145.花見!!
超絶まったり回です
改稿しました(2022年5月30日)
シルヴィアさんとの関係が縮まった次の日。私達は、桜の里に集合していた。今日は、約束していたお花見の日だ。
「良い桜見スポットはあるかな?」
「ふっふっふっ、言い出しっぺに任せなさい!」
ソルが胸を張ってそう言った。この一週間で、桜見スポットを探していたみたい。ソルのこういうときのやる気は、人一倍凄い。余程楽しみだったんだね。
「こっちだよ。付いてきて」
私達は、ソルの後に付いていく。表通りみたいなところから、裏通りに入っていき、しばらく進んで行くと、公園のような広い空き地に辿り着いた。
「ここはね。誰も使っていない場所なんだって。花見をしたいんだけど、良い場所はないかって、街の人に訊いたら、ここを紹介されたの。街の桜や外の桜も一望出来るから、おすすめの場所みたいだよ」
「本当だ。凄い遠くまで見える。坂を登っていたから、当たり前だけど、本当に高い場所なんだ」
ソルの言うとおり、街や外の桜が一望出来る。桜の里の住人がおすすめする意味が凄く分かる。こんな良い景色は、現実で見たことがない。
「それと同時に、凄く怖いものも見えるけどね」
「あっ、本当だ……」
シエルとミザリーが何かを発見したみたい。二人が向いている方を見てみると、そこには桜の森を歩いている餓者髑髏の姿があった。こうして見ると、本当にでかいのがよく分かる。あれで、桜の木を踏み潰さずに歩いているのは、よく分からないけど。
「あれは、一応、非敵対状態にあるんですよね?」
「これまでのボスがそうだったから、そのはずにゃ」
エリアボスの特徴として、一度倒したら敵対状態にならないというものがある。そのため、あそこで彷徨いている餓者髑髏ともう一度戦闘をしないといけなくなることはない。
「それじゃ、敷物を敷いて、お花見しよう!」
ソルがテンション高くそう言った。その音頭で、皆が行動を始める。敷物を敷いて、靴を脱ぎ、円になるように座った。そして、メレが買ってきたお茶をコップに注いで、手に持つ。
「それじゃあ、乾杯!!」
『乾杯!!』
皆が持ち寄ったお菓子や食べ物が並んでいく。
「何だか、向こうにもありそうなものが一杯だね」
「向こうにもありそうっていうよりも、どこでもありそうだけどね。特にソーセージとか」
私が持ってきたのは、王都に売っていたソーセージとここに来る前に、マイアさんに頼んで作って貰った卵焼きだ。四角いフライパンがなかったから、オムレツみたいになっちゃったけど。
「ソーセージって、ゲームでは、そんなに定番なんですか?」
ゲームをあまり知らないメレは、首を傾げてそう訊いた。
「色々なゲームやってるけど、意外と多い気がするよ。でも、現代人が作っているゲームだからっていうのもありそうだけどね」
「一番ゲームやってるルナが言うのなら、そうなのかもね」
他には、ソルがサンドウィッチを、シエルは肉の串焼きを、メレがお団子を、ミザリーがサラダを、ネロがおにぎりを持ってきた。
「こうしてラインナップを見てみると、まぁ、ちゃんと、まとまってはいるね」
「そうですね。ミザリーさんのおかげで、野菜も取れますし」
「お花見の場で、栄養バランスを考えるのは、メレだけだと思うけど……」
シエルの言葉に、メレは驚愕した。本当に、嘘でしょって感じの顔をしている。確かに、こういう席で栄養バランスを考える事って、少ない気がする。
「サンドウィッチ、美味しいにゃ」
「おにぎりも美味しいよ」
ネロとソルが互いの持ってきたものを美味しそうに頬張っている。メインが二つって感じになるけど、それぞれの好きなもの食べられるので、逆に良かったかもしれない。人によっては、パンはちょっとって人やお米よりもパンの方がって人もいるからね。
「でも、お団子やおにぎりなんて、良く見つけたね?」
王都にはお団子もおにぎりもないので、どこで買ったんだろうと思い訊いてみた。
「お団子は、この桜の里に置いてありました」
「おにぎりもここにあったにゃ」
「へぇ~、そういえば街の外の探索は良くしているけど、街中の探索ってあまりしてなかったや」
最近は、遺跡とかを調べる関係で、街の周囲を探索する事が多かった。そのせいで、街の探索が疎かになっていた。古代兵器を探そうと、少し躍起になっていたかも。
(もう少しリラックスして挑んだ方が良いかな。視野が狭まっていたみたいだし)
そんな事を思っていると、ソルがニヤニヤしながら私を見ていた。
「?」
何だろうと思っていると、ソルが口を開いた。
「ルナちゃん、シルヴィアさんとどこまでいったの?」
「ぶふっ!!」
ちょうど飲んでいたお茶を吹きだしてしまう。ギリギリのところで、皆が食べ物の入った器を持ち上げていてくれたから、食べ物に吹きかけることはなかった。
「げほっ、ごほっ、ど、どういうこと?」
頑張って平静を装って、そう訊いた。でも、ちょっと動揺が漏れていた。
「昨日の夜に見ちゃったんだよね。ルナちゃんが、シルヴィアさんにキスされているところ」
「んなっ!?」
昨日の夜は気付かなかったけど、あの出来事を見られていたみたい。ちらっと他の四人も見ると、四人とも少し顔を赤くしていた。全員に覗き見されていたようだ。
「別に……妹みたいに見られなくなったくらいだよ。なんでキスしてくれたかは、まだ分からないけど、ソルが思っているような関係にはなってないから」
「でも、一歩前進でしょ?」
「まぁ……そうだと良いけど……」
私がそう言うと、赤い顔をしていた皆が一転キラキラとした眼をしてきた。皆、恋バナが好きみたいだ。だけど、話の肴にはさせない。
「私なんかよりも、皆はどうなのさ。好きな人とかいないの?」
私がそう訊くと、皆、顔を見合わせた。
「……皆いないみたいですね」
「うら若き乙女として、どうなの……」
「ちょっと前までのルナちゃんも一緒でしょ。まずは、皆の恋愛遍歴を訊くところからだね」
ソルがそう言って、皆を見るけど、誰も喋りださない。
「全員ゼロみたい。メレは? 一番人生経験はありそうだけど?」
シエルの言葉で、皆がメレに注目する。
「人生経験で言ったら、そうかもしれませんけど、青春という面で言えば、皆さんよりも劣ると思いますよ。一応、恋愛禁止ではありませんでしたけど」
「アイドルなのに、禁止されないのは、珍しいのにゃ?」
一応、メレの判断でネロとミザリーにも、自分がアイドルだということは伝えてある。
「そういえば、アイドルって恋愛禁止にされがちだよね。どうなの?」
私も気になったので、メレに訊く。
「禁止されている場所はされていますね。私のところは結構珍しいとは思います。事務所の社長曰く少女から恋愛を取ってしまうと、輝きが薄れるだそうです。よく分からないですけど」
「恋する乙女は、無敵みたいな感じなのかな」
ミザリーの考えに、皆が納得した。確かに、恋する乙女の力は無敵ってよく聞くし、メレの事務所の社長さんも同じように考えてそう。
「でも、結局、恋してないよね?」
『…………』
シエルの鋭い指摘に、私達は全員何も言えなくなってしまった。
「まぁ、恋がなくても、メレは凄い人気なんだし、まだ余力を残しているって事だね」
「その人気者を、ルナさんは知らなかったみたいですけどね」
にこやかに微笑むメレの眼を真っ直ぐ見る事が出来ない。人気アイドルの和水舞歌を知らなかったのは事実だし。
「ルナは、世間的に人気のものを知らない事が多いよね?」
「テレビを見ない人にゃ?」
「いや、そこそこ見ているけど……」
「ルナちゃんの場合、ゲームを優先してやるから、じっくりとテレビを見ることはないんだよ」
何故かソルの方が解説した。確かに、映画を見ていないときは、全然テレビに集中していない気がする。
「まぁ、そうかもだけど……てか、これって何の話してたんだっけ?」
「皆の恋愛経験」
「そうだった。ミザリーはどうなの? 私達とは違うところに住んでるし、良い出会いとか無かったの?」
私達と違う地域に住んでいるミザリーならもしやと思って訊いてみた。
「えっと……全然無いかな。友達に彼氏が出来る事は沢山あるけど、私はないよ」
「私達、恋愛経験なさすぎ……」
「普通の女の子は、そんなに恋愛経験豊富にゃ?」
ネロが、首を傾げて訊いてくる。私達は、さっと顔を見合わせる。全員、どうなのと言わんばかりだった。
「……多分、そんな事ないと思う。どこかで調査していないかな。初めて彼氏が出来たのはいつかみたいなやつ」
「やっていそうだけどね。でも、私は、彼氏が欲しいって思った事無いなぁ」
「ああ、私も無いかも」
「私も無いにゃ」
「私もです」
「私もないかな」
まさかの全員彼氏が欲しいと思った事がないみたい。皆、どれだけ恋愛に向き合っていないんだろうか。青春真っ只中の私達は、こんなで良いのだろうか。
「彼氏が欲しいと思わない理由は?」
「私は、女の子の方が好きだから」
ソルの答えは予想通りだった。女の子が好きって言っているのに、彼氏欲しいって言い出したら、目が飛び出る程驚くと思う。
「私は、男子が幼稚だなって思うことが多いからかな。ルナも分かると思うけど」
「ああ……」
この前絡んできた男子の事を言っているのだとすぐに分かった。シエルは、今の年齢の男子に興味を持てないみたい。もう少し成長したら、変わるのかな。
「私は、色々と面倒くさいことが起こるかもって思うからですね」
「まぁ、アイドルだしね」
メレは、彼氏が出来る事で起こる面倒くさいこと(多分、ファンが騒ぎ立てるって事かな)を忌避しているから、要らないと思うみたい。まぁ、昔から、アイドルの恋人が出て来るとファンが騒いでいたから、その気持ちは分かるかもしれない。
「私は、ずっと寝たままだから出会いがないにゃ」
「ネロは、仕方ないよね。お医者さんとかは?」
「さすがに、歳が離れすぎだにゃ。そこまで興味が湧く医者はいなかったにゃ」
ネロは病気の件もあって、そもそも異性との出会いが少ないみたい。こういうときって、お医者さんとの恋愛とかが発生するとかあり得ると思ったけど、ネロは、そんな事なかったみたい。あれは、ドラマとかだけの話みたいだ。
「私は、友達の愚痴を聞いている限り、欲しいって感じないって感じかな」
「彼氏の愚痴って、何か怖そう」
「怖いよ。愚痴の八割は、浮気だったから」
「それは、それで偏りがある気がする……」
ミザリーは、友達からの愚痴のおかげで彼氏が欲しいって思えなくなっているみたい。男子の全員が全員浮気するわけじゃないし、ミザリーの友達の男運がなさ過ぎるだけだと思う。
「ルナちゃんはどうなの? 彼氏が欲しいとは思わないの?」
私が皆に訊いていっていたら、ソルが私に訊いてきた。
「別に、欲しいって考えた事はないんだよね。それよりもゲームしたいって思うから」
「ただのゲーマー……」
ソルの呆れ顔が痛い。でも、本心だし。恋自体、シルヴィアさんが初めてだったんだから。綺麗で優しくて、ずっと傍にいたいって思えたから、あれが恋のはず。これは、ソル達に言わないけど。
「さてと、恋バナも一段落して、食べ物もなくなったし、遺跡の方に行こう」
このままだと、言わなくても良いことまで言いそうなので、話を切り上げて遺跡調査の方に誘導する。皆は、少しだけ不満そうだったけど、実際食べ物ももう無いので、渋々言うことを聞いてくれた。
予定していた花見も終了したので、私達は遺跡の調査に向かう。花見も楽しかったけど、皆の恋愛に関する考えが聞けて、結構楽しかった。