151.遺跡の謎とソルの刀!!
レンゾウさんと別れた私達は、遺跡の中を進んで行った。その間に、私は、ネロの隣に移動する。
「さっき、レンゾウさんと話していた時、首を傾げていたよね? 何か聞こえたの?」
私が、ネロの横に移動したのは、さっきの話の途中で、ネロが首を傾げていたからだった。ネロなら、私達には聞き取れない事も聞き取っている可能性は充分にある。
「にゃ。確か……『相変わらずだな』って言っていたにゃ。何のことか分からないから首を傾げたのにゃ」
「『相変わらずだな』? ソルの刀を見た時に言っていたよね?」
私は、ソルに確認を取る。
「うん。アーニャさんが作ってくれた刀を見た時だよ」
アーニャさんが作った刀を見た時に、そんな事を言ったのなら、アーニャさんとレンゾウさんに繋がりがある可能性がある。どんな繋がりがあるのかは分からないけど。
「帰ったら、アーニャさんに訊いてみようかな。多分、また秘密って誤魔化されると思うけど」
「何で、アーニャさんに秘密が多いのかとかも、気になる事だよね。後々に、分かれば良いと思うけど」
「うん、そうだね」
私は、今日の調査が終わったら、アーニャさんに話を訊きに行くことした。そんな話をしている間にも、移動は続けている。一本道を進んで行くと、少し大きなホールに出た。
ホールの中には、下へと続く階段と先へと進む道があった。それ以外には、何もない。飾りとかがあっても良いと思うけど、それすらない。
「さっきから、ずっと殺風景なところが続くね。もう少し、装飾とかこだわればいいのに」
ミザリーは、ホールの中を見て、そんな感想を溢した。
「そうですね。今までの部屋も何もありませんでしたし、こういう大きなところなら、装飾があってもおかしくはないと思いましたけど」
「効率とか機能とかを重視しているんじゃないの。今までの感じだと、そんな印象を受けるけど」
シエルの意見は、意外と的を射ている気がする。何の効率かは全く分からないけど、無駄を無くしているって考えれば、装飾がないのも頷ける。この遺跡は、基本的に無機質な感じだ。
そもそも、この長い通路が無駄な気もするけど。
「それで、どっちから行くにゃ?」
ネロにそう訊かれて、私は、通路の先と階段の下を覗いていく。
「う~ん、意外と下も深いかな。なら、一層毎で探索していくのが良いかもね。皆はどう思う?」
そう言ってから、皆の事を見ていく。
「私はルナちゃんの意見に賛成だよ」
「私も賛成」
「その方が、隈無く調べられますしね」
「賛成にゃ」
「効率良くいこう!」
皆、私の案に賛成してくれた。調べる方針が決まった私達は、真っ直ぐ通路へと進んで行った。通路をしばらく進むと、奥にまた大きな部屋があった。そこは、アトランティスやアルカディアで見た大量のディスプレイが並んだ部屋だった。
「やっぱり、これが古代兵器だったんだ」
「大型の古代兵器の特徴なのかもね」
私とソル、シエル、メレは、アトランティスやアルカディアを経験しているので、こういったものを見ても冷静に観察出来ていたが、古代兵器初心者のネロとミザリーは呆然としていた。
「ネロ? ミザリー? 大丈夫?」
一応、二人にそう訊くと、こくりこくりと頷いた。突然の機械に、まだ戸惑っているみたいだけど、大丈夫かな。
私が、二人を少し心配している間に、ソル達がキーボードを弄くっていた。
「ルナちゃん、これ全く動かないよ?」
「うんともすんとも言わないけど」
「今までもこういう感じだったんですか?」
メレも、この操作室みたいなところは初めてなので、動かないのが基本なのかと思ったみたい。
「ううん。アトランティスもアルカディアも、起動したよ。何も出てこないって事は、ここのディスプレイは完全に死んでいるのかも」
私もキーボードを弄るけど、ディスプレイは何も反応しない。試しに、ディスプレイ自体に手のひらを当ててみるけど、何も起こらない。
「だめだ。この古代兵器は、完全に壊れているね」
「幸いと言えば幸いにゃ?」
「そうだね。態々破壊しないでいいから、その点で言えば、運が良かったね」
ここをアルカディアのように破壊する必要がないのは、本当に助かる。また、周辺の地域まで被害を出したくないし。
「ここが操作室なのかもしれないから、部屋の中を調べよう。何か本とかあったら言って。多分、黄金言語で書かれていると思うから」
古代言語を読めるのは、私くらいなので、見つけた本は、全部私が調べないといけない。私達は、バラバラに動いて、部屋を調べていく。
「ん? ルナちゃん! こっちに本があるよ!」
「分かった」
ソルが読んだので、すぐにソルのいる場所に移動する。ソルが見つけた本は、本棚に平積みされていた。表紙には、黄金言語で『ジパングの操作法』と書かれている。
「『ジパングの操作法』!?」
私は、すぐに中を読もうと表紙を捲る。すると、私が捲ろうとした瞬間に、表紙が割れてしまった。
「!?」
「紙が劣化しちゃってるんだ。多分、中を読むのは無理だよ」
「……どのみち、動かすことも出来ないから、ここに置いておくしかないんだし、チャレンジした方が良いと思う」
「それもそうだね。ルナちゃん、慎重にだよ!」
「うん」
私は、細心の注意を払って、ページを捲ろうとする。しかし、それでもページは割れてしまい、読めるような状態ではなくなってしまった。
「……ごめん、皆」
「別に良いよ。ルナが言った通り、結局、やるしかなかったわけだし」
「そうですよ。仕方のないことです」
「ありがとう」
皆が慰めてくれる。今までの古代兵器では、ここまで劣化している事は無かった。つまり、この古代兵器は、今までの古代兵器と何かが違うのかもしれない。
私達は、他の情報がないか調べていく。『ジパングの操作法』と一緒にあった本は、ジパングと全く関係のなさそうなもので、さらに、同じように劣化していたので、情報にはならなかった。
「ここの情報はこれで終わりみたいだね。結局、ルナさんが読んでくれた『ジパングの操作法』っていうのだけが情報かな?」
「そうだね。この古代兵器の名前が、ジパングって分かったのは、値千金の情報だよ。後の問題は、古代兵器が影響を及ぼす規模なんだよね。そこら辺は、もう少し調べてから考察する感じかな」
後々に、大きな情報を得るって事もあるからね。皆で、この部屋を隈無く調べていったけど、特にこれと言った情報はなかった。
「この階は、これくらいしかないみたいだし、今日はここまでにしておこう」
「そうですね。そしたら、レンゾウさんの元に向かいましょうか」
「そうだね。もしかしたら、刀が出来上がっている……わけはないよね。刀作りがそんな簡単なわけないし」
刀作りの方法は、あまり知らないから、ちゃんとしたことは言えないけど。
「でも、レンゾウさんが、終わったら来いって言っていたから、行かないと。もしかしたら、刀作りに必要な何かの情報かもしれないし」
私達は、今日の調査を終えて、遺跡を出る。来た道を辿って、職人街へと戻っていった。
そして、私は、あることに気が付く。
「私達って、レンゾウさんの店を知らなくない?」
私がそう言うと、皆が顔を見合わせた。
「確かに……」
「ここを調べた時は、全部他人のお店でした」
「もう一度、隈無く探すしかないかもね。後は、ネロの感覚で、何か分からない?」
シエルがネロに問いかけると、ネロはすぐに首を横に振る。
「色々なところで、カンカン鳴っていて、よく分からないのにゃ」
これだけ鍛冶屋が沢山並んでいたら、鎚の鳴る音が重なり合って、他の音がかき消されていても不思議じゃない。
「どうしようか」
そんな事を言っていると、ネロがピクッと反応した。そのすぐ後に、私達も同じような反応をする。
「あの人、気配を出したり消したりが、上手すぎじゃない?」
シエルの言葉にメレ以外の皆は、同感だった。遺跡でもあったように、またいきなりレンゾウさんの気配が現れた。それは、家も何も無さそうな茂みの奥からしている。
「私も、早く気配感知を手に入れないとですね……」
一人だけ、皆についていけていないメレがそう呟いていた。一応、周囲の気配に敏感になろうと、常に周りを意識しているみたいだけど、まだまだ足りないみたい。多分だけど、前まで、周りを護衛に固められていたから、そういう経験が足りていないんだと思う。
後は、その経験値が規定値に達すれば、多分修得出来るんじゃないかな。
「取りあえず、行こうか」
私達は、レンゾウさんの気配がする方に向かっていく。茂みの中を進んで行くと、小さな小屋が建っていた。周囲の木々などが高いので、全く目立っていない。今、煙突から出ている煙がなかったら、全然見付からないと思う。
扉を開けて、中に入ると、奥の方で刀を研いでいるレンゾウさんの姿があった。
声を掛けようと思ったけど、レンゾウさんは、真剣な顔で刀を研いでいるため、邪魔してはいけなさそうと感じ、戸を閉めてしばらく待つことにした。
小声で皆と話しながら待っていると、刀を研ぎ終わり、私達に気が付いたレンゾウさんが刀を持ってこっちに来た。
手に持っている刀は、さっき研いでいた刀では無く、全く別の刀だった。それは、鞘も鍔も柄も全てが真っ白の刀だった。
「随分と前に作ったものだが、そこらに出回っているものよりも遙かに業物だ。名前を『白蓮』と言う」
レンゾウさんは、ソルに白蓮を手渡す。ソルは、柄を握り、少しだけ鞘から抜いて刀身を見る。その刀身すらも白い。この白さが白蓮の由来になっているのかも。
「えっと、これっておいくらになるんでしょうか?」
「五百万ゴールドってところだな」
「ユートピアの方の貨幣でもだいじょうぶですか?」
「ああ。両替すれば良いからな。それで良い」
「分かりました」
ソルはそう言って、スッと五百万ゴールドを取り出して、レンゾウさんに渡した。さすがに、ジパングの貨幣で五百万ゴールドは持っていなかったみたい。まぁ、そもそも五百万も貯金しているっていうのも凄いけど。
私が散財しているってだけかもしれないけど……必要なものを買っているだけだし、仕方ないよね。
「本当にありがとうございます」
ソルは、白蓮を抱えて頭を下げる。
「いや、そいつを受け取ってくれて良かった。大事にしてやってくれ」
「はい!」
ソル待望の強い刀を手に入れた。ジパングでやることが一つ達成出来た。後は、あの古代兵器を調べるだけだ。