148.刀匠の情報!!
改稿しました(2022年5月30日)
商談などをやった翌日、私達は職人街で集まっていた。ようやく大型連休が始まったので、ここからは毎日探索し放題だ。そんな風に思っていたら、私達の前にウィンドウが現れた。
『第三回イベントのお知らせ。
五月一日より、第三回イベントを開始します。イベント内容は、各地に存在する特定モンスターの討伐です。討伐モンスターによって、報酬が異なります。これらは、ユニーク武具ではありませんので、誰でも獲得出来ます。
イベント期間は一ヶ月です。奮ってご参加ください』
どうやら、三回目のイベントが始まるみたい。この前から期間が空いていたし、そろそろあってもおかしくは無い。でも、今回は対人戦ではないみたい。
「今回のイベントは、対人戦じゃないみたいだね」
イベント告知を見たソルの第一声がそれだった。一回目がバトルロワイヤルでの対人戦、二回目がパーティー対パーティーの対人戦だったので、三回目も同じく対人戦って考えるのは当たり前だと思う。私も同じ事を思ったし。
「それに期間も長いしね。そこまで急いで参加しなくても良さそう。ユニーク武具が貰えるわけでもないし」
「そうですね。先に、ジパングでやることを終わらせてからでいいと思います」
一ヶ月という期間の長さがあるので、急いでイベントに参加しないととかは思わないで良さそうだ。ただ、この期間の長さは、少し気になる。
「それにしても、何で一ヶ月なんだろうね。モンスターを倒すってだけなら、一週間とか三日間でも良いと思うんだけど」
私の疑問に答えたのは、シエルだった。
「単純に、モンスターが強いんじゃないの。それで、攻略に時間が掛かるとか」
「ああ、なるほど。そんな強いモンスターが追加されるって事かな?」
「そんな感じがするにゃ。ゲームの情報でも、そんな強敵がいるなんてのは、あまり聞かないのにゃ。私達が戦った餓者髑髏くらいだと思うにゃ。あれも、ルナの強力な技がなかったら、倒せなかったのにゃ」
確かに、餓者髑髏は、かなりの強敵だった。あれが対象だったら、本当に難しいイベントって事になる。そこら辺は、情報が出てから調べるで良いかな。
「取りあえず、今日は、先に刀匠の情報を集めよう。手分けすれば、短い時間でも沢山集められるから、二人一組で行こう」
私達は、二人一組になって情報収集に向かった。組み合わせは、私とソル、シエルとミザリー、メレとネロの組み合わせになった。こうなった理由は特になく、適当だ。
私とソルは、職人街で営業している武器屋の中に入った。
「すみません。少し良いですか?」
特に物色などもせず、真っ先に店員さんに声を掛ける。買うものがないのに、見ていても仕方ないからね。
「はい。何でしょうか」
黄金郷と同じく、夫婦経営なのか店員さんは女性店員だった。
「刀匠が、この街にいたと聞いたんですが、どこにいるのかご存知ないですか?」
「刀匠……ですか? 少しお待ちください」
店員さんは、裏に向かって男の人を呼んできた。
「いらっしゃい。刀匠について知りたいんだって?」
ここの店主さんは、黄金郷の店主さんよりも人当たりが良さそうだ。まぁ、人当たり良くても悪くても情報をくれれば、どちらでも良いんだけどね。
「はい。この街にいたって情報を手に入れて来たんですが、本当にいるんですか?」
「ここ最近見たって、話は聞かないな。いるとしたら、ここの一番上の方だろうけど」
「上の方……ですか?」
何故上にいるんだろうと、疑問に思ったので、思わずそう訊いてしまった。
「ああ。この職人街は、上に行けば行く程、良いものを打つ鍛冶師がいるんだ。その分、値段は張るんだけどな」
「刀匠は、腕前が一番凄いから、一番上にいるって感じですか?」
「その通りだ。刀匠がいる場所っていうのなら、街の一番上が怪しい。ただ、もしかしたら、街から離れた場所にいる可能性もある」
「街から離れた場所というと、山の頂上とかですか?」
街から離れた場所と聞いて、真っ先に思い至ったのは山の頂上だった。
「いや、ここから北東に行った遺跡にいる事があるんだ。まぁ、そっちの目撃情報は、かなり少ないけどな。どっちもいなかったら、俺には分からないな。その時は他を当たってくれ」
「分かりました。色々と教えてくれて、ありがとうございました」
「いや、久しぶりに刀匠を探している人を見たからな。つい、お節介を焼きたくなっただけだ。見付かると良いな」
「はい。では、失礼します」
私とソルは、頭を下げて武器屋から出て行く。
「ごめんね。全部、ルナちゃんに任せちゃって」
外に出るなり、ソルが謝る。常に私が店主さんと会話していたからだ。
「別に大丈夫だよ。私の方が適任ではあるだろうし。ソルよりも、色々な人と話しているわけだしね」
私は、このゲーム内で、様々な人と出会って会話している。その分、ソル達よりも会話の経験値はあるはずだ。それに、そもそもあまり物怖じしないタイプだから、ソルよりもこういう会話に向いているっていうのもあるかな。
「それよりも、街の一番上まで行ってみようよ。もしかしたら、すぐに刀匠が見付かるかもよ」
「ああ……ルナちゃんは、またそうやってフラグを建てる……」
「別に、私が口に出すから、刀匠が逃げ出すわけじゃないでしょ。まぁ、話を聞く限り、いないかもだけど」
私とソルは、街の一番上を目指して歩いていく。そして、改めて、この街が斜面に建設されている事を思い知った。
「はぁ……さすがに、この数の階段はキツい……」
「普通に坂道で良かったよね……今、何段目?」
「二百からは数えるのやめた。それより、これでまだ半分?」
「半分だね」
約十分程歩いているのに、まだ街の半分までしか来ていない。この街の人達は、何を思ったのか上に登る道を全て階段にしていた。坂道なら、まだマシだったんじゃないかと思うくらいにキツい。多分、坂道でも文句は言っていたと思うけど。
「はぁ、ハープーンガン使おうかな……」
「それは、やめてね。頑張って歩いていこう!」
「お~……」
ハープーンガンで、引っ張って行けば楽なのではと思って、口に出したら、ソルに却下された。まぁ、ハープーンガンでの移動は、民家の壁に穴を開ける事になるかもだし、緊急時以外は控えた方が良いのは分かるので、文句は言えず、ソルの掛け声に応じた。
ソルと話ながら、今までで一番の地獄のような階段を上がっていった。そして、二十分掛けて、ようやく一番上まで登る事が出来た。
「はぁ~……身体は疲れていないのに、精神的に凄く疲れたよ」
「そうだねって、ルナちゃん、向こうを見て」
「ん?」
ソルが指さす方を見ると、そこには私達と同じく階段を登ってきたであろうメレとネロの姿があった。私が、二人の姿を見ると同時に、向こうも私達を見つけた。
「そっちも、ここにいるかもしれないって情報を得た感じ?」
「はい。武器屋でお話を聞いて、こちらに来ました。ここにある武器屋にいる可能性が高いらしいとのことです」
「こっちと似たような事だね。ここにいなかったらって何か聞いた?」
「いや、それは何も言っていなかったにゃ」
遺跡に関しての情報を、二人は手に入れていなかったみたい。私達が話を聞いた武器屋の人が、少し詳しかっただけかな。
「もう皆、来てたんだ」
「私達が一番遅かったみたいだね」
そんな声が後ろから聞こえて、後ろを見てみると、シエルとミザリーが、私とソルが登ってきた階段を登ってきたところだった。
「二人ともお疲れ。二人も、ここに刀匠がいるって聞いたの?」
「正解。ここが一番有力な場所みたいだから」
全員、同じ情報を掴んでここまで来たって事は、ここが刀匠のいる場所って事で大丈夫そうだ。
「それで、その刀匠はどこ?」
「まだ、分からない。ここにも武器屋がいくつかあるし、手当たり次第突撃してみよう!」
私達は、登り切った場所にある広場の武器屋全てに話を訊いていった。結果、全部空振りで終わった。
「……いないじゃん!」
「だから、フラグ建てるからって言ったでしょ」
「これだと、もう手掛かりはない感じなの?」
ミザリーが、残念そうな顔をしながらそう言った。
「いや、私とソルが話を聞いた武器屋の店主さんが情報をくれたよ。ここにいなかったら、遺跡の方にいる可能性があるみたい。ちょうど、私達が行く遺跡の方にね」
「じゃあ、ここでの情報収集はやめて、遺跡に行くって事にゃ?」
「その方が良いかな。可能性があるところを潰していく方がいいだろうし」
「オッケー。じゃあ、プティと月読で移動って事ね。早速、出発しよう。そこに出口があるわけだし」
シエルの指を指した先には、街の下の方にあった門と同じ門が存在した。上からでも下からでも外に出られるようになっているみたい。結構便利だ。ただ、一つ気が付いた事があった。
「外を月読で回ってくれば良かった……」
「まぁ、今更遅いよね」
若干後悔しながら、私達は職人街を出て、遺跡へと向かった。