続いていた。
「これは……長丁場になりそう……」
「確かに、ジパングにあった小さい遺跡とは、全然違う感じにゃ。これも古代兵器にゃ?」
ジパングでの経験から、ネロは、ここも古代兵器なのではないかと考えた。
「古代兵器が、どこにでもあるって情報もあるから、あり得なくないと思う。一応、そういう疑いは持ちながら行こう」
シエルの言葉に、皆が頷く。そして、通路の奥へと進み始めた。すると、正面の通路や壁から多くの幽霊が現れ、ソル達に襲い掛かってきた。
ソル達はすぐに戦闘態勢に移るが、すぐに解く事になった。それは、自分達に向かってきていた幽霊達が、急に苦しみだしたからだ。
「何!? どうなっているの!?」
突然の事にミザリーは、驚いていた。それは、ソル達も同じだ。
苦しみ続けた幽霊達は、段々とその姿を薄れさせて、消えていく。それは、幽霊の成仏を彷彿とさせた。そして、これに関して、ネロがある事に気が付く。
「これ、メレの聖歌の範囲内に入ったら、起こっているにゃ」
「本当だ。つまり、メレちゃんの聖歌は、私達の体力と魔力の回復の他に、アンデット系モンスターへの特効もしくは、幽霊への特効があるって感じかな?」
「ゾンビに対する効果は確かめてないから、なんとも言えないけど。少なくとも幽霊には通用するみたい」
聖歌の隠されていた効果に、メレも歌いながら驚いていた。自分の他の歌は、幽霊に効果が無かったからだ。
ここに来て嬉しい誤算だった。ソル達は、メレに聖歌を歌い続けて貰い、遺跡の中を進んで行った。遺跡の通路は、分かれ道のない一本道だったので、迷わずに進み続けられ、通路の先に出た。
そこは、広いドーム型のホールだった。その中央には、ボロボロの祭壇のようなものがあった。
「!?」
一瞬、巫女の祈り場と思って身構えたソルだったが、よくよく見ると、巫女の祈り場とは違う形をしていることに気が付いた。
「はぁ……びっくりした……」
「不思議にゃ。たった一度見ただけなのに、凄く印象に残っているから、どんな形だったとかが思い出せるにゃ」
「それだけ、私達にとって、衝撃的な出来事だったって事でしょ」
ソル同様に、少し安堵したネロとシエルがそう言った。
「取りあえず、このホールを徹底的に調べよう。何かしらの儀式を行っていたみたいだし」
ソルの意見に、全員が頷いてばらける。ソルは、まず祭壇から調べる事にした。
「?」
祭壇には、割れた皿、蝋燭立て、灰のようなものが置かれていた。儀式に使うものなのかと考えたソルだったが、何か違和感があった。
「なんだろう……?」
ソルは、祭壇の周りを回る。祭壇は、ソルの胸くらいの高さだった。先程の皿などは、その壇の下に置かれている。
「……祭壇っていうよりは……お墓?」
ソルの違和感の正体が明らかになった。先入観で祭壇だと判断していたが、よくよく見てみると、それは墓のようにも見えるのだ。
「何なんだろう……この遺跡は?」
ソルが疑問に思っている間にも、シエル達の調査は続いている。シエル達は、祭壇を中心として放射状に調べている。そして、その全員が同じ事を思った。
(墓が連なっている?)
ソルが調べている祭壇よりも小型で、日本よりも海外の方でよく見るような形の墓が、夥しい程ある。墓の一つ一つに文字が彫られているが、シエル達には読めない。だが、全員、恐らくは名前だろうと判断していた。
そして、大量の墓の奥にある壁には、何やら絵のようなものが描かれていた。それは、何かによって、幽霊のようなものが空へと上がっていっているような絵だった。
隅々まで調査したソル達は、一度集まって、その壁画を見ていた。
「これってどう見える?」
ソルは、皆に意見を求める。
「私には、変な箱で幽霊を成仏させているように見えるけど」
「私も同じです」
「私もにゃ」
「私も」
全員シエルと同じ意見だった。そして、それはソルも同じだ。
「そうにしか見えないよね。じゃあ、これって、古代兵器で幽霊を退治している絵なのかな?」
「古代兵器とは限らないんじゃない? 見ようによっては、人が魔法を使っているようにも解釈出来そうだし」
ソルは、古代兵器の情報かと考えたが、シエルは、その可能性だけではないのではと言う。
「確かに、あの箱が媒体となって、魔法を発動しているようにも見えなくもないかな? でも、可能性としては、古代兵器の方が高そう」
ミザリーは、シエルの考えもあり得るとしつつ、やはりソル同様に、古代兵器の情報なのではと考えていた。
「にゃ。どこにでもあるというくらいだから、ここにあってもおかしくないにゃ。でも、壁画の通りだと、かなり小さいものにゃ」
「そうですね。アトランティスも大きなものですし、ここまでの小ささは、初めてなのでは?」
メレの言葉に、ソルとシエルが顔を見合わせる。
「確かに、アトランティス、アルカディア、ジパング。一番小さいものでも、巫女の祈り場くらいの大きさはあったし。そもそも巫女の祈り場は、実体がどのくらいの大きさなのか分からないしね」
「手のひらサイズのものは、初めてだけど……これって、どうやって見つけたら良いの?」
シエルの言葉に、全員が固まる。ここまで小さいものだと、探すのも一苦労だと思ったからだ。
「ここに絵が描かれているくらいだし、この遺跡に安置されているんじゃないかな。だから、この奥にあると思いたい!!」
ソルはそう言って、奥へと続く通路を見る。他の全員も釣られてそっちを見た。だが、誰一人として、そちらに歩き出しはしなかった。
「時間も時間だから、今日はここまでだね。奥は、明日やろう!」
いつもの解散の時間が近づいていたのだ。今日は、これでホラータウンに帰り、解散となった。