141.火山噴火!!
改稿しました(2022年5月30日)
二つ目の遺跡を後にした私達は、月読とプティに乗って北へと移動していく。
「今度は、餓者髑髏みたいなボスじゃないと良いんだけど、どうなのかな?」
「あんな化物級は、そんな頻度で現れないでしょ。そんな事になったら、この中に運が異常に低い人がいるって事だよ」
私がそう言うと、ソル、シエル、メレの視線が私に集中した。それはお前だろって言いたいんだと思う。ネロとミザリーは、まだ私のトラブルを引き寄せる体質を体験していないから、私を見ることはなかった。
「それにしても、一気に風景が変わったね」
私は、すぐに話題を変える。これ以上、あの視線に耐えられそうになかったから。
「何だか、白っぽいもので覆われているにゃ」
「恐らくですが、火山灰ですね。こちらに暮らしている人がいないので、ずっと降り積もっているのではないでしょうか?」
「何か、うまく活用できないのかな?」
シエルが、何もない広大な土地を見てそう言った。
「火山灰には、農業などの面で、メリットとデメリットがあるんです。ここの土壌は、多分保水性と通気性に優れていると思います。ただ、仮にここで農業を営んでいたとしたら、作物の葉に火山灰が付着して、作物が生育不良になります。他にも、土壌の中和とかが、必要だったはずです」
またまたメレの豆知識が出て来た。豆知識のレベルを超えているように思えるけど。
「火山があるところって、結構大変なんだね」
「火山国の人が言う言葉?」
ソルが私にツッコミを入れる。そして、皆の笑い声が響く。ただ、和やかだったのは、この時までだった。
私達の背後で、大きな爆発音のような、はたまた雷轟のような音が響き渡る。
「何!? 何!?」
突然の音に、ミザリーが取り乱す。さらに、後ろに乗っているネロも、私に強くしがみついてくる。音が良く聞こえるネロにとっては、耳元でクラッカーを鳴らされたかのように感じていたようだ。
「噴火!?」
「このタイミングで!?」
「ルナの運の悪さかもね」
「私のせい!?」
「そんな事で揉めていないで、さっさと逃げるにゃ!!」
そんなネロの言葉に応えて、月読とプティの速度が上がる。プティには、ガーディの毛皮が被せられ、さらに速度が上がった。そんな私達に向かって大量の噴石が飛んでくる。私とシエルは、噴石に当たらないように蛇行させて逃げる。
「次のエリアまで、後どのくらいにゃ!?」
「まだまだ先! 後、これで口を覆って! 後ゴーグルも」
ネロの布とゴーグルを渡す。私もゴーグルを付けて、黒羽織についているマスクで口を覆う。シエル達の方を見ると、四人とも布を使って口を覆っていた。
「ソル! これ!」
ソルに向かって、ゴーグルを四つ投げる。
「オッケー! てか、これどうしたの!?」
「何かに使えるんじゃないかと思って買った!」
ゴーグルは、シルヴィアさん達と遺跡に行ったときに、結構有用だと思ったので、何かあった時用に余分に買っていたのだ。
「これで大丈夫にゃ?」
「普通の布だから、気休めにしかならないと思う。隙間が出来ない様に、しっかりと覆っておいて」
「にゃ」
ただの布が、火山灰にどのくらい効果があるかは分からない。私のマスクは、アーニャさん製の信頼できるものなので、私だけは大丈夫って事になる。
「はぁ……こんな状況なのに、モンスターは元気だね!?」
さっきの妖狐が、私達に集まってきた。
「何体か、噴石で倒れているにゃ」
「じゃあ、あっちも逃げているところかな。攻撃してくるようだったら、倒すけど、その心配は無さそう」
「ルナ! 上にゃ!」
ネロの声に反応して、すぐ上を向いた。そこには、今までで一番大きな噴石が飛んでいた。
「うげっ!? ソル達と離れるけど、仕方ないか!」
私は、月読のハンドルを大きく切って、噴石から避けるように動く。
「火山灰が降りてきたにゃ」
「思ったよりも早い……カルデラから吹いてくる風の影響?」
「これだと、向こうと合流するのは、時間が掛かりそうにゃ」
「そうだね。取りあえず、方角は分かるから、北に向かっておこう」
「何で分かるにゃ?」
方角が分かると言うと、ネロが身を乗り出して訊いてきた。私の近くに何かがあると思ったみたい。ただ、いきなり身を乗り出されると、バランスを崩すので大人しくしておいて欲しい。
「ここに方位磁石が付いているんだ。だから、方角はきちんと分かるんだよ」
「本当にゃ。このバイクは、何でも有りにゃ? もしかして、空も飛べるのかにゃ?」
「いや、さすがにそれはない」
そんな事を話しつつ、進んで行く。すると、周囲が灰で完全に覆われてしまった。
「ネロ、見える?」
「私にも見えないにゃ。それに、特に気になる音もないにゃ。それと、気配感知にも特に接近する反応はないにゃ」
「いつモンスターが襲ってきてもおかしくないからね。最大限の警戒はしておこう」
「にゃ」
本当に周囲が見えないが慌てるような事はない。気配感知だけで、モンスターの姿を探るしかないけど、それは、何度もやっていることなので、慣れたものだ。まぁ、移動する先が見えないのは、ちょっと嫌だけど。
「この視界で、エリアボスと戦うにゃ?」
「うん。ユートリアの西にある霧の森と似たようなものだね」
「あそこは、まだ突破できていないにゃ。ルナ達は、もう突破していたのにゃ?」
「うん。ゴリ押しだったけどね。気配感知が使い物にならなかったから、さすがのネロでも厳しいんだね」
「にゃ。それよりも、大きな気配が近づいてくるにゃ。進行方向二時に当たる場所にゃ」
ネロの報告の数秒後に、私の気配感知にも反応した。反応の大きさから、エリアボスと推定できる。
「そろそろエリアが変わるって事かな。ネロも戦闘の準備をしておいて。私達もはぐれたら困るから、基本的に月読に乗りながら戦闘するよ。それと、下手したら粉塵爆発みたいな事になるかもだから、銃は使えないと思う」
「了解にゃ」
月読を気配がする方に走らせる。互いに向き合って移動しているので、遭遇するまでの時間はかなり短くなった。
「来るにゃ!」
私達の目の前から、九本の尾を持った狐のボス九尾が飛び出してきた。私は、月読のサイドから刃物を出す。後ろのネロも手の甲から光の爪を生やした。
「『キャット・クロー』」
月読の刃物とネロの爪で、九尾を斬り裂く。しかし、その攻撃は空振りに終わった。攻撃が命中した瞬間、九尾の姿がかき消えたのだ。
「気配を持った幻術!?」
「ルナ! 気配が増えたにゃ!?」
相手は、気配を持った幻術を操るらしい。今までで一番厄介な敵かもしれない。
「これで、本体にも気配があるなら、厄介だね。近づいてくるやつを片っ端から攻撃しよう!」
「了解にゃ!」
まず、正面から来る九尾を、車体を横滑りさせてネロに斬り裂かせる。そして、左から来る九尾に対して、後輪を跳ね上げさせてぶつける。そのどちらも幻術の九尾だったので、空振りに終わった。そのまま車体を回転させて、再び前を向くと、左側から九尾が現れた。その九尾に対しては、月読の刃物で対応する。
「これも幻術にゃ!」
「ああ! もう! イライラする! 本体はどこ!?」
そんな事を言っている内に、九尾の気配の数が十体に増えた。
「……爆破したい」
「落ち着いて欲しいのにゃ……」
イライラしていたら、ネロが切実そうにそう言った。
「面倒くさいから、こっちから移動していくよ」
「了解にゃ」
私は、月読を九尾の一体に向けて走らせる。すれ違う度に、月読の刃物とネロの爪で斬り裂いていく。
「全部幻術じゃん!!」
「一向に本物が現れないにゃ……」
何十体も倒しているのに、一向に本物が現れない。こっちの攻撃は幻術を消すくらいしか出来ないし、向こうの攻撃も私達に効果はない。そんなこんなで十分くらい戦闘が続いている。
「何、この無駄な攻防……」
「もう無視するわけにはいかないのにゃ?」
「無理。一度抜けようとしたら、五十体くらいに襲われたでしょ? あれ、無理矢理行こうとしたら、もっと増えると思う」
「確かににゃ」
このままだと、ここを突破できない。
「はぁ、どうしよう……」
そんな事を言っていると、また九尾が数を増やす。
「何か方法は……」
ここを突破する方法を考えていると、いきなり九尾達の気配が消えていった。全ての九尾の気配が消えたので、私達も少し戸惑う。
「何が起こっているにゃ?」
「分からない。多分だけど、本体が倒されたんじゃないかな」
「と言うことは、ソル達にゃ?」
「うん。そうだと思う。それか噴石で倒されたかだね。まぁ、それはないと思うけど」
「さすがに、それで倒されたら拍子抜けにゃ」
私達は、そんな風に話しつつ、九尾が塞いでいたラインを越えた。それからしばらくすると、坂道に差し掛かった。次のエリアは、少しだけ高いところにあるみたいだ。いや、この土地が、凹んでいるだけかな。
そうして、坂を登り終えると火山灰から、ようやく脱出する事が出来た。
「ふぅ……ようやく抜けた……」
「布がすごく汚れたにゃ」
ちらっと後ろを見てみると、ネロに渡した布が灰で汚れていた。それ以上に、服の方が汚れているけど。
「どこかに湖でもないかな?」
「灰を落としたいにゃ。でも、ソル達と合流する方が先にゃ」
「そうだね。フレンド通信で連絡を取ってみるよ」
ソルに連絡すると、今、坂を登っているところらしい。私とネロは、四人が登ってくるまで、少しだけ周りを見てみる事にした。すると、すぐ近くに、湖を発見する事が出来た。
「湖にゃ」
「取りあえず、上着だけでも灰を落として、顔とかも洗おう。ゴーグルとかで覆いきれなかった部分に灰が付いているし」
「分かったにゃ」
私とネロが、上着を脱いで灰を落としていると、ようやくソル達も合流できた。
「ルナちゃ~ん!」
灰まみれのソルが飛びついてこようとしてきた。その頭を掴んで、抱きつかせないようにする。
「ソル! せめて、灰を落としてからにして!」
「あっ、忘れてた」
合流できたソル達も上着を脱いで灰を落としていく。
「そういえば、ソル達が九尾を倒したの?」
「そうだよ。目の前に現れて、幻術を使って翻弄してきたけど、メレちゃんの音の砲撃で薙ぎ倒して、本体が現れたところを、私とシエルちゃんで攻撃したんだ。向こうの攻撃は、ミザリーちゃんの魔法で防げたしね」
「私達は、ずっと幻術を相手に、戦ってたよ。無限に出て来るから、イライラが止まらなかった」
「大変だったにゃ」
私とネロがそう言うと、四人は同情の眼差しをくれた。私達の苦労を想像出来たからだろう。
「それにしても、いきなりの噴火で驚きましたね。灰まみれです」
「本当にね。布とゴーグルで覆っていたから、大分マシだけど」
「魔法でも灰までは防げないから、どうしようもないよ」
灰まみれになって、皆げんなりとしている。ここは一つ、皆の気分を晴れやかにしよう。
「灰を落としたら、次の街に行って、王都に戻ろうか」
「王都に? どうして?」
「私の屋敷にある、滅茶苦茶でかいお風呂に入ったら、汚れも落とせるでしょ? まぁ、ゲームの中だから、気分の問題だけどね」
私がそう言うと、皆の眼がキラキラと輝いた。これは決まりだね。取りあえず、まずは次の街を目指さないと。