149.大きな遺跡!!
改稿しました(2022年5月30日)
北東の遺跡へと向かうまでの道のりは、北西よりも穏やかだった。それに、そこまでの高いところにあるわけじゃなかったから、この前みたいに寒さや雪にやられることはなかった。
「結構、大きな遺跡みたいだね」
ソルが周囲を見ながら、そう言った。これまでの遺跡の中で、飛びっきりにでかいので私も同意見だ。
「あっ……」
皆が、周囲を見回している間、私の視線は、別の場所に釘付けになっていた。そこには、見覚えのある光景があった。
「メアリーさんから教えてもらった挿絵にあった場所だ。あれが、ジパングって文字なのかな?」
私の視線の先にあったのは、ジパングに来るきっかけになった挿絵の場所だった。あの挿絵と同じように、看板のような場所に天界言語が書かれている。ここが、私達の目的地だったんだ。
「やっぱり、街じゃなくて遺跡の看板だったんだ。これが造られた頃は、ここでも天界言語を使っていた……何で、この言語だけ完全に失われたんだろう……」
「ルナ、考え事よりも、先に色々調べちゃおう。ここから分かることなんて、些細な事だと思う」
「そうだね。ありがとう、シエル。それじゃあ、まずは刀匠がいないかどうか、外を見て回ろう。天候が変わらないかも分からないし、皆で一緒に行動しよう」
私がそう言うと、皆頷いて同意してくれた。私達は、遺跡の外を皆でまとまって探索する。十分くらい彷徨っていたけど、刀匠の姿も形もない。
「そういえばなんだけど、私達、刀匠の見た目を知らなくない?」
ミザリーがそう言って、私達は思わず足を止めた。
「確かに……それに、ここ、思ったよりも広いから、探索するだけでも一苦労だし……」
「さすがに、もう少し手掛かりが欲しいね。今日の刀匠探しは、これくらいで良いよ。せっかく遺跡に来たんだから、そっちを調査しよう?」
ソル自身がそう言ってくれたので、お言葉に甘えるとしよう。
「じゃあ、外の調査は後にして、中に入っていこう。もしかしたら、そっちの方が、情報があると思うし」
「そうですね。早速行きましょう」
私達は、遺跡内の調査に向かった。遺跡の入口から中に入ると、すぐに下り階段があった。私達は、警戒しつつ階段を下っていく。灯りがないので、ミザリーが、すぐに用意してくれた。下り終えた先にあったのは、遠くまで続く通路だった。
「なんだか、アルカディアみたいだね」
ソルが、周囲に目を配りながらそう言った。
「そうだね。確かに、この通路の感じとかアルカディアを思い出すかも」
「ここみたいな場所があったにゃ?」
ネロが、首を傾げて訊いてくる。ネロとミザリーは、ジパングから仲間になったので、アトランティスやアルカディアの事を知らない。話についていけなくても仕方ないだろう。
「アルカディアは、西の森を抜けた先にある平原にあるんだ」
「じゃあ、まだ行けてないにゃ」
「まぁ、今行っても平原は、半分くらいに減っちゃっているけどね。アルカディア崩壊に巻き込まれて」
「そういえば、そんな事が掲示板に書いてあった気がする。後、アトランティスも壊れたって見たよ。黒衣の暗殺者が、最初に目撃されたのもアトランティスだったよね?」
「まぁ、アトランティスも壊してはいるけど……てか、その黒衣の暗殺者って、まだ話題になっていたりするの?」
不名誉な別名に少しだけ嫌な顔をしながら訊く。正直、もうそろそろ話題じゃなくなっても良い頃だと思うんだけど。
「イーストリアで私達を撃退して、王都でも撃退しているから、余計に広まってるかな……」
「…………まぁ、良いか」
「良いんだ……」
特に害があるわけじゃないから、仕方ないけど受け入れる事にした。そうしたら、ソルが、呆れた眼をしてくる。
「じゃあ、気を取り直して、探索を始めよう!」
『お~!』
強引に会話を終わらせて、探索の続きを始める。取りあえず、目の前にある長い通路を進んで行った。特に何もない通路を進んで行くと、途中で壊れた扉を見つけた。中を覗いてみると、小さな部屋になっていた。そこには、石で出来た机や椅子があったけど、他には何も無かった。
「アルカディアみたいな、ただの居住区かな。特に何も無いただの部屋だね」
「じゃあ、情報はないという事にゃ」
「そういうことだね。他の部屋も同じような感じかもだけど、アルカディアみたいに、もしかしたら、情報が残っているかもしれないから、一つ一つ調べていこう」
アルカディアでは、重要な情報の一端らしきものが、部屋に残っていた。日記くらいしか、ちゃんと読めるものがなかったけど、天界言語を読み解ければ、絶対に重要な情報になっているはず。
まぁ、読み解けないから、全然役には立たなかったけど。
私達は、通路にある部屋を一つ一つ、簡単に調べていく。そのどれもが最初の部屋と同じように空っぽの部屋だった。結局、通路が途切れるところまで、ずっと空っぽの部屋だった。
「ここまでの部屋は、全部空振りでしたね」
「うん。まぁ、アルカディアも似たようなものだったから、そんなものなんじゃないかな。そもそも遺跡だから、ものが残っていても朽ちている可能性が高い気がするし」
「それにしても、とても広い部屋に着いたね。ここは……食堂かな?」
ソルは、通路の先にあった大きな部屋を見て、そう言った。その部屋には、大きな机と椅子が沢山並んでおり、見た目は食堂にしか見えない。その机と椅子も割れたり、欠けたりで、ちゃんとした形を保っているものはない。
「向こうの方に、厨房みたいなものが見えるにゃ」
「じゃあ、食堂で確定だね。何か、情報に繋がるものがないか、一通り調べておこう」
私達は、食堂を歩き回って、色々と調べる。ついでに、厨房の方も調べた。でも、情報になるようなものはなかった。厨房みたいなところも、何故か、現実みたいな感じになっていた。ガスが来ているのかなと思い、つまみを捻ったりしたけど、うんともすんとも言わない。
「使えない」
「いや、かなり昔のものなんだから、無理に決まってるでしょ」
シエルに冷静にツッコまれた。
「よし。ここには、何もないみたいだし、食堂の先にある通路に行こう。結構、広い場所だから、まだまだ探索するべき場所は多そうだし」
「そうだね。何か情報が残っていると良いけど。ネロちゃんは、何か変な音みたいなのは聞こえないの?」
ソルが、ネロに尋ねる。ネロは、私達の中で一番感知に優れている。だから、私達に感じない事や聞こえないものを感知する事が出来る。
「特に、変わった事はないにゃ。一つ気になるのは、全体的に音がこもっている感じがするにゃ。まるで、ここの石が音を吸収しているかのようにゃ」
「……メレ、試しに、少し大声で歌ってみてくれる?」
「はい。~♪」
メレが、声を張って歌い始める。お風呂場やトンネルのように、メレの声が反射して、反響するかと思ったけど、一切反響しなかった。
「そういえば、足音もしないよね。ネロさんの言うとおり、ここの石は音を吸収するようですね」
「なんでだろう? 足音がうるさいからとかなのかな?」
普通の石で作らなかった理由なんて、それくらいしか思いつかない。他に、何か納得出来る理由はあるのかな。
「他に防音にする意味と言えば、音楽関係ですかね? スタジオなどでも使われますし」
「ああ……音楽関係かぁ……全く、分からないや」
あまり音楽関係に詳しいわけではないから、防音設備の仕組みとかはよく分からない。
「まぁ、考察は後にしよう。また、部屋が出て来たし、調べていこう」
私達は、また通路の途中途中にある部屋を調べていく。だけど、その中には、これまでと同じように、何も無かった。
「う~ん……何か、さっきから凄くアルカディアに似ている気がする……この遺跡自体が古代兵器の可能性もあるのかも……」
「ああ、確かに、ルナちゃんの言う通りかも。古代兵器って、こういう居住区が必ずと言っても良いくらいにあるもんね」
アトランティスでは民家のようなものが、アルカディアではここみたいな居住区が存在した。大型の古代兵器の特徴が居住区付きとかなら、ここが古代兵器の中という可能性もゼロじゃない。
「でも、ここら辺で、何か異変がある感じはしませんでしたよね?」
「私達が聞き込んでいないだけで、職人街では何か知っている人がいるかもね。それか、ここは完全に機能を停止して、無害になっているかかも」
シエルが言ったとおり、ここが完全に機能を停止している可能性は高い。
「まぁ、そこも含めて、この遺跡の全体を調べる方が良さそうだね。先に進んで行こう」
私達は、この遺跡が古代兵器だという可能性を念頭に置いて、探索を続ける。