155.焦炎童子との戦い(1)
改稿しました(2022年5月30日)
私はすぐに黒闇天を構えて、焦炎童子に向かって引き金を引く。中に入れてある弾は通常弾だ。まずは、どの攻撃が、どの程度効くのかを確かめる。
私が放った通常弾は、焦炎童子に命中すると、すぐに溶けてしまった。焦炎童子の体温なのかは分からないけど、通常弾をいくら撃ってもダメージにはならなさそう。
「フルメタルジャケット弾ならどう?」
すぐにリロードして、フルメタルジャケット弾を撃っていく。こちらも多少肌に食い込んではいるけど、すぐに溶かされてしまった。この感じだと、魔法弾系しか効かないやつかな。
この間も、焦炎童子は微動だにしていなかった。ただただニヤニヤと笑っている。これは、最初から私の攻撃が効くと思っていないって感じかな。
(むかつく……!)
私はすぐにマガジンを捨てて、リロードする。
「銃技『一斉射撃』!」
この攻撃も焦炎童子は、仁王立ちで受ける。だけど、次の瞬間、僅かに動じた。何故なら、身体が一気に凍り付いたからだ。今、私が放ったのは、氷結弾だ。相手の身体が発熱していると仮定して、それを冷やすための攻撃をしてみたのだ。
「面白いな。ただの鉄の塊だと思っていたが、こんなことをも出来るとはな」
焦炎童子はそう言うと、凍らされた身体を溶かしていく。氷結弾の効果も一時的なものでしかないみたい。だけど、一時的にでも効果があるのは大きい。
「今度は、こっちの番だな!!」
そう言うと、焦炎童子は身体に僅かな炎を纏って、突撃してきた。てか、別にターン制じゃないんだけど。
そんな事はお構いなしに、焦炎童子は拳を固く握り、私目掛けて叩きつけようとしてくる。その前に、バックステップで距離を取ろうとしたのに、さらに、一気に距離を詰めてきた。
「舞踏術『幻灯の舞』!」
身体に叩きつけられる前に、自身の姿を朧気にしながら、左側にサイドステップを踏む。私の身体一つ右に拳が振り落とされる。叩きつけられた衝撃が私を叩く。さらには、炎の熱まで伝わってきた。
私は、即座にバックステップで距離を取り、
「銃技『連続射撃・三連』!」
氷結弾を三発撃ち、焦炎童子の拳と地面を固める。
「銃技『一斉射撃』!」
残った七発を焦炎童子の身体に撃ち込む。焦炎童子が氷に飲まれるが、すぐに溶かされてしまう。
「リロード術『クイック・リロード』 銃技『一斉射撃』」
今度は爆破弾を撃ち込む。私の弾を警戒していない焦炎童子は、これも全て受けていく。
「ふはははははは!! これは痛いな!!」
爆発の煙の中から、ちょっと煤けた焦炎童子が出て来る。煤けただけで、大したダメージにはなっていない。焦炎童子は再び、私の方に突撃してこようとする。その予備動作を読み取った私は、焦炎童子の影に、腰から抜いた黒影を投げつける。
焦炎童子は、身体を前傾させた姿勢で一瞬止まった。
「ん?」
多少疑問に思ったみたいだけど、少し力んだら、黒影が外れて焦炎童子が動き出す。その動きに合わせて、サイドステップを踏むと、私の顔の横を焦炎童子の拳が通り過ぎる。今度は拳の余波などではなく、焦炎童子の体温で身体が熱くなるのを感じる。やっぱり、焦炎童子の身体から、熱が発せられているみたい。
その焦炎童子の身体に、黒闇天の銃口を付ける。
「銃技『零距離射撃』!」
氷結弾を装填しておいたので、焦炎童子の身体が再び凍り付く。零距離射撃の効果で、少し深めに銃弾が入り込んだらしく、焦炎童子が、一瞬苦悶の表情を浮かべた。
そして、黒闇天をホルスターにしまった私は、焦炎童子に両手で掌底を打ち込む。
「体術『二対衝波』!」
「ぐおっ!?」
打ち込まれた衝撃によって、焦炎童子の身体が数メートルだけ吹き飛ぶ。
「リロード術『クイック・リロード』 銃技『一斉射撃』!」
今、撃ち出した弾は、新しい銃弾である雷光弾だ。これは、相手に雷に打たれるのと同じ現象を与えるものだ。かなり強力なのだけど、弾を作る消費魔力が多すぎるため、あまり数が作れなかった。
スキルレベルも上がって、今までの弾は消費魔力が、かなり抑えられてきていた中で消費量が高いので、かなりの強さを期待出来る。
十発の雷光弾が命中すると、十回の雷鳴が響き渡る。同時に、焦炎童子の身体がビクビクっと震えた。感電している証拠かな。
私は、その間に投げていた黒影を回収する。
「ふははははははははははは!!」
虎の子だった雷光弾を受けた焦炎童子は、高笑いをしていた。爆破弾よりもダメージを受けているけど、まだぴんぴんとしている。
(こいつ、色々と化物過ぎる……)
だけど、耐久力が化物なら、まだやりようはある。
「『夜烏』!」
黒闇天から放たれた夜烏は、真っ直ぐ焦炎童子に命中した。すると、焦炎童子が纏う炎が弱まった。
(焦炎童子の長所は、耐久力じゃなかったって事!? いや、もしかしたら、纏う炎でステータスを強化しているのかもしれない)
私は、すぐに爆破弾を装填して、焦炎童子に撃ち込む。今までの経験から、焦炎童子は避ける必要もないと判断したみたいで、そのまま受ける。
「ぬっ!?」
焦炎童子は、自分で思っていたよりもダメージを受けたことに驚いていた。やっぱり、炎の量で、ステータスが変化するんだと思う。ジークの光と似たようなものだ。
ここが勝機と考えた私は、連続攻撃をする。
「リロード術『クイック・リロード』 銃術『一斉射撃』」
いつもと同じように、クイック・リロードと一斉射撃を繰り返す。それを五回繰り返したところで、一度止める。爆煙で何も見えなくなっているからだ。
私は、いつでも攻撃出来るように、引き金に掛けた指を解かない。
すると、爆煙の中から焦炎童子が勢いよく現れた。そのままの勢いで、私に突っ込んでくる。私はすぐに爆破弾を撃ち込む。しかし、その爆破弾は焦炎童子をすり抜けていった。
「!?」
私の幻灯の舞と似たようなものだと思う。炎を使って蜃気楼のようなものを作り出したんだ。ということは、本体は別のどこかから来るって事だ。
そう思って、警戒をしていると、爆煙の中から炎の球が飛んできた。私は、その炎の球の射程から逸れるように横に動く。
すると、炎の影から焦炎童子が飛び出してきた。焦炎童子は、にやっと笑うと、拳を私目掛けて振ってくる。今の状態では、幻灯の舞も使えないので、自分と焦炎童子の間に、威力をなくして爆風を中規模にした爆発を起こして、自分を吹き飛ばす。
吹き飛んだ私は、空中で体勢を整えて脚から着地し、焦炎童子と向き合う。
「ふむ。その姿になったからには、ある程度の強さがあるとは思っていたが、我の予想以上で嬉しいぞ」
「その姿? 何を言ってるの?」
焦炎童子が、少しだけ気になる事を言っているけど、これが私を油断させるためのもの作戦かもしれないので、油断せずに構えたままにしておく。
「まぁ、そんな事は良い。これには、どう対応する?」
焦炎童子はそう言って、大きな炎の竜巻を発生させる。その竜巻は、私を中心に発生させられたので、逃げ場が全く無い。それどころか、竜巻が段々と範囲を狭めていく。このままだと、焼け死ぬことになる。
「『クイックチェンジ』!」
私は、手に持っていた黒闇天を韋駄天に入れ替える。そして、すぐに韋駄天のマガジンを通常弾から氷結弾に入れ替える。それを周囲にばら撒いていく。
「リロード術『クイック・リロード』」
マガジンを入れ替えて、再びばら撒いた。計六十発の氷結弾が炎の竜巻にぶつかっていった。魔法の弾である氷結弾は、魔法にぶつかることでも効果を発揮する。その結果、私と覆っていた炎の竜巻は、氷の塔へと姿を変えた。
その瞬間、焦炎童子が氷を割って入ってきた。精神統一のおかげで、その姿を確認する事は出来た。でも、その拳を避ける事は出来なさそうだ。だから、最小限の防御として、韋駄天を盾代わりにして、何とか拳を受ける。韋駄天が、ひしゃげるのを感じつつ、吹き飛ばされていった。
地面を転がりながら、勢いを殺して起き上がると、また焦炎童子の拳が振られてくる。防御手段を失ってしまった私に、焦炎童子はにやっと笑う。
(爆破で回避を……)
そう判断しようとした瞬間、焦炎童子の拳を白い刀が防いで押し返す。
「大丈夫、ルナちゃん!?」
「ソル!」
押し返された焦炎童子に、音の砲撃が命中し、さらに奥へと押されていく。ソル達が助けに来てくれた。
「えっ!? ルナさん!?」
何故か、ミザリーが、私を見て驚いている。メレ達も同じだ。
「皆、下の人達は!?」
「ミザリーが拘束して、空いた穴を通ってきたにゃ。それより、ルナの方こそ、どうしたのにゃ? 髪の毛が虹色に光っているし、目が光っているにゃ」
「へ?」
ネロに指摘されて、自分の髪を見ると、本当に虹色に輝いていた。
「それは、今は置いておこう。『癒しの導きを』」
ミザリーが、私を回復させる。
「それで、あいつが敵ね。ルナ、作戦は?」
シエルがそう聞くと同時に、音の砲撃で押された焦炎童子が楽しそうに笑いながら、こちらに走り出した。私の他にも、強い人が来たから笑っているのだと思う。
「メレは、聖歌! ミザリーは、即時回復用に魔力を温存! シエル、メリーを二人の防衛に残して! 他は、焦炎童子を攻撃!」
『了解!』
メレが、すぐに聖歌を歌い出し、メリーが、メレとミザリーの前に陣取る。シエルが、着せ替え人形でプティを纏い、ガーディを大きくする。ネロが、光の爪を生やす。そして、ソルが、鳴神を身に纏う。いつも一瞬しか使わなかったから分からなかったけど、鳴神を纏ったソルは、少しだけ露出がある和服を纏っていた。
ちらっと見ただけだけど、私を攻撃していた呪術師達はキヨミと一緒に消えていた。私達の戦闘の隙に逃げたのだろう。
そして、私達と焦炎童子の戦いが始まった。