143.皆でお風呂!!
改稿しました(2022年5月30日)
唐突にシルヴィアさんが現れて驚いた私は、すぐにシルヴィアさんの近くに駆け寄った。
「シルヴィアさん!? どうしたんですか!?」
「こちらにルナ様が、いらっしゃると聞いたので」
「何か急な用があるということですか?」
シルヴィアさんが自分から来るということは、シャル関係で何かヤバいことがあったのかもしれない。そう思った私は、真剣な顔でそう言った。
「いえ、城下に新しく美味しいケーキを出すお店が出来たので、いらっしゃったらご一緒しようかと思いまして」
「ふぇ? えっと……喜んで?」
思っていたものと違い、一瞬呆けてしまったけど、せっかくのお誘いなのでそう返事をした。その返事を聞いたシルヴィアさんは、優しく微笑んでくれる。
「でも、それでしたら、何故浴場に? 食堂で待って頂いても、大丈夫でしたよ?」
「実は、日中の仕事で汗をかいてしまいまして、マイアにせっかくだから入っていけば良いのではと。ルナ様は、歓迎してくれるだろうからとも言っていましたね」
「まぁ、それはそうですけど。広いので何人でも入れそうですから」
「それは良かったです。それにしても、ルナ様は、見て分かるくらいに汚れていますね」
シルヴィアさんは、サッと私の身体を見てそう言った。私も自分の身体を見下ろす。確かに、灰のせいで結構汚れている。
「ここで、立ち話もなんですので、早く洗ってしまいましょう」
「そうですね」
何故か、立ったまま全裸で話していたので、シルヴィアさんの言うとおり身体を洗おう。私とシルヴィアさんは、洗い場へと移動する。
「……せっかくですので、お身体をお洗いしてもよろしいですか?」
「ふぇ? わ、私、自分で身体を洗えますよ?」
私がそう言っても、シルヴィアさんは私をジッと見る。その目は、冗談では無く本気で言っている事を表していた。何となく断るのも何なので、受ける事にした。
「じゃ、じゃあ、お願いします」
「はい」
シルヴィアさんは、私の頭から丁寧に洗ってくれる。本当に優しく丁寧に、慈しむように……
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シルヴィアさんに洗われているルナの姿を、先に身体を洗い終えたソル達が湯船から見ていた。
「借りてきた猫みたいに大人しいね」
シエルは、普段のルナと違う姿を見てそう言った。学校にいるときでは、見る事は出来ないだろう。
「まぁ、ルナちゃんの好きな人だしね」
『!?』
ソルのぶっ込みに、全員がばっとソルの方を向いた。そんな状況でも、ソルは全く気にしない。
「でも、意外だったなぁ。シルヴィアさんは、ああいう感じで接する人じゃないと思ったけど」
「確かに、見た目からもスキンシップが激しい方ではないように見えるよね」
「ただ、なんとなく慈しみも感じますね」
シエルとメレもソルと同じように感じていた。ただ、シルヴィアさんとの接点がほぼないミザリーとネロは、首を傾げている。
「何か理由があるって事?」
「でも、接点のない私達には分からないにゃ」
「うん。二人よりも接点がある私達も分からないよ。でも、ルナちゃんなら、何かしら分かるんじゃない?」
ソル達は、ルナのことを見ながら、湯船でゆったりとそんな話をしていた。
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(一体、どうしたんだろう? いつものシルヴィアさんじゃないみたい。何か理由があるはずだよね……)
シルヴィアさんに洗われている私は、シルヴィアさんの行動の理由が分からず、頭を悩ませる。もういっそ、直接聞いてしまおう。
「あの……」
「どうしましたか? 痒いところでもありましたか?」
「いえ、気持ちいいです。そうじゃなくて、今日はどうしたんですか?」
「どうとは?」
シルヴィアさんは、そう言って首を傾げる。私が訊いている事が分からないみたいだ。
「普段のシルヴィアさんとは、何か違うので。優しいのは、いつも通りですけど」
「……そうかもしれないですね。後ほど、お話します。この場で話すような事ではないと思いますので」
「分かりました」
「ありがとうございます」
シルヴィアさんが話してくれるという時まで、待つ事にした。シルヴィアさんが話してくれるというなら、絶対に話してくれると思うし。
「これで終わりです。先に湯船に浸かっていてください。私も軽く洗ってから行きますので」
「分かりました」
私は、皆が既に浸かっている湯船に向かう。湯に髪を付けないように、タオルで覆っておくのを忘れない。湯船に近づいていくと、皆が私の方を見ていることに気が付いた。
「皆、なんでこっち向いてるの?」
「え? なんとなくだけど」
ソルがそう言うと、皆も頷いた。こっちを見ていたのは、偶々だったみたい。そう思いながら、湯船に浸かる。
「ふぅ……やっぱり、気持ちいいなぁ……」
「自宅に温泉施設があるみたいだにゃ」
「貴族の家って、どこもこんな感じなのかな?」
「ここの元の持ち主がお風呂好きだったらしいよ」
実際は、お風呂とは別の目的があったみたいだけど、それを言う必要はないから、黙っておくことにした。
「お風呂好きで、こんなでかいものを作るなんて、余程金持ちだったって事?」
「まぁ、腐っても貴族だしね。私も資金運用とかしたら、お金稼ぎも出来るかもだけど、そんな暇ないしね」
「でしたら、マイアに任せてみるのは如何でしょうか?」
身体を洗い終えたシルヴィアさんが、湯船に入って来ながらそう言った。
「マイアさんにですか?」
「はい。ある程度のものなら、マイアでも対応できるかと。定期的に、ルナ様が確認を行うという形であれば、尚良いと思います」
「でも、何をすれば良いんでしょうか? 私でも関われるような事ってありますか?」
私がそう訊くと、シルヴィアさんは少しだけ考え込む。
「ルナ様は、モンスターの素材をどの程度お持ちですか?」
「肥やしになっているのが、いくつもありますけど」
倒したモンスターの素材は、きちんとアキラさんのところに通い、逐一解体しているので、結構溜まっている。そもそもの話、私は装備を変えることが、ほぼほぼないので、素材は溜まる一方だ。ちなみに、武器防具の強化に必要な材料は、全部アーニャさんに渡してある。お金を用意できれば、いつでも強化は出来るようになっている。
「それらで交易などの商売をしてみるのは如何でしょう? 王城の方でも取引をしている商人をご紹介出来るかと。あちらも、冒険者の貴族であるルナ様と繋がりを持ちたいと考えているようですので」
「手に入れた素材を売るって事ですね。えっと……私が仕入れ元になる感じですよね?」
「そうですね。王城との繋がりがあるルナ様を騙すような事はしないと思います。一応、王城に戻ったら、メアリーゼ様にお話をしてみます」
「じゃあ、お願いします。それが軌道に乗れば、お金が集まりますね。そうしたら、お給料を出す事も出来ますし、色々と屋敷のことが回るようになりそうです」
マイアさん達の給料の心配をする必要がなくなるかもしれない。定期的にモンスターの素材を取らないといけないけど。まぁ、要らない素材の行き場が出来て良かった。素材の保管場所を、マイアさんと相談してみようかな。
「この屋敷も大分片付いてきたようですし、部屋の使い道も、ルナ様の方で変えるのも有りですよ」
「う~ん……今のままにしておきます。何に使えば良いかも分からないので」
「そうですね。ルナ様は、通常の貴族とは違いますから、これから何をするかで決めていくのが良いかと」
「分かりました」
「ルナちゃんも貴族になって大変だね」
私とシルヴィアさんの会話を聞いて、ソルがそう言った。
「まぁ、これでも楽な方だと思うけどね。ミリアとか色々と大変そうだし」
「一代貴族だからって事?」
「そういうこと。ずっと仲良くしていても、私が死んだら貴族ではなくなるからね。でも、ミリアの場合は、これから先も家同士の付き合いとかがあるから。ところで、シエル達はどこ行ったの?」
私達が話している間に、シエル達がいなくなっていた。広い場所に加えて、湯気が濃いので、周りを見回しただけだと、見つけられない。
「探してきた方が良いかな? 私も全体を把握しているわけじゃないし」
「大丈夫だよ。皆、子供じゃないんだし。ゆっくり浸かっておこうよ」
ソルはそう言いながら、ゆったりと肩まで浸かっていた。基本大人しくジッと浸かる派と湯船の中でも移動し続ける派と完全に別れていた。私は、誰かと話している間は、移動しないタイプだ。
「そういえば、ここにはサウナはないの?」
「一応あるけど、入るの?」
「うん。好きなんだ」
「へぇ~、じゃあ、私も入ろうっと。シルヴィアさんは、どうしますか?」
「ご一緒させて頂きます」
こうして、一時間程浴場を皆で楽しんでから上がった。