154.儀式を止めろ!!
改稿しました(2022年5月30日)
外に出ると、既に日が落ちて、夜になっていた。私達は、遺跡から職人街へと移動する。そして、転移ポータルから呪術師の村へと転移しようとすると、何故か飛ぶ事が出来なかった。
「何で!? どうして、転移が出来ないの!?」
「ルナ、落ち着いて。向こうで封じられているって表示されている。呪術師の村だし、そういう力を持っているのかもしれない。ここは、一度港に転移してから移動しよう」
「分かった」
シエルが冷静に案を出してくれたことで、少し落ち着くことが出来た。正直、カエデの安否が心配で、色々と焦っていた。きちんと冷静に行動しないと、どこかで取り返しのつかない失敗をしそうだ。
私達は、一度、転移でジパングの港の方に移動する。そして、すぐに外に出た。
「ルナちゃん!」
ソルが、村の方向を指さす。指した先には、怪しげな光の柱が立っていた。
「急ごう!!」
私達は、月読とプティに乗って、呪術師の村へと急いだ。
「予想が的中にゃ」
「うん。儀式がどのくらい進んでいるのか分からないから、早く行かないと」
「メレ! 聖歌を歌って!」
「はい!」
メレが聖歌を歌うと同時に、シエルがプティとガーディを合体させる。そうして移動速度を上げたのだ。初めて呪術師の村に行った時の半分くらいの時間で、呪術師の村の近くまで来ることが出来た。
ただ、その先に進むことは出来ない。何故なら、その先を村の人達が塞いでいるからだ。村の人達は、全員武器を持っている。
「儀式の邪魔はさせないぞ!!」
「お前達を先には行かせない!!」
「さっさと帰れ!!」
村の人達が襲い掛かってくる。光の柱が立っている場所は、カエデが住んでいた神社だ。早く上らないといけない。
「ルナちゃん! 先に行って!」
ソルが、村の人達の攻撃を防ぎながらそう言った。他の皆も、それぞれの方法で村の人達の攻撃を防いでいる。
「分かった!」
私は、黒羽織のフードを被って、暗い森の中に溶け込み、裏手から神社の方に向かう。ソルが私を行かせたわけは、私が、夜に紛れて行動出来るからだと思う。隠密行動に長けた人は、私だけだ。
正規の道ではなく、森の中を駆け抜けていき、さらに山を登って、神社の中へと飛び込んだ。そして、すぐ近くにある木の裏に隠れる。神社の中は、敵の数が下よりも多い。こっちの方が、警備は厳重みたいだ。やっぱり、儀式が行われているのは、ここで間違いない。
一応、ここまでは、誰にも見付かっていない。私の潜伏能力は、かなり高いから、このまま見付からずに侵入も出来るはずだ。
私は、人が途切れるタイミングを突いて、一気に神社の屋根に移動する。ここなら通路とかに邪魔されずに、一気に儀式の中心地まで移動出来る。
屋根の上から、光の柱が現れている場所を見る。そこは神社の中央に祭壇が建てられていた。そこで、カエデが膝を突いて祈っていた。それを遠巻きからキヨミさんが見ていた。その顔に苦渋などはない。さも当然のように、カエデを見ている。
「カエデ……」
祈りを捧げているカエデを見ると、頬に涙が流れているのが見えた。私は、いてもたってもいられなくなり、目立つのも構わず屋根の上で立ち上がる。
「カエデ!!」
そして、大きな声でカエデに向かって呼び掛けた。その声が届き、カエデがばっと振り向く。ここからでも、カエデの目に喜びが表れているのが分かった。
私は、すぐに屋根から飛んで、カエデの元に向かおうとする。走るよりもハープーンガンで、自分を引き寄せた方が早い。私が、ハープーンガンを取りだしたと同時に、キヨミさんも動き出した。
「『縛り封じられよ』!!」
キヨミさんが、そう詠唱しても目に見えるような何かは現れない。その代わり、いきなり私の身体が動かなくなった。
「何……これ……!?」
空中にいた私は、受け身も取れずに地面を転がる事になる。恐らく、キヨミさんの呪術で、動きを封じられているのだと思う。金縛りのような感じだ。なったことないけど。
「ふぎぎぎ……こんなもの!!」
私は、無理矢理身体を動かそうとする。呪術の動きを止める効果と私の力が拮抗していき、最終的に打ち破ることが出来た。
「やった……!」
また呪術を掛けられないように、すぐ駆け出す。
「我々の悲願の邪魔はさせん!!!」
キヨミさんがそう言うと、他の呪術師達も揃って攻撃をしてくる。その内の一人が、さっきの金縛りの術みたいなものを放ってくる。
さっきやられた時には気が付かなかったけど、何だか空間の歪みみたいなものが飛んできているのが分かった。それに当たらないように、横っ飛びで避ける。どうやら追尾性能は低いようで、まっすぐ地面に当たって効果を失っていた。
その後、呪術師達の怒濤の攻撃が襲い掛かってくるので、それをひたすら避けて、ほんの少しずつカエデに近づいていく。
「我々は、このジパングで迫害されていた」
何故か、突然キヨミさんが語り出した。
「ただ、呪術を操る。それだけの理由で、ある者は娘を犯され、ある者は指を全て切り落とされ、ある者は目玉をくり抜かれた。それだけじゃない。命を奪われることなど日常茶飯事だった。だからこそ、この巫女の祈り場にて、鬼を降霊させ、復讐を果たそうといのだ。あんたには、この気持ちが分からないのかね!!」
そんな事を言っていたけど、完全に聞き流した。というか、この攻撃の嵐で、そんな話をしっかりと聞くことの方が難しいと思う。
「これだけ言ってもダメかい。なら、ここで死にな!!」
攻撃の密度が上がるけど、ギリギリ避けられる道が残っている。そこを、進んで行く。そして、ようやくカエデの近くまで移動する事が出来た。でも、カエデは動こうとしない。顔を俯かせて祈っているだけだった。
村の悲願。それを一身に背負っているので、そう簡単にやめるわけにもいかないと考えているのかもしれない。
「カエデ!」
声を掛けると、ピクッと動く。
「カエデは、どうしたいの!? この村の悲願とかじゃなくて! カエデ自身は、どうしたいの!?」
カエデに問いながら、呪術師達の攻撃を避けていく。
カエデは、巫女服の懐を探って私がお守り代わりに渡したナイフと銃弾を触っていた。そして、ぎゅっと眼を瞑ると、小さく笑った。
「……助けて……」
カエデは、小さくそう言った。そして、私の方を見て、寂しそうに笑う。
私は、呪術師達の攻撃が途切れた一瞬のタイミングで、一気にカエデに近づく。
「カエデ!!」
カエデに向かって手を伸ばす。その瞬間、光の柱の輝きがどす黒くなって、少しずつ広がる。それは、カエデの身体を飲み込もうとしていた。
それでも私は、カエデに伸ばす手を引っ込めない。そんな私に向かって小さく手を伸ばしたカエデは、口パクで何かを言っていた。
それが何かを理解する前に、カエデが光に飲まれる。カエデを引っ張り出してやろうと、光に手を突っ込もうとする。
「!?」
その前に、光の中から赤く大きな拳が現れて、私に向かって振われる。私は、その攻撃に、ギリギリ反応して、その拳に自分の足の裏を当てる。そして、屈伸の要領で威力を殺し、相手の拳に乗って飛ばされ、空中で姿勢を整えて、地面に着地した。この世界だからこそ出来る事だ。
「カエデ!!」
着地してから周囲を探すけど、カエデの姿はない。そして、どす黒い光の中から、赤い肌で、二本の角が生えた巨体の鬼が姿を現した。その最大の特徴として、髪の毛が炎で出来ている。
この鬼が姿を現して、キヨミさん達は歓喜の声を上げている。
鬼がいるあそこにはカエデがいたはず。そのカエデの姿は、どこにもない。そして、巫女の祈り場の効果を考えれば、自ずと答えは出て来る。カエデは、今、あの鬼に取り込まれているか、カエデ自身があの鬼になっているのだろう。
「はぁーはっはははは!! 我の名は、焦炎童子! お前、中々に見所がありそうだな!!」
焦炎童子と名乗る鬼は、そう言って私の事を見下ろす。私の二倍以上の身長があるので、当然と言えば当然なんだけど。
「カエデは、どこ!?」
本当に知っているとは思えないけど、僅かな希望を持って、焦炎童子に問う。
「カエデ? ……ああ、儀式の生贄か。奴は、我の依り代となった。ここにはいねぇ」
焦炎童子はそう言って、にやりと笑う。
ゲームだったら、焦炎童子を倒せばカエデが帰ってくるはず。それが鉄板だからだ。私は、すぐに黒闇天を引き抜く。
さっきからギャーギャーと喚いているキヨミや呪術師達への怒りと、一縷の望みを持って、焦炎童子の前に立つ。
「あんたを倒して、カエデを取り戻す!!」
私はそう言って、黒闇天と黒影を構える。それと同時に、身体に力が湧き上がるのを感じた。何が起こっているのか分からないけど、そんな事を気にしてはいられない。
そんな私を見て、焦炎童子は面白そうに笑っていた。
「そうか。お前も、こちら側に落ちるのか。面白い!!」
私と焦炎童子の戦いが始まる。