150.刀匠との出会い!!
改稿しました(2022年5月30日)
私達は、遺跡の通路を進んで行く。すると、何だか辺りの雰囲気が変わってきた感じがした。多分だけど、今まであった居住用の部屋が一切無くなったからだと思う。
私達は、誰が言うでもなく、全員警戒心が一段上げる。周囲の気配に注意をしながら前へと進んでいく。ここまでの道のり同様、真っ直ぐな道なので、迷う事はないのだけは有り難い。
「この先って何があるんだろう? ルナちゃんはどう思う?」
「う~ん、古代兵器って予想が正しいなら、いつもみたいに、コントロールするための部屋があると思う。ディスプレイ操作は、アルカディアみたいに天界言語が出て来るとお手上げだからなぁ。そうならないと良いけど」
アルカディアのディスプレイでも、最初は草原言語だったのに、途中から天界言語が流れてくるようになった。ここが、古代兵器の中で、そういう部屋があるとしたら、同じようになっている可能性が高い。そうなったら、私にはどうにも出来なくなってしまう。
その時、ネロがピタッと立ち止まった。どうしたのかと訊こうとした瞬間、私もその原因に気が付いた。それは、メレ以外の皆、そうだった。
「ど、どうしたんですか?」
気配感知をまだ、修得していないメレが突然張り詰めた空気に戸惑っていた。
「気配がする。敵性のものじゃないんだけど、色々おかしいんだ。私達の感知の内側に突然現れた。気配を消していたけど、私達に気付かせるためみたいに……」
感知能力が一番高いネロが真っ先にその事に気が付いて、私達も遅れて気が付いたのだ。唐突過ぎて、敵性のものではないとはいえ、警戒心は強くなる。
「メレとミザリーを最後尾に、ソルとネロは先頭、私とシエルは中間で攻撃と防御を兼任で」
私がそう指示を出すと、皆、その通りに動いた。そして、段々と接近してくる気配を待ち受ける。全員、いつ戦闘に移行しても良いように、武器に手を掛けていた。
しばらく待っていると、正面から人が歩いてくる。モンスターではないけど、油断は出来ない。歩いてきている人は、私達よりも年上で、大体二十代くらい男性が歩いてきていた。
私達が口を開く前に、向こうから口を開いた。
「お前達は、何者だ?」
声の中に敵意のようなものは感じない。純粋な疑問のように感じる。私は、一瞬嘘を言うか迷う。相手が、どういう立場にいるか分からないからだ。
でも、気配感知や今の感じだと、敵ではないと思う。だから、ここは正直に言うことにした。
「私は、ルナ。冒険者です」
私が自己紹介した事で、ソル達も後に続いていく。
「なるほど。全員が冒険者というわけか。俺の名前は、レンゾウだ。それで、冒険者のお前達が、こんなところで何をしているんだ?」
「刀匠を探しています。ここら辺にいるという情報を手に入れたので」
私は、古代兵器の事は伏せて、刀匠を探しに来たという事にした。嘘は言っていないので大丈夫。国王様達に、あまり古代兵器の事は話さないようにって、言われているからね。
私の言葉に、レンゾウさんは驚いた顔をした。
「この中に、刀を使うやつがいるのか?」
レンゾウさんが真剣な顔でそう言った。その言葉を受けて、ソルが手を挙げる。すると、レンゾウさんがソルに近づいて来て、ソルの手を握る。それに留まらず、手のひらを揉んでいた。ソルは、突然の出来事に、混乱して何も言えずにいた。
その代わり、私の身体は考えるよりも先に動き、レンゾウさん頬に拳を叩き込んで、殴り飛ばしていた。レンゾウさんは、綺麗に弧を描いて、五メートル程吹き飛んだ。
「あっ……ごめんなさい!! つい!」
「い、いや……大丈夫だ。こっちもいきなり触ってしまって悪かった……それにしても、良いパンチだな。ここまで飛ばされるとは思わなかった」
レンゾウさんは、若干ふらつきながらも立ち上がって、ソルにいきなり触ったことを謝った。私が殴った頬は、赤く腫れていた。完全にやらかしちゃった。一応、許してはくれているけど、罪悪感が半端ない。
「後、俺が、お前達が探している刀匠だ」
「はぁ、でしょうね」
皆も私と同じような反応だった。ここにいるだけなら分からないけど、刀にあれだけ反応したら、刀匠だろうと予想は付く。
「その刀匠が、何故、遺跡にいるんですか?」
刀匠が遺跡にいるという話を聞いてから、ずっと気になっていたので、本人に直接訊いてみた。
「……実は、ずっと、この遺跡が気になっていてな。時折、見に来ているんだ」
「気になる……ですか?」
「ああ。色々と珍しいものがあるだろう? それらを調べたりしているんだ。結局、未だに何も分からないんだけどな」
何か、少しだけ間があったから、少しだけ踏み込んで訊いてみたけど、特に怪しい事は言わなかった。だとしたら、本当の事なのかな。
私とレンゾウさんの話が終わると、ソルが一歩前に踏み出した。
「あの……お願いがあるのですが、私の刀を打って貰えませんか!?」
ソルの目的であるちゃんとした刀を手に入れるチャンスだ。絶対にものにしたいと考えているんだと思う。お願いしているソルの手は、力一杯握られていた。
レンゾウさんは、少し考え込んだ。
「……今の刀を見せて貰えるか?」
「あ、はい」
ソルは、アーニャさんに作って貰った刀をレンゾウさんに渡す。レンゾウさんは、刀を抜いて、細かく見ていく。
「作りは甘いが、悪くはないな……」
レンゾウは、その後小さく口を動かしていた。何かを言っているようだったけど、私には聞き取れなかった。唯一、ネロだけが首を傾げて、どういうことだろうみたいな顔をしていたので、ネロにだけは、聞こえていたのかもしれない。ネロの感覚ならあり得ない事では無い。後で、ネロに訊いてみよう。
「分かった。お前の刀を打とう」
「本当ですか!?」
ソルが、目を輝かして喜ぶ。そんなソルに、レンゾウさんは何気なくこう言った。
「その前に、もう一つの刀も見せてくれ」
「え?」
ソルは驚いて、ぽかんとしていた。鳴神は、普段使いの刀じゃない。だから、ソルは見せる必要はないと思っていたんだと思う。でも、どうして、装備をしていない鳴神の事まで分かったんだろう。そこは謎だ。
「どうぞ」
驚いて呆けていた状態から立ち直ったソルが、鳴神をレンゾウさんに渡した。レンゾウさんは、鳴神を一通り見てから頷いた。
「じゃじゃ馬だが、強力だ。だが、力任せに振うな」
そう言われたソルはビクッと震えた。多分だけど、鳴神を振う時は、基本的に力任せなことが多いんだと思う。まだ、二回くらいしか振っているところ見た事はないけど。
「お前なら、もっと上手く使えるはずだ。精進しろ」
「はい」
ソルは、レンゾウさんから鳴神を返して貰った。その時のソルの表情は、レンゾウさんの言葉を重く受け止めているようだった。
「俺を探しにきたなら、もう街に戻るのか?」
「いえ、私達も少し遺跡に興味があるので、少し見ていくつもりです」
「そうか。なら、見終わったら、職人街に戻ってきてくれ。店で待っている」
レンゾウさんはそう言って、遺跡の出口方面に向かっていった。取りあえず、刀匠に出会う事が出来て、尚且つ、ソルの刀を作って貰えることになった。ジパングに来た目的の一つが達成出来そうという事だ。
「良かったね、ソル。刀を作って貰えそうで」
「うん! ありがとう、ルナちゃん!」
ソルはそう言って、私に抱きついてくる。私は、特に何もしていないんだけどね。ソルは、私が関係していて、且つそれが成功すると、いつも私にお礼を言っていたので、いつも通りといえば、いつも通りだ。
何はともあれ、これで、遺跡の調査に集中出来る。
「じゃあ、遺跡の調査に戻ろう」
『お~!』
私達は、レンゾウさんが歩いてきた方に向かって歩き始めた。