136.餓者髑髏戦!!
改稿しました(2022年5月30日)
私達は、餓者髑髏を背後に移動している。餓者髑髏は、私達の後を正確に追ってきている。
「あいつ、でかすぎ!!」
後ろにいる餓者髑髏は、五十メートルくらいの身長がある。どこかの特撮にいる巨人でも、そこまでの高さはないはず。多分……最近見てないから分からないけど……
「あの大きさで、地響きが全然しないんだけど、なんで?」
シエルが眉を寄せながらそう言った。
「確かに、あの大きさだったら、軽い地震みたいになってもおかしくないよね」
ソルも同意見のようだ。
「骨だけだから?」
ミザリーがそう言うと、皆黙って考え込み始めた。
「いや、骨だけでも、あの大きさなら重いでしょ……」
しっかりと考えた末に、その結論が出た。
「あの……そんな話をしている場合なのでしょうか?」
完全に現実逃避をしていた私達に、メレがそう言った。おかげで、私達は餓者髑髏に立ち向かう覚悟が固まる。
「それで、どう戦うにゃ?」
「いつも通り、接近して戦うしかないけど」
「この距離で、ルナさんの銃を使うって事は出来ないの?」
「さすがに無理だよ。私は持っている銃じゃ、この距離だと安定してダメージを与えられないから。狙撃銃があれば、話は別だと思うけどね」
銃と聞くと、遠距離戦無敵みたいな感じがするけど、有効射程距離を意識しておかないと、確実に敵を倒す事は出来ない。威力の伴っていない銃弾では、あの骨に小さな傷を付けるくらいしか出来ないだろう。
「あいつの弱点は、どこにあると思うにゃ?」
「見た感じ完全に骨の塊だから、頭蓋骨かな?」
「心臓みたいなものも、見当たらないからね。今までのゾンビと同じ感じだと考えて、頭を完全破壊するのが良いと思う。ルナちゃんの爆発が一番有効かも」
「では、頭までルナさんを援護していくという形ですね」
私達は、作戦を共有したところで、移動をやめる。
「私は、ソルと一緒に行動する。メレはミザリーと一緒に行動して。シエルとネロは遊撃。出来る限り、相手の脚を削いで」
『了解』
「メレとミザリーのために、メリーを置いていくね。メリー、二人を守って」
シエルがメリーに命令すると、メリーはこくりと頷いた。
「よし! 行動開始! 『夜烏』!」
黒闇天から夜烏を放って、餓者髑髏に命中させる。これで、何かしらの長所が失われたはず。私は、月読の後ろにソルを乗っける。でも、すぐには出発しない。先に、ネロとガーディを纏ったシエルが駆けていった。
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ネロとシエルは、桜の木の上を跳びはねて移動していく。その方が、餓者髑髏の姿を確認しやすいからだ。
「ネロ、私達の爪で、あの骨を折れると思う?」
「正直、分からないにゃ。ただ、今までの戦いみたいに、本気を出さないで倒せる程とは思えないにゃ」
「それもそうか。じゃあ、私も張り切らないと」
シエルは、自分自身で戦えるようになって初めての死闘に、少しわくわくしていた。今まで、影に隠れている必要があったため、自分で戦う高揚感があるのだろう。
「脚が見えてきたにゃ」
「太い……骨粗鬆症になっていてくれないかな?」
「それだと、そもそも立てそうにないにゃ」
「確かに。取りあえず、お互いに頑張ろう」
「にゃ」
シエルとネロは、途中で分かれて行動する。まだ、ちゃんとした連携が出来ないため、それぞれ別の脚を攻撃する。
「やあああああああああああ!!」
シエルの爪が、餓者髑髏の脛に命中する。それによって、小さな傷は付くが、それだけだ。
「思った以上に硬い……骨密度が異常なのかな? カルシウム摂り過ぎだよ」
シエルが何度も爪を叩きつけていると、それに気が付いた餓者髑髏が拳を振り下ろしてくる。
「あぶなっ!」
シエルは、ガーディの素早さを発揮して、餓者髑髏の攻撃を避ける。その間に、もう片方の脚にネロが飛びかかる。
「『キャット・インパクト』」
猫型の衝撃が餓者髑髏の脚を襲う。それでも、傷を付けるだけで、完全に折ることは出来なかった。
「もっと威力が必要にゃ……」
攻撃したネロの方にも拳が降りてきた。ネロも大きく飛び退いて避ける。
「シエル! 合わせるにゃ!」
「え!? いや、それしかないか!」
突然の合わせ技に、シエルは戸惑うが、それしか方法がないため覚悟を決めた。
「『着せ替え人形・熊』!」
青黒いガーディの衣装から、茶色いプティの衣装へと替わる。
「『ベア・ナックル』!」
「『タイガー・クロー』!」
シエルの拳が赤く染まり、ネロの爪が青から黄色へと変わり瞬く。その二人の攻撃が、同時に右脚へと叩き込まれた。二人の攻撃による相乗効果なのか、右脚の脛に大きな罅が入った。
「狼人形術『ウルフ・ファング』!」
二人の攻撃で罅の入った脛に、ガーディが噛み付く。ダメージが溜まっていたので、ガーディの噛み付きでも致命的な破損を与えた。結果、自重を支える事が出来なくなり、右脚が折れる。餓者髑髏が膝を付く。必然的に、頭の位置が地面に近づく。
『わあああああああああああああああああ!!!!』
餓者髑髏の頭を、メレの音の砲撃が襲う。メレは、音の砲撃の中で、音域を変えていった。それによって、餓者髑髏の骨が段々と振動していく。そして、ある音域になった時、餓者髑髏の骨に小さな罅が入っていった。共振と呼ばれる現象だ。メレは、それを意図的に起こしている。餓者髑髏は、このままではまずいと思ったのか、メレ達がいる場所に向かって右手を伸ばす。しかし、ギリギリで届かず、メレ達の前に右手を付くことになった。
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餓者髑髏の頭を攻撃するために、機会を窺っていた私は、餓者髑髏が右手を付いたタイミングで動く。月読を走らせて、餓者髑髏の右手の上に乗り、そのまま右腕を駆けていく。
「ルナちゃん! これ、大丈夫なの!?」
「大丈夫! 月読を信じて!」
「そこは、ルナちゃんを信じてじゃないの!?」
そんなやり取りをしつつ、右腕を上がっていく。すると、私達を落とそうとして餓者髑髏が左手を動かした。手のひらが、私達に向かってくる。
「そのまま進んで行って!」
ソルが、月読から左手に向かって跳び上がった。
「『鳴神』!」
激しい雷轟と稲光が起こり、餓者髑髏の左手を弾き飛ばした。その左手は、僅かに炭化している。おかげで、隙が生まれた。その間に、餓者髑髏の頭まで移動した。それを振り落とそうと餓者髑髏が身体を揺らす。私は、月読を仕舞い、ハープーンガンを手に取った。そして、ハープーン頭に撃ち込んだ。しかし、ハープーンは頭蓋骨に弾かれてしまった。
「うぇ!?」
そのまま真っ逆さまかと思ったら、弾かれたハープーンが頸椎辺りに引っかかった。
「危なかった……」
そう言いつつ、ハープーンを引き戻して、身体を頭蓋骨に近づける。そして、全ての要素を最大にして、二秒後に爆発するように設定した爆弾を、頭蓋骨の中に投げ入れた。すぐにハープーンを外して落下していく。地面に落ちる前に、餓者髑髏の頭蓋骨の中で、大爆発が起こった。同時に、私の意識も途絶えた。
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爆風に煽られつつ、ソルは気絶して落下中のルナを空中で受け止めた。そして、まだギリギリ自立している餓者髑髏の腕を伝って、地面に降りていく。
「ソル!」
そこに、青黒い毛皮を被ったプティが駆けつけた。その上には、シエルとネロが乗っている。ソルは、即座にプティの上に乗った。
「このままメレとミザリーを回収して、街に向かうよ」
「うん。でも、大丈夫? ルナちゃんが気絶しちゃってるから、月読出せないよ?」
「う~ん、ギリギリかな。でも、やるしかないでしょ。プティ、お願いね」
シエルが、プティにそう言うと、プティは任せろと言わんばかりに頷いた。そして、メレとミザリーを回収したソル達は、中央にある街まで向かった。